創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
デュークはここ数日、騎士団とダイバーズを離れ独自に女王たるラプラスが"服用"している
「デューク...!?心配しておりました!現実の所用ですか?」
部下の一人がデュークを見るや仲間を連れて駆けつけた。
「そんな所だ。それで、何人離脱させられたんだ?」
デュークは部下からタブレットを借り、秘密裏に進めていた計画の進行状況を閲覧する。300人のメンバーを離反させられれば、騎士団自体の組織力が大幅に低下する。デュークは騎士団の中でも最古参だが、それ故に組織の脆弱な部分も熟知していた。
「粛清が始まるというのは本当なのですか?」
金髪を短く切り揃えた男、カリウスが不安げに問う。デュークによれば、かなり前より王の采配に変化が生じていた。それが今回一気に推し進められようとしているという話だ。恐らく騎士団を単騎で殲滅し得るJOKERを排除する事に躍起になっているのは、王自身の計画にとって障壁だからと言うのは想像に難くない。
「王は間違いなく、ラプラスとデスサイズヘルコープスを使って粛清を始めようとしている。実力を重んじる我々騎士団の長が、実は異能者だったなんて笑えん」
デュークの一言に、一同はショックを隠しきれなかった。ν-Typeについては排除すると言う考えはないが、実力によって頂点に立つ。それが騎士団としての理念そのものであった。デュークを始めほとんどのメンバーはその理念に感銘を受けて加入している。この事件を起こした王と言うのは、明らかに彼らの信じるそれとは大きく異なる動きを見せ始めていた。
「とは言え40人弱か...王とその側近共には悟られないように進めてくれ。達成されるまでは矢面に立つ。お前達はその内にでも騎士団の本懐を誇りとした、新たな出発点を用意してくれると助かる」
デュークがそう言うと、部下達はビシッと敬礼をした。
「デューク閣下の命、全身全霊をかけて果たします!」
「流石私の友だ、いい意気だが...閣下は持ち上げ過ぎじゃないか? 」
デュークが苦笑交じりに返した途端、一同は思わず吹き出し笑いに包まれた。これだけのいい仲間に巡り会えたのは、幸せな事だとデュークは内心彼らに感謝した。そのままデュークはトールギスアイゼンリッターのリハビリも兼ねて、マッチングを開こうとした。しかし、廊下の曲がり角からコツコツ、と足音がしたのでウィンドウを閉じた。角から現れたのは、白いローブを身に纏った女王、ラプラスだったがデュークが前に見た時とはかなり変わっていた。白みを帯びているだけだった髪が、とうとう雪のような白髪になり、その上肌のあらゆる場所に青い電子線が浮き出たり消えたりした。
「これは...ラプラス!何だこれは、一体何なのだ!?」
デュークは咄嗟にラプラスの両肩を掴み、揺すった。彼女は息絶え絶えで足取りも覚束ないが、デュークはその息遣いが苦痛を伴うものとは違うように感じた。
「何かあったのか。デューク」
ラプラスの背後から声がし、デュークは彼女を壁の陰に隠した。眼光の鋭い賢人と形容できる老人が現れた。騎士団の王である。
「王よ....」
デュークは歯軋りをした。だが王はと言うと、普段通りにデュークの横を通り過ぎた。
「"青き月"が...SECTORへ向かおうとしている。早急に対処せよ」
「御意...!」
王が横目でデュークを見たが、その眼差しはまるで刃物のように鋭い。まさか離反計画を知っているのかと思いたくもなる。王の姿が見えなくなったところで、デュークはラプラスを介抱しようと彼女へ向き直った。
「済まんが無理にでも連れて行かせてもらうぞ!お前には真実を知ってもらわねばならんからな!」
ラプラスを所謂お姫様抱っこの要領で抱え、走り出した。その途中でレオンに出くわし、半ば強引に手伝わせラプラスの居室に入った。ラプラスをベッドに寝かせ、デュークとレオンは部屋を出てそれぞれの状況を話し合う。
「王から直々の特命、だと...?」
「俺はここ最近作戦失敗してるのに生きている...いや、結果的に戦いに負けてても作戦自体は成功してるって言う方が正しいけどよ...王はそれを「強運だ」って言ってんだ」
レオンは壁に後頭部を預け、天井を見上げた。彼も現騎士団の実情を嫌っているが、任務は任務だと割り切っていた。そうした行動が結果として王からの信頼を強めるようになる。故に今、彼は王より特命を賜ってしまったのである。
「特命てのはなぁ...いや、お前は俺の親友だから言うんだがな...SECTORのどこかに、JOKERの"コア"ってのがあるらしい。それを叩けば奴は消滅しちまうんだそうだが...そんな話信じられるか?」
「コア、か...何とも分からん話だな」
「後、これは誰にも口外して欲しくない事だ。ラプラス...アイツのアバターは消失寸前らしい...アイツが飲んでるあのカプセル。一つ落ちてたんで部下に調べさせたら、こんなもんだったとはな」
レオンが重い口調で告げる。デュークは思わず耳を疑った。そして彼から1枚の紙を受け取り、それに目を通して更に驚愕した。
「ν-Typeへの強制覚醒薬...!?」
「さっきセルケトとかってのがウチに来たんだよ。んで、何が何でもラプラスを、デスサイズヘルコープスに乗せるなって言って来たんだ。多分この薬とやらと関係ありそうなんで、それも調べるしかないよな」
「だからラプラスが狂ったと言う話が来ていたのか...」
ブルームーンの一室で、青年が一人立ち尽くしていた。JOKERである。ここの所、ブルームーンの面々に直接姿を見せなかった。次々と自分の中で何かしらの変化が起き、思考が追いつかなくなってきたからだ。
「誰かが俺の事を見てんのかよ...!何で視線ばっかり感じてんだ...何がどうなってやがる!...変な感覚...気持ち悪い...クソッ!!」
常に何者かの視線を感じるようになり、JOKERの神経が余計に鋭敏になる。何故か夢の中でさえ見られているような気もしていた。一体これは何なのか、分かるはずがなかった。
「これも...罰なのか....お前からの....お前って...誰のことを言ってるんだ...?うっ...うわぁあああ!!!!?」
JOKERは何かを振り払うかのように飛び退いた。グラスに腕が当たり、床の上で砕け散った。
「キミは凄いよね、天才だよね」
「アンタ...一体何なの?」
「いつも手が冷たい...でもそういう人ってとても優しいんだってさ」
「私に人を殺させた...どうして!!」
「離れたくないなぁ...」
「お願い。今だけ力を貸して」
「私はキミの事が好き。大好き」
JOKERの頭を反芻する女の声。聞き分ければ二人分なのだろうと思うが、グルグルとループ再生され続け彼の意識を混乱させていく。JOKERはただ、「やめろ、やめろ」と震えた声で呟きじりじりと後退る。そして脳に響く声が更に増えた。男の声だった。
「恐らく君が戦うのは、本当の悪となるものだ」
「君がこの世界を変えるんだ」
「アンタは人間じゃない...!」
「恨まれ役を買うのやめなよ?損するだけじゃん」
「彼女を...あの娘を、守ってやってくれ」
JOKERはとうとう叫び、居室を飛び出した。そのままMSデッキに入り、自分と同じ名前のMSの前で座り込んだ。不思議と頭に響く声が無くなり、JOKERは安堵のため息を付いた。
「どうなってんだ、一体....ぁあ...?何だこれ?」
JOKERは、自機が妙に変化してると思い少し離れた所から眺めた。胸部についたアンテナが丸ごと入れ替えられており、青く発光するパーツのついた物に。サイドアーマーもやけに長くなっていた。そこにケイトが通りかかり、ややからかう様な感じで話しかけた。
「どう?これ、イケてるでしょ?誰からの贈り物か分かる?」
ところがJOKERは不愉快さを露わにした。
「誰だよこんな事した奴...少しでも変なの付けられたらバランス悪くなんだよ」
「そう言っちゃう?それプレゼントしたの、レイだよ」
「はぁ!?」
ケイトが満面の笑みでMSの方のJOKERを指差した。JOKERは呆れ気味に舌打ちをし、ケイトが押してきた工具キャリーからラチェットレンチを抜き取ると、適当なボルトを差し込んで回した。ケイトは工具キャリーを離れた場所に置いて戻ってきた。
「ただの異常行動に感謝するのか...何考えてんだか」
「あのパーツを頼まれた時に、「ありがとうって言っておいて」なんて言われてね。あの娘恥ずかしがりだから直接は言えないみたいだけど、嬉しかったんじゃないかな。一人じゃないって思えるって、物凄く大きな事だと思うし」
「冗談じゃない。人なんか守ってどうするんだ」
JOKERは吐き捨てるようにつぶやき、ラチェットレンチを机の上に放り投げた。
「人の願いとか、祈りみたいなのを守る...ごちゃごちゃした記憶でも、それだけは自分の意志だってはっきり分かってた。ま、どうすりゃいいかは知らないけどな」
その意志だけはきっちり保持できていても、それとは別にν-Type狩りをするように"プログラム"されていたのも事実だった。誰が一体何の為にその様な命令を刻んだのか。今のJOKERが知りたい事はそれだけだった。あの雪山での戦いは、レイを守る事よりも自分自身にかけられた"呪い"が何なのか、騎士団にいる誰かに問いただしたかっただけなのかもしれないと考え始めた。それをレイ以下ブルームーンの人間たちが曲解していると思わなければ、肝心な所で変調を起こすかも知れないと危惧していた。
「そう言えば...JOKER、アンタに大事なお知らせだよ。事件が解決するまでだけど、貴官をブルームーンのメンバーとして認めるんだってさ!キャプテンからのお達しだから嘘じゃないよ」
ケイトがメッセージを表示したウィンドウをJOKERに見せた。しかしJOKERは見向きもせず立ち上がった。
「俺は誰かとつるみ続けるのが一番嫌いなんだよ!」
立ち去るJOKERを眺めながら、ケイトは頬を膨らませた。
「素直じゃないのが行き過ぎるとあぁなるの?何か今の気分が台無しだぁ...あーあ」
とある国のとある大学、その研究室棟一室。草臥れた顔立ちと、白衣を着た眼鏡の男がコンピュータの前に座っていた。彼の胸元ポケットについている名札には「門松 利樹」と刻印されていた。日本から戻って来てからというもの、精神的な余裕が一切無かった。忘れきったはずの出来事が掘り返されてしまったせいだ。
「教授、お先に失礼します」
深夜を回り、最後まで作業していた学生が研究室を後にしようと挨拶した。門松は何かを思い立ったかのように学生を呼び止めた。
「イグェン・ボゥ君だっけ。いや、大した話じゃないんだが...コンピュータによって作られた世界が、人間を進化させるって話を聞いたら君はどう思う?」
イグェンは門松の問いの意味が分からず、首を傾げた。
「すいません、教授。何をおっしゃってるのか...」
「あぁ...そうだろうね。もしかしたら俺滅茶苦茶疲れてるかもなぁ...悪いね、君も疲れているだろうに。おやすみ」
門松はわざと笑って見せ、イグェンの足音が消えるのを待った。そしてモニターの横に置いてある写真を手に取った。生後間もない乳児の写真だ。
「俺はあの実験で使ったシステムが...そういう事にならないように組んでいたものだった。けど君が実験する時を狙って外部から書き換えられるなんてな...どうして俺はすぐに止めようとしなかったんだ...自分で君に会う資格すら捨ててしまったんだな...怜...」
写真を撫でるように触り、天井を仰ぎ見た。彼の目は潤んでおり、今にも涙が溢れ出そうだ。
「元からだけど、父親失格だな...本当に」
京都での会談でConcept-E57の予備機を渡され、それを騎士団に提供してしまった。結局自分は娘の為という言葉に踊らされて、悪魔に魂を売ったも同然の存在と化した。恐らく彼女は門松が肉親である事を知らない。義母にも口止めはしていたから、知る由もないのは当然だ。怜が心の奥底で信じている物だけは壊したくなかった、それが門松が父親として唯一出来る償いの様にも感じていたのだから。
怜と美彩が夏休み明けの試験に向けて勉強を始めてから、半日以上が経過した。美彩の提案により2時間起きに休憩を挟みつつ勉強をしていたが、やはり疲労はあいも変わらず溜まるものである。
「怜ー、休憩しよー...」
提案主だった美彩の方がぐったりしていた。そう言えば勉強のみならず、延々と細かい作業をするのが苦手だったなと怜は思い出した。ガンプラに限定して物凄い集中力を見せるが、中々どうして実生活に活かせないのか不思議になってくる。
「いいけど...本当に数学捨てて大丈夫なの?」
「だって頭痛くなるしぃ...」
怜はたまらず心配になり、美彩の数学の課題を手に取った。怜が教えたところと、初歩的な箇所以外は全て手つかずだった。流石に怜は何も言えなくなり溜息をついた。
「そう言えば奏と連絡取れなくなったんだけどさ...何か聞いてる?史佳はまだ連絡つくけど様子おかしいっぽいし」
美彩に聞かれた瞬間、怜の背筋が凍った。脳裏にフラッシュバックする光景を振り払おうとしても、やはり無理があった。気がつくと、美彩がじっと怜の顔を覗き込んでいた。
「ねぇ...私、皆に何があったのか分からないままなんだよ?今の怜だって何か怖い顔してるし...本当に何かあった?」
「家を勝手に売られたから...何か、ね。あぁでも大丈夫だよ。知り合いの人の所にいるから」
「う、売られた!?あ、でも落ち着ける所あったんだね...よかったぁ...」
事実ではあったが、それで何とか誤魔化せた。美彩は3人の事を大事に思っていた。だからこそ怜は言うのを躊躇った。何としても怜は彼女を巻き込みたくなかった。その為には早くまともな戦力になる必要がある。近くにいてくれる人をこれ以上失わない為には、自分自身を捨てるような覚悟をしなければならない。怜は無意識にそう感じていた。
「そう言えば...美彩、一昨年の七夕に何か書いてたよね」
唐突に怜が言い出し、美彩は一瞬きょとんとしたがすぐに思い出し顔が赤くなった。
「あれ冗談だよ!?あーいや、でもちょっとだけやってみたらどうなるかなーとは思ったけど...んむっ!?」
怜と美彩の唇が重なる。離してから二人の間に妙な緊張が走った。美彩は口をわなわなと震わせ、怜は気まずそうに目を伏せた。
「ほ、本当にするなぁあ...!で、でも何か...恥ずかしいけど...少し嬉しかった...よ?」
「ごめん、美彩...ちょっと驚かせようとしたけど...無理があり過ぎた...本当にごめん」
怜は一足先に図書館を出た。結局なぜ自分があのような事をしたのか分からず、溜め息ばかりが出る。何時ものルートだと全く違う方向に行くため、マップアプリを使って駅まで歩く事にした。既にバスは最終便の時間を過ぎていたのだ。電車に揺られながら家の最寄り駅に到着した。閑静な住宅街と言うこともあって、この時間は不気味なほど静まり返っていた。とは言え怜は慣れている環境だったので普段通り歩く。その最中で青年とすれ違う。その時だった。
「君か...レイと言うのは。今の内に手を引いておくといい。仲間共々全てを奪われる事になりかねん」
「は...?...え...一体何...?」
怜が振り返ると、妙に気品のある雰囲気を纏った青年の背中が目に入った。怜は言いようのない不気味さに恐怖し、走って家へ帰った。