※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 39 乖離家族

「ここがSECTOR ZERO...」

「の入り口...ね。本当、何かのゲームみたいだよね、ここ...確か、えーっと...ふぁんたし...」

ハイラックとエルニアは、SECTOR ZEROのゲート前に一足先に来ていた。道中はかなり広い一本道の通路で、エルニアが不覚にも眠気を覚えてしまったが、そこかしこに刻まれた破壊の痕で事故を起こすことはなかった。奥から革靴の音が聞こえ、ハイラックもエルニアもその方向に目を向けた。眼鏡に白衣のくたびれた雰囲気の男が壁の陰から姿を見せた。エルニアは男を見た瞬間、ハイラックの陰に隠れるように後退りした。やはりあの記憶は消えるはずもなかった。

「そうやって人を魔物かなんかみたいに見るのやめろよな...ぁあーあ、折角の感動の再会が台無しだ」

男が溜息をつきながら頭を掻いた。

「真意を知っていても、あなたがやった事を考えれば僕は今にでも、あなたを殺したいくらいですよ。その態度で彼女に会うつもりなんですか、セルケト...いや、門松教授」

ハイラックは声を低くして警告する。現実にて門松から事情を聴かされているとはいえ、それだけで納得できる話ではない。それはもちろん門松自身が一番よく知っていた。門松は文句は言わず、立方体のコンクリートの上に腰かけた。

「にしてもすぐに決心がつきましたよね...教授のことなので来ないものだと思ってましたが」

「あのなぁ...いつ暴走すんのかも分かんねぇものを抱えているんだぜ?...どうやら続々と集まってくるパターンみたいだなこれは」

通路の奥からやってきたウェルスを一瞥すると、門松は白衣のポケットから黒い端末を取り出しハイラックに投げ渡した。室内照明のリモコンほどの大きさだが、中央に赤いボタンが一つだけついていた。

「何です?これは」

ハイラックは端末を凝視して、それをウェルスに貸した。いきなり手渡されウェルスは困惑するも、彼らの目の前にいる男を見て怒りに突き動かされるまま歩み寄り、胸倉を掴んだ。

「何故今頃戻ってきた...!?また何かしようと言うのか...セルケトッ!」

「おいおい会っていきなりそれかい...」

門松は一切動揺せず、飄々としている。それがますますウェルスの怒りを買う事になるが、ハイラックが介入してすぐに収束した。

「気持ちは分かるが、今は抑えてくれ...」

「分かっている....悪かった、ハイラック」

ウェルスは今にも門松を殴り飛ばしたかったが、今の状況で実行に移しても誰も得をしないのを理解できないわけではない。上げようとした拳を下げ、エルニアの元まで戻った。

「つっても役者はまだ揃わないってか」

門松が周囲を見渡し、座りなおした。だが彼の顔には、今しがた見せたような余裕は徐々に消えていく。やはりレイと会うのを内心怖がっているのだろう。門松としてはレイに会わないことで二重の感情を抱かせないようにしていた。ハイラック、つまり拓から聞かされた話でその考えが正しいと思っていた。だが成長した娘の姿をこの目で見ておきたいという、親としての感情もあった。だが彼女からすれば自分は悪魔としか言いようがない。そう見せるようなやり方を選んだことに悔いはないが、言葉にしづらい感情が胸に募るばかりであった。

 

「...レイさん、本当に大丈夫なんです?」

「いいから、そのまま行って」

レイが気が落ち着けたと言うので、二人ともストライクNEXTから降りてハイラック達のいるSECTOR ZEROへ向かう。レイはまだうまく歩けないのか時折よろけてしまうため、エスが肩を担ぐ形で移動することとなった。意外にも彼女の背は低くなかったおかげか、エスまで釣られて足取りが悪くなるという事はなかった。

「また吐きそうになってるじゃないですか!」

レイが嘔吐きながら口を手で覆い始めたので、エスは壁の近くに連れて行き座らせた。しかしレイは無理やり立ち上がり歩みを進めようとする。完全にエスの制止など聞くつもりがなくなっていた。そしてSECTOR ZEROのゲートエリアに足を踏み入れた。

「レイ....!!」

ハイラックもウェルスもエルニアも、レイの合流に半ば驚いた顔をした。来ることは分かっていたのだが、想像していたよりも早かった。

「これじゃもう持たないじゃないか...!エスは何をやって...!」

ハイラックは倒れそうになるレイを急いで抱き止め、姿勢を戻した。

「違う。私が勝手に行っただけだから。エスは関係ない。」

門松を睨みながらハイラックから離れた。だが門松から見たレイは、恐怖と絶望で酷く弱りきった様子だ。

「君が...久遠 怜、か...まさかあの時に会ったのが君だとは思わなかったよ」

「何でアンタが名前知ってんの!?しかもどうしてこんな時に....今更何だってのよッ!!アンタのせいで...私は何もかも失った....何もかもッ!!」

激昂するレイの瞳がぼんやりと青い光を灯した。それを目の当たりにした門松は、立ち上がるとレイの両肩を掴み瞳を凝視した。

「やはり手遅れだったのか...!?こ、ここまで浸食して...いるだと...!?」

「触るなッ!!」

レイは門松を蹴りつけ引き剥がした。まだ体がろくに動ける状態ではないせいで、レイの方が危うく転倒しそうになるが、門松が腕を掴んで引き寄せた。ギリ、と歯を食いしばり睨みつけるレイ。門松は今の光が幻ではないかと再度観察しようとするが、今度はウェルスに押し退けられた。

「何のつもりだ...」

「今のレイの目を見てから言え!何てことだ...畜生!!」

門松の言う意味が分からず、ウェルスはちらりとレイの目を見た。

「レイ...お前...その目は...!?」

レイの瞳が淡い青の光に包まれているのを見たウェルスは、無意識に彼女の顔をこちらに向けて幻覚ではないかと凝視する。しかし彼女の目は変わらず光を帯びていた。レイは何が起きているのか分からず、目を逸らした。視線の先にはハイラックもエルニアもいたが、彼らもレイに起きた変化に言葉を失った。

「仕方ねぇか...もし何もなけりゃ、ハイラックにやった道具を使って...レイの能力をアカウントごと消そうと思ったんだが。まさかここまで進行していたとはね」

「アカウントごと...?なぜそこまでしなくちゃいけないんです!?」

ハイラックはウェルスに貸した端末を引っ掴み、睨むように見つめた。門松はポケットから同じ大きさの白い端末を出し、ハイラックに向けた。

「これとそれを使えば、レイの能力で自我を崩壊させることがなくなる。だが安全に抑制できる代物じゃあないんだ、あれは。レイは能力者だがお前たちとは違う存在だ。それを教えてやる」

門松は真剣な面持ちでメイポール・ダンスの面々に向き直った。

 

「まさか、パスコードがそういうのだったなんて...教授...馬鹿な人よ、全く!」

英梨は門松から渡されたUSBメモリのロックを解除した。これまでの仕事で構築した情報網をフルに活用して、怜に関する情報をかき集めていた。とは言え一般人にすぎない人間の情報など見つかるものではなかった。だがその中で怜が生まれた病院に行きつき、担当医とコンタクトをとることに成功した。そこで分かったのは、怜の本当の誕生日であった。これをパスコードとして入力したところ、解除に成功したのだ。

「Evolve.ν-Type....ダイバーズに於ける能力の開花は、"感応波"と呼ばれる脳波の一種を発生させることで可能にしている。しかしその感応波は特定の条件を満たさねばならないようだが、その条件は個人個人で違う。しかもそれがダイバー全員にあるという訳でもない。」

本文を読み進めながらスクロールすると、おそらく測定した脳波のデータサンプルと思われる画像が目に留まった。一番上には通常の脳波、二番目には"感応波モデル"、最下段に"一度のみ観測した特殊な感応波"という順番になっていた。医学の知識などない英梨には全く理解できないが、親切に解説まで書き込まれているお陰で大まかに意味が分かるようになっていた。

「てことはν-Typeってのは実在するんだ...ハイラック君達はν-Typeで、怜ちゃんが違うって言ってたような...じゃあこの一番下のがもしかして怜ちゃんのってことよね」

感応波のグラフをみると、能力を発した時に大きな違いがあった。ν-Typeの場合、能力発生時はグラフの上限ギリギリまで波が上がるが、それも一瞬の事でありそれ以降はある一定の値で安定している。しかし怜の物と思われるグラフは奇妙な事象を示していた。上限値を超えた瞬間反転して最下限に到達し、かなり歪な軌道を描き最終的にX軸に被さり動かなくなった。Y軸の値は0。つまり脳波が消失しているのを意味しているのは言うまでもない。

「死んでいる状態で戦うって事....?何それ....!?」

理解を超えるデータに英梨は頭がパンクしそうになり、一旦画面から目を離した。そして再び画面に視線を戻した。

「"ν-Typeの感応波は基本的に先に挙げた通りのグラフが基本形と考えてよい"...そんで?"最下段のグラフ波形は、ν-Typeの能力発現の直前から感応波を一度乱されたと言う条件によって偶発的に発生したものと見られる。通常感応波は一度乱れても時間をおくことで自然に回復する。しかし、当人が初めて覚醒する場合は少しの阻害も大きく影響してしまう。感応波が一度消失し、そこから復元するが完全に元には戻らなくなるのだ。しかし今回のケースはかなり特殊である。能力を覚醒するに必要なレベルまで復元しても、全く別物の感応波を生み出してしまう、と言う事だ"....へ?」

 

 

「つまりだが、例えばガラス窓を割ってパズルみたいにして組み合わせるとするだろ?そしたらどうなると思う?」

門松がエルニアを指名した。エルニアは肩をびくりと震わせ、ウェルスの服の裾を指で引いた。しかし答えねば話が進まないのも分かっていたので、何とか動揺を抑えつつ回答する。

「元には戻らない...よね」

「その通りだ。一度消されてもお前たちなら勝手に元に戻る。けどもうすぐ覚醒するって時にぶっ壊されちまうと、当然元通りになろうとするか完全に消えて覚醒しなくなる。だがレイの場合はそうじゃなかった。覚醒する体裁は取り繕えたが、それはガワだけで中身は全く違うものになっちまった」

「結局壊れてるって言いたいんでしょ...」

レイは吐き捨てるように言い放ち、立ち去ろうとした。

「確かにそうだが、俺はこう捉えている。感応波の崩壊によって生み出されたもう一つの可能性、それがレイだった...と。Evolve.ν-Typeと名付けたのは、全く別の新しい存在に進化したからだ」

「だとしてもあの氷結能力の説明にはならんな」

「そりゃあウェルス、簡単だよ。完全に戻らなくなった感応波がゲームシステムを侵してるから、ありもしないダイバー由来の氷結能力なんてものが生まれてんだ」

ゲームシステムにまで影響を与えるレイの能力。その場にいる一同は理解に難した。だとすれば、本来彼女はどのような能力を手にするはずだったのか。そしてシステムに干渉しているとなれば、運営側からレイに対して制裁処置が下りる可能性もあると考えねばならない。門松がレイをアカウントごとダイバーズから消し去ろうとした理由の一つであった。

「しかしそれ故に酷く不安定な存在だ...能力を使えば使うほど、アバター体か現実の肉体に変化が起こるかもしれない」

「どういう事ですか 、それは」

ハイラックは横目でちらりとレイを見、視線を戻した。

「さぁな。細かい事までは実際に起きないと分からないがね。とは言っても俺もそんな現実見たかないんだよ。俺が言えた話じゃないけど、娘が人から離れていくのは耐えられんねぇ」

門松が「娘」と言った途端、レイは頭が真っ白になった。自分自身がν-Typeとは異なる存在たるEvolve.ν-Typeと言われて混乱している所に、追い打ちをかけるかの如く伝えられた、門松と怜の関係の真実。レイは否定したくてたまらず、首を横に振りながら後退った。

「アンタ今何言って...私が...アンタの娘....!?冗談じゃないわよ...何なのそれ!?」

レイの感情が一言で表せるような状態ではなくなり、それが身体にも影響しているのか足が震え始めた。思い描き続けてきたイメージが強くなり過ぎると、それを裏切られた時のショックが計り知れない物になる。今のレイに上手く対処できるはずがなかった。否、それが誰であっても同じことであろう。

「残念だが事実だ」

門松の面持ちからして、嘘ではないと悟った瞬間レイはヒステリー気味に声を荒らげた。

「だったら...それが本当なら!なんで最初からそう言ってくれなかったの!?何で迎えに来てくれないの!?何もしてくれなかったから...私こんな所まで来て、もう元には戻れなくなった!!皆みたいに生きていくことなんて諦めなきゃいけなくなったのに!!」

気がつけばレイは門松の白衣を掴んでいた。

「...話してしまえば、ただ言い訳をしていると思われても仕方ないかもな。あの機体...E57な、あれで実験した時...君が乗った瞬間に暴走したが、アレは外部からの書き換えが原因だった。少し前からか君はZeuSにとっての人質のようなものになっていた。俺を計画の一端から外さないためのね。だけどもう分かりきってた。君は間違いなく奴らに利用されて、完全に道具にされてしまう。だから、俺は敢えて君をダイバーズから完全に離れさせようとした。それからあの手この手で...と行こうにも行けなか...いや、行こうとしなかったんだよ。そうとしか言えない」

「ZeuS...って何...そんな事はどうでもいいでしょ!そこまでして何の意味があったっていうのよ!!」

「今言ったように、君をZeuSから守るためだ。しかしこうも早く戻ってきたのなら仕方ない...」

門松はそう言うと、腰かけていたブロックの裏からガラス製の円筒を出して目の前に置いた。レイ達はそのガラスの円筒と門松を交互に見る。

「何だ、これは...」

「ウェルス達は世話になる可能性はないと思うが、レイの場合は話が違ってくる。Evolve.ν-Typeを疑似的に再現した奴で実験して、恐ろしい事実を知った。能力を最大限に使い続ければ、間違いなく自我を崩壊させる」

「自我を崩壊....それって....レイがレイじゃなくなるってこと?」

エルニアがふとレイを見た。自我崩壊という聞き慣れない言葉を頭の中で反芻しながら、レイに変化が起きていないかを記憶の限り思い出そうとするが、その予兆も含めそれらしきものはやはりなかった。

「分からん。現実とダイバーズじゃ、違うかもしれないからね。だがエルニア。君の想像は間違ってもいないよ。さて、これで起動した。このマシンを説明する前に、一つ知っておいてもらわにゃならんものがある。Evoive.ν-Typeの疑似実験でもう一つ分かったのが、自我崩壊するにしてもそこに至るまでの段階が存在するっつーことだ。俺はこれをハザードレベルと呼んでいる。大きくなり過ぎた能力が、当人の自我データにまで侵食しちまうのさ」

「つまり...レイは戦えば戦うほど、その自我を失う方に向かってしまう、と...言うのですか」

ハイラックが震えを抑えこみながら問うと、門松は「そうだ」と返した。そしてレイの肩にそっと手を置き、じっと顔を見た。

「だから本当は戦って欲しくはない。しかし君は大事な何かを守るために、その道を選んだんだろう?」

レイは不意に門松の手に触れていた。心なしか暖かさのようなものを感じ、それまでの抵抗感は一切なかった。レイの手は淡く青い光に包まれており、エスの時と同じような現象が起きていた。

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