※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 26 騎士団包囲作戦

英梨が怜の家から最寄りの駅に到着してすぐに電話をかける。だが応答する気配すら無く、状況が掴めぬまま構内を出てしまった。駅前広場を探し回るもそれらしき影は見当たらず、英梨はますます焦りを感じた。

(電話にも出ないし、向こうでも酷い目に遭ったって話は聞いたけど...何でこうもあの娘だけがこんな...!)

英梨は怜に対し、ある意味責任のようなものを感じていた。それはケースワーカーを騙って接近したことではなく、彼女の根底となる物が英梨自身が最もよく知る少女と同じように見えたからだ。

「何...?」

広場の女子トイレから若いOLが悲鳴を上げながら飛び出してきた。英梨はぎょっとして暫く立ち止まるが、嫌な予感がしたので駆け寄る。

「どうかしましたか!?」

「血、血が....血が...!!」

流血沙汰のようで、OLは怯えるあまり半ばヒステリー気味な声になっていた。英梨はOLを少し離れたベンチに座らせ、女子トイレへ向かった。

「血...!?一番奥か...!」

一番奥の個室から呻き声が聞こえた。そこから赤く細い線が出入り口へ向かって伸びている。英梨はその個室のドアを叩き、中の人物を呼び掛ける。

「一体何をしているんですか!?自分で自分を終わらせようとするのはやめてください!」

「...来ないでよ。もう、いいから...」

か細い声で返ってきた言葉。その声で英梨の予感が確信に変わってしまった。

「怜ちゃん!?お願い、開けて!!私よ、神宮寺!神宮寺 英梨よ!迎えに来たわ!だからお願い、開けて!」

やはりこの娘もそういう所があったんだ。英梨には知っている人物と怜が重なって見えた。自分を終わらせる事だけは、平気で選択できる。

「ごめん...神宮寺さん。私の身勝手で無駄に時間使わせて....私はもう、ダメみたい...」

「何を諦めてるの!怜ちゃんはこの先長い人生を生きていかなくちゃいけないの!生きていて欲しいの!本当の幸せが何なのか、君の目で確かめたら分かるから!」

怜が無言になり、静寂が訪れた。英梨は急いでヘアピンを外し、鍵の溝に無理やりはめ込んで回した。個室の中は赤い飛沫が所々に散っていた。怜が虚ろ気な目で英梨を見つめていた。彼女の手にはプラモデル用のデザインナイフが。その刃先が血に塗れており、怜の手首から滴り落ちる赤い液体が床を染める。それだけでは無かった。自分の左太腿にまで刺突した形跡があった。恐らくこの妙な出血量の多さの正体はそれと見て相違ないだろう。

「怜ちゃん...!これから私がそばにいるから、もうこんな事はしないで...!」

英梨は感情に突き動かされるように、怜を強く抱き締めた。怜の周囲を取り巻く全てが、彼女の目を塞いでしまっているのだと思うと、なぜ誰にも助けを求めなかったのか。その理由が分かる気がした。

 

ZeuSのオフィスビル、その一室に百崎 翼は居た。この一室は何らかの先端技術を使った研究に使われていたらしく、そこら中にコンピューターが埃を被っていた。ただ、翼自身はここで行われていた事業とは何ら関わりがない。実験用のサーバと思われるタワー型コンピュータの隣にある机に目が留まった。

「あぁ、これか...当時は邪魔だと思っていたが、今となっては使い方次第で利用価値はある」

拾ったのは紙製の冊子だった。表題には"ダイバーズプロジェクト"と記されている。表紙をめくろうとしたところで、翼の携帯電話が着信音を鳴らした。電話の主は"徹 アルマーニュ"。京都での会談を催した人物であった。

「私だ」

「SECTORを騎士団に使わせたという話、聞いたよ。随分と剛毅な事だね。足元を掬われるような気分だったよ」

「そもそもアレは君から提案された事だ」

翼は手に持っていた冊子をクリアファイルに入れ、カバンの中にしまった。徹は「そうだったか?」と戯けた声で聞き返した。

「JOKERとやらを潰すためにSECTORを開放しろと言ってきたが?」

「いやいや、きっちり覚えているさ。冗談が伝わりにくいのも相変わらずだね、君は」

「君の場合は真顔で冗談を言うようだから、身内言えど警戒はする。ところで、門松先生に渡したアレはどうだ?」

「早速騎士団に引き渡したみたいだね。それであの魔獣は完成した」

門松に返還したConsept-E57の予備機は、翼が予想していたよりも早く騎士団に譲渡されていた。故にどこかの区画で大規模な動きがあった報せが来たのだろう。

「それで...被験体となったのはどうなった」

「やはりと言うべきかね...失敗に終わったよ。まぁ尤も、リスク無しで人間を覚醒させるなんて無理があったのだから仕方ないさ」

そうか。と翼はカバンからノートマシンを出し、机の上で開いた。

「JOKERに記憶を返還するという餌で釣り、そのまま"青い月"ごと葬り去る。しかもあの場には...彼もいるらしい」

どこから入手したのか、翼のノートマシンにはブルームーンの戦力構成図が表示されていた。後々翼の障害となるとは間違いない。そうなる前に根絶やしにしてしまえるなら、それに越した事はないのだ。

 

怜は英梨に病院に連れられ、処置を施された。左太腿の刺突は筋肉組織のダメージを除けば、ある程度の処置で自然回復可能だった。問題は手首の創傷で、かなり深く切り込まれておりあと数ミリ動かしていれば間違いなく失血死する可能性があった。幸いにも利き手ではなかったので、生活に少しの支障がある程度で済んだ。そのまま英梨の家にやって来た。

「ちょっと狭いけど、女二人くらいなら余裕だから!入って入って」

「狭いと言うか...お洒落...」

整理整頓が行き届き、家具の一つ一つもモダンな雰囲気を醸し出している。生活感は無いが、住むならこの上なく良い家だと思える。しかしケースワーカーで、これ程の洒落た家をコーディネートするだけの収入が手に入るとは、怜としては中々不思議であった。

「荷物適当に置いてていいよ。お風呂入っていいけど、絶対に手首と太腿の保護帯外しちゃ駄目だからね!分かった?」

怜の手首と太腿には肌色のラバー製のカバーが巻かれていた。出血を防ぎ皮膚の治癒を補助するだけでなく、日常生活は問題ない程度の防水性も備えていた。普通の包帯とは比べ物にならないほど、つけている感覚もない。

「分かってます...お借りします」

「んー、何か余所余所しいなぁ...敬語はいいよ?素の怜ちゃん好きだしね」

「本気で言ってんの...?」

それだけ言い残し、エナメルバッグから着替えを一式出して脱衣所に入った。英梨はそれを見届けると、デスクトップマシンを起動する。鳥のロゴが目印のSNSサイトにアクセスし、"騎士団動向"と検索した。3888件の投稿が表示されるが、新たに書き加えられ続ける。どうやら今この瞬間でも騎士団は大々的に動いていることが分かる。

「うわ、何これ...まるでリンチじゃない...!」

単独でマッチングに入っていたであろう機体が、騎士団と見られる連中により、完全に破壊される様子を収めた動画が流れる。機体の"生首"を槍の穂先に突き刺し、残骸に柄を突き立てる。それはまるで晒し首の様相であった。被害を受けたMSは、長らく再販を待ち望まれていた機体だった。これが余計に事の残酷さを際立たせている。

「こんなのゲームだからって...」

正直、騎士団の行動ペースが急速に上がりつつある時点で、英梨達ROMANESQUEが真相究明をして真実を明るみに出したとして、解散に追い込めるとは考えづらくなる。恐らく彼らは何をされようとも、その強固な組織力を以て全てを制圧してしまう気がした。

(この事は絶対怜ちゃんに言わなきゃいけないけど...あの娘はまだ私がJ.E.だって事も、本当は記者をしているって事も知らないんだよね...どこから話せばいいんだろ)

リクライニングチェアのレバーを上げながら、背中を背もたれに預けた。しかし英梨の身体が軽過ぎるのか、背もたれが倒れずあろう事が椅子自体が倒れてしまった。

「うっそぉ!?痛ったぁ....はぁ...まぁもういい時間だしご飯作ろ」

英梨は後頭部を擦りながら椅子を立たせ、デスクトップマシンをスリープモードに切り替えた。台所へ行こうとした矢先、怜が脱衣所から出てきた。髪を下ろした怜を見るのは初めて故か、英梨はその姿が新鮮に写った。

「お風呂...貸してくれてありがとう」

「いいよ、それくらい。新しい家が見つかるまではここを自分の家だって思って?」

英梨の言う事がよく分からず、怜は思わず聞き返した。言ってしまえば繋がりの薄い知り合い程度なのに、何の抵抗もなく怜を受け入れようとしてくれる。それ以上に衝撃を受けたのは、英梨がコンタクトレンズを外して眼鏡を掛けた時だった。硬直する怜を見て、英梨はきょとんとした。

「怜ちゃん?私何かしたかな...眼鏡かけただけなのに」

「い、いや....その、知ってる人に似てたから...」

眼鏡をかけた英梨の顔立ちは、史佳そっくりだった。少しの差異はあるが、一言でいうと明るくなった史佳と言った印象がある。

「あぁ、そっかぁ...確か怜ちゃんのフルネームって、"久遠 怜"だよね?」

「そうだけど」

「やっぱり君だったんだね...私の妹がお世話になってます...って言えば分かる?」

英梨は史佳の姉だった。怜はますます驚くが、ある想像をした。史佳は姉を使ってまで自分を包囲しようとしているのか、と。だが英梨の言動からするに、それとは一切無関係としか思えない。ただの勘違いであると期待したかった。

「でも史佳の家って...確か何かの会社のグループを持ってるって言ってたけど...?」

「あぁ、それかぁ...いやあ、ちょっと訳有で縁切っちゃってる。ま、その事は詮索しないでね?そんじゃ、ご飯作るから怜ちゃんはゆっくりしてて?」

英梨は力無く笑いながら冷蔵庫を開ける。ところが怜は台所を去ろうとはせず、棚から調理器具を見つけて配置し始めた。何事かと英梨は冷蔵庫を閉じた。

「手伝ってくれるの?別にゆっくりしてていいのに」

「そう言う訳には行かないよ。これからお世話になるんだから、これくらいはしないと。これでも、料理は出来るから」

怜にじっと見つめられ、英梨は仕方ないかと髪を撫でた。

「義理堅い娘なんだね...いいなぁ、そういう所。それじゃ、ちょっと手伝ってもらっちゃおうかな〜」

 

 

一方ダイバーズ。ブルームーンからエスとエルニアとハイラックが出撃する。三人とも普段とは違う機体を使っていた。エスはゼイドラ、エルニアはZⅡ、ハイラックは新しく用意したと見られる黒いガンダムだった。

「シローさんとウェルスは別ルートから突入すると言う話だ。まさか劇中ばりの作戦に参加できるなんて思っても見なかったよ」

ハイラックは黒いガンダム"ガンダムエンハンスドカスタム"のコクピットの空気を吸い込み、普段通りの口調で二人に話しかける。レイとの接触も上手く行かず、過去の失意がぶり返すのを無理やり抑え込むように、わざと気にしないふりをした。とは言え、この一言も本心でないとは言えない。

「ウェルス大丈夫かな...初見で組む人と上手くやっていけそうにない気がするんだけど」

エルニアはちらりと背後に立つ機体に目をやった。アルケーガンダムだが、これもこの作戦の為にウェルスが用意した物だった。

「しっかし、何で別の機体使わなきゃ駄目なんだろーね...調子狂うでしょーに。たまたま家にZⅡあったからいいけど」

「ああ、確かになぁ...俺もストライクNEXTで行きたかった..あ、でもあれだろ?機体が向こうに割れるのはまずいとか言ってたし」

エスは初めて触るヴェイガン系MSのコクピットを隈なく観察し、操縦のイメージを描く。出撃まで少しの時間しかないが、少しでもマシなものにしたかったのだ。

「でもなんでハイラックさんだけ割れてもいいみたいになってんです?新型でしょ、それって」

「こいつを作っていたから用意できなかったんだよ、我ながら情けない」

モニターのミニウィンドウ越しに苦笑するハイラック。その折、それぞれの機体にアヤカからのアナウンスが入った。

「これより作戦開始です!SECTOR7への侵入ルートを発見ならび記録を取って帰還してください!それでは健闘を期待するです!」

ミニウィンドウに映るアヤカに、エルニアはウィンクとサムズアップをして返答とした。

「オッケー。エルニア、ZⅡ!テイクオフ!」

エルニアのZⅡがカタパルトデッキから勢いよく飛び出した。続けてゼイドラとガンダムEC(エンハンスドカスタム)のリニアカタパルトに電気が流れた。

「ハイラック・J、ガンダムで出る!エス、慣れない機体だからって大暴れするなよ?」

「あっ...!?エス・ブラックベイ、ゼイドラ...行きます!」

エスはレバーとペダルを一気に押し込み、ゼイドラを加速させた。

「作戦の目標はアヤカから聞いているだろうが、俺から補足させてくれ。このバトルエリアは特に連中の動きが観測されているようだ!頭数だけはバカに多いから消耗には気をつけろ、いいな?」

それぞれの機体にキャプテンからの音声通信が入る。エスは意気揚々と「了解!」と返し、レーダーを起動した。ZⅡは西側から攻める気らしく、エス達から大きく逸れた。その直後にハイラックから通信が入る。

「俺たちはこのまま北上する。東側ならウェルス達が行く手筈になっているんだからな。どうやらセカンドチームの人達も支援戦力を寄越してくれるらしい。ここまで盤石な体制なら...後は言わずもがな、か?」

「失敗できないってんですよね...分かってますよ!乗りこなして見せるさ、どんな機体だって!」

エスの返事にその意気なら安心だ、とハイラックは視線を前に戻した。バトルエリア自体はスペースコロニーである。"運河"と呼ばれる採光用のガラス窓からは宇宙空間が見える為すぐに分かった。しかし、このコロニーの景色はどこか見覚えがある。そしてある電波塔の群れを目にした瞬間、ここがどういう場所なのか悟った。

「ここで君と初めて戦った...今でも覚えている」

レイが当時初めて間もないダイバーだと思い、適正な戦い方で倒そうとした。だが彼女はハイラックの予想を上回る実力を見せ、有ろう事かハイラックに"本気"を出させる。挙げ句彼の攻撃を見事に反応して対応するなど、尋常ではない戦いに発展し、ハイラックは彼女の実力に一目置くようになった。それが全ての始まりであった。

(結局勝てたのは、向こうにそこまでの持続力が無かったからだが....)

ハイラックは思い返そうとしているのに気づき、レバーを握り直した。

「思い出に浸るのはまた後だ...今は目の前の事に集中するだけだ。Unknown...?いや、違う!騎士団か!!」

ガンダムECの真下を通り抜ける百里を見つけ、ハイラックは機体を旋回させた。百里の識別コードから、すぐに騎士団のメンバーだと分かった。ガンダムECは緩やかに高度を下げながら百里を追いかける。その様子はエスも見ており、すぐさま百里を上から追うことにした。しかし。

「ハイラックさん、上空からも追います!」

「いや、大丈夫だ!君はそのままルートを進んでくれ!俺はヤツからSECTORへの経路を聞き出してみる!」

「....了解!」

百里のランクを見てもハイラックが追い込まれる事はほぼ無いと見たエスは、再度機体を旋回。既定ルートを北上する。

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