創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
もしくは他人を苦しませるか、
そのいずれかなしには
恋愛というものは存在しない―
レニエ(仏、1864~1936)
赤と黒の騎士の介入は、ラプラスの神経を掻き乱すだけではなかった。カプセル剤の継続的な摂取がなければまともに思考することすら叶わなくなる。どうして二人の間を裂こうとするの?JOKER、あなたは全ての敵になっているのにそんな無駄な足掻きをするようになったのは何故?否、そんな事はどうでもよかった。JOKERなぞは"魔獣"に食わせておけば済む話だ。ラプラスの視線はただ一つの機体にのみ向けられる。愛しの久遠 怜そのものである。
「邪魔を、するなぁああ!!」
喉を突き破らんとする慟哭を上げ、デスサイズヘルコープスは真っ直ぐヘイルソーサレスへ突進する。ベルセルガの輝きも強まり、深く重い一撃を加えるのは誰が見ても分かる。
「させるかよ!お前はν-Typeになっちまった...今お前はルーザーなんだよ!」
デスサイズヘルコープスがベルセルガを最上段に構えた矢先、JOKERの鋭い回し蹴りが腹部にめり込んだ。そのままブレイヴエッジ ガンモードで、デスサイズヘルコープスを蜂の巣にしてヘイルソーサレスを連れ去った。
「馬鹿が...一人で奴らを捌けると思ったのか!」
ジョーカーの指摘は至極真っ当だった。しかし今のレイはそれすらも解せない。無理矢理にでもJOKERの腕の中から抜け出そうと、ヘイルソーサレスのマニュピレータで引き剥がそうとする。ジョーカーもそれは目にしていたものの、何も抵抗せずにヘイルソーサレスを落とした。そうした瞬間、彼の意識の奥底で妙な痛みを感じた。これは一体何だ?頭では消えていても、体は覚えているのか?ジョーカーは歯軋りをし、レバーを僅かに後ろへ倒した。
(今アイツを破滅的だって...思ったのは他でもなく俺のはずだ...けど何だ、この感じは?)
ヘイルソーサレスへ突き進もうとするデスサイズヘルコープス。その足元へブレイヴエッジ ガンモードを撃ち進路を塞ぎつつ、自身の内面を否定し去ろうとした。唐突に起きた自身の変化に無意識の恐怖を感じている。それがまず有り得ない事だと拒絶するかのようにトリガーを押し続ける。
「太陽炉の冷却も済んだ...今度はもっと上手くやる...!」
コンソールのGNドライヴ動作ステータス表示を見、レイは一切の躊躇もなくトランザムを起動させた。それと同じくして、ケルベロスがどこからともなく現われヘイルソーサレスの右足を引っ掴もうとする。しかし、レイが瞬時に反応して射出したGNクローによって左腕を雪の中に突っ込まれてしまう。
「あれ?腕が動かない?なーんだ、こうすればいいんだよね!」
「甘い!!」
ケルベロスが右手の爪をGNクローに突き立てるタイミングにあわせ、GNビッグキャノンが咆哮を上げた。氾濫原とも形容できる光の激流がケルベロスを丸ごと呑み込む。その間にロックオンをデスサイズヘルコープスに切り替えた。しかし白き死神はその姿を見せなかった。
「こんな時に逃げられるなんて...!」
レイは急いで周囲を見渡すが、それらしき影が現われる様子は無い。JOKERがこちらへやって来るのを認めると、ヘイルソーサレスの右肩を背中の翼と接触させた。
「....今だけ力を貸して...お願い...!」
レイの声音は何処か悔しさを滲ませていながら弱々しかった。ジョーカーはそれを聞いた当初は呆れ気味に舌打ちをしたが、次第に不適な笑みを浮かべた。その言葉を待っていたと言わんばかりだ。
「...仕方ない、やってやろうじゃないか。けどお前、俺に着いてこられんのかよ」
「大丈夫...人に合わせるのは得意だから」
そいつは悪くない、とジョーカーは呟きウェポンセレクタから"X-RAY SEARCHER"を選択した。モニターが一瞬暗転すると、白い光の輪がJOKERを中心に広がるエフェクトが走った。そして次の瞬間。
「おっと、そこから先は通さねぇよ!」
「うぅうううっ...!?何故!?」
ベルセルガの蒼い煌きよりもすばやく振るわれる紅の刃。続けざまにデュランダルジョーカーの一撃を受け、デスサイズヘルコープスは雪原の中へ放り出された。その勢いを殺さぬままJOKERは上空からデュランダルジョーカーを翡翠のごとく突き刺し、地を覆う白銀の粉を虚空の彼方へと消し去った。しかしデスサイズヘルコープスもただやられている訳ではない。ベルセルガを瞬時に変形、斧の形を取らせデュランダルジョーカーと鍔迫り合いに持ち込んだ。格闘戦であれば高度のあるほうが自重による圧力の上乗せが期待できるJOKERの方が有利だ。だが両機共に常軌を逸しているのは紛いなき事実だ。
「見破ったからと言って...勝てると思わない事ね!!」
「押し返しやがった...チッ!!」
グググッと軋む音がする。何とデスサイズヘルコープスの推力が勝り、JOKERが押し返され始めた。ジョーカーはすぐさま機体を離脱させるべくブレイヴエッジでベルセルガを弾かせレバーを後ろへ引いた。その隙にデスサイズヘルコープスが体勢を立て直し、再度ヘイルソーサレスへ向かってバーニアを全開にした。
「レイッ!!どうして!?私はただ、あなたを傷つける物から守りたいだけなのに!!」
「それがアンタのエゴだって言ってるでしょ...!!私はアンタが思っているような女じゃ...ないッ!」
デスサイズヘルコープスのベルセルガ、ヘイルソーサレスのGNビームサーベルが激しく打ち合う。その末互いの頭が衝突し、力が拮抗した影響で身動きが取れなくなった。とは言えヘイルソーサレスはトランザムを使用して何とか性能を追いつかせているに過ぎず、このままだと危険極まりない。JOKERも加勢に入ろうと飛び立つが、それをケルベロスが邪魔する。3本もの尾がJOKERをあらゆる方向から追まわす。JOKERがブレイヴエッジとデュランダルジョーカーで応戦するが、少しずつ頭に浮かぶビジョンに気を取られそうになった。
(一体何なんだ...何が見えてんのかもはっきりしない...)
「遅いなぁ...よし、殺っちゃうか!」
いきなりケルベロスが動きを止めた。ジョーカーは言い表しようの無い不気味さを感じ、ブレイヴエッジをガンモードに変形させ警戒する。ケルベロスの装甲に赤い電子線が走り、背中が蠢動する。突如何かがはじけ飛ぶような音が響いた後、蠢動は更に激しさを増し遂にはさも翼を羽ばたかせるかのように大きく広げた。
「ぐぁあああああああああ!!!!!あはははははは!!!凄い、凄いよぉおお!!!これならもっと楽しくなりそうだよ...あははははは!!!」
ケルベロスから発せられる声が鮮明になるにつれ、レイはその事実から目を逸らせなくなった。
「か、奏.......嘘だッ!これもアンタの策って訳!?史佳ッ!!」
ヘイルソーサレスのGNビームサーベルがデスサイズヘルコープスの喉元に向けられる。だがラプラスは一切の動揺を見せず、むしろ内から湧き出る衝動を抑えるような顔をしていた。
「どうでしょうね...でもアレだって、怜を取り戻したいはずよ...」
「あ!?あのシナンジュって...リリさんですか!?」
エスのアヴァランチストライクNEXTと、アヤカのラプターアリオスがブルームーンから出発して1時間が経った頃、アヤカが雪山の中で赤い塊を発見した。ワインレッドの光沢が高貴さを漂わせるシナンジュが横たわっていた。アヤカは急いでラプターアリオスを着陸させようとするが、シナンジュローズオーラのダイバーたるリタに止められた。
「救援は不要ですわ...どの道私はログインしなおせば済む話です。先にお行きなさい!」
「だけど、このままじゃ危ないです!」
「何を言っていますの?これはゲームでしてよ...正直ここまでリアルだとそう思いたくなるのでしょうけど。そこのストライクの方、よろしく頼みますわ...」
リタに頼まれてしまったエスはしばし困惑するが、一度引き受けていたのだから断る選択肢は捨てていた。否、ここで引き返すようなことがあれば全てを裏切ったも同然だ。エスは力強い眼差しでモニター越しにリタを見つめる。
「ええ、やってやりますよ...あの人は俺達の仲間でもあるんですから」
シナンジュローズオーラが消失するタイミングでラプターアリオスは再浮上した。
「戦場の推移が凄いことになってるです。どうします?」
アヤカの言うとおり、レイのヘイルソーサレスが交戦している地点はかなりの速度で移動している。このままこちらも移動し続けていれば追いつかないだろう。エスはしばしレーダーを見て、最短距離となるルートに合わせマーカーを配置した。しかしそれは荒唐無稽そのものであった。
「あそこって確か一番環境が悪いところです!そんなルート通ったらこっちが落ちるです!」
「大丈夫だ...何とかなる気がする。こう言うのは全くやったこと無いんで不安しかないけど...出来る気がするんだ」
「そんな根拠も無いことを...!?うぅ、早くレイさん救助しなきゃいけないならやってやります!」
無謀すぎるエスの考えにアヤカは嘆くが、一刻を争う事態に変わりは無い。雪嵐吹き荒れる中を突き進む覚悟を決めた。自分よりランクの高いダイバーがいるなら、上手く対応するところを見られると期待するしかなかった。
狂気に染まった叫びを上げるケルベロス。レイの全身の震えは止まらず、まともに思考する事すら困難を極めた。あの叫び声は間違いなく、スワン・マスターピースもとい白鳥 奏のものだ。
「あっぐぅうう...!!?奏...本当に奏だって言うの...!?」
両腕と3尾からなる連撃をGNリフレクタービットで防ぐが、それ以上反撃をしようという考えが出てこない。もう二度と元には戻らなくなる。その懸念がレイを押しとどめていた。死んじゃえ死んじゃえと子供のようにはしゃぐスワン。今のレイなら間違いなくこう思うだろう。"それが私に対して思っていることなら、受け入れなければいけない"と。
「何やってんだおまえはッ!!死にてぇのか!」
ケルベロスの爪がヘイルソーサレスの顔面に突き刺さる刹那、JOKERのデュランダルジョーカーがその手を阻んだ。JOKERはそのままケルベロスを押し返し、ホログラム生成した銃口から一斉射して昏倒させた。しかし真後ろからデスサイズヘルコープスが現われ、ヘイルソーサレスをベルセルガで引っ掛けて連れ去ろうとした。JOKERがすばやく反応しブレイヴエッジを数発放つ。だがデスサイズヘルコープスの翼に蒼い電子線が走る時、眩い輝きで周囲を一瞬で焼き払った。幸いJOKERはバリアフィールドが解ける程度で済んだが、ヘイルソーサレスの装甲はひどく焼け爛れていた。
「アイツ、完全に戦意を無くしてやがる...てことはあの化け物もアイツの関係者ってことかよ、やりづらいな...ったく!」
ヘイルソーサレスが無抵抗のまま人形のように白い死神に抱えられている。正直、デスサイズヘルコープスとケルベロスはそれぞれと戦えば圧倒することは簡単に出来るが、両方同時に相手にするとなると話が違ってくる。挙句ケルベロスに至ってはJOKERとしての力を学んでいるのか行動パターンが掴みづらくなっていた。場当たり的にルーチンを変えているに過ぎないが、それを秒単位のスパンで繰り返された場合、いくらJOKER言えども対処には難儀してしまうものである。
「真っ黒いの...JOKERって言うんだよね?もっといっぱい遊んでよ...命賭けてさぁ!」
ケルベロスのバイザー型のセンサーが鋭い光を放つ。身をかがめると弾け飛ぶかのようの跳躍し、JOKERを真上から踏みつけんとした。だがJOKERはすばやく回避、緩やかに後退しながらブレイヴエッジを撃ち込んだ。ケルベロスも尻尾先端のブレードを器用に使いこれを防ぐと、そのまま反撃に出た。次々とJOKERの行く先へ正確に刃を突き刺していく。いつしか雪原はケルベロスの尾"テールブレード"によって軽石のような穴だらけの地と化した。JOKERがケルベロスの更に上を行く反応速度でテールブレードと切り結び弾き返していく。
「おい...どうしたよ。疲れが出ているみたいだぜ」
JOKERが左右から迫り来るテールブレードを掴み交差させると、真下から襲う3本目と絡め一本の縄にした。そのまま一気に引き摺り下ろし、崖の下へ放り投げた。
「きゃはははははっ!!そっちとならずっと遊んでいたいね!あはははは!!」
「何だと!?コイツ、狂っているのは見せかけだってのか?」
真っ逆さまに転落したであろうケルベロスだが、崖を掴み砕きながら這い上がってきた。テールブレードも結束が解けており、再度JOKERを狙う。JOKERは左へ軽やかにステップを踏み、ブレイヴエッジの銃口にホログラムの分身を生成し連射した。テールブレードはブレイヴエッジから撃ち出された数多の光の矢に弾かれ、一時的にケルベロスに収容された。
「くーたばっちまえ」
ケルベロスが瞬時にJOKERの眼前に詰め寄り、両手の爪を振り下ろした。これにはJOKERの反応が遅れ止む無くビームシールドでこれを受け止めた。だが純粋なマシンの出力ではケルベロスの方が圧倒的に強い。JOKERの足が雪に沈み始める。JOKERがバーニアを全開にした矢先、悪夢が襲い掛かった。ケルベロスが上から執拗に手を叩きつけ始めた。その上足元へテールブレードがするすると潜り込む。
「普通に戦ってんじゃねぇってか...上等だ」
ジョーカーの両目に金色の電子線が走る。その光はやがて彼の左手の甲へ集いブラックレター体の"J"を形成した。JOKERのツインアイ、全身の紅の配色まで輝きを増し、覇者たらんとするオーラが周囲を包んだ。そのオーラにヘイルソーサレスが触れた瞬間、レイの心臓がバクンと拍動した。心の底から静まり返っていく感覚。不甲斐無さから来る自責の念、豹変してしまった友人達に対しての葛藤。全てを俯瞰しているような感覚を味わう。今の自分が本当にすべきことは、何かを犠牲にしなければ絶対に成し得る物ではない。自然とレイの呼吸も落ち着きを取り戻した。
「...イメージできたよ。私の本当にすべきことが...!」
ヘイルソーサレスの肘、GNカッターをデスサイズヘルコープスの鳩尾に突き刺した。ラプラスは突然の挙動変化に眉をひそめた。
「今更どうこうしようたって無駄よ、怜」
「そんなの、やってみなきゃ分からない...アンタには絶対に負けられない!」
デスサイズヘルコープスがベルセルガを引いて首を刎ねようとしたが、妙な異変が起きた。ヘイルソーサレスの左肩についていたはずのパーツが消えている。どこかで破壊したような記憶が無かったラプラスは、思わずベルセルガを振り上げた。これをレイは狙っていた。
「私自身が閉じ込めていただけだって分かったら、何とでもやれる!史佳、アンタの目だって覚まさせる!」
「私はこれがありのままよ!目を覚ますのは怜の方だわ!」
デスサイズヘルコープスが再度ベルセルガを振り下ろすが、ヘイルソーサレスは少しだけ後ろへ滑りGNハイメガランチャーⅡを構えすかさずトリガーを引いた。凍てつく粒子の奔流がデスサイズヘルコープスを押し出し、氷像へと変化させた。そこへビームサーベルを発振させたGNリフレクタービットが飛来、氷ごとデスサイズヘルコープスを斬り裂きヘイルソーサレスへ帰還した。今の瞬間でラプラス自身が集めていた情報とは真逆の事象が起き、彼女は狼狽する。
「そんな馬鹿な...自分だけでビットが扱えなかったはずなのに...」
デスサイズヘルコープスが消失した直後、レイのヘイルソーサレスはJOKERの元へと急行した。
「JOKER...ごめん、今合流する!」
「なんてタイミングだよ...何かおまけ付きっぽいな」
「おまけ付き?どういう事?」
JOKERが一瞬だけ後ろを見返したので、レイもそこへ目をやると見覚えのある機影が見えた。
「アヤカ!?ってことはブルームーン本隊もここに...うぅっ!?はっ...!?」
ヘイルソーサレスがGNハイメガランチャーⅡを構えた刹那、ケルベロスが猛烈な勢いで掴みかかり岩壁に叩き付けた。とてつもない速度と運動エネルギーによってヘイルソーサレスがめり込む深さは脱出すら困難なほどとなってしまう。左手首のGNバルカンを接射し反撃するも、ケルベロスは一切意に介さず攻撃を加えた。ヘイルソーサレスを岩盤から引き出すや否や、勢いよく別の岩に投げつけた。
「う....ぁあああああ...!!」
ヘイルソーサレスは度重なる衝撃で装甲が意味を成さなくなった。ツインアイを覆うバイザーも半分砕け、左肩の装甲は割れて地面を転がっている。GNハイメガランチャーⅡもあらぬ方向に砲身が曲がってしまった。
「奏...もうやめて...狙うなら...あんたを助けられなかった私だけにして...」
しかしレイはじっと強くケルベロスを見据えていた。そこに敵対の意思は無い。もしあの魔獣に奏が乗っているとしたら―史佳の言ったとおりだとしたら。今度はきっと自分を取り戻してくれるはずだ。そんな淡さの極みめいた希望だけが頼りだった。その願いが通じたのかは定かではないがケルベロスは突然動きを止めた。
「止まったか...ならもうこれでチェックメイトだ。今回は特別だ。楽にしてやる」
「やめて...!!JOKER!!」
JOKERがデュランダルジョーカーを上段に構えケルベロスの首を介錯しようとする、そのすんでのところでレイは叫んだ。エスのアヴァランチストライクNEXTと、アヤカのラプターアリオスも少し離れたところに着陸した。
「どうなったんだ...」
この異様な雰囲気にエスは思わず唾を飲む。
「..........怜....」
ケルベロスから呼ぶ声は、狂気が消えうせ普段の優しげなものだった。普段会ったときに呼ぶような、その声にレイも心底安堵した。
「奏...助けられなくて...ごめん。まさかこんな風になるなんて思ってなかった...でももう大丈夫だから、一緒に帰ろう...?」
満足に動かすことも出来ないヘイルソーサレスをスラスターの微弱な推力だけで浮かせ、ケルベロスへ"歩み"寄る。奏―スワンもレイのヘイルソーサレスに手を差し伸べようとした瞬間だった。
「機体オーバーフロー!?制御がもう効かない...ここから転移することも出来ないの...!?怜!!離れて!!!」
ケルベロスのコンソールは全て異常値を示しており、既にダイバー側からのコントロールを受け付けぬ状態となった。スワンはレバーを一気に前に倒し、ヘイルソーサレスを突き飛ばした。その直後―。炎の華が雪原を覆い尽くし、山そのものが大きく削り取られる。ヘイルソーサレスは愚か、JOKERもアヴァランチストライクNEXTもラプターアリオスまでもが爆風に吹き飛ばされた。レイは急いで機体を上昇させるが、その無残な景色を目の当たりにし言葉を失った。
ラプターアリオスに牽引されながらヘイルソーサレスはブルームーンに着艦した。事態をすぐに察知したのか、艦内の空気は重苦しくなり始めた。交流区画へ転移した頃、レイはデッキをよろめきながら彷徨っていた。助けられたはずの友達でさえ、目の前で消えていくのに何も出来なかった。ビットを扱えるようになったからと言ってそれで救えるはずも無い。それは重々承知していた。ただ、言いようの無い無力感がレイの胸を押しつぶしていく。遠くからその様子を見ていたケイトでさえも、かけてやる言葉が見つからなかった。
「ゲームの中でとは言え、こんな凄惨な経験したら...何を言っても慰めにもならないね...」
既に日は暮れており、エスらメイポールダンスとの最終調整に入るための会議も始まっていた。本来ならばレイも参加しなければならないが、状況を鑑みて見送ることとなった。
「そう言えば、JOKERの奴何処へ行ったんだ?アイツは参加しろよ...」
キャプテンがJOKER不在に気づき、辺りをきょろきょろと見回した。
「俺、探しに行ってきます」
エスが席を立とうとしたが、それをウェルスが制した。
「放っておけ。どうせ何をしているのか分かっているんだ。それより、俺達はこの悲劇を繰り返さないために何をすべきか考える。それに集中した方がいい」
ウェルスはそう言い切ると、ちらりとハイラックを見た。今の一言は、彼の意思の代弁にも感じられた。いまだレイと直接会うのを躊躇している自分に、言えることではなかったのだから。
ブルームーンの甲板。夜風がひんやりしており、心地良い。レイはブルームーンの"屋根"と呼ばれる一角を気に入っていた。何かあればここに来て心を休めるが、それでも今回の事が簡単に癒えるはずが無かった。蹲るようにして座り月を見上げる。三日月が次第に歪んで見えた。泣いているのだ。視線を下ろし、眼下に広がる大海原を眺める。
(そう言えば、奏も海好きだったっけ....ここで一緒に見られると思ってたけど、それを私が壊してしまったんだ...)
常に孤独であった。だからこそ何も感じないはずだった。しかし今感じている、この寂しさは簡単に拭い去れない。
(こんな所にいたのか...いい加減お前も分かっただろ...この
甲板へ繋がる階段にJOKERもやってきた。だが何か言おうとはしておらず、ただ彼女を見守っていた。その瞳はいつもの冷たくも力にあふれるものではく、憂いを帯びていた。
(しかしどう言う訳か...俺も痛いと感じるんだな...他人のことなのによ...どうしてしまったんだか、俺は)
JOKERは自分自身の内面に起きた変化に困惑した。レイの悲痛さを理解する気などなかったが、ふとして心に痛みを抱えるようになってしまった。デスサイズヘルコープスとケルベロスからレイを守ろうとしたのも、今でも全く理由が釈然としない。"気が触れた"としか言えないのがもどかしく感じる。コツンと音がする。レイが立ち上がり艦内に戻ろうとしているようだ。JOKERは彼女に悟られぬように戻った。