創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
「やっと本当の私であなたに会えるなんて...嬉しいわ、怜」
ラプラスの声の調子が上がる。現実でもここまで嬉しさを分かりやすく表すことがなかった史佳が、今こうして熱っぽい声でレイに語りかける。レイにとっては不気味そのものなのか、手の震えがますます酷くなりつつあった。デスサイズヘルコープスが突如姿を消す。センサー系に障害を与える"ハイパージャマー"だ。レイはすぐに機体を着地させ、リタのシナンジュローズオーラとの合流に向かった。しかし、当然ラプラスの狙いはそこにあった。ケルベロスが滑るように低空飛行しながら、ヘイルソーサレスを追い回し始めた。掌底からビームバルカンを撒きつつ、腰から伸びた3本の尻尾の穂先をしつこくヘイルソーサレスの足元に突き刺していく。ヘイルソーサレスもGNハイメガランチャーⅡで周辺を凍らせケルベロスの足止めをするが、そのタイミングでデスサイズヘルコープスのベルセルガが上体に食らいついた。デスサイズヘルコープスが引っかける形でヘイルソーサレスを拘束、装甲を接触させた状態で岩盤に叩きつけた。
「どうして逃げるのかしら...?もう私が誰かって分かっているのに、酷いことするのね?」
「アンタが本当に史佳だって、信じられないでしょ!」
「この声が違う?あなたっていつもそう...どうしてそうなのよ...ずっと寂しかったのに」
ラプラスはウェポンセレクタから翼部レーザーカノンを選択しようとした矢先、真上から赤い一筋の光が二人の間を引き裂いた。一瞬だけ映った機体名を見るや、ラプラスの顔は一瞬にして憎しみに染まった。怜を惑わせる破壊者。今ここで始末せねば、彼女を"救え"ない。
「ったく、さっさと出してくれりゃよかったのにな...何だこの状況は」
雪煙から現れた赤と黒の騎士"JOKER"。その魂の座ではジョーカーが周囲の様子を見るなり呆れ半分に呟いた。
(さて、こっちで解析してみりゃこいつはタダのダイバーだ...けどアイツの初見殺しまで対応しきったって事は妙な線がある...まずはそれを炙り出してやる)
JOKERのブレイヴエッジをソードモードに切り替え、身をかがめくの字を描きながらデスサイズヘルコープスの真横を取った。デスサイズヘルコープスも上手く反応してベルセルガを左に振るうが空を切った。
「...しまっ!?」
「もらったぜ」
JOKERがデスサイズヘルコープスの背後に現れ、ブレイヴエッジで突きを放つ。間一髪デスサイズヘルコープスは前へステップしてブレイヴエッジのリーチから離れた。だがブレイヴエッジは剣と銃を一体化させた複合兵装だ。瞬時に刃が折りたたまれ、銃身が展開する。
「前に行くのはいい判断だが、こっちはお前が思っている何歩か先は読んでいるんだよ」
ブレイヴエッジの銃口周囲にホログラムのコピーを生成、ランダムに連射した。デスサイズヘルコープスはベルセルガ高速回転させてこれをはじき返し、ケルベロスをJOKERに向かわせた。
「ケルベロスなら、JOKERは斃せる...私の想いの邪魔なんてさせない」
ラプラスは機体を振り向かせ、離脱しているヘイルソーサレスを追い始める。ケルベロスが地を蹴って飛び上がり、脳天から爪を振り下ろした。JOKERは難なくそれを回避するとブレイヴエッジをソードモードに変形、袈裟斬りから横斬りそして回し蹴りでケルベロスを昏倒させた。かなりのダメージを加えたはずだが、ジョーカーとしては妙な手応えの無さを感じていた。
「あはははっ!すっごーい、あははははは!!こっちからも行っていいかな~?」
ダメージを受けたにもかかわらず、ケルベロスからは嬉々とする少女の笑い声が聞こえた。ジョーカーはその異様な言動に眉を顰めた。
「何だ、コイツ...気違いかよ...」
次の瞬間、ケルベロスが雪を全て吹き飛ばしながらJOKER目掛け突進してきた。JOKERがブレイヴエッジ ガンモードでケルベロスの足元を崩すが、それを超える勢いで近づかれてしまう。ケルベロスが雪の嵐の中から手を伸ばし、JOKERに掴みかかる。JOKERはそれを叩き落とし、胴体を蹴りつけブレイヴエッジでX字に斬りつけ飛び上がりながらガンモードに切り換え、数発撃ちこみながら距離を取った。だがケルベロスは一瞬だけ怯んだもののそのまま突進を続行した。JOKERの死角となる位置から尻尾を突き上げ、ペースを乱そうとする。
「中々にうざいな...ん?ぁあ、そうと分かれば狩っちまうか」
ジョーカーはモニターに表示されたケルベロスのステータスを見て、唇をニヤリと歪ませた。ケルベロスが眼前に迫るタイミングで乗り上げ、背後に回ると空中へ上昇した。今倒してしまってもよかったが、あの白いデスサイズヘルに乗っているダイバーもν-Typeならばまとめて仕留める方が効率がいいと判断した。ジョーカーはウェポンセレクタから"invisible"を選択した。機体の周囲にカーテンのようなオーラが現れ、JOKERの姿を隠匿した。
デスサイズヘルコープスから繰り出される、鎌の連撃を捌き切るヘイルソーサレス。しかしヘイルソーサレスを操るレイの体力は消耗の一途を辿っていた。それとは逆にラプラスはレイを自分の物にする一歩手前に差し掛かった事に、次第に興奮を抑えられなくなりつつあった。デスサイズヘルコープスがベルセルガを振り下ろす。それをヘイルソーサレスは右ステップで避け、GNバルカンを放ちながら有利な距離を保てるように移動する。だがデスサイズヘルコープスはそれを見切ったと言いたげにもう片方のベルセルガを、ブーメランのごとく投擲した。
「ハロ、GNビッグキャノン!行けるッ!?」
「オッケー!オッケー!」
レイはGNクローをウェポンセレクタから選択、レバーを一気に引いて後方へ加速させた。ヘイルソーサレスの背部にマウントされていたGNクローが前面に展開、爪が上下に大きく開くと、中から大口径の砲門が顔をのぞかせた。青い粒子が砲口内部に集中、極限まで収束させる。やはりこれも冷気を纏っており、GNクロー本体が白い靄に包まれた。デスサイズヘルコープスがまっすぐこちら目掛け突き進むのを認めると、有効射程のギリギリを保つ方向で立ち回りを変えた。デスサイズヘルコープスは投げていたベルセルガを掴み、それで周辺の雪を薙ぎ払い雪煙を撒き上げた。
「どこまで読んでる...!?あ!?」
雪煙を振り払う余裕がない。レイは更に距離を取ろうと機体を空中へ浮かせ、バーニアを最大にした。しかしそれが悪手になろうとは思いもよらなかった。突然後方から急速に接近する反応が現れ、レイは心臓が止まりそうになった。あの黒い機影は、先に見た異形のMSそのものだ。やむを得ずレイはGNクローの射出をハロに指示、GNビッグキャノンをケルベロスに向けて撃ち込もうと考えた。
「あっちまでやって来られちゃ、どうにもならないじゃない!行けッ...!」
GNクローがヘイルソーサレスの背部ラッチから分離、ケルベロスの頭上と斜め前を陣取り同時に最大限に収束した粒子を放つ。けたたましい爆発音がした後、束の間の静寂が訪れる。
「やった...いや、まだ分からないけど...!」
レイの額を冷たい汗が伝う。煙が消えると、氷漬けになったケルベロスの姿が見えたがどこか様子がおかしいと感じた。白い靄が上がっていくようだが、どう見ても冷気とは違う。となれば何であるか、その答えは一つに絞られる。蒸気だ。
「その機体は凍らないわ、怜」
ラプラスの感情のこもらない声。レイの悪い予感が的中したことを、嫌でも思い知らされるような冷たさがあった。だがレイを呼ぶ頃にはまた熱っぽさが宿りだした。ケルベロスの躯体に固着していた氷塊は内部からの放熱により、水や水蒸気に変化し氷結効果が一瞬で解けた。
「ちょっと冷たかったね!ねぇねぇ、もっと面白いことしようよ...あはははははは!!」
「うぅっ...!?またこの声...くっ...!!」
デスサイズヘルコープスから聞いたような、人間の声を全て混ぜたような声にレイの精神は再び乱れそうになった。ケルベロスがグッと身をかがめ、天高く跳躍する。そしてヘイルソーサレスの真上から踏みつけんと足を一気に前に伸ばした。しかしヘイルソーサレスは素早く反応し、左肩のGNリフレクタービットを起動、GNフィールドで跳ね除けGNハイメガランチャーⅡを数発放ち撃ち落とさんとした。
「コイツ、速い...!」
「残念だったね~?じゃあこっちの番かな...あははっ!!」
ケルベロスの背中から羽らしきユニットが伸び、そこから光を発した。そのままヘイルソーサレスの頭上を飛び回りながら、3本の尻尾の刃を次々と突き入れた。一撃一撃が正確かつ素早い為、レイもそれに負けぬようレバーを動かしながら突破口を見出そうと必死になる。だが既に気力までもが限界が見え始め、彼女の目には絶望の色が見え隠れしていた。リタの再合流ができたとしても、すでに相手の目にはレイしか映っていない。挙句これだけの強さを持ってほぼ永続していると言っていいほど、戦闘を継続するラプラス達にどう戦えばいいのかすら考えられなくなった。
「何もしないなんて楽しくないなぁ...じゃあ、死んじゃえ」
「なッ....!?」
まるで子供が何も考えず言い放つのと同じ言い方で、ケルベロスのダイバーが吐き捨てた。レイが驚愕したのはそこではない。ケルベロスから発せられる声が次第に変化しはじめた。
「そんなの...いや違う!絶対に違う...史佳...ラプラスッ!!」
聞こえた声の中に、ほんの僅かに覚えのあるものがあった。それはレイ―怜が心から許せる親友と重なった。レイはその瞳に怒りを滲ませ、デスサイズヘルコープスを睨む。ヘイルソーサレスの装甲に赤い光が走る。やがて赤い輝きが全身を包んでいく。コクピットのコンソールには"TRANS-AM"の文字が。レイは大きく目を見開き、レバーを一気に前に倒し機体を加速させた。
「トランザムッ...!!」
JOKERは、ヘイルソーサレスがデスサイズヘルコープスらと交戦している地点から、かなり離れた所に降り立った。ジョーカーはカメラアイの解像度を最大にして望遠、介入するチャンスを狙う。ヘイルソーサレスがトランザムを起動させるのを目の当たりにし、「だろうな」と鼻で笑った。
「何だ?別の反応かよ...」
レーダーからピピッと音が鳴る。ジョーカーが真後ろを見ると、リボーンズガンダムが空から目の前に着地していた。
「久しぶりだね。JOKER」
リボーンズガンダムから聞こえた声に、ジョーカーは舌打ちをした。
「何でお前がここに...!」
「何でって愚問だね。僕はダイバーズの出資者だし、元開発者でもあるんだよ?新機能の実装前にテストしに行くのは当たり前じゃないか」
トオルはさも当然のように返す。だがジョーカーとしては彼の思惑が別にあるのは分かっていた。
「ν-Typeは後6人潰せばいいんだろ...」
ジョーカーの声はやや暗い。その異変にトオルは眉を上げた。
「まさか人格がJOKERに勝ちつつあるとは。そんな不思議な事もあるのか。まぁいいさ。確かに僕は君に約束しているからね。君が達成した暁には記憶は返そう」
本来の人格が"JOKER"に勝つ。トオルの予測から外れた事象だが、彼は特に対処の必要性を感じなかった。
「君が見ているアレ...傑作とは思わないかい?」
リボーンズガンダムの指さす先には、ヘイルソーサレスを屠ろうとしている黒き魔獣の姿があった。
一方、ブルームーン本隊ではウェルスを中心として体制の変更準備を進めていた。エス達も大急ぎでドックを確保したり、ログイン先に艦内の居室を追加したりと様々な作業に追われていた。
「凄い勢いで進んでいくな...なぁエルニア、アイツってあんなだった?」
疲労困憊のエスは、近くの椅子に腰かけてスポーツドリンクを飲んでいた。その隣にエルニアも座り、疲れのあまり力なく背もたれに寄り掛かった。
「いや全然そうじゃなかったと思う...あそこまで動いているの見たの初めて」
「やっぱりそうなんだな。思わず敬語使いそうになったし、凄い変わりようだったなぁ」
普段のウェルスと今の彼を比べると、エスもエルニアも苦笑してしまう。ウェルスはバトル以外では積極的に動き回るようなタイプではない。そんな彼に何があったのか今回は躍起になっていた。エスに音声通信の着信が入り、ウィンドウを開いた。キャプテンからだった。
「はい、エスです。何か?」
「済まんが出撃してもらえんか?今しがたセカンドチームから救援依頼が飛んできてな。急ぎ出てくれると助かる。うちのアヤカも同行させる」
作業の中でブルームーンにはセカンドチームが存在している事、そしてレイもそこにいるという話を聞いていた。エスはレイに何かあったのでは直感した。
「分かりました、行きます!」
意気揚々と返事し、エスは急いでデッキへ走った。何もなければ、自分はとてつもなく奇妙な経験をしているのに驚いているはずだった。しかし、この現状がそれを許すはずもない。とりあえずは、これが当たり前なのだと思うしかなかった。エスがストライクNEXTのドックにやって来たが、あるものを目にした。
「新しいストライカー...?いや、俺あんなの作った覚えない...」
形状的には宇宙世紀のガンダムタイプのバックパックによく似ているが、下部から伸びる板状のパーツや、至る所に保護用のシーリングが施されていた。中心部にはレーザー対艦刀"シュベルトゲベール"がマウントしてあった。。そしていつの間にやらストライクNEXTの関節フレームにもシーリングがなされている。これはつまり厳しい環境下で戦うことになるのだな、とエスは内心覚悟した。そこへケイトが通りかかり、エスの肩を叩いた。
「あ、エス君だっけ。丁度よかった!今回行く所は雪山なんだけどさ...そのついでであのストライカーも試してみてよ。いいと思ったらパーツ一式そっちの家に送っとくからさ」
「これあなたが作ったんですか!?ちなみに、何て言うんですかあのストライカー」
エスが問いかけると、ケイトはふふんと得意げな顔をした。
「氷雪地帯用高機動ストライカー、その名も"アヴァランチストライカー"!」
「あ、アヴァランチ?...いや、まぁそうか、変じゃないなぁ」
アヴァランチ、と聞いてエスが真っ先に思い浮かべたのは、ガンダムアヴァランチエクシアだった。しかしエクシアの要素は何一つないこのストライカーに、よく分からない違和感を持ったが"アヴァランチ"の意味は雪崩なので納得した。エスは機体に乗り込むと、フットペダルとレバーをゆっくり押してカタパルトまで移動させた。
「アヤカさんって確かオペレーターじゃなかったっけ...とりあえずアリオスガンダムを探せばいいんだったな...よし!エス・ブラックベイ、アヴァランチストライクNEXT出ます!」
アヴァランチストライクNEXTがカタパルトから勢いよく飛び出し、大空へ高く舞い上がった。アヴァランチストライカーの下部に取り付けられた板状のパーツは、懸架用のアームが可動して航空翼となる配置をした。おかげでエールストライカー程ではないにしろ、重力下での飛行も軽快に行えるようになった。エスは急いでアヤカとリンクを繋ぎ機体を探すが、アリオスガンダムらしきものは一切見当たらなかった。精々目に映っているのは、グレーの航空機くらいか。
「エスさん!こっちです!グレーの戦闘機です!」
「アヤカさん?...え、これか!?嘘だろ...?」
まさかダイバーズで戦闘機乗りに遭遇するとは考えてもみなかった。エスは困惑しながらもその戦闘機に追随する。モニターには確かに"ラプターアリオスガンダム"と表記されていたが、機首を見ない限り本当にガンダムなのか分からなかった。現実における戦闘機を完全に意識しているらしく、実際の戦闘機と同様の空力を考慮したカスタムを施していた。と言うより、最早ガンプラで作った高速ステルス戦闘機である。
(俺達より明らかに年下の娘なのに...何てかっこいいの作ってんだ...)
「エスさん、乗っても大丈夫です!むしろその方が速いと思うです!」
「あ、あぁ...了解!」
エスはアヤカに促されラプターアリオスの上にストライクNEXTを乗せた。実は飛行中にサブフライトシステムの類に乗り移った事がないエス、必要以上に慎重なレバーとスラスター操作でラプターアリオスのバランスを崩さぬように乗せる。
「ひょいひょいやる人たまに見るけど、やってみるとマジで怖いな...」
「シローさんとかぴょんぴょん乗るから、慣れると大したことないかもです!それじゃ、今からレイさん救援作戦スタートです!」
ストライクガンダムNEXTを乗せたラプターアリオスは虚空の彼方へ消えた。
トランザムを発動させたヘイルソーサレスだが、有ろう事かその状態でようやくデスサイズヘルコープス達と渡り合える程度にしかならなかった。
「君を始末してあげるよ~!!楽しいねぇ、こんな楽しいの初めてだよ!あははははは!!」
デスサイズヘルコープスの攻撃を捌いているヘイルソーサレスへ、ケルベロスが突っ込み爪で頭を掴んだ。ヘイルソーサレスも肘のブレードをケルベロスの胸部に突き刺し、GNクローで撥ね飛ばした。だがデスサイズヘルコープスのベルセルガがGNクロー1基を破壊してしまった。
「怜、どうして拒むの?あなたはJOKERに騙されているの、分かっているでしょう?どうして奴を庇っているの?」
「庇ってなんかいない...!アイツを倒すのは私の役目だってだけ!史佳こそ自分が何やってるのか考えて...!」
「私はただ、怜を地獄から救い出したいだけよ...お願い、分かって」
「地獄...!?史佳...アンタもそういう風に私を見てたんだ...誰もかれも、そんな風にしか見てないでッ!!」
レイ―怜の境遇は地獄としか言いようのないものだった。だが怜はただ「可哀想な人」として見られるのが嫌だった。その接し方が怜に余計に現実を突きつけるのだ。そうされる度、怜の心は本人の知らぬ所で壊れていく。どんなに苦しかろうと、無理矢理にでも空想を演じなければ自分を保てなくなる。しかしその生き方も崩壊が近づきつつあったのもまた事実だ。それでもレイは、今の生き方を変えるという発想を持たなかった。否、他の道を考えるような思考が出来ないほど、視野を奪われているのだ。レイは衝動のままにGNハイメガランチャーⅡを乱射する。トランザムによって威力と氷結効果の範囲が拡大するが、デスサイズヘルコープスのベルセルガによる一撃で無に帰されてしまう。挙句得体の知れない性能を持ったケルベロスの存在がある。四面楚歌とは正にこのことだった。
「どうして...どうして手も足も出ない...!?」
トランザムの停止時間が差し迫ってきた。いくら対処しようにも、自分の得意レンジで戦うことすらままならない状態が続いたせいでレイは完全に疲弊した。自分がセカンドチームに移されたのは、自身の力が足りなかったせいだと決めつけていた。それも手伝い戦意すら風前の灯火と化していた。自分の親友に怒り、恐怖まで抱く事になるとは誰が想像しただろうか。レイの目には涙が浮かぶ。
「怜...これで終わりにしましょう...私と来れば分かるわ。本当の幸せが何なのか」
ラプラスはレイに優しく声をかけていながら、ベルセルガをヘイルソーサレスの首元にかけていた。
(あぁ...私、史佳に殺されるんだ......もう、私には何もないからさっさと...)
レイは既にレバーから手を放していた。このままやられてダイバーズからも身を退いてしまいたかった。こんなはずじゃなかったのに、と訴えても何も変わらない。自分はどこにいても結局無力な事に変わりはないのだから。
「諦めるな!」
突然声が聞こえ、レイはびくっと体を震わせた。この声は聴いたことがある。自分の倒すべき敵であり、憎たらしい男であり、理解できない存在。そして、この世界の切り札。レイは恐る恐るモニターを見た。赤と黒の翼を持つガンダム、"JOKER"が立っていた。
「ったく、泣きわめく歳じゃないだろ...挙句世話だけ焼かせんのも得意と来たもんだ。最悪過ぎんだろお前。安心しろ、俺がお前の最後の希望になってやる」
JOKERはちらりとヘイルソーサレスに顔向け、一瞬だけツインアイを光らせデスサイズヘルコープスに向き直った。
「怜をどうする気!?」
JOKERがヘイルソーサレスを守ろうとしている。今の状況がラプラスには信じられず、ヒステリー気味に問うた。だがジョーカーは涼しげな顔でデスサイズヘルコープスを見る。ブレイヴエッジを天高く放り投げ、リアアーマーから柄を両手に持った。バックパックから翼が分離して両手に持つ柄とドッキングし、一対の大剣を成した。
「さてな...気でも触れたんじゃないか」
「ふざけないで...そんな事をして、罪が軽くなると思っているの!?冗談じゃないわ!」
ラプラスは激昂し、デスサイズヘルコープスのバーニアを全開にした。猛烈な勢いで振り下ろされるベルセルガをJOKERはひょいと避けると、大剣"デュランダルジョーカー"で柄を真っ二つに斬り飛ばした。
「減りはしないだろうぜ。だけど、今のお前はどうだ?」
「私は怜を助けたいだけよ!」
「じゃあ何でアイツはボロボロなんだ?何であんな化け物まで用意して久遠 怜を嬲り殺しにしようとしてんだ?お前、初めからやってる事が滅茶苦茶なんだよ」
ジョーカーはそう断じ、ラプラスの行為を否定した。デスサイズヘルコープスを蹴り飛ばし、デュランダルジョーカーの切っ先を向けた。
「確かにコイツは放っとくとやばいな。周りは見えてないし、情緒不安定でしかもクールぶって着飾る癖に一人じゃ何もできない。けどな、コイツはコイツにしかない物がある。分かるか?そいつはな、"自分を信じてくれる人を誰よりも愛している"事だよ。良いも悪いもひっくるめて信じてくれる奴を、ちゃんと大事にしてやれる。それが出来るのは、コイツくらいだ」
ジョーカーがレイをそう評すと、ラプラスは感情を抑えきれなくなる前にカプセル剤を飲み込み冷静さを維持しようとした。だが完全に抑え込めず、顔が憎しみでますます歪んだ。
「JOKER...貴様は一体ッ...!!」
放り投げていたブレイヴエッジが落下し始める。JOKERが右に持っていた方のデュランダルジョーカーをバックパックにマウントし、ブレイヴエッジをキャッチしてガンモードに変形させた。そして銃口をデスサイズヘルコープスに向け、ツインアイの輝きをさらに強めた。
「―通りすがりのガンプラダイバーだ。覚えておけ!」