創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
「レイは...ν-Typeへ進化する過程で能力に変異を起こした存在。俺はこれをEvolve.ν-Typeと呼んでいる。能力が壊れたんじゃなく、進化の過程で全く違うものに組み替えられた存在だ」
門松の"ν-Type"という単語自体、英梨には聞き慣れぬものだった。その上、"Evolve"と付け加えられてもどう反応すればよいのか分からなかった。
「Evolve.ν-Type....」
門松は英梨が釈然としない顔をするのを見て人差し指を立てた。
「そいつの特徴は確認されているだけで3つ。1つは氷結能力見たいな、"現実でも何でも物理的に不可能な現象を起こす能力を持つ"。もう一つは、"相手の能力を抑制する"。そして最後に条件は定かではないが"相手の心を読む"。この3つだ」
「意味が分からないのですが...でも,どう言おうと怜ちゃんは普通の女の子です。そもそもダイバーズって、プレイヤー自身のスキルなんて存在しないですよね」
「だけど"ν-Type"は実在する。ハイラック達には会った事あるだろう?彼らはほかの誰にもない物を持っている。それが何よりの証明だ。ぁあいいや、口で説明しても簡単に理解できっこない....そのメモリの中に答えはすべてある」
門松は頭を掻き、眠る絢斗の傍に小さな箱を二つほど置くと病室を後にした。
「見舞い品を置くなんて...教授らしくない事を...」
英梨はその小箱を手に取り、蓋を開けた。中にはガンプラが入っていたが、それを見た瞬間英梨は息を呑んだ。赤、黒、白で彩られたストライクガンダムグリッター。英梨の目から自然と涙が零れる。
「ストライクJOKER...何でここに...?ずっと探しても見つからなかったのに...」
ストライクJOKERを両手で包むように持ち、眺めたまま立ち尽くす。絢斗を病院に移送してから彼の家を出るために、自身の荷物の整理もしながら彼の機体を探していた。しかしそれらしきものは一つも出てこなかった。そのガンプラを門松が持っていたのが不思議でならなかった。ストライクJOKERを箱に戻そうとした矢先、一枚のメモ用紙を見つけた。
"君は誰よりも真実に辿り着かなければならない"
その一言が、英梨自身にとってはある意味使命めいたものに感じられた。英梨は帰宅するとすぐに仕事部屋に入り、デスクトップマシンのスリープを解除した。そしてポケットからUSBメモリを差し込む。すると、パスコードの入力を要求するウィンドウが表示された。
「パスコードって...そんなの知らないわよ...!」
思い付く限りの単語を入力するが、やはり弾かれてしまう。時間を無駄に出来ない状況下で、足止めを食らっている場合では無い。英梨は焦りを募らせ、ストライクJOKERの入っていた箱の中を隈なく見始めた。だがそれらしきものは一切見つからなかった。
「どうなってんの一体......肝心な物を一切用意しないなんて!」
苛立ちで思考が固まるのは英梨としても避けたかったので、一度仕事部屋を離れてリビングに出た。
「そう言えば今日、絢斗の誕生日だっけ...」
TVラックの上に置いてある額縁を取り、写真を眺める。彼の写真が実物として残っているのは、テーマパークのキャストに撮ってもらったこの一枚のみだった。魔法使いの大きな帽子と杖を持った英梨は幸せそうな笑顔を浮かべているが、絢斗の方はカメラに見向きもせず変わった物を見るような目で英梨を眺めている、そんな写真だ。額縁を戻し、その隣にストライクJOKERとダブルオーガンダムセブンソード/Gを並べて置いた。ダブルオーの方は長い事出していなかったせいか埃がうっすらとついていた。慌ててエアダスターで埃を除去して置き直した。
「私、決めたよ。キミの力になりたいから、もう一度だけダブルオーで行くって...だから、ちゃんと私のそばに戻って来て、絢斗...」
「気になるか、奴の事」
JOKERの居室の前で蹲るレイに、ウェルスが声を掛けた。レイは何も返さず、ただドアをじっと見つめていた。
(今あの部屋には奴以外誰もいないはずだが...)
ウェルスはドアを開け、中に入った。ベッドの上では当然JOKERが横たわっていたが、彼の目は焦点が合っておらずまるで死人のようであった。エルニアから聞いた話では、恐らく記憶を取り戻したからこのような有様になったのだと言うが、ウェルスが見るにそれだけではここまで廃人も同然の様相にはならないと思った。ウェルスは部屋を後にした瞬間、ハイラックからメッセージが届いた。その内容を読んだウェルスはレイに再びを声をかける。
「ハイラックが呼んでいる。お前にも関係のある事だ、行くぞ」
「...私はアンタ達とは違うチームなんだけど...」
「セルケトが来ているらしい。ハイラックもエルニアももう向かっているんだ。お前が関係ないはずがない」
セルケト、と名を聞いてレイはウェルスを凝視した。ここに来て突然ダイバーズに舞い戻って来た、悪魔のような男。レイの心に決して癒えることの無い傷を刻んだ張本人。無意識に身体が震え、レイは自らを抱くように縮こまった。
「来ないんじゃなかったの...何で今になって...!」
「だからと言って動かないんじゃ何も変わらない。自分の過去に蹴りをつけられるのは、自分だけだ」
「じゃあアンタだって同じでしょ...私はもう...思い出したくもないの...!」
顔を伏せているので全く見えなかったが、声が震えていればどんな心情かは誰にでも分かる。
「俺だって思い出したくは無い。だが向き合わない限り...誰も救われないままだ」
ウェルスはレイの腕に触れ、ハイラックの指定したポイントに転移しようとしたが、その場所がSECTOR ZEROだった。SECTORは、それぞれの間で一度でも行ったことがあれば転移可能になるが、SECTOR ZEROだけは直接移動できないのだ。
「エス」
ブリッジから出て来たエスを呼び止め、レイを運ぶのを手伝わせようとした。レイの姿が専用のスーツのままだったのでエスは一瞬戸惑うが、ウェルスの様子を見て穏やかではない事は分かった。
「レイさん、JOKERが戻って来てからこんな調子だけど何かあったのかな...」
「自分を責めているんだろう。嘘が下手すぎるからな、コイツは」
「そうなのか...それで、どこへ運ぶんだよ?レイさんの部屋なら逆方向だろ?」
「ストライクNEXT...出せるか?」
出撃案件の事など何も聞かされていないエスは、間抜けな返事をした。タキオンストライカーの調整がほぼ済んでおり、実際いつ出撃しても問題はない。
「出せるけど何だってんだ?」
「お前にも、知っておいてもらおうと思ってな」
デッキに出ると、エスはウェルスとレイを対象範囲に含めてストライクNEXTのコクピットに転移した。
「サブシートなんて無いけどいいのか?」
エスは半ば心配気味に二人を見る。ウェルスはやや強めにレイを抱き寄せる形で固定し、アイコンタクトで出撃を促した。
「了解、了解...!ストライクNEXT出ます!ケイトさん達は下がってください!」
ストライクNEXTを固定していたドックアームが動き出し、真下で作業をしていたケイト達が大慌てで退避した。
「エス君!?何だっての?」
「これから三人でデートなんです!楽しくない方ですけど!すぐに戻って来ますし機体も傷つけさせません!行きます!」
エスはそう言うとペダルを踏み込んだ。ストライクNEXTがカタパルトから勢いよく飛翔し、雲を突き破った。
「SECTOR ZEROへのルートは覚えているか?」
「行ったことのない場所....て言うか行けなくなってるけど」
エスはSECTORのマップウィンドウをウェルスの方に流した。
「ルートさえ覚えていればその手前まで行ける。覚えてないんだろう?」
「行ったことないんだから無茶言うなよ...」
ストライクNEXTを緩やかに加速させながら、柱の間を縫いSECTOR 2からSECTOR 3を経由してSECTOR ZEROを目指す。ウェルスの見立てでは3時間はかかるようだ。
「最短距離で行ってもその位なのか?」
「今検索している。とは言うがこれだからな...連中がSECTORの大半を押さえている今、どう足掻こうと1時間以上の短縮は望めない」
「ええっ!?こんなに占領されてんのか!?」
「SECTOR 2を奪い取れただけ状況はまだマシな方だ。あの艦が奴らの手の中にあれば、取り返しようがなくなる」
「あの艦って...マザー・メタトロンだろ?あんな物が隠されてたなんてな。冗談メカだと思ってたけど」
「本物だよ、アレは」
レイが何とか気を落ち着けたのか、ウェルスの着ていた外套の中からひょっこりと顔を出した。モニターの反射でその様子を見たエスは、思わず吹き出してしまった。
「見えないと思ったらそんな所にいたんですか?」
「寒かったんだから仕方ないでしょ...ごめん、ウェルス。もう大丈夫だから」
レイは髪の乱れを整えてヘアピンを付け直し、服を切り替えて普段の格好に戻った。まだ表情がやや暗く、ウェルスには少し無理をしているように見えた。しかし敢えてそこには触れず、エスに引き続きルートを指示した。
「次の次でSECTOR 3に入る...何!?」
「敵が来る!!」
レーダーに熱源反応が現れ、エスは臨戦態勢に移った。だが敵は1機だけだった。上からゆらりとストライクNEXTの目の前に降り立ったのはリボーンズガンダムだった。
「そこを退いてくれ、今は戦ってる場合じゃないんだ!」
エスは追い返そうとウェポンセレクタの、イーゲルシュテルンのアイコンに指を近づける。
「君か。エス・ブラックベイと言うのは」
突然リボーンズガンダムがストライクNEXTの背後に現れ、GNビームサーベルを真横に一閃した。エスも間一髪で反応できたが、武装の切り替えが間に合わずまともに攻撃を喰らった。
「いきなりで悪いが、僕は少し暇を持て余しているのでね。付き合ってはもらえないかな?」
「この声...リボンズとでも言うつもりか!」
リボーンズガンダムから聞こえた声に、ウェルスは眉を顰めた。リボーンズガンダムの声の主、トオルは愉快そうな笑みを浮かべた。
「よく似ているものでね。だけど面と向かって言われたのは初めてな気がするよ。ウェルス君」
リボーンズガンダムがGNバスターライフルの銃口をストライクNEXTの顔面に向ける。エスからすると、向こうも戦う用意をしているのだと分かるが、奇妙な違和感に動き出せずにいた。
(何なんだ...隙だらけなのに、迂闊に手を出せないと思ってしまう...!)
「ほぅ...?僕に恐れをなしているようだね。そこで適切な判断が出来るといいが」
しかしストライクNEXTはトオルの思惑通りに動かなかった。ストライクNEXTが両腕からビームサーベルを発し、下から突き上げるように振るった。リボーンズガンダムはひらりと斬撃をかわし、大型GNビームサーベルで居合いに斬りぬけた。しかしストライクNEXTはそれよりも素早く反応して、左腕のサーベルでGNビームサーベルを弾き返しつつサイドアーマーのバラエーナ改を放った。リボーンズガンダムがふわりと浮き上がり、リボーンズキャノンと相互に変形を繰り返しながら距離をとると、背部の翼を解き放った。
「ならば...楽しんでいくといい!僕と戦えることを光栄に思うんだね」
「俺は遊びでやっているんじゃない!」
リボーンズガンダムの大型GNファングがストライクNEXTの頭上を囲うように取り付き、一斉にビームを照射した。プロヴィデンスガンダムのビームカーテンに似ているが、威力はこちらの方がかなり高い。ストライクNEXTの増加装甲でさえ、一瞬にして焼け爛れの跡をつけた。ストライクNEXTも上空へ飛び上がり、バーニアを全開にしてリボーンズガンダムの懐へ飛び込むと、両腕から発したビームサーベルで挟み込むように斬りつける。だがリボーンズガンダムは分かっていたかのようにわざと前に進み、ストライクNEXTの頭肘打ちをぶつけ、そのままサマーソルトの如く蹴り飛ばした。しかしこれはストライクNEXTに足を掴まれ阻止された。
「...レイさん、何を!?」
「いいから戦いに集中して!一度だけなら出来るはずだから...!」
いきなりレイがエスの左手に自分の手を添えた。すると、ストライクNEXTが掴んでいる場所から次第に凍り始めたではないか。トオルにもこれは想定外だった。
「何だこの力は...?あの機体にもそんな武器が内蔵されているだと....?」
リボーンズガンダムがGNビームサーベルでストライクNEXTの肘を貫こうと突き出すが、それよりも早く手を放され、ストライクNEXTの放つビームブラスターをシールドでの防御を余儀なくされた。だが、やはりシールドにも霜が降りてきていた。
「なるほど厄介な....いや、今の声で分かった...!君はいい仲間を持ったようだね、エス・ブラックベイ。また会えるといいね」
リボーンズガンダムの蹴りがストライクNEXTの顔面に突き刺さり、昏倒させられた。
「畜生....何だっていうんだ...!」
エスは悔し紛れにレバーを殴り、機体を起した。一方のレイは息を荒げ、今にも吐き出しそうな顔だった。
「レイ...!?どうしたんだ?」
「大丈夫...こう言う事やったの、久々すぎて慣れていないだけだから...」
レイは力なくウェルスにもたれかかり、モニターを注視した。エスも気が気でなかったが、先を急ぐことにした。次第にハイラックのガンダムECの反応が見え始め、エスは機体をさらに加速させた。だが反応のあるポイントに近づくにつれ、レイの呼吸の乱れが酷くなっていく。まるで恐ろしいものに近づこうとしているのを拒むかのようであった。
「エス....ここだ。俺は先に行くが、お前はレイが落ち着いてから一緒に行ってやってくれ」
ウェルスがストライクNEXTのハッチを開けてワイヤーを伝い降りた。
「分かったけど、この様子だと落ち着くようには見えないな...レイさん、シート座ります?俺が座った後ですけど」
エスはシートから立ち上がり、レイをそこに座らせる。どこか寒そうでもあったので、ウィンドウからブランケットを呼び出してかけてやる。
「にしてもさっきのアレ、どうやったんです?手を触れただけでコイツにも冷凍能力が使えるようになるなんて」
「よく分からないけど、ダイバーを通じて能力を発揮する...ことも出来るって、ハイラックが言ってた...私がまだ
「なんでそんなことをやろうとしたんです?そんな代償を払ってまで...」
「あそこでやられたら、アンタの大切だった人に顔向けできるの?」
レイから大切だった人、と言われエスは何も言い出せなくなった。このことは"彼女"には話していないし、関わらせる気もなかった。それよりも、レイには一切その事を話していないにも関わらず、そう言われたのにただ驚いた。レイはシートの上で体育座りをするような形で蹲る。
「アンタも守りたいものがあるんでしょ...嫌でも分かるよ、何故か知らないけど...ただ、そう思えるものが私にもあるのかなって...」
「俺は...確かにあるよ、守りたいもの。自分がどうすれば正解だったかなんて分からないんだ...どれだけ手を伸ばしても、後一歩で届かない...俺は何一つ、通せたものなんてなかった...」
エスは手を握ったり開いたりしながら、唇を噛んだ。自分を救うために命を散らせた瞬間が、脳裏を走馬灯の如く駆け巡る。レイは震えを殺しながらシートを立ち、エスの手を握った。二人の手の間から淡い青の輝きが漏れ出した。
「.....アンタだって、十分戦ってきたんでしょ。ごめん...嫌なこと、思い出させて」
「いえ...弱さを知って強くなれってんでしょう?やって見せますよ。ハイラックさんとレイさんの幸せのために!」
この光の影響か、エスは心の淀みが消えていくような感覚を味わったのか、普段よりもやや調子が上がったような返事をした。
「はぁ...?急に何言って...そう言えば、アンタと私同い年なのに何で敬語なの?」
少し前から気になっていたらしく、レイはこのタイミングで理由を尋ねた。エスは気まずそうに目をそらし、ゆっくりと視線を戻した。
「二人が話しているの見てたら、夫婦にしか見えなかったんですよ...しかもハイラックさんと話してるときのレイさんって、なぜか年上に見えてしまうし...あはは...!」
「ふ、夫婦....!?私とハイラックが...!?」
レイの震えが激しくなるが、悪寒によるものではないとエスにはすぐ分かった。何せ彼女の頬は紅潮していたからだ。