創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
レイが一人でハイラック達のもとへ行ってしまい、エスも慌てて後を追おうとした。そこにキャプテンからの通信が入り、ビデオチャットを開いた。キャプテンの表情も然ることながら、僅かに見えるブリッジの様子からして、穏やかではなかった。
「エスに繋がったか!済まんが一人でも戻って来てくれ!」
「一体何だってんです、キャプテン?」
「SECTOR2に連中が攻め込んできたんだよ!他の奴らには全く繋がらんからお前にしか頼めない!」
「了解、すぐに戻りますッ!」
エスは急いでストライクNEXTのコクピットに転移、「ごめんなさい、レイさん」と呟き機体を浮上させブルームーンの位置するSECTOR 2へ急行する。だが既にこの近くにまで敵がやって来ているらしく、柱の間からも熱源反応がちらほらとレーダーが感知していた。
「狙い撃とうにも、出来そうもない...!気づかれた!?」
ストライクNEXTの眼前にある柱が爆ぜる。煙の中から彫像のような白さのガンダムレギルス、"レギルスアパテー"が飛び出し、右手からビームサーベルを発振させて斬りかかってきた。エスは素早くレパーを動かし回避運動をさせ、ウェポンセレクタを操作した。ストライクNEXTの両腕からビームサーベルを発し、真上から飛び込み突きを放つ。レギルスアパテーもレギルスシールドでこれを跳ね除け、レギルスビットをシャワーの如く吹き付けた。
「こんな所で足止めなんて食ってたまるか!...もう1機だって!?」
真横からタックルをぶつけられそうになり、ストライクNEXTは真後ろへステップして着地した。エスの目にはレギルスアパテーが2体見えていた。
「どうなっているんだ...!?熱源は2つあるなんてさ...!!」
レギルスアパテーらが空中にシールドを掲げる。無数のレギルスビットが天空に集い、巨大な光球を成した。エスは本能的に危険を察し、ウェポンセレクタにおいた指をIフィールドハンドの所まで動かした。そして。
「来た...!!IFハンド展開ッ!!このまま突っ切る!!」
光球が地面に投下されるタイミングに合わせ、ストライクNEXTの両掌から青い光が広がる。その光は熱線を退けストライクNEXTを護る聖域となった。ストライクNEXTは一気に跳躍し光球の中を突き進み、両腕から伸ばしたビームサーベルをそれぞれ、レギルスアパテーのコクピットに突き刺し貫いた。勢いを殺さずにそのまま斬り抜け離脱し、ブルームーンとの合流を目指す。
「一歩間違えたら、やられてたんだから...!だけどやった割には...手応えが妙だ...?」
エスはレギルスアパテーにはきちんとダイバーがいるものだと思っていた。だが今彼の手に残る感触は、倒したにしては余りに軽いものだった。まるでNPC機体と戦ったかのような感じに近いと言えば分かりやすい。
「なッ...!?アレはエウクレイデスだろ?エウクレイデスは何でこんなところに出て来てんだ!?」
いきなりエウクレイデスⅡがSECTOR 1に現れ、エスは驚愕した。急いでエウクレイデスⅡに取り付き、ブリッジの壁にマニュピレーターを触れさせた。
「エスです!一体何でこんなところに!?」
「やはりその機体はあなたのでしたか...エウクレイデスⅡを格納していたデッキを襲撃されたのです」
ランフォードはストライクNEXTを見て、僅かに安心した。
「グラハムもリリ嬢も、先に出撃させてブルームーンの援護に回ってもらってます。エスにはこのエウクレイデスの警護を任せたいのですが」
「でも俺、キャプテンからブルームーンに戻って来いって言われてます...そういう事か...!」
「ええ。所で他の方々はどちらへ?連絡がつかないと聞いています」
「SECTOR ZEROに。とにかく俺はここを守りきればいいんですね?」
お願いします、とランフォードからの返事を聞いた所でマニュピレーターを離した。とは言えタキオンストライカーは愚か、エールストライカーさえも呼び出せない状況ではストライクNEXTで守り通せるかわからない。現状敵性反応は無いが、今の様子からして間違いなく戦争状態に突入するのは間違いなかった。
(まさか、本当の戦争になっちまうなんてな...騎士団って何なんだ...?)
エスは自分の手が震えているのに気づき、いよいよ恐怖を感じ始めた。これまでも死ぬ様な目に遭って来た故に、耐性のようなものがついたのだと思っていたが、それはただの自己暗示に過ぎなかった。この恐怖は、これまでエスが感じて来たものとは全く別物だったからだ。
「君が自分を失う危険性を賭けてでも、守りたい物だ...きっと本物なんだろう。これが少しでも役に立てれば、本望だ」
門松に促され、レイは青いガラスの円筒にそっと手を触れた。何かが吸い込まれていくような感覚がして、身体が少しずつ軽くなっていく。これはレイのアバター体と意識を蝕もうとする、能力による異常感応波を抑制する装置だったのだ。
「今のハザードレベルなら、この機械で何とかなるはずだ。これを機体に組み込めば、いざとなった時に助けになる」
「心が...スッとする...」
レイの瞳に灯っていた淡く青い光も消え失せ、精神的な揺らぎも治まり始めた。門松はレイを強く抱きしめ、髪を撫でた。レイは唐突な事にしばし固まるが、抵抗しようと言う風には思わなかった。寧ろ自らも、腕を彼の背中に回そうとしていた。
「畜生...やっぱりダメだ...!いくら取り繕うたって、抑えられるかよ...!怜...俺は馬鹿だ...!こんなやり方しか出来ねえなんてよ...!!」
泣きそうになるのを無理やり抑え込んでいるのか、声の震えが酷く、その後が上手く聞き取れない。だがレイには何となく分かっていて、抱きしめ返した。
「本当に馬鹿だよ...お父さん....」
相手の心が垣間見えるようになるのは、Evolve.ν-Typeによるものなのかレイには分からないが、この力のおかげで分かり合うことが出来るのなら、悪くはないのだと思えた。ハイラックは、レイに久方振りの親子の時間はあったほうが良いと見て、ウェルスとエルニアを伴ってこの場を離れる。
「まさか、アイツがレイのお父さんだったなんてね...何か、どう感じたらいいんだろ...」
通路の隅に隠していたフルーティストウイングの前に立つと、エルニアは機体のつま先に寄りかかった。
「君には話したけど、俺は教授と会ってきて...何故あんな実験をしたのかは聞いたんだ。ν-Typeには元々興味があったから、目的を重ねることで罪悪感を俺達に見せないようにしていた...ってさ」
ウェルスがエルニアの隣にやって来、彼女に外套を着せてやる。
「全く理解できんな...別のやり方で計測すればよかっただけの話だ」
「親子なんだから片方はすぐに気付くと思ったけど、それってドラマの中だけの話って奴かなぁ...」
ハイラックは首を横に振りながら、黒い端末を奈落の底に投げ捨てた。
「アバター体と本人が完全に一致している方が少ないよ。その前提が確証を持たせようとしないんだから、そこは分かる気がする」
あっと突然エルニアが声を上げ、ハイラックとウェルスはぎょっとした。
「どうした?」
ハイラックが問うと、エルニアはウィンドウを彼に向けた。
「今、ブルームーンが狙われてるって...!しかも送られてきたの、大分前だし...」
「SECTOR ZEROは通信が入らない...確かそうだったな、ハイラック。俺達は先に行く。お前はレイと一緒に戻って来ればいい」
「いや、俺も行くよ。奴らの事だ、数が多いなら」
「メイポールダンス随一の寂しがりを一人にしておくわけには行かない。そうだろう?」
ウェルスはそう言い残し、エルニアと共にフルーティストウイングのコクピットに転移した。
「ちょっと妬けちゃうなぁ」
エルニアが苦笑しながら言うので、ウェルスは首を傾げた。
「何の話だ?」
「だって一時期相当レイに入れ込んでたでしょ?ちょっと好きになっちゃった人だって大事だもんね?」
「...!?そこまでの感情は無いと言ったはずだ...!」
珍しくウェルスが慌てるのを見て、エルニアは意地悪そうに微笑んだ。
「分かってるよっ。私達の妹分だもんね?」
「いいから行くぞ...!」
「切り替えは大事ってね...掴まっててよ!」
エルニアはレバーとペダルを押し込み、機体を加速させた。ここまでの最短ルートも抑えており、ブルームーンに合流できるまでの時間を確実に縮めている。ウェルスが発見したルートに比べると、その差は歴然である。
「よくこんなルートを見つけたな...」
「皆が頑張ってるの見てさ...もっと役に立たなくちゃって思った。どんな些細な事でも、出来るならやっておきたいの」
「お前だって充分にやっている...」
「ありがと、ウェルス。でも私はまだ満足してないから...何これ!?」
巨大な四脚が目に飛び込み、エルニアは咄嗟にレバーを引き制動をかけた。白い外骨格を纏った蜘蛛のような四脚の機械。その外骨格は白でありながら半透明で、内部のフレームが視認できた。四脚の上部にはMSの胴体があり、その姿は宛ら蜘蛛と人間を足したようであった。首の根から浮遊している頭がクルクルと回転しながら周囲を警戒する。
「何あれ...これも騎士団?」
「識別コードは分からないか?」
「ジャミングされてて、解析できないみたい。とにかく見つからないように動くしかなさそう」
「ジャミングされているという事は奴らだろう...あの挙動はどう見ても人間が乗っているわけじゃないらしい」
四脚が通り過ぎたタイミングでフルーティストウイングは柱から柱へ移るように移動しつつ、この場を切り抜けた。
バルトアンデルスが安置されている、古城の地下施設。トオルは起動する瞬間を一目見ようと訪れていた。扉の先は赤い光に包まれた不気味なデッキだが、トオルにとっては美しい景色であった。歩みを進めると、少し驚いたような声を出した。衣服を身に着けていない、裸の少女がバルトアンデルスの前に立っていた。
「これは...君の飼い犬では満足にこれを動かせないと見たようだね」
トオルに気づき、ラプラスは横目で彼を一瞥するとバルトアンデルスに視線を戻した。
「バルトアンデルスのコクピットは、"鉄の処女"と同じと言うなら...私の純潔は彼女の物のまま残せるわ」
「そういう事まで教えられていたとはね。しかしいいのかい?君の求める人間との再会が出来なくなってしまう」
トオルは態と心配するような声で問いかけるが、その表情は試しているかのような笑みを浮かべていた。ラプラスはそれを意に介さずにバルトアンデルスの元へ歩み寄り、頭上のハッチから乗り込んだ。ラプラスが内部に入り込むのを認識すると、前後から挟み込む形で鋼鉄の棘が迫り出し肉体を貫く。ブツン、ブツンと肉が潰れる音がした途端に血飛沫が上がり外からでも僅かにその様子が見えた。しかしラプラスは全身に青い電子線を浮かばせ恍惚としていた。このバルトアンデルスを使えば、全てを排除して怜の全てを手に入れられる。そう思えば思うほど、体が熱くなっていくのを感じた。
「醜いものだね。覚悟は買えるけど、性と暴力がここまで繋がると制御なんてしなくて良くなる。彼女は元々知性の欠片もなかったと言うことか...傑作だね」
バルトアンデルスの双眸が輝きだし、その身を震わせて衝撃波を放った。地下施設のみならず古城全てを激しい揺れが襲い、倒壊させた。トオルはいつの間にか古城から離れた所に転移しており、双眼鏡を使って崩壊の様子を観察し始めた。予定よりもかなり早いバルトアンデルスの起動だが、今となってはどうでも良い事だった。空中へと浮き上がるバルトアンデルスの周囲にブロックが集まる。やがてそれらは次々と形状を変えて何かを形成するように、積み上げられていった。
古城を破壊した揺れはSECTORにも伝わっていた。JOKERもベッドから落ちて頭を打ち我に返った。
「クソ...何だよ一体...!」
まだ頭が痛むが、それを押して部屋を抜け出した。これまで廃人同様に動かなくなったのは、肉体とのリンクを試していたからだ。SECTOR ZEROのコアに触れた事でJOKERは"葛城 絢斗"を取り戻したわけだが、罪の意識は更に強まるばかりであった。
(刻印が薄くなった...って事は能力を使えんのも残り僅かって事か...)
JOKERは左手の甲を見て刻印の光が弱まっている事に気づいた。そのまま居室を出ると、出撃前のシローと出くわした。
「お前、大丈夫なのか...!?」
「出るならさっさと行けよ。俺に構ってる場合じゃねぇだろ」
JOKER―絢斗は面倒そうに返し、ブリッジに入った。かなり慌ただしい様子で、アヤカまでもが出撃しようと席を立とうとしていた。そこへ絢斗が現れ、思わず声を上げた。
「JOKERさん!?」
キャプテンもそれに気づき振り向くと、本当に絢斗がいたのでぎょっとした。
「もう気がついたか!?」
「キャプテン。他の奴らは皆下がらせろ。この位俺一人で片付けてやる」
絢斗は手を払うジェスチャーでアヤカを引き下がらせ、デッキへ向かった。通路を抜けるのと同じくして、フルーティストウイングが着艦した。絢斗はコクピットハッチめがけワイヤーを射出して、飛び移った。ハッチを開けた瞬間、その様子を目撃したエルニアに「やめてよ!」と窘められるが、意に介さずウェルスを呼んだ。
「俺が記憶を取り戻してるって事は、英梨...今はJ.E.か。そいつと久遠 怜には絶対に言うな。俺が戦えなくなる」
絢斗がウェルスに耳打ちでそれだけ伝えると機体から離れようとした。ウェルスは肩を掴んでそれを引き止めた。
「言うな...とはどういう意味だ?」
「英梨の奴...俺の記憶が戻ったと分かったら、すぐにでも連れ戻そうとするだろうぜ。久遠 怜に言っても間違いなく伝わっちまう。このクソ喰らえみたいな状況を終わらせたきゃ、俺の記憶の事は黙ってろ」
絢斗の離脱したタイミングでウェルスもコクピットからワイヤーを伝い降りた。
「エルニアは少し休めよ。消耗したままで結果なんて残せないからな」
ウェルスはBLADETのコクピットに転移し、出力調整と武装の状態確認をしながら、絢斗から感じた違和感の正体を考え始めた。
(前に見た時のようなプレッシャー...今の奴からは感じられなかった...何だ、一体...)
以前は人間とは到底思えぬ印象を持ってが、今の彼は自分達と然程変わらないのではと感じられた。
英梨は編集長から呼び出され、ROMANESQUEの社屋に久しぶりにやって来た。オフィスに入れば同僚たちから「久しぶり!」と声をかけられる。英梨は笑顔で応えながら編集長のデスクへ向かった。
「お久し振りです、編集長。ご用件とは何でしょう?」
「久しぶりねぇ、英梨ちゃん。いきなり本題だけど、もうそろそろ引き上げてもらおうと思ってるのよ」
編集長は男性だが、所々でオカマ口調が交じる。時折怪しい関西弁も混ざるが、オカマ口調に比べるとその頻度はかなり低い。
「え!?そんなの急過ぎます...!解決するまでの話じゃ...!」
困惑する英梨に、編集長も困った様に溜息をついた。
「そのつもりだったけど、ほら今のダイバーズってかなりヤバイ状態じゃない?いくらゲームの中だって、仲間を極力危険な目に遭わせたくないのよ」
今このタイミングで打ち切られてしまっては、怜に門松から得たEvolve.ν-Typeの事を離せなくなる。それ以上に絢斗を取り戻せなくなってしまうのが、この上なく嫌であった。
「何かあったみたいね...ここじゃアレなら、別の所で聞かせてもらおうじゃないの?」
英梨は編集長に連れられ応接室に入った。
「ここなら他の人に聞かれる心配はない。...無理はしなくていいけど、話したい事があるなら聞かせてほしい」
編集長が真剣な面持ちで英梨に問いかける。重要な局面に出るとオカマ口調が消え去ってしまう。
「全部...私のせいです...私が無理に、絢斗を騎士団に招こうとしなかったら...こんな事には....!ダイバーズに閉じ込められて...記憶まで失って...全部の敵みたいに扱われて...!」
服の裾を掴む手は震え、ジーンズの生地にはポタポタと滴が落ちる。これが原因で破局してしまう事になっても、英梨は受け入れるつもりでいた。何よりも絢斗が元気に生きていける方が大事だった。そんな英梨を見て編集長はしばし考えを巡らせた。
「確か葛城 絢斗君だったね。前に君から聞いた事があるから覚えてるけど...仕方ないか」
一呼吸間を置いて、編集長は英梨の両肩に手を置いた。英梨はビクリと肩に力を入れて硬直した。
「英梨ちゃん...いや、神宮寺さん。これは編集長命令だ。何があっても、絶対に絢斗君と一緒に帰って来なさい。これだけは守ってもらうから...いいね?皆、君を頼りにしているんだ。元気に頑張る君の事が大好きなんだよ。そんな君が苦しんだままなのは辛いからね...やってくれるかい?」
「は、はい...!」
「勤怠とか諸々の事は私に任せてほしい。君がいつでも戻って来られるようにはするさ」
「そんな事したら、編集長は...!?」
実態のない勤務記録を用意するのは、労働法規に抵触しかねない行為だ。それをいくら編集長の立場であったとしても、人事から咎められればただでは済まなくなる。
「もしそうなったら...君を後継者に指名するかもね?それじゃ、頑張って日常を取り戻しなさい、英梨ちゃん!」
英梨は心の奥底が熱くなるような気がして、編集長には感謝しかないと思った。編集長の去り際に「ありがとうございます」と深々と礼をした。