※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode4 帰国子女は風奏で

怜が入院してから1週間程経った。しかし彼女は一度も姿を見せなかった。保健室登校かと思えばそうでもなく、本当に欠席しているのだった。史佳も美彩も何度か電話をかけたりメールを送ったりしているが、それにも応答がない。

「まさか...そんな事、いやでも...」

怜を心配する史佳の表情は深刻そのものだ。彼女のしている想像は、美彩にも伝わっている。だがそのような事になれば警察も動くだろうし、学校絡みの組織まで行動を起こして全生徒に伝わってもおかしくはない。1週間経った今でさえ音沙汰無しという状況では、判断しようにも難しい。

「ねぇ、一度怜の家に行ってみない?」

美彩の提案に、史佳は若干の抵抗感を示した。

「気持ちはわかるけど、そこまでして追い詰めるような事は...」

本来ならば楽しいはずの昼食の時間も、今日は特に重苦しい感情から抜け出せそうになかった。突然片桐が教室に入ってきた。

「桜庭さん、成田さん。少しいいかい?」

片桐がまっすぐ二人へ歩み寄り、史佳と美彩は互いの顔を見合わせた。

「先生?」

「久遠さんの事が気になって仕方ないみたいだね」

片桐の口ぶりから、美彩は何かを察した。

「怜が来てるんですか!?」

美彩がいきなり立ち上がるので、史佳はぎょっとした。

「いきなり何よ?...先生、どうなんですか?」

「実は久遠さん、今日から復活するよ。それに伴って、じゃないけど」

片桐が教室の外へ向けて手を振った。まず最初に入ってきたのは二人がよく見知った青い髪の少女だった。少し緊張したような面持ちだが、間違いなく怜であった。美彩の顔が一気に明るくなり、猛烈な勢いで駆け寄って怜に抱きついた。

「怜!!会いたかったよ~!!」

美彩に強く抱きしめられる上に頬ずりまでされた怜は、困惑と不愉快さを混ぜたような顔をした。史佳に介入されて美彩の引き剥がし作業が終わり、少し落ち着いたところでもう一人教室に入ってきた。

「あっ...?」

史佳と同じくらい黒くサイドテールにした長い髪に、同い年というのに幼げな顔立ちに怜を除く二人は驚く声を漏らした。

「これで久しぶりに4人揃ったよ...」

「本当、久しぶり!You two doing OK?」

怜の隣に立った、この黒髪の少女の名は「白鳥 奏」。怜が高校に入学するより前からの知り合いで、小さいころの彼女を知る数少ない人物でもある。高校1年のときに史佳と美彩と知り合い4人で遊びに行くほど仲がよかったのだが、奏は両親の仕事の都合で1年近くアメリカで過ごしていたと言う。美彩曰く没個性的な性格だそうだが、今の奏を見るに同じ人物とは到底思えない。海の向こう側の文化が彼女を変えたのだろう。英語の発音すらもネイティブと見紛うほどに上達している。

「な、何か全然違う人みたい...!?」

テンションの高さでは随一を自負する美彩でさえも、奏の変貌振りに驚きを隠せなかった。

放課後。美彩は史佳に生徒会の業務の手伝いを強引にさせられることになり、帰宅の途に就いたのは怜と奏のみとなった。入学当初の奏はきっちり制服を着こなし、時折見せる所作の美しさは怜からすると「大和撫子」を思わせた。だが現在となっては、かなり崩されて他の女子生徒とさほど変わらなくなっていた。

「奏、私に変わったとか言うよりあんたの方が変わった気がするけど...」

「向こうのやり方に着いていこうとしたら結構な勢いで順応しちゃって」

やるせなく笑う奏。その顔は当時とまったく同じだった。

「でもまぁ、いいんじゃない。それくらいの変化が無いと面白くないし」

「怜はあの時からって感じだね?そうだ、遊びに来てよ!見せたいものがあるの!」

「...ごめん、ちょっと無理かな...寄るところあるから。それじゃあ」

怜はいつもの曲がる方向とは真逆の方へ走った。何かが心に刺さった事は否定しないが、それよりも優先すべき事を思い出した。

 

「な、何なんだコイツは...化け物かよ!?」

凸状のカラフルなバイザーが特徴のMS「カットシー」がじりじりと後ずさる。砂煙や金属同士の衝突による火花、ビームの軌道が周囲を飛び交う。まさに戦場そのものである。ダブルオーライザーとウイングガンダムフェニーチェが煙の中へ飛び込むのを目の当たりにし、カットシーのダイバーは正気を疑った。

「お前ら本気かよ...俺は嫌だ、こんなところで、ゲームなんかで死んでたまるか!!」

20代後半はあろうかと言う体躯の良い男の目には涙が。本気で殺されるのと同じ感覚に恐怖するのは年齢も性別も無関係なのだ。ズドン、ガシャンと衝撃音が空気を伝う。煙の中から飛んできたのはMSの腕と思しき物体だった。逃げようと浮き上がるカットシーの足にぶつかり、墜落させた。それから間もなくして翼状のパーツが飛散してバイザーを粉砕した。

「な、何だってんだよ!!うごぉあッ!?...これは...ひっ!?」

何か丸いものがカットシーの胴体に激突した。ラグビーの要領でそれを受け止め、その正体が分かった瞬間、男の背筋が凍りついた。ツインアイが真横に裂かれたウイングガンダムフェニーチェの頭だった。そしてカットシーも砂煙から飛び出した光の矢に貫かれ火の玉と化した。ようやく煙が薄くなり、景色もはっきりしてきた。この場に残っているのは唯一、JOKERだ。

「どれもこれも微弱だから探すのに手間取ったじゃないか...ったく」

JOKERと同じ名前を持つダイバー、ジョーカーは悪態をつきつつ別の反応がないかレーダーの感度を最大にした。

「まだ始まったばかりのマッチだが...潰すには苦労しないだろ」

交戦中のエリアを発見すると、その方角へ機体を飛ばした。白いガンダムと黒いストライクガンダム。2体のガンダムタイプMSが交戦している現場付近までやってくるや否や、持っている大剣を変形させた。刀身が折りたたまれ、ヒンジと思われる箇所が露わになる。しかし、同じ場所に銃口も存在している。先に動き出したのは白い方だった。バズーカの砲口を黒いガンダムタイプからJOKERへ向け、砲弾を放った。ジョーカーは「ああ、コイツか」と呟くとレバーを僅かに傾けた。白いガンダムが撃ったバズーカの砲弾を撃ち抜き空中で爆破させた。

「いきなり割り込んでくるという事は...いや、この機体ならそう言う事だろう!」

白いガンダムを駆る青年は、敵の姿をはっきり認識した瞬間に撃墜させる事も視野に入れた。ジョーカーも向かってくるガンダムから発せられるオーラに、何かしら確信を持った。

「大体分かった。じゃあさっさと始末するか」

JOKERが何発かビームを撃ち込む。通常のビームライフルとは比べ物にならない初速で放たれる光の矢を、ガンダムはあたかも読んでいたかのように回避しつつ再びハイパーバズーカを発射した。

「どうやらこっちの意図が分かったらしい...なら畳み掛けるだけだ!」

バズーカの砲弾が爆ぜる。恐らく先程のように着弾前に迎撃されたのだろう。しかしガンダムのダイバーは動じない。黒いストライクがJOKERを挟み込む位置から突撃するのを見た。しかし。

「消えた!?」

黒いストライクが振るったビームサーベルが空を切り、煙を裂いた。何とその場にいたはずのJOKERが消えていた。ミラージュコロイドのような光学迷彩の類ならば、そう遠くへ移動はできない。それがセオリーと言って良いのだが、ガンダムのレーダーもストライクガンダムのも一切JOKERの反応が映らなくなっていた。熱源そのものを消失させる技術など、存在しないはずだった。だが事態は彼らに理解させるだけの猶予は与えてはくれない。JOKERがストライクの真後ろに立ち、大剣で袈裟斬りを見舞う。

「危ないッ!!なんて速さなんだ...!!」

ストライクのダイバーも負けじと常人離れした反射を発揮し、JOKERの放つ斬撃を防ぎ切る。だがそれすらもJOKERに利用されていた。一度大剣を防いだと思った刹那、同じ方向から数回に渡って同じ攻撃が命中した。一つだけだと思った刃が立て続けに何度も襲い掛かってくると形容できるが、このせいでストライクは防御時間の延長を余儀なくされた。

 

数時間後、怜は「できた」と呟いて椅子から立ち上がり伸びをした。部屋はあの時から手付かずのままらしく、荒らされた状態を維持していた。無論、ガンプラも激しく損傷した状態である。3体ある内の1体、G-アルケインをベースにした機体「ルミナクェーサー」の修復作業をしていた。そして全ての工程が今しがた終了したのである。

「...まだ、帰ってこないよね...」

現在家にいるのは怜一人だが、母親の帰宅を頭に置くだけで声が震える。心的外傷が怜の全てを縛り付けているといっても過言ではない。「GDS-02」にルミナクェーサーを置き、意識をダイブさせる準備に入った。

「GAデータセット...GO」

ダイブ完了後、レイは交流広場第6区画にいた。レイがダイバーズにいない間にブルームーンが出航したらしく、キャプテンを含めメンバーが別の区画に居ると表示されていた。

「何か変...」

交流広場全体がざわざわと落ち着かない雰囲気を漂わせていた。何か良からぬことが起きているのではと耳を欹てながら歩く。その途中で見知った人影が見えた。ミサだった。

「レイ...また出たんだってね」

ミサが心配そうにレイを見つめる。一体何事かと聞かずとも、レイにも大方理解できた。極限の破壊者、JOKERが現れたという事を。

「今度は何が標的になっているわけ...?」

レイはメニューバーからチャットを開き、タイムラインを表示させた。周辺に居るダイバー達による投稿を時系列順に閲覧する機能だが、書き込みの内容がほぼ全てJOKER関連だった。JOKERの標的となったダイバーの情報がタイムラインに流れてきた瞬間、一気に投稿頻度が加速した。そして、レイの心中も穏やかではない。狙われているダイバーの名前に心当たりがあったのだ。

(...JOKERをやらなきゃいけないのに、どうしてあんたが出てくるの...!?)

レイは苛立ち半分にミサを置いて別のエリアへ転移した。

「やっぱり...!」

瓦礫の海と化した大都市にて、赤いMSに肉薄するガンダムを見た時点でレイは下唇を噛んだ。今自分が使える機体はルミナクェーサーだ。あのガンダムのパイロットはルミナクェーサーを見た事があると知っていただけに、手の打ちようがが無くなった。

「しかも完全に押されてる...」

ガンダムとストライクの緊密な連携でJOKERに有利をとっているかのように見えた。しかし、挙動一つをとってみてもJOKERの方が遥かに余裕がある。二振りの大剣を器用に使い、2体からの攻撃を受け流しつつ確実にダメージを与えている。ストライクの方はともかくとして、RX-78-2の方の実力はかなりのものだと知っているレイでも流れの悪さを実感していた。

「...もういい。見えててもそうじゃなくても。JOKERを倒せば良いんだから」

レイの背後に電子線が集まり、ルミナクェーサーを形成した。

 

「この機体...出来るなんてもんじゃない!俺ですらこんな調子だ....!」

ガンダムのダイバーは、JOKERの圧倒的な性能に気圧されまいと歯を食いしばる。JOKERが大剣をライフルに変形させ連射する。ガンダムもシールドで弾きつつハイパーバズーカで反撃するが一切の効果が見込めず、さらに追い込まれる。JOKERのハイキックがガンダムの顔面に直撃した。

「うぅっ!?やはりコイツは全てが規格外か...君はもう良い!後退するんだ、今の俺達でもコイツは...」

ガンダムのダイバーはストライクへ退避指示を出すが、視界の中に見覚えのある機体が飛び込んで来た。

「まさか、そんな...あり得ないだろ....!」

青く輝く氷像のようなG-アルケイン、ルミナクェーサーの姿に狼狽する。同じくしてガンダムを目視してしまったレイは無理にでも無視を決め込んだ。

「私はJOKERを潰しさえすればそれで...!」

フリーズバスターを放ち、地面に氷の華を咲かせる。JOKERはひょいと飛び上がってこれを超えた場所に着地、ビームライフルをルミナクェーサーの足元めがけ狙撃する。レイは素早く反応してレバーを引き、ルミナクェーサーとJOKERの距離を一定に保ちつつ回避させた。

「ああ、こないだの変な奴か...こいつはどうも厄介な状況らしい」

ジョーカーはルミナクェーサーを見るなりため息をついた。JOKER以上に奇妙な力を持った機体には、危機感を抱くのは当然だ。JOKERがライフルを連射しながらルミナクェーサーへ接近する。ルミナクェーサーはステップや旋回を駆使しつつフリーズバスターの氷結能力で障壁を作る。しかしJOKERは障子を破る勢いで氷の柱を次々と粉砕していく。

「まぁ、こいつを試すか」

JOKERがいきなり立ち止まり、ライフルの銃口を向けたまま動じなくなった。一体何をしようと言うのか、レイは測りかねた。

「一体何なの...?」

「そいつは食らってみてからのお楽しみさ」

突然JOKERのライフルの銃口が分裂し、通常のビームライフルの数倍の速度で次々と光の矢を放った。実際の銃口の周辺のみが範囲とはいえ、ランダムな場所から押し寄せてくるビームに、レイでも対処は出来ない。シールドで受け止めながら回避するしかなかった。

「だったらこっちも...!」

ルミナクェーサーの腰のパーツが機体左右に展開、順次発射した青い光弾がそれぞれの軌道を描きつつJOKERへ突き進んだ。けたたましい破裂音が空気を揺らした。冷気の白い輝きが辺りに広がるが、レイは手ごたえの無さに違和感を覚えた。

「何...!?なっ...後ろ!?」

真後ろに突然反応が現れ、振り向くと大剣の刃が迫ってきていた。ルミナクェーサーがフリーズバスターを変形させ、ビームソードを発振させた状態で受け止めた。どれだけ早く反応できたとしても、レイにとってはこれが精一杯だった。

「どうも歯ごたえが無いな。これじゃただの弱いものいじめと変わらないだろ」

「何だと...!?」

ジョーカーが期待外れを包み隠さず吐き出した。JOKERが片方の大剣を背中にマウントし直す。もうこの程度の相手なら一振りでどうにでもできると言いたげである。レイはこれを屈辱に感じた。俗に言う「舐めプ」である。JOKERが剣を低く構える。ルミナクェーサーもそれに対応出来るよう即座に真後ろへブーストを噴かした。

「舐めた真似をすれば後悔する事になるって、教えてやるッ...!!」

フリーズバスターの砲口に青いスパークが走り、次第に淵から冷気の白い靄が漏れ出た。そして、ルミナクェーサーの指が引き金を引く。眩い光の柱が真っ直ぐにJOKERめがけ突き進んだ。ルミナクェーサーの粒子の効果なのか射線の間下にある瓦礫が白く変色、絶対零度相当の氷撃であると分かる。だがJOKERは避ける素振りも剣で防ぐ予備動作もせず、切っ先を粒子の奔流へ向ける。

「笑わせるな、お前じゃ勝ち目がない」

ジョーカーは面倒そうに吐き捨てた。切っ先が奔流を真正面から受け止めたと思うと、中心から真っ二つに割ったのだ。2方向へ避けた絶対零度の光は遥か後方のビルを貫き消失した。レイは何が起こったのか分からず、思考が止まった。

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