創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
「.......狙い撃つ.....ッ!!」
照準が障壁の隙間に固定され、すぐさまトリガーを引いた。ズドォオオオ!と轟音が響き渡り、空気が激しく揺れる。一挙に開放された粒子の激流は、周囲の大気を凍らせながら一直線に突き進み、バルトアンデルスの障壁の穴に見事に着弾した。氷華が穴から咲き、障壁の一部が崩落した。発射のタイミングに合わせて全機が次々と出撃するのを見て、レイは急いでルミナクェーサーⅡと砲台の接続を解除した。
「頭痛がしなくなった....?本当にあのターミナルって、そういう物だったなんて......いや、そんな事よりすぐに合流しないと...!」
額を伝う汗を拭い、機体を飛び立たせようとしたが、マザーメタトロンが揺れて諦めざるを得なくなった。
「浮いてる...!?」
海面が少しずつ遠のいていくのをみたレイは、メインエンジンの駆動を手伝ったのは正解だと思った。マザーメタトロンの表面から海水が流れ落ち、ナイアガラの如く瀑布めいた様子を見せた。
「これよりマザーメタトロンは出港致します。ですがこれはデモンストレーションなどではありません。以降の指揮を私アーロンから、ブルームーンのキャプテンである...」
アーロンのアナウンスが艦内と出撃中のMS全てに流れた。
「これだけの事をやるなんて想像できなかったけど。どっちにしても、私はやるべき事を......いや、私にしか出来ない事をやる!」
レイはフットペダルを踏み込み、ルミナクェーサーⅡを上昇させハイラック達との合流を目指す。ルミナクェーサーⅡの腰部ユニットから光子を発し、冷気を伴いながら瞬時に最大速度まで加速した。ユニットの裏側から放たれる光子と冷気により、ルミナクェーサーⅡが光の翼を広げて風を切っているかのように見える。
「エス!奴らの行動にはパターンがある!それさえ掴めれば大した敵じゃない!」
ウェルスのBLADETがBアームズのガトリング砲を斉射しながら、追加で用意したミサイルランチャーを放った。エスのタキオンストライクNEXTも戦場を縦横無尽に駆け回りながら、レギルスアパテーを次々と両断した。
「言われて見ればそうか...!だったら!」
レギルスアパテーの腹にエストックを突き刺し、そのまま真上へ連れ去って踵落としを見舞った。落下に巻き込まれ何機かが海に叩き落とされた。だがタキオンストライクNEXTの背後に回っていたレギルスアパテーが、両手からビームサーベルを伸ばし串刺しにせんと迫る。エスは素早く反応して機体を振り向かせるが、数ミリ秒遅かった。しかし。
「ν-Typeって言うのによく見えてなくてよ!」
赤い風が目の前を横切り、レギルスアパテーを突き飛ばした。紅く煌めくシナンジュ、"ローズオーラ"だ。
「リタさん....助かりました!ありがとうございます!」
「この程度、礼に及びませんわ。それより、早く進軍しないとどうなるか分かっているんでしょうね?」
シナンジュローズオーラの真下からサーベルを突き出したレギルスアパテーを、タキオンストライクNEXTがエストックで貫き、海上に向けて蹴り飛ばした
「言われずとも!リタさんの腕は頼りにしてますから!」
タキオンストライクNEXTが前線を押し上げに行くのを見てから、リタは大きく左側へ機体を進ませた。
「全く生意気ですわ...!リタ隊、よろしくて?もう一人生意気なのが合流しますわ!それまでに進路上を塞ぐものはすべて片付けてしまいなさい!」
リタは数機に指示を送ると、西側に向かって進軍を始めた。全軍の進路図を見ると、JOKER単独のマーカーが押され気味の部隊に向かって、移動しているのが分かった。デュークの部隊も他の隊に比べ遥かに速い速度で侵攻しているようだ。部隊戦の練度の違いが明確に現れている証左である。
「う...うわぁあああッ!?何て数なんだ!?」
アンクシャがレギルスアパテーに取り囲まれ袋叩きに遭い、アンクシャのダイバーはパニックに陥ったせいでまともに操縦できなくなっていた。ビームサーベルを振り回しながら追い返すので精一杯だった。その内の1機がレギルスビットを放射しようとしたその瞬間、腰から真っ二つに両断された。立て続けに他のレギルスアパテーの頭や鳩尾を剣で貫き、窮地からアンクシャを救い出した。純白の装甲に身を包んだ翼を持つ、ガンダム・フレーム。デュークの愛機"バエルアイゼンリッター"だ。
「何故救援を呼ばん!適切に立ち回れんで何が騎士団だ!皆が揃わねば成し遂げられんのだぞ!」
「申し訳ありません....!」
「すぐに仲間に合流しろ!命を無駄にするなよ!」
アンクシャから離れ、デュークはバエルアイゼンリッターの加速をさらに上げた。バエルアイゼンリッターの行く道を、何者が立ち塞がろうと突き崩すまで。この戦いこそデュークが戦士として求めた理想とは言えぬが、この力こそが改革を呼び起こす旗となるのは肌で感じていた。
「ん...!?BLADETとフルーティストウイング...あの二人か!」
「ああ!レイがやってくれたあそこから突入する!エルニア!」
フルーティストウイングが高く舞い上がり、フィン・ファンネルとソードビットを一斉に展開した。そしてこの為だけに用意したコントロールユニット、"タクトポインター"を引き抜き真上に向けた。
「OK、ウェルス!この為だけに用意したこれを見せてあげる!」
フルーティストウイングの振るったタクトポインターの先端から、ディスク状の光が飛び出し、周囲を漂う。そしてエルニアの"開演"の宣言に合わせフィン・ファンネルが一斉発射、そして新たな宣言を行った。
「"
開演によりフィン・ファンネルから放たれるビームは歪曲するが、タクトポインターから展開したディスク型のフィールドに当たると、ビームが拡散して反射する。それらもコントロール可能であり、もう片手に持っているフルートユニットによってそれを実現しているのだ。華奢な機体から想像もできない密度の弾幕が、レギルスアパテーを尽く撃ち抜いていく。その間を縫うようにBLADETとバエルアイゼンリッターが突き進み、バルトアンデルスの内部への侵入を試みる。
「これだけの弾幕を撃っていながら、誤射しないとは...!」
圧倒的な密度の光の網を潜り抜けながら、デュークはよく被弾しない物だと内心驚いていた。
「フルドレスを使って思いついたらしい。たとえ誤射されてもアンタなら平気だろう」
「ナノラミネートアーマーを当てにしても仕方あるまい!」
フルーティストウイングの"
「やれやれ...相当な事をするな、彼女は。しかし、全部隊の前線指揮をやるこっちの身にもなって欲しいものだな!」
ハイラックはフルーティストウイングの"幻想曲"に面食らいつつも、遅い来るレギルスアパテー達を的確に撃墜した。ガンダムネオECの機動性はハイラックの想像よりも良好だった。
「そう来るか?単調な攻撃だ、それは!」
レギルスアパテーがビームバスターを放つのを、ガンダムネオECは真横に回転しながら避け、ニュー・ハイパー・バズーカを撃ち頭を粉砕した。この間にハイラックは、ブルームーンに回線を繋ぎレイの合流までの時間を計算させた。
「アヤカさん、レイが合流するまで何分かかる!」
「今計算したです!後10分はかかるです!」
ハイラックの予想通りだった。しかしこれでは要塞内部に侵入したウェルス達を援護できる可能性が低くなってしまう。
「3分で来させろ!ルミナクェーサーの加速なら行けるはずだ!」
「そんなの無茶です!」
「いいからそう伝えてくれ!レイを信じてやれ!」
通信を切断し、ハイラックはペダルを強く踏み込んだ。ガンダムECが左手に持ったサーベルの出力を上げ、刀身を最大まで伸ばし更に加速する。レギルスアパテーをラリアットの如く次々と斬り抜け、前から来る者を右腕のガトリング砲で蜂の巣にした。
「アレは...神宮寺さんか!?ダメだ、迂闊だ!!下がれ!」
エリィのダブルオーダイバー7SGがガンダムネオECの隣を通り抜け、一人前線に向かっていくのを目の当たりにし、ハイラックは目を疑った。エリィの事はジャーナリストとしか思っていなかったせいもあり、無鉄砲な動きにしか見えなかった。しかし、ダブルオーダイバー7SGが華麗な動きでレギルスアパテーを落としていく様子に思わず声を上げた。
「人は見た目によらず、と言うか...!」
「私、昔はそれなりにやっていたからね!」
GNソードⅡブラスターでレギルスアパテー3枚抜きし、GNソードⅡショートの剣先を射出して真上にいた者を拘引した。胴体にGNソードⅡブラスターの銃口を押し当て撃ち抜くと、素早くGNバスターソードに持ち替えてグルグルと回転しながら群れに裂け目を作り始めた。
「おい、行くぞッ!」
JOKERがマニピュレータでガンダムネオECの頭を叩き、そのまま飛び去った。
「俺としたことが....!取り返さなければ!」
この状況で驚いている余裕など無かった。ハイラックはレバーを握る力を入れ直し、バルトアンデルスの要塞へ向かってガンダムネオECのバーニアを全開にした。
「ハイラックさんが3分で来いって言ってるです!」
「ハイラックらしいよね。戦いの時に限って、私にはそう言うんだから。3分で到着すればいいんでしょ?」
通信を切ると、レイはコンソールを操作し腰部ユニットの出力を限界まで引き上げた。スカート型のこのユニットには、コントロールするために能力を使わなければならない。冷気を排出する特徴がそれを示している。
「ミノフスキー・クラフトの強制冷却の為に力を使うようにしてて正解だったかも...!」
ルミナクェーサーⅡの現在の速度は、限界値を既に超えていた。そこから更に速度を上げるのは、仕様上不可能であった。しかし強制冷却に氷結能力を使う都合で、オーバーヒートを起こすリスクはなくなったと言っても良く、それが更なる加速を助長しているのだ。レイの肉体にも相応のGがかかるが、加速を止める事はしなかった。
「このまま行けば2分半で着く...!ファランクスビット、展開!」
ルミナクェーサーⅡのバックパックと、複合武装ユニット"ファランクスビット"を繋いでいたフレームが弾け飛ぶ。バックパックの上部から虹色のレーザーが照射され、その位置に向かってファランクスビットが浮遊し、その場に停滞した。ファランクスビットはその名からしてビット兵器の類だが、運用方法は従来のそれとはかなり異なる。
「コイツを試す!行けッ!」
ファランクスビットの先端にある砲口、その上下にも同じものがある。そこから青い光の矢を数発放ち、敵の方向に向かって軌道を描きながら空を駆け抜けた。グラハムのブレイヴ・カスタムが多数のレギルスアパテーを誘き寄せ、海上ギリギリまで到達するや否や、変形を解除して急角度で一気に上昇した。凄まじいGが肉体にかかり、グラハムの唇から血が垂れる。
「うぐっ....ぐっ!!」
レギルスアパテーの群れは勢いを殺しきれずに進み続ける。そこへブレイヴ・カスタムがドレイクハウリングを最大出力で放ち、薙ぎ払って一掃した。しかし別のレギルスアパテーが上から下からとブレイヴ・カスタムに接近してきた。
「3方向からだと!?何ッ!?」
ブレイヴ・カスタムを取り囲んでいたレギルスアパテー達が同時に爆発した。グラハムの頭上を通り抜ける青いアルケインを目の当たりにし、納得した。
「面白い武器を持っているらしいな、ガンダム!」
ブレイヴ・カスタムを助け、ルミナクェーサーⅡは進路を緩やかに変えてガンダムネオECの位置する方向に固定した。途中でリタのシナンジュローズオーラも現れ、ルミナクェーサーⅡの隣を飛んだ。
「遅れてやって来るとは、主役のおつもり?」
「そんなつもりはないけどね」
「あんなうだつの上がらなそうな男のどこが良いのでしょうね?あなたの人を見る目を疑いたくなりますわ」
リタの言う、うだつの上がらなそうな男とは恐らくハイラックの事であった。レイもそれは分からなくもなかったが、以前とは違う心境だ。
「そうかもね。だけど...私にとってハイラックは最高の彼だから。ハイラック以上なんてない」
「妬ましい限りですわね。でしたら私が露払いして差し上げますわ!」
「ありがとう...リリ!」
シナンジュローズオーラがバレルロールしながらバズーカを連射し、背後にいたレギルスアパテーを蹴って加速、ビームアックスですれ違いざまに斬りつけルミナクェーサーⅡの進路をクリアにした。
「ハイラック!」
ガンダムネオECのガトリング砲をシールドで防ぐレギルスアパテーに、ホークカスケードを撃ち込み無力化させた。そしてたちまち蜂の巣にされ海に墜落した。
「やはり予測通りに来てくれる」
「無茶苦茶な指示やめてくれない?本気で死ぬかと思ったんだから」
レイは口元から血が垂れそうになるのを手で隠し、ルミナクェーサーⅡのマニピュレータをガンダムECの肩に接触させた。
バルトアンデルスの魂の座は中世に存在したとされる"鉄の処女"と同じ造りをしていた。その中に入れば疑いようもなく、身体を鋼鉄の棘で貫かれる。しかし、ラプラスは身体を貫かれていながら死んでなどいなかった。彼女の目にはMSで言うところのモニターと同じ物が投影されている。無論、本当に死ねばダイバーズから意識を引き戻されるのだが。そうでないという事は彼女がまだ仮想世界で生きていると言う他ならない。意識だけはまだ完全に残っているのだ。
(どれもこれも怜を傷つけるだけの存在.......全て消えてしまえッ!!)
バルトアンデルスの中央から左右に並ぶ小さな顔の口が開き、そこから白い光の矢を放出した。何者かがこの要塞の中に踏み込んでいる事は、ラプラスには分かっていた。要塞の"穴"からBLADETとバエルアイゼンリッターが飛び出し、バルトアンデルスの前に着地した。
「騎士団はこうも悪趣味なのか?」
ウェルスはバルトアンデルスの不気味な雰囲気に戸惑いながら、BLADETの形態を変えた。左肩を覆うマントのように配置されたバインダーが可動し、翼となる。そしてBアームズも大型ガトリング砲から各部がスライドし、大剣を成した。この姿こそ、BLADETの真なる力を発揮するに相応しいのだ。
「.....いや、アレは最早騎士団のとは呼べん。言うなれば人類の敵だろうよ」
バエルアイゼンリッターがジグザグな軌道を描きつつ突進、バルトアンデルスの左右に並ぶ小さな顔の一つをレールガンで撃ち抜く。
「血...!?どういう事だ!」
撃ち抜かれた顔からは、悲鳴と共に赤い液体が流れ出した。これにはウェルスもデュークも絶句した。
(この血は私の怒りだ....私と怜さえいれば、幸せに生きて行けたのに!)
「この声は何だ...!?頭に直接流しているのか!」
BLADETがバインダーのビームキャノンを放ち、一時的に上空に退避した。バルトアンデルスから聞こえる声が、ウェルスの脳に響いている感覚を味わせる。気分が悪くなり吐き出しそうになるが、戦闘に無理矢理にでも集中することで堪えた。一気に降下しながらBアームズを振り下ろし、バルトアンデルスの右側にある顔を斬り付けた。やはりここからも血が吹き出、BLADETを赤黒く染めたがウェルスはそのまま攻撃を続けた。全く身動きを取らない相手であれば、時間をかけずとも決着をつけられるかもしれない。そう思った矢先だった。
「BLADET、後ろへ避けろ!」
デュークが何かを察知したのか回避を指示する。ウェルスは急いで機体を後ろへステップさせた。目の前を巨大な掌が横切り、床を抉り取った。それだけではない。バルトアンデルスの周囲から鬼火のような光弾が現れ、絶えず放出し続けた。
「こんな物が隠されていた...!?コイツは何なんだ!?」
「一度離脱するぞ!今の広さではやられるしか無い!」
バエルアイゼンリッターに続き、BLADETも要塞から飛び出した。エルニアは二人が抜け出すのが予定よりも早かった事に驚き、慌ててフルーティストウイングを後退させた。
「何、これ...BLADETが血だらけになってる....」
「説明する暇はない!やはりあの外壁を崩さなければ奴に対して有利になれないらしい!」
プランの変更をキャプテンに進言すべく、ウェルスはブルームーンに回線をつなげようとした。その刹那。
「何の光だ、アレは!!全軍、衝撃に備えろ!」
要塞の中から光が漏れ出し、衝撃波を発した。空気も海も揺れ、要塞を形成していたパーツとレギルスアパテー諸共消し去ってしまった。いち早く危険を察知したデュークの警告は間に合わず、何人かの機体も巻き添えを食らい消滅した。
「史佳....自分が今何をしたのか分かってんの......」
レイはこの光景を作ったラプラスに怒りを滾らせた。これは他人を利用した程度では済む話ではなくなっているのだから。
「何て事.....こんなの、無いよ....!」
スワンも目の前に広がる景色を信じられず、気が狂ってしまいそうな感覚に陥った。
「スワンちゃん。泣くのは後よ....もう皆で帰ってくるなんて出来なくなったけど、まだ希望を捨てちゃいけない」
エリィは妹がこのような事をしてしまえるのが恐ろしかった。もはやバルトアンデルスから感じられるのは、ただ破壊するだけの意思しかないと言う事だけだった。そこには英梨への恨みも怜への愛憎も無い。スワンに投げ掛けた言葉は、自分自身にも言い聞かせる意味があった。
(愚鈍なる罪人共よ....裁かれるがいい!)
ラプラスの声が全てのダイバーの脳内に反響した。頭痛に襲われながらも、エスはある物を目撃した。
「顔が....開いてく....」
バルトアンデルスの中央にある顔が左右に割れる。その裂け目から顔を覗かせたのは無数の砲口だ。一つ一つに光が集束し臨界に達した瞬間、一斉に放出した。
「チィッ....!やるしかねぇのかよッ!」
絢斗は迷わず機体を前進させる。エリィからの制止すら振り切り、ただ真っ直ぐ光の渦に向かって突き進む。そしてバルトアンデルスが放った光に向かい手をかざすと、JOKERのマニピュレータを中心として虹色の輝きが広がり全ての光弾を弾き返した。
「カレイド....スコープ....」
レイはJOKERが発した力場を、無意識にそう評した。あの虹色の輝きはレイに万華鏡を想起させたのだ。一方の絢斗は、左手の甲の紋章の輝きが更に弱まっていくのを見て奥歯を噛んだ。今の規模のバリアフィールドを発生させるには、必ずJOKERの能力を使わなければならなかった。こうなってしまっては、絢斗自身が使うタイミングとして考えていた時機に能力を失ってしまう。