※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 3 それは必然か偶然か

レイがダイブした直後、異様な空気を肌で感じ取り身震いがした。まるで滅ぼされるのを待つかのような、そんな雰囲気に包まれている。

「妙に静か...どういう事?」

不気味さを感じつつブリッジへ歩き出す。ブルームーンそのものは戦艦としては大型の部類に入る。従ってその広さも相応にある。ブリッジに辿り着くにしても多少の時間はかかる。しばらく歩きブリッジまであと半分ほどに差し掛かった頃、何者かに腕を掴まれ右の通路に引き込まれた。

「ちょっ...何なの、シロー」

レイを引き込んだ人物はシロー・アマダに瓜二つの男だった。ダイバーネームも同じである。シローは静かにするようにジェスチャーした。

「キャプテンからメールが来たんじゃないのか?どうして来たりなんかしたんだ...!」

「確かにメールは来たけど、それが何なの?」

「だったらどうしてここに...?」

シローの意図する事が分からず、レイは元の通路へ戻ろうとしたが肩を引かれ阻止された。

「今ここにJOKERが来てる...ヤツの狙いは君なんだ、だから来るなとキャプテンは連絡したんだぞ」

「そんな事一言も書いてなかったけど...」

証拠を見せようとレイはメニューを開き、キャプテンから送られたメールを表示した。画面をスクロールして一番下まで動かすと、最後の最後に文が存在した。

 

"もし奴が本当にJOKERだとして、お前を狙ってきているなら、安全が確保されるまでブルームーンには来るな。何をされるか想像がつかなくとも嫌な予感しかしない"

 

「本当に言ってた...」

レイは最後の行まで読まなかったことを後悔し、シローに一言謝って再びブリッジへ向かおうとした。

「でも何もしないわけには行かないから、私は行く」

「俺がこっそり出るまでここにいろ!JOKERを追い返せばしばらくは安全なんだからな!」

シローが強引にレイを空き部屋に押し込むように入れ、MSドックへと走り出した。

「...余計なお節介...」

レイは不満げに呟いた。シローの足音が消えるまで耳を峙て、完全に気配がなくなったことを察知するとこっそり部屋を抜け出した。

(私がどうなろうと関係ない...何もしないままという訳には行かないから)

 

「だからそのν-Typeってのは何なんだ?それが分からない以上話の聞きようがないぞ」

キャプテンは訝しく思い、JOKERを睨んだ。JOKERはそれを意に介さず、近くにあったポットからカップにコーヒーを移して一口飲んだ。

「人とは違う...一種の超能力を持ってる連中と考えていい。そいつらが増えれば増えるほどダイバーズの世界はごちゃごちゃになる。下手すれば世紀末じみた展開になるかもな?」

「だったら、アンタからすれば都合がいいんじゃないのか?」

キャプテンの問に、JOKERはまさかと肩を竦めた。

「そんだけならこんなことはやらなくて済むんだがね」

要領を得ない返しをするJOKERにキャプテンは心底怒りを抑えるのに必死だった。こちらの神経を混乱させる受け答えを選んでいるとすれば、余程の策士と言うことになろう。

「とにかく、レイって奴をここに連れて来るんだ、いいな?」

「そのような話は断固受け入れないと行ったはずだぞ!何度言わせる気だ!?」

とうとうキャプテンも我慢ならず声を荒げた。

「何度でも言わせてやるさ。そのうち奴自身から来るだろうよ」

JOKERがそう言った矢先、コツコツと足音がブリッジに谺する。キャプテンはぎょっとして後ろを振り向くと、そこにはレイが立っていた。

「何でお前がここに来てるんだ!?奴は本当にJOKERかも知れんと言っただろう!」

「いいから黙ってて」

叱責するキャプテンを制し、レイは真っ直ぐにJOKERを見据える。否、敵意を剥き出しにしているのかその眼差しは鋭い。JOKERは分かっていたと言う風に手すりから降りると不敵な笑みを浮かべた。

「あの時のミルクティー、まだ恨んでるのか?」

唐突に聞かれ、レイは怪訝そうな顔をした。

「そんな事はどうだっていい...JOKER、用があるのは私でしょ?他の皆まで巻き込むの、やめてくれる?」

キッと睨むレイを見て、JOKERは気が抜けたように溜息をついた。そしてレイを指差した。

「だったらさっさと出てくればよかっただろ。何があったか知ったこっちゃないが、客人がせっかく呼んでんのに出て来ないってのはどういう神経してんだ?」

レイは忌々しげにJOKERの手をはたき落とした。

「人に指差すのだって人間としてどうなの?頭がおかしいのはあんたの方じゃない?もういい加減消えて」

「面白い事言うな」

JOKERがポケットから何かを取り出そうとしたその瞬間、外から衝撃音が聞こえた。赤と黒のMS―JOKERが何かにぶつかられ大きく傾いていた。レイとキャプテンとJOKERの目に映ったのは、青とグレーのカラーリングをしたガンダムEz-8だった。

「シロー!今すぐその機体をぶっ飛ばしてやれ!」

キャプテンはすぐさま無線を使いシローへ指示した。

「言われなくても!」

シローは意気揚々とレバーを前に倒した。Ez-8の左腕下部に取り付けられたユニットから鉄の針が飛び出しJOKERに追突した。パイルバンカーだ。しかし、ダイバーたるJOKERはただ何も言わず無言でその様子を眺めていた。そして。

「悪いがお前は眼中にない」

JOKERが指をパチンと鳴らした。MSのJOKERがツインアイを光らせた。バックパックの翼状のパーツに手をかけると、自動で剣の形を取った。そのまま抜き放ちEz-8の右肩を貫かんと切っ先を突き出す。

「オートパイロットだと...!?クッ!!」

シローは予想外の動きに多少驚きつつも、何とか反応を追いつかせて機体を回避させた。だがそれを見逃さずJOKERは真横に薙ぎ払った。Ez-8はシールドで受け止めるが余りに強い剣圧に負け弾き飛ばされた。

「全く、敵を甘く見過ぎだ」

JOKER(以後、ダイバーの方をジョーカーと表記する)はそう言い放つと、再び指を鳴らした。JOKERがぐるりとブルームーンのブリッジに向き直ると、突然頭部バルカン砲を撃ち込んだ。

「キャプテン、離れて!!」

「何を言ってるんだ、お前も下がれ!」

レイを庇うようにキャプテンが立っているのを、彼女は後ろへ押し退けた。

「キャプテン!!レイッ!!!」

シローが叫びを上げながらEz-8の推力を最大にした。マシンガンとバズーカを斉射してJOKERを撃退しようとするが、全ての弾が何かに遮られたかのように機体の目の前で消失した。

「...まぁ、別に潰すのは今じゃなくていい。お前はどこかおかしいからな。その意味が分かるまでは生かしてやるか」

ジョーカーはレイをチラリと見てJOKERのマニュピレーターの上に飛び乗った。一方のレイはその目に怒りを滾らせて見上げていた。

「二人とも無事か!?」

Ez-8のコクピットからシローが飛び降り、安否を確認すると少し安心したような顔をしたがすぐに険しくなった。

「追い返せたは良かったものの...とんでもない敵を見つけてしまったな...」

JOKERが虚空の彼方へ消え去るのをただ見送る事しか出来なかったレイの顔には、悔しさが滲み出ていた。―結局、何も出来なかった。そう思うので精一杯だった。

「ジョーカー....!!」

レイは感情に動かされるまま拳を固く握りしめた。

 

手酷く損傷したブルームーンは、交流広場第8区画に遷移、組織が所有する艦船ドックに来航した。ブルームーンが着水してドックの中へ入ると、アームが伸びて船体をガッチリと固定した。

「ブルームーン、固定よーし!!うへぇ、こりゃ酷いねぇ〜....!」

赤い帽子を被った金髪碧眼の女がドックのコントロールルームから出て来、ブルームーンのブリッジへ手を振った。

「エラい目に遭ってしまってな...どういう事かは追って説明するが!ケイト・ブッシュ!修理にはどれくらいかかるか見積もってくれ!」

キャプテンが声を張り上げて赤い帽子の女に指示を送った。ケイトはあいよ、と高らかに返事するとコンピュータを使って試算を始めた。結果はすぐに返ってきた。

「全力でやっても8時間って所だってさ!」

「8時間もかかるのか!?参ったな...」

キャプテンは想定よりもやや長い見積もりに、多少ながら困る。ケイトから送られたデータによれば、ブルームーンをX線解析した所外からでは分かりにくい部位にも損傷を受けていた。ブルームーン自体はやや堅牢な作りをしているため、大事には至らないものの長期間の航行をするには些か危ない状態と言える。

「別にいいんじゃない?完璧に直して貰えるなら、そうしてもらった方が後々やりやすいし」

レイはそう言い残してブリッジを後にした。クルー搭乗用のハッチが開くと、同時にタラップが地上へ伸びる。レイが降りてくると、それに気づいたのかケイトが駆け寄り抱きしめてきた。

「レイ!無事で何よりよ!怖くなかった?」

「あの...やめてくれない?こんなの、ダイバーズの外に比べれば大したことないから」

レイは困惑しつつも、無抵抗であった。と言うより抵抗しても無意味だと理解している。美彩とは違い、ケイトの場合はレイを自分の妹の様に見ており、自身の家族にするのと同じような事をレイにもする。強めのハグなどはその類であり、レイが止めようにも止められないものであった。

「それよりケイト...あんた、セカンドチームに行ったって聞いたけど戻って来たんだ?」

「まぁ〜訳ありでね?つー事でまた一緒ってことで宜しく、レイ!」

ブルームーンには2つのチームで構成されている。セカンドチームと呼ばれる連中は、新型武装やフルスクラッチしたパーツの性能実験を担っているとレイは聞かされているが、詳しい事は知らない。末端の人間に過ぎないレイには知らされることも無いのだ。

「...無いわね」

レイの反応は至極冷たく感じられるものだったが、ケイトは至ってショックを受けていなかった。彼女を理解している故の受け止め方をしている。

「本当に素直じゃない...まぁ、いいか!」

ケイトは走ってコントロールルームに戻り、コンテナから自立型修復機「カレルⅡ」を放出した。ソレスタルビーイングで使われている整備用ロボの改良型で、オリジナルはハロによるコントロールを必須とするのを、完全自立型に換装したものである。これにより電力チャージに時間のかかるハロを相当数用意する必要がない。カレルⅡ同士が連携して資材の運搬から船体表面の損傷修復まで行う。これによりこのドックはケイト一人でもそれなりに稼働させられるのだ。

「キャプテン!早く降りて!」

カレルⅡ達が溶接器を起動して本格的に修理作業に移ったと見るや、ケイトは声を上げた。

 

修理が完了するまでの間、ドックに隣接する施設にブルームーンのクルー全員が入る事になるが、そのうちの数人はダイバーズから現実へ戻った。怜も休息を取るべく意識をサルベージした。気がつけば汗で服が肌に張り付いていたらしく、不快であった。ふと鏡を見ると、やはり首元にミミズ腫れと痣がくっきり残っていた。普段通りの生活に戻る頃には治りそうには見えない。祖母に対して平気を装う言い訳をしたものの、大学生になってから一人暮らしを始める折には母親の追跡が届かぬようにしなければならず、不安な要素は絶えなかった。一刻も早く、生きた心地のしない家庭での生活から脱却したい。怜の望むことはその一点のみであった。

「史佳にも片桐先生にも迷惑かけて...私って本当にどうしようもない...」

現実でもダイバーズでも、自分自身に何も出来ない事を思い知らされ続け怜はへたりとその場に座り込んだ。地獄の様な暴力や近隣住民からの憐れむような目から逃げたくて、自分が無力でないと信じたいがためにダイバーズを始めたと言うのに、これでは何も変わらなかった。

 

美彩が怜の入院を知ったのは、史佳から着信したメールを読んだ時だった。つまり今この瞬間である。

「それで今日怜を見なかったんだ...?にしても何で今頃なんだろ?ウチが学校に来た時に教えればいいのにさぁ...」

詳細を聞きたがった美彩は、勉強中であろう史佳に電話をかけた。

「どうしたの、美彩?こんな時間に電話をかけてくるなんて、分からない所でも?」

すぐに史佳が応答した。

「分からないって言うか、怜が入院したって言ったじゃん?もしかしてあのせいなんじゃないかって思ってさ...」

そうかも知れないわね、と史佳は答えた。三人はそれなりに付き合いが長く、小学校高学年からの仲である。怜が問題を抱えた家庭で過ごしているのでは無いかと気づいたのは中学2年の頃だった。突然怜が眼帯を着けた状態で登校してきたのをきっかけに、彼女が危険と隣り合わせになりつつあると知ったのだ。

「家庭相談所にも警察にも一応相談してみたけれど、やっぱりと言うべきか私程度じゃ取り合ってくれないわね」

「え、史佳ってばそんなことしてたの!?よくやるよね...! 」

「友達程度じゃ事の重要性を理解させるには厳しいようだから、明日には先生に頼もうと思う...そうすればどの位の事なのか分からせられるでしょうね」

史佳の知識とそれを活かした行動力は、毎度周囲を驚かせる。単なる頭脳派で終わらないのが史佳なのだ。

通話が終了すると、史佳は生徒手帳の表紙カバーと表紙の隙間から一枚の写真を取り出した。

 

遡ること半年前。

「ガンプラダイバーズ?あの、流行ってるゲームの事よね?」

昼休み、三人で昼食を摂っていた。他愛もない話で和やかに過ごしている最中、怜からガンプラダイバーズをやらないかと誘われた。しかし、史佳自身はそれほどゲームに触れた経験が無かった。

「ごめんなさい、ゲームはあまりしたこと無いから追いつけないと思うわ...」

「そう...じゃあ、気が向いたらでいいからさ、これ」

怜が差し出した一枚の紙。彼女が加入しているプレイヤーグループ、ブルームーンの招待用コードが記されていた。

「あ、ズルい!私にはくれなかったのに!!ずっと抱きつくぞこんにゃろ!」

美彩が悔しそうに頬を膨らませる。怜はうるさいからチームに迷惑がかかるかも知れないから、と一蹴した。

「....そうね、もし機会があればやってみようかしら。ありがとう、怜」

その日の放課後、史佳と怜は学校付近のゲームセンターに立ち寄った。怜からすると、普段ゲームをしないはずの史佳がこのような場所に訪れるのが意外だったらしく、戸惑っていた。怜自身もゲームセンターに来たのは生まれて初めてだと言う。無意識の内に史佳は怜の手を握っていた。

「ゲームやらないのにここに来るの?」

「昔の友達とUFOキャッチャーをやるくらいならよくあるわよ?...て言うとゲームやらないなんて嘘ついてることになるわね...」

怜に言われ、史佳は苦笑した。そして二人は空いているプリクラマシンの中に入った。写真撮影のためにマシンの中はかなり明るい。怜は思わず目を細めた。

「眩しい...」

「写真を撮るんだから仕方ないでしょ」

「写真なんて撮られたくないんだけど...」

少々居心地が悪そうにしている怜をよそに、史佳は100円硬貨をマシンに投入し撮影の設定をした。プリクラマシンが間もなく撮影を始める事をアナウンスした。史佳が怜にピッタリくっつくように立ち、ピースサインをする。怜も辿々しく史佳の真似をしてピースサインを作った。撮影と画像のデコレーションが終わると、マシンの外側に現像された写真が排出された。

「あは...出来たわ...怜ってば顔引きつってるじゃない」

自然な笑みを浮かべる史佳とは対照的に、怜はぎこち無さが目立った表情だった。

「仕方ないでしょ...写真なんて証明写真以外撮られたこと無いんだから」

「うっ...ごめんなさい、配慮が無かったわね」

「別に。どうでもいい事だから」

声のトーンからして怜は怒っているわけでは無かった。

 

そして今史佳が眺めている写真こそ、半年前に撮ったプリクラである。

「怜...あなたを必ず幸せにしてあげるわ...」

史佳はまるで想い人に思いを馳せるかのような口調で呟いた。

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