創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
「...あんな酷い目に遭い続けたけど、生きていてくれて良かったと思うばかりだ...」
門松は自分の想像以上にレイと話し込んでいる事に驚きながらも、この時間の有り難みを噛み締めていた。無論それはレイも同じことであった。
「皆のおかげ、かな。私一人じゃどうする事も出来なかったし、痩せ我慢をして余計に晒してしまったり...英梨さんに助けてもらって、今は何とか普通に行きられるように頑張ってる所」
「英梨...あぁ、桜庭君か。まさかそういう巡り合せが来るなんてなぁ...所で前田君との関係は上手く行ってるかい?」
「な、何で知ってんの...!?」
いきなり拓との関係性に切り込まれ、レイは思わず赤面した。
「これでも親だからなぁ、娘の機微は気になってしまうものさ」
「だったらもっと早く会いに来てくれて良かったのに...」
「あのなぁ...!はあ...本当に、申し訳ないよ...」げんなりと肩を落とす門松の目の前にレイは座り、そっと抱きついた。
「全部落ち着いたら...お父さんの所へ行っていい?」
「いいけど遠いぞぅ?そんなら俺から行くわ。良さそうな日があるなら教えてくれりゃ、すぐ行く」
ありがとう、とレイは口許に笑みを浮かべ立ち上がる。そろそろ戻らなくてはメンバーに迷惑がかかる。レイの顔付きが普段通りに戻る。門松もすっと立ち上がり、装置をレイの指定する場所に転送した。
「これから君は大きな選択をする事になるだろう。それがどんな物になるかは君にしか分からない。だがこれだけは忘れないでくれ。君の周りには、支えてくれる沢山の人達がいる。一人で抱え込んでもいい事はない。今の君はまだ子供だ。だから困った時は迷わずに頼れ。そうする事が君の人生を開く鍵になるはずだ」
「...そうね。覚えとくよ...じゃあ、行ってくる」
レイが駆け出していくのを見送ると、門松は天を仰ぎ見た。
「こんな俺でも親と認めてくれるんだな...本当、お前は強い子に育ったな...怜」
レイはSECTOR ZEROから戻って来ると、ハイラックのガンダムECの前に立った。
「待ってたの?ウェルス達が行ったってことは相当ヤバい状況のはずでしょ」
ハイラックがコクピットハッチを開けてワイヤーを降ろしたので、レイはそれに掴まり機体に乗り込んだ。戻って来るまでの間、ハイラックはレイの写真を眺めていたらしく、画像の映ったウィンドウがそのまま残されていた。
「そんなもの見てどうする気?」
レイから冷ややかな視線を向けられ、ハイラックはようやく気づき慌ててウィンドウを消した。
「別にいいじゃないか、君は可愛すぎるから偶に見たくもなるよ」
「どの道これからずっと見られるわよ...そうでしょ?」
「それは、そうだな!飛ばして行くから、掴まれ...!」
ハイラックが機体のバーニアを全開にするタイミングで、レイは彼の腕にしがみついた。ガンダムECは全速力でSECTOR 1を抜け、ブルームーンへの帰投を目指す。
「キャプテンが言うにはかなりまずい状況らしい。騎士団が動き出したようなんだ」
騎士団と聞いてレイが真っ先に思い浮かべたのは、ラプラスだった。ケルベロスの一件以降、レイは彼女を友人とは見なくなっていた。自分の都合の為に他人を利用し、文字通り道具にしてまでレイを自身の物にしようとする。あれこそが桜庭 史佳の根底にあるものなのだとすれば、和解は諦めるしかない。斃してでも阻止して、思い知らせる以外に方法が無いだろう。
「ハイラック、上ッ!!」
「分かっている!」
ガンダムECの頭上から、レギルスアパテー4機のビームバスターが突き刺さる。ハイラックは最低限の回避運動で済ませるべく、敢えてギリギリ被弾しないように機体を動かし、ウェポンセレクタからニュー・ハイパー・バズーカを選択した。ガンダムECがリアアーマーからニュー・ハイパー・バズーカを装備、群れの中央にいる方のレギルスアパテー目がけ放った。高弾速、高威力の砲弾がレギルスアパテーの頭を打ち砕いた。とは言え敵は残り3機もいる。これらを上手く捌かねば無事に合流は果たせまい。2機のレギルスアパテーがレギルスビットを展開、ガンダムEC目がけ雨嵐の如く撃ち込む。残る1機がレギルスビットの嵐を潜り抜け、猛烈な勢いでガンダムECに接近していく。
「動きを封じようと言うなら...!」
レギルスビットをシールドで受け流しつつ、接近してきたレギルスアパテーの胸元を蹴りつけ飛び上がると、シールドに取り付けられたグレネードランチャーで撃ち落とした。そしてニュー・ハイパー・バズーカを構え、照準を落下中のレギルスアパテーに固定した。
「レイ...力を貸してくれ」
分かった、とレイは頷きハイラックの左手にそっと触れた。青い光が手の間から漏れ出し、レイの瞳にも同様の現象が起きた。ニュー・ハイパー・バズーカが着弾した瞬間、巨大な氷の華を咲かせ周囲を絶対零度の冷気が覆い尽くした。2機のレギルスアパテーが接近戦を仕掛けようと急速接近する。そこへガンダムECは2連装ビームキャノンとニュー・ハイパー・バズーカを斉射した。着弾から爆発した箇所を貫く氷刃がレギルスアパテーを八つ裂きにしていく。
「ありがとう、レイ。もう大丈夫だよ」
ハイラックが髪を撫でるのと同じタイミングで、レイは能力を解いた。やはり他者を通じて能力を行使するのはかなりの負担がかるようで、息が荒くなっていた。
「うっ...!?今度は何だ!」
突然目の前を、赤いレーザーが通り抜けた。ハイラックは急いでニュー・ハイパー・バズーカの砲身を縮めたお陰で事なきを得るが、狙撃をしてきた機体を見て目を疑った。
「これは本当にMSか...!?どこにも特徴がないじゃないか.....!」
白の半透明装甲に身を包んだ四脚のMS。ターゲットの解析が早々に済み、機体名が判明した。クアドラアクシス。恐らく騎士団が制圧区域を警護するために用意した機体なのだが、その躯体の大きさはMSと言うにはあまりにも巨大過ぎた。胴体から浮き上がる頭部ユニットがガンダムECを捉えると、両腕の3連装砲から赤いレーザーを放ってきた。ガンダムECがシールドでやり過ごそうとしたが、ハイラックは俄に恐怖した。
「シールドに...簡単に穴を開けた!?」
シールドを破られる経験は無いわけではない。しかし、あれほどの細い光にそのような力があるのを予想していなかった。
「あの頭さえやれば...行けるかもな」
「やっぱりそう思ってたんだ?もう一度やってみるから...出来るだけ一撃で仕留めて」
レイの手が再びハイラックの左手に触れられる。
「それは承知しているが...まずいと思ったらすぐに手を離してくれ!」
クアドラアクシスが次々と角度を変えながらレーザー狙撃をする中を、ガンダムECはすり抜けながら2連想ビーム砲を連射した。クアドラアクシスの関節は前後方向関係なく動くらしく、回頭運動を不要とせず真後ろにも対応するようだ。だが着々と関節が凍り付き、その機動から速さが消えつつあった。ガンダムECの接近を拒否すべく腕で殴りつけようとするが、いとも容易く踏み台にされてしまう。
「それッ!!これで終いだ!」
2連装ビームキャノンで胴体上部を氷漬けにし、ニュー・ハイパー・バズーカで頭部ユニットを吹き飛ばした。そのままガンダムECのバーニアを最大にし、再びブルームーンとの合流に移行した。
「驚きはしたが、手応えがないな。まるで機械と戦っているようだった」
「あんな風によく戦えるよね...見てるこっちが生きた心地しないんだけど」
そう言うと、レイは徐ろにハイラックの膝の上に座った。サブシートを用意していない為、致し方ない。
「君も大概だよ...恐らく敵は出て来なさそうだからいいけどね」
「回線繋いで見る」
レイがコンソールを操作し始めたので、ハイラックはシートの背もたれに身を預け目を閉じた。ここ数日で物事が動いていたが、その速度はやはりハイラックであっても中々大変な物だった。だが誰も待ってくれはしないのだから、対応して行くしかないとも思った。
「ブルームーン。応答して。...やっとつながった。こちら、ガンダムECのレイとハイラック。もうすぐ着艦出来そうだから、ハッチお願い」
「レイさんとハイラックさん、帰還したです!」
アヤカがガンダムECの着艦を報せると、キャプテンはデッキに回線を繋いだ。
「急ピッチで準備を進めろ!レイはアルケイン、ハイラックは装備の換装だ!出来るだけ急げよ、JOKER一人で殲滅なんて当てに出来んからな!」
キャプテンの指示が流れると、レイもハイラックも急いで機体から降りてそれぞれの持ち場へ走った。
「ハッパさん...!?どうして?」
レイ専用のドックの前に見知った姿を見かけ、近くまで歩み寄った。
「葉山さん、だろ。何とか貴様の機体の調整は済んだが...急に追加しろって妙な物送りつけてくるなよ。そのせいで昨日には終わってたはずの作業が伸びたんだ」
葉山がサイリウムを振り、作業員達がそれを合図に養生カバーを外した。青を主体とし、腕や足に白いラインが走るG-アルケイン。かつては"ルミナクェーサー"として使ってきたが、今回の戦いに向けて改めて一から製作したのだ。しかし今目の前にいるアルケインは武装を取り付けていない故に、かなり貧弱な印象を与えた。
「よーし!全部取り付けるんだよ!パイロット同様デリケートなんだから!」
葉山の指示により、ドックアームに懸架していたユニットがアルケインの腰に装着された。腰を覆うように取り付けられたそれは、スカートのようであり、アルケインが更に女性的なシルエットに変わった。そしてヘイルソーサレスREから引き続き使用することとなった、ホークカスケード・ビームバズーカも隣のアームに懸架されていた。レイはアルケインの背後に吊るされている武装ユニットを目の当たりにし、葉山を凝視した。
「もしかしてこれ、使えるようになってるの?」
「J.E.さんもケイトもやれってうるさいからな。自動追従型の攻撃補助ビットなんて、聞くこと殆ど無いものな。調整に一番苦労したのはこれなんだから、貴様は何が何でも使いこなせよ!」
「ハッパさんのメンテナンスは信じてるから」
レイはアルケインのコクピットに転移し、深呼吸した。全く新しく作ったはずなのだが、妙な懐かしさを感じ少し安心した。
(ルミナクェーサー...お願い、もう一度私に力を貸して)
胸に手を当て念じるように祈っていると、これまた聞き覚えのある声が聞こえた。
「レイ アイタカッタ アイタカッタ」
台座の上で水色の球体がクルクル周り、蓋のようになった"耳"をパタパタと動かした。
「ハロ...!?まだ...居てくれたんだね...」
優しくハロを撫でてやると、膝の上に置いた。
「また...お願いね。ハロ」
「レイ カワイイ カワイイ」
ハロが突然そのような事を言い出し、レイは目を丸くした。確かハロには高度な学習機能があると思いだしていると、犯人がすぐに分かった。
「英梨さん...変な事を吹き込んだな...!」
ハロを台座に置き、レバーを握った。これから始まる戦いが、刻一刻と近づいていく。レイは緊張を感じながらも、その表情は決意の強さに溢れていた。モニターにミニウインドウが表示され、アヤカが手を振っているのが見えた。
「レイさん、絶対に帰って来て欲しいです!」
「...言われなくても、ちゃんと皆と一緒に戻って来るから。約束する」
レイはサムズアップして見せ、ウィンドウを閉じレバーを前に倒した。吊るされていたユニットがバックパックからの無線誘導を受け定位置まで動き、その場に停滞した。
「レイ、G-アルケイン ルミナクェーサーⅡ!出る!」
「同じ奴ばっか出しやがって...気持ち悪いんだよッ!!」
JOKERが腰に装着していた大型ブースターユニット"Exブースターユニット"をパージ、レギルスアパテーの群れに向かって射出してブレイヴエッジ ガンモードで撃ち抜き、爆破させた。核爆弾に匹敵する範囲の爆風が群れに大きな穴を空けるが、埋まってしまうのも時間の問題だった。JOKERは一気に加速をかけて群れの中に突入し、次々にブレイヴエッジでレギルスアパテーを薙ぎ倒していく。顔面を貫いて放り投げ、居合斬りで6体を纏めて両断。ホログラムによる銃口の分身体と同時発射で20機ほどを消し去った。かなりの反応速度で操縦し続けるが、絢斗の顔には疲れの色は無く、寧ろ余裕さえ感じさせた。手近にいたレギルスアパテーからシールドを奪い取り、降り注ぐ光の雨を跳ね除けた。そのままシールドを投げつけ、昏倒させると今度は本体の方を引っ掴み連れ去った。まるでイワシの群れのように束となって追いかけるレギルスアパテー達めがけ、手にした機体をぶつけブレイヴエッジで狙い撃った。青白い光球が辺りを包み込み、それに誘発され第2、第3の爆発が起きた。流石の絢斗もこれは予想外で、戦慄を禁じ得なかった。
「核爆弾を仕込んだ奴が混じってんのか...!?」
背後から突進してきたレギルスアパテーに裏拳をぶつけ、ブレイヴエッジで袈裟斬りを見舞うと次なる群れを目指して最大戦速で移動を始めた。
「....ぁあ?全員下がらせたんじゃねぇのかよ...」
絢斗はレーダーに映る僚機の反応に舌打ちした。確かにキャプテンには全機撤退させるように言った。しかし識別コードからしてデューク側の勢力が未だに戦っているのが分かり、このままではいたずらに戦力を減らしてしまうのが目に見えていた。
「何でお前らは下がらねぇんだ!!死にたいのかよ!」
レギルスアパテーとF91-Mの間に割って入り、強引に後退させる。
「だけどこのままじゃ皆が来る前に...!」
「馬鹿が!それが余計に全滅するんだって分かんねぇのか!」
レギルスアパテーの首を刎ね、蹴り落として先行する。次々とレギルスアパテーをブレイヴエッジで斬り裂き、貫いた。背中のデュランダルジョーカーを使えば、ものの数分で敵を一掃出来る。しかし絢斗はそれを躊躇っていた。否、使うべき時の為に残すというやり方を選んだのだ。デュランダルジョーカーを使う為にはJOKERの力を消費しなければならない。今の絢斗には、その能力が残り僅かしか存在していない。記憶と肉体とのリンクが完全に保たれた彼はNPCとしての存在を失っている。故にシステムがJOKERの能力を持つ権限を剥奪するのも時間の問題になる。絢斗の予測では、あと一度だけ能力の最大解放をすれば、アカウントごと消滅する。これを知っている者は絢斗を除けば一人としていない。だがこれに賭けるしかなかった。
「...奴ら、引き揚げてった...!?」
何故か、忽然とレギルスアパテーの群れが姿を消した。彼らのせいでよく見えなかったが、青空と眼下に広がる大海原と言う景色に、絢斗は目を大きく見開いた。
「普通にバトルエリアに戻ってきてたってわけか...もうどっちにしてもSECTORは用済みかよ...」
JOKERがマザー・メタトロン内に停泊しているブルームーンに着艦すると、絢斗は隣のドックに格納されている機体に目を疑った。
「セブンソード....!?まさかアイツ...!」
ダブルオーダイバーにGNバスターソードを始めとしたセブンソード装備を身に着けた、ガンダムダブルオーダイバーセブンソード/Gである。そのコクピットから降りてきたのは、やはりJ.E.だった。だがダイバーネームが変わっており、以前使っていた"エリィ"に戻っていた。絢斗が機体から降りるのを認めたエリィは、手を振って呼びかけた。
「絢斗!こっちこっち!」
彼女の表情が、絢斗の記憶の中にあるものと重なる。絢斗も思わずそこへ向かおうとするが、そのまま通り過ぎていった。いきなり無視されて不服に感じたエリィは、絢斗の腕を引いて戻らせた。
「何で無視するの?今の超悲しいんだけど」
「......ふざけんなよ...」
絢斗はエリィの手を剥がし、デッキを後にした。機体から降りたときに見たあの顔は間違いなく、いつも自分を呼ぶ時のと同じだった。歳の割に子供っぽい笑顔を見せたという事は、絢斗が記憶を取り戻したのを知っているのではないか。絢斗自身が話した事のある人間と言えば一人しかいない。ウェルスだ。デッキの出入り口にいたウェルスの胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。ウェルスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。それが余計に絢斗の神経を逆撫でした。
「お前...話したのかよ...話したのかよッ!!」
「話していない。...神宮寺さんも、レイも...とっくに気づいていた」
「ふざけんじゃねぇ...!!」
「これがふざけているように見えるか?お前の変化を一番近くで見てきたのは、あの二人だ」
絢斗は無意識に手を離し、ウェルスに手短に謝ると壁を殴りつけた。
1時間程経ち、絢斗は再びダブルオーダイバー7SGの目の前に立った。よく見ればダブルオーガンダムではなかったのは驚きだった。
「落ち着いた?ウェルス君に殴りかかったんだってね?時々歯止め効かなくなるんだから」
エリィが微笑みながら絢斗の隣に立ち、一緒にダブルオーダイバー7SGを見上げた。
「...私、決めたよ。絢斗と一緒に戦うって。絢斗がああなったのも、私が原因だし...これ位はしないと」
「英梨...いつから気づいてた...?」
「さぁ...でも、SECTOR ZEROを出てきた辺りから...凄い懐かしい感じがしてさ。帰ってこれるようになったんだなって...お帰り、絢斗」
英梨が両手で包むように絢斗の右手を握った。そして絢斗も英梨を抱きしめる。
「...お前はもうここにいるな。俺が戦えなくなるんだよ」
「何で...!?」
「....英梨...お前、いつも俺の為に無茶しようとするだろ...少しは自分のことを大事にしろよ。今度はお前が消えることになんのは...嫌なんだよ...!」
初めて絢斗の口から告げられた想いに、英梨は胸が温かくなる気がした。少し背伸びをして絢斗に口づけをすると、幸せそうな笑顔を見せた。
「消えるわけ無いでしょ!絢斗が、守ってくれるもの...でもね、私だってそれだけの女じゃないの、見せてやるんだから!」