※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 44 また、いつか

「使えてもあと一度きり、か......上等だよ。ハンデにしちゃあ最高だぜ」

絢斗は強引に己を奮い立たせ、JOKERを加速させた。バルトアンデルスが生成する機体はレギルスアパテーではなくなり、デスサイズヘルコープスに変わった。ブレイヴエッジをガンモードに切り替え、銃口の周囲にホログラムの複製を展開、ショットガンの如く放射状に撃った。ハイパージャマーを展開していたデスサイズヘルコープスは、ビームの散弾を受けて姿を露わにした。そこへJOKERがブレイヴエッジで袈裟斬りを見舞い海に蹴落とした。レイのルミナクェーサーⅡがJOKERの援護に回り、ホークカスケードで次々とデスサイズヘルコープスを氷砕していった。

「あの機体に乗っているのは...絶対に許せない!JOKERだって今のは.....!」

「そんなのは知るか!けどこんな馬鹿げた物を用意してるこのゲーム、やはりどうしようもねぇ!」

ルミナクェーサーⅡが凍らせ、JOKERが斬り裂く。このコンビネーションは偶然にも成立したものだが、それぞれの特長を活かした隙の無いやり方として噛み合っていた。

「こちらも一気に攻めたい......出来るかどうか!」

ハイラックは追ってくるデスサイズヘルコープスをギリギリまで引き寄せ、ビームサーベルでベルゼルガを抉り取った。それを引っ掴みブーメランの如く投擲し、まとめて7機を斬り付けた。真上から斬りかかってくるのを、頭を下げて回避し背後から来る者に回し蹴りをぶつけた。そして照準を先程のデスサイズヘルコープスに向けた。

「ノヴァビームライフルを試す!」

ガンダムネオECの右手に持っているライフルから紫の光が迸る。デスサイズヘルコープスが右にステップして回避するが、ノヴァビームライフルから放たれた光の矢は軌道をグルリと変えて胴体を貫通した。

(コイツは、強力過ぎる.....!今でなければ、使えないということか!)

ダブルオーダイバー7SGに肉薄するデスサイズヘルコープスも撃ち抜き、そのままエスのもとへと急行した。

「エス!無理に近づきすぎるな!」

「ハイラックさん!コイツらはさっきのと違うんですよ!こっちの動きを読んでる!」

タキオンストライクNEXTが振るうエストックに対応するように、デスサイズヘルコープスもベルゼルガで斬り結び、カウンターとして膝蹴りを食らわせた。タキオンストライクNEXTは反応が間に合い、両手で膝を掴むと腕からビームサーベルを伸ばして切断した。

「その割には対応しているじゃないか」

「俺だっていつまでも同じ訳じゃないんですよ!」

「流石、エスだよ!」

デスサイズヘルコープスが2機がかりでガンダムネオECを追いかける。ハイラックは機体を敢えてデスサイズヘルコープスに向けて前進させると、踏み台にして飛び越えた。そしてノヴァビームライフルの照準を合わせ、トリガーを引いた。パイロットの意思に合わせてホーミングするビームが、デスサイズヘルコープスに風穴を開けた。

 

「一体何なのよ!次はあの子の機体で...精神的に来るっての!」

ダブルオーダイバー7SGに向けて振り下ろされたベルゼルガをGNバスターソードで受け止め、GNビームサーベルで切り返した。そして膝のマウンターからGNカタールを引き抜き、デスサイズヘルコープスの首を刎ねた。ほぼ視認できない上に多数現れる敵は、エリィでさえも精神的に追い詰める。それだけではなく、ラプラスが操っていたデスサイズヘルコープスである事が更に追い打ちをかけた。ダブルオーダイバー7SGが撃墜したデスサイズヘルコープスの背後にまた同じ機体が現れ、グレイブモードにしたベルゼルガで突きを放った。エリィは反応が間に合わず、GNバスターソードを身代わりにしようとした。その時、黒い影がデスサイズヘルコープスを真っ二つにした。

「あ、絢斗.....」

「だから言っただろ!無茶をするからここにいるなって!.....余計な仕事増やすなよ....ったく!......レイの奴があのデカブツの方に向かった。俺達も行くぞ」

「分かった!」

JOKERとダブルオーダイバー7SGが一直線にバルトアンデルスの方へ向かい始めた。

 

(あの機体にどれだけの災厄を詰め込んだ....史佳ッ!!)

レイはデスサイズヘルコープスに見向きもせず、全速力でルミナクェーサーⅡを飛ばした。バルトアンデルスが腕を伸ばして掴みかかるが、ルミナクェーサーⅡがホークカスケードを放ち氷の壁を作って阻んだ。そしてファランクスビットからビームを照射して腕を撃ち落とした。とは言え完全に破壊できた訳ではなく、ダウンさせて一時的に動けなくしたに過ぎない。しかしバルトアンデルスに直接攻撃するには、十分な時間稼ぎになる。無数の光弾を掻い潜り、ホークカスケードとファランクスビットを撃ち込んでいくが、バルトアンデルスの装甲に傷一つ入らない。左右で呪詛を吐くかのごとく口を動かす顔からは血が流れ出ている。恐らくこれが弱点と見るが、この生々しさを何も感じずに戦える方が難しいだろう。最初に突入したウェルスとデュークも間違い無く同じ気持ちになっただろう。JOKERとダブルオーダイバー7SGも合流を果たし、何とか戦える状況となった。

「レイちゃん!大丈夫!?」

「今は私のことはいいから!行くよ....二人とも!」

「勝手に仕切んなよ」

JOKERが先行し、ブレイヴエッジで血が流出している場所を更に抉り、バックパックのアーチャーフィッシュを展開して接射した。バルトアンデルスが右腕で叩き潰そうとするが、そこにダブルオーダイバー7SGが飛び出し、GNフィールドを展開して押し返した。ルミナクェーサーⅡのホークカスケードで再び凍らせたのを確認すると、エリィはダブルオーダイバー7SGのマニピュレータをバルトアンデルスの装甲に触れさせた。

「史佳が乗っているんでしょ!?返事して!」

「英梨さんッ!?もう史佳は史佳じゃない!!」

鬼火がダブルオーダイバー7SGに接触する寸前、ルミナクェーサーⅡが左手首から粒子拘束ワイヤー"グラップリングビーム"を伸ばし、引き剥がした。鬼火をファランクスビットのホーミングレーザーで相殺し、着地した。

「何でこう言うときにそんな危ない事やるの!?もうアレは史佳なんかじゃない!」

「.....レイちゃんは凄いよね...割り切れるようになって......大人の私がこうだなんて格好悪いなぁ、本当!」

ダブルオーダイバー7SGを紅の輝きが包む。本来のダブルオーガンダム7SGは、粒子貯蔵タンクや同調していないGNドライヴで稼働しているため、トランザムを使用する事は理論上不可能である。精々扱えても0.03秒程でしかないが、エリィの機体はダブルオーダイバーである。ダブルオーダイバーは完成度の恩恵により、オーライザーを使わずともトランザムが可能となっている。その完成度を引き継いだ事で、7SG形態でもトランザムを起動させられるのだ。

「レイちゃん、ちょっと離れてて!」

ダブルオーダイバー7SGに掴みかかる左腕をGNバスターソードで弾き返し、GNソードⅡブラスターにエネルギーを集中させた。GN粒子を極限まで収束すると、エリィの指がトリガーを引いた。セラヴィーガンダムのハイパーバーストに匹敵する規模の粒子の奔流が、バルトアンデルスの左手を飲み込んだ。その隙にJOKERは、小顔の方を全て斬り捨てブレイヴエッジを撃ち込み、バルトアンデルス本体に大打撃を与えた。バルトアンデルスが中央の顔を開き、再びレーザーを放射しようとした。

「やらせないッ!」

ルミナクェーサーⅡがホークカスケードを最大出力で放ち、顔の中央にある砲身を全て凍らせた。ハイラック達も次々にバルトアンデルスに突撃していく。ウェルスのBLADETとエスのタキオンストライクNEXTが、バルトアンデルスと海底を繋ぐ柱に刃を突き立て、一気に上昇しながら斬り裂く。エルニアのフルーティストウイングは、"幻想曲"を発動し鬼火を全て打ち消した。その間にデュークとハイラックがバルトアンデルスの背後に回り、鬼火を放っている顔を潰していく。

(何故....何故ここまで私を否定する....!!私が何かを欲するのが、行けない事なのか!!)

ラプラスの悲鳴がレイの脳に伝わる。

「....違うよ。アンタは自分勝手に全部を壊そうとしただけだ!」

(自分勝手?違うわ....私は怜を愛したいの....怜の全部が欲しいのよ!!)

「そんな感情を...私に見せるなッ!!」

ラプラスの思念から伝わる感覚は、全身を粘膜で包むようなものであった。レイに生理的嫌悪感を抱かせる一方で、ラプラスは艶めかしく息を吐くような声を出した。

(怖がらなくていいわ、怜。私と一つになりましょう?もう何も怖くない、二人だけの世界....悪くないでしょう?)

レイは心底震え上がり、かつての様な恐怖が全て蘇ってしまった。英梨に助けられるまでの事は、全て心の奥底に閉じ込めていたかった。しかしラプラスから向けられる感情は、それを簡単に無に帰してしまう。

「いッ....嫌ッ.....嫌ァアアアアアアアアアアアッ!!!」

突如としてルミナクェーサーⅡの足元から氷柱が同心円状に乱立し、JOKER達は急いで上空へ退避した。

「レイ....レイッ!!」

ハイラックが必死に呼びかけるも、その声はレイに届く事はなかった。

 

レイが目を覚ました場所は、高校のホールだった。観劇の授業や、外部から招致された講師による講演会が良く行われている場所だ。そしてレイはホールのど真ん中の席に座っていた。着ているのは高校の制服であった。

「怜」

耳元で甘い声で呼ばれ、レイは身震いした。声のする方へ恐る恐る目を向けると、ラプラスが今にも蕩けそうな顔でこちらを見つめていた。どういう訳かラプラスは白いローブがやや開けており、その下があろう事か裸であった。汗か何かで濡れているように見えた。何がどうなっているのかレイは釈然としなかったが、次第に気持ち悪さを感じ再び震えが止まらなくなった。

「ようやく気付いてくれたみたいね?....二人きりになったし、何から話そうかしら」

ラプラスは恍惚とした笑みを浮かべながら、いきなりレイと唇を重ねた。レイは今にも跳ね飛ばしたい衝動に駆られるが、思うように身体が動かない。正気を疑うような目で睨むのが精一杯であった。ラプラスはようやく唇を離し、じっとレイの瞳を見つめた。

「あなたの全てが好きだけど...汚されないその目が一番好きよ」

「ここは一体何なの....!?」

「ここ?ここは....私とあなたが、本当に初めて会った場所よ」

レイは耳を疑った。史佳と出会ったのは小学校に上がって間もない頃のはずだった。しかし深く思い返してみると、当時の史佳に関して実感が薄い記憶しかなかった。

「コントロール、解けたわね。そう、あなたの記憶も私が握ったの。あなたと会ったのは、本当は高校に入学した時。敵意を放っていても、私には分かったわ.....私と同じって」

「同じ....アンタと私が....」

レイが首を横に振り、ラプラスは彼女の唇を再び奪った。

「心が子供のまま成長しなかったって事よ。そしてあなたはどこまでもか弱いから、守りたくなったのよ。最初はね。だけどすぐに欲しくなったの.....あなたのその弱さに惹かれて...そうそう、最近いきなり家を売られたでしょう?あの家を買い取ったのは、私よ」

ラプラスの告げる真実に、レイは驚愕した。まさか自分自身を奪う為に、一度全てを失わせようとしたのか。ラプラス、否、桜庭 史佳と言う人間がますます分からなくなった。

「父の会社の社員にあなたのお母さんを紹介したら、すぐに話に乗ってくれて....凄く楽だったわ。家を買い取ったのは、怜をどこにも行かせたくなかったからよ。私とあなた、二人だけの空間を手に入れようとしたのに、あんな事が起こるなんてね」

史佳としては、路頭に迷う怜を保護して一時的に自分の部屋に軟禁した上で、買い取った家に戻して再び閉じ込めるつもりだった。今にも傷ついて壊れそうな怜を、史佳はこの上なく愛しく感じていた。美しい物は美しいまま残しておくと言う意識が、史佳をこのような行動に走らせたのだ。

「でもあなたは私の気持ちに気づいてくれなかった.....だから決めたのよ。力づくでもあなたの全てを手に入れるって」

「狂ってる.......」

レイは震える声で呟き、ラプラスを睨んだ。

「アンタは狂ってるの.....ッ!アンタは狂ってるッ!!」

衝動に駆られるまま、レイは無理矢理立ち上がり、ラプラスの首に手をかけた。ラプラスは何故こうなったのか分からず、ただ呆然とレイを見つめた。

「狂ってないわ...私は怜が欲しいから、その為に努力している。それをあなたが受け入れなかっただけでしょう....?私は正しい....!正しいのにあなたは!!私の気なんて知らないで!!」

突然ラプラスがヒステリーを起こし、逆にレイを押し倒して首を両手で締め始めた。レイはどうにか手を引き剥がそうとするが、びくともしない。ラプラスは何かを期待するような目でレイをじっと見つめるが、彼女の目はどこまでも黒く、光さえ吸い込まれるようであった。

(これは.....JOKERの.....!?)

意識が遠のく中、レイは手元にある物を見つけた。それはJOKERが使っていたブレイヴエッジの形をしたナイフであった。レイは迷わずそのナイフを手に取り、ラプラスの胸を一刺しで貫いた。心臓から溢れ出る血液が、ラプラスの肌を滑りレイの制服を赤く染めた。次第に首を絞める力も無くなり、ラプラスは真後ろに倒れた。

「それが.....あなたの答えなの......?怜.....」

「聞くまでもないでしょ、そんなの。もう私はアンタを友達とも思いたくない。同じ人間とは、思いたくない」

 

バルトアンデルスが咆哮を上げ、氷柱が砕け散った。レイは目を大きく見開き、バルトアンデルスを睨んだ。

「ラプラスッ!!」

自己再生を始めたバルトアンデルスに、ルミナクェーサーⅡはホークカスケードを向け空中に浮き上がった。レイの瞳に青い光が灯る。ホークカスケードの砲口に加速度的に粒子が集まり、瞬く間に極限まで集束した。そしてレイは躊躇いなく引き金を引いた。ホークカスケードから凄まじい勢いで粒子が放出され、バルトアンデルスを飲み込み周囲の大気すら凍り付かせた。ルミナクェーサーⅡの表面まで薄っすらと霜が降りる。これ程までの氷撃を浴びせるのは、絢斗もシローも見たことがなかった。無論、エスを除くそれ以前の彼女を知るハイラック達MPDのメンバーも同様である。

「これってもしかして....ハザードレベルが上がったんじゃないの!?」

エルニアが止めさせようとレイに通信をかけるが、一切応答が無かった。やがて粒子の渦は消え、バルトアンデルスが巨大な氷柱の中に閉じ込められた。一方ルミナクェーサーⅡは、レイの能力とホークカスケードの出力の過負荷により駆動部からスパークが走った。しかし、全く安心は出来なかった。バルトアンデルスが氷柱の中で蠢き、衝撃波を放って粉砕した挙句完全に自己再生を終わらせてしまったのだ。絢斗はもうこれ以上の戦闘は無意味だと悟った。だがそれは諦めを意味しているのではなかった。

「英梨!全員を退避させろ。俺とレイで奴を潰す....!」

「待ってよ!皆でやってここまでかかったのに、何で二人だけでやろうとするの!?」

当然エリィは納得出来ず、抗議した。しかし絢斗は考えを改められなかった。と言うのは、最後に残された力を使えば、バルトアンデルスに不可逆のダメージを負わせられると確信していたからだ。

「......頼む、皆を退避させてくれ。これ以上は誰もやらせないって誓ってんだよ....久遠 怜にだって借りを返せてないんだ。それ位はやらせろ」

絢斗の声から強い決意を感じ取り、エリィはハイラック達に撤退を提案しようとしたが、その折にブルームーンからの通信が入った。

「マザーメタトロンがやられている!至急戻っこれる奴は戻って来い!騎士団の連中だけでは手に負えん!」

まさかの事態に、ハイラック達は否応無し撤退を余儀なくされた。

「こんな事ってアリかよ!もうこうなったら二人を信じるしか....!!」

エスが真っ先にタキオンストライクNEXTを旋回させ、マザーメタトロンへ急行した。エルニアもエリィもその後に続いた。

「こうなったら賭けだ。だがあの二人なら出来ると信じるしかない」

BLADETはシューターモードに形態を切替え、マザーメタトロンへ向かった。ハイラックは悔しげに拳を握り、ガンダムネオECのバーニアを全開にした。それを絢斗は見送ると、バルトアンデルスを見下ろした。

「やっと邪魔者がいなくなった。これで俺は全力を使って奴を潰せる」

「私は違うんだ?」

「お前には借りがある。お前のせいで、自分を取り戻したくなっちまったしな.....感謝してんだよ、これでも」

「ふーん....まぁ、私はアンタの事はJOKERとしか呼ばないから....えっ?」

JOKERが徐ろに、ブレイヴエッジをルミナクェーサーⅡに持たせた。レイは意味が分からず、モニター越しに絢斗を凝視した。

「何?これ....」

「そいつは餞別だ。その剣はある意味JOKERの能力の足枷みたいなもんだ。俺は最初で最後の、裁定者としての役割を果たす。俺が合図をしたら、奴の懐に飛び込め。そうりゃ間違いなく、奴を倒せる」

絢斗はそう言うを全通信回線を遮断し、ルミナクェーサーⅡをJOKERから遠ざせさせ、高々度まで機体を上昇させた。コンソールを操作し、"JUDGMENT"を選択した。画面が変わり、左手をかざすように指示がなされると、絢斗は迷わず従いJOKERの機能を解放した。JOKERの装甲表面を赤い電子線が走り、バックパックからデュランダルジョーカーが分離した。リアアーマーから引き抜かれた柄とドッキングするが、片刃の大剣とはならず両刃の得物となった。そして刀身が展開し、天を貫く程の光の刃を発した。

「.....不本意でもねえが、お前を裁く。だが残念だったな....言うまでもなく、お前に明日は来ない」

絢斗は感情を込めずに断罪すると、光の刃の切っ先をバルトアンデルスに向け、機体を突進させた。バルトアンデルスが衝撃波と鬼火を放ち防ごうとするが、呆気なく突破され光の刃が装甲を穿ち始めた。

(JOKER....!!キサマガレイヲキズツケタ!ソノツミハドウナルノダ!!)

「そんな事俺が知るかよ!お前がやったことの方がよっぽど人様に迷惑かかってんだよ!ガキでも分かることが、お前には分かんねぇのか?それ以上になぁ....お前のその行いが余計にアイツを傷つけてんだよッ!!」

光の刃がバルトアンデルスを貫き、そのまま斬り上げて両断した。血飛沫が上がり、海底から伸びる柱の周辺の水面を赤く染め上げた。甲高い悲鳴が響き渡り、さもバルトアンデルスがラプラスその物であるように思わせた。JOKERは力を使い果たしたかのようにその場に膝をついた。デュランダルジョーカーは両方とも折れ、刃先が消えてきた。

「へへっ.....運が良かったのかな、ミリだけど力が残ってら....一度でもこの剣を使えばなくなるレベルだけどな......」

絢斗は力なくシートにもたれかかり、血に塗れる視界をただ見つめた。左手の甲の紋章に電子的な揺らぎが生まれ、本当に残り僅かしか残されていない状態となった。

「JOKERッ!?」

レイは急いでルミナクェーサーⅡに加速をかけ、JOKERのもとへ向かった。だがそれを阻むかのようなタイミングで、オリジナルのデスサイズヘルコープスがバルトアンデルスの残骸から這い出てきた。こちらも血に染まっており、石膏像のような白さはほとんど失われていた。デスサイズヘルコープスがベルゼルガの柄でJOKERを横倒しにし、ルミナクェーサーⅡを見た途端に青い電子線を輝かせた。

「どうしても私の物にならないと言うなら.....殺してでも手に入れてみせるわ.....あははははっ....うふふっ......あははははははははっ!!」

デスサイズヘルコープスから聞こえる声は、老若男女全てを混ぜ合わせたような歪なものだった。レイは不気味さに顔を顰めるが、ブレイヴエッジの切っ先をデスサイズヘルコープスに向けた。

「アンタのような奴の物にはならない!私は私だ!私の人生は、私が選ぶんだ!」

「ああ言う境遇を受けた人間が、まともな人生を歩めるはずないじゃない!だったら、早く私の物になった方が幸せに生きていけるはずよ....?」

デスサイズヘルコープスが音も立てずにルミナクェーサーⅡの背後を取り、ベルゼルガをアックスモードにして振り下ろした。それを予期していたかのように、ルミナクェーサーⅡはホークカスケードを放り投げ、ブレイヴエッジでベルゼルガを弾き返した。

「人の幸せは、アンタが決めるものじゃない......!」

真横に一閃、立て続けに袈裟斬りから逆袈裟斬りへと繋ぎ、とどめを刺す直前にベルゼルガと鍔迫り合いに持ち込まれた。

「世界を見る目が固まってしまった人間に決められると思わないわ。他人があなたを傷つけ続けるわ!幸せなんて何処にもないわ!」

レイとラプラスを繋ぐように、青い光がルミナクェーサーⅡとデスサイズヘルコープスを包んだ。ラプラス―史佳から伝わる深刻なまでの孤独さが怜に伝わり、悲痛さに涙した。

「それが何だっていうの!自分の人生を選べるなら、それ以上の幸せは無いでしょ?.....史佳、アンタは結果を急ぎ過ぎたんだよ...!そんなに私の事が好きなら、真正面から向き合ってくれればそれでよかったのに.....!」

とうとうベルゼルガの柄が折れ、ブレイヴエッジの紅刃がデスサイズヘルコープスの魂の座を貫いた。レイはルミナクェーサーⅡのコクピットを飛び出して、デスサイズヘルコープスから落ちるラプラスを強引に受け止めた。しかしラプラスの身体は、まるで幼児かと見紛う程軽かった。現実で見る以上に痩せ細っており、目の焦点が常に合っていないような有様であった。

「史佳.....史佳.......!ごめんなさい.....アンタの気持ち、分かってあげられなかった.....!」

レイは泣きながらラプラスを抱き締めた。ラプラスも震える手でレイの頬に触れた。

「優しい....怜の声がずっと聞きたかった....騎士団に来てから、ずっと聞けなかったし聞こえなかった....ああやって嘘の姿を見せないと聞くこともできないんだもの.....汚いエゴに頼って....怜を独り占めしたって、誰も幸せにはならないって.....なんで気付かなかったのかしら......怜....あなたの事が...大好きよ....これだけは、嘘じゃないわ....」

ラプラスのアバター体がノイズに包まれ、水泡の如く消失した。

「また、いつか....二人で会おうね、史佳......」

史佳は既に高校を退学していた。それを知ったのは、休憩のために怜が現実に戻った時だった。担任の片桐からの留守電でそれを聞かされたとき、頭の片隅で今の様な出来事が起きるのでは無いかと予感していた。しかしラプラスをこの手で終わらせてしまった。倒すべき敵として見ていたが、やはり心の奥底では友情を捨てきれなかった。それがきっかけとなり、能力を媒介として史佳の心を知ったが既に遅かった。

「.......皆の所に戻らなきゃ。出来るだけ毎日、ここに来るから。それじゃ....」

レイは落ちていたラプラスの眼鏡を握りしめ、ルミナクェーサーⅡへ戻ろうとした。しかし、運の悪いことにフォトン・バッテリーの残量が完全になくなっていた。ハイラックを呼ぼうにも、通じるか心配であった。

「見せてもらったぜ。お前、随分と変わったな。アレは本物だった」

JOKERがマニピュレータをレイの近くまで下げた。レイがそれに飛び乗るとコクピットの近くまで持ち上げ、柱から飛び立った。レイはふと柱を振り返ると、肉柱とも形容できるものが剥がれ落ち、クリスタルの大樹へと変貌した。バルトアンデルスの残骸は海に落ち、これ以上復活する様子はなかった。

「綺麗......」

朝日が昇り、太陽の輝きがクリスタルの大樹を照らし幻想的な光景を生み出した。レイはこれまでの戦いが報われたような気がして、また涙がこぼれた。

 

岬の近くにJOKERは降り立ち、レイはクリスタルの大樹を目に焼き付けようと再び眺めた。絢斗もJOKERから降り、レイから少し離れた場所で景色を眺める。

「全部....終わったね」

「そうだなぁ....そうであってくれなきゃ困る」

絢斗が気だるそうに背伸びをする。レイはそれを見て微笑んだ。

「これからどうするの?力、なくなったみたいだけど」

「さてな....旅でもするんじゃないか?ぶっちゃけ俺、このクソ食らえみたいな世界に居続けたくない。けど、お前らと過ごした時間は無駄にはならなかったし、悪くなかった」

「そっか。よかった.....ねぇ絢斗、もしよかったら.......絢斗....?」

レイが絢斗にブルームーンへの招待メッセージを送ろうと振り返るが、彼の姿はどこにも無かった。そして座っていた場所に1枚の紙が落ちていた。そこには、"俺がお前の希望で在るのはもう終わりだ。だから今度はお前自身が誰かの希望になってやれ。お前ならきっとなれる!"と書かれていた。

「分かってるよ。私、頑張るから」

空を見上げているうちに、突然背後からアヤカの声が聞こえ、振り向くとマニピュレータや両肩にメンバーを乗せた、ラプターアリオスガンダムが目の前に着陸した。巡航形態固定の機体だが、アヤカは有事に備えて可変機構を復活させていたようだ。

「レイー!!やったねー!」

「流石ですよ、レイさん!!」

「本当、お前は凄い奴だよ!」

「心配かけさせやがってー!貴様は今度から自分の機体の整備しろよー!」

「レイちゃーん!!絢斗ー!!」

「こりゃとんでもないダイバーの誕生だな!」

「レイ....ちょっ!?アヤカさん!?」

皆が皆手を振り、レイと絢斗の無事を喜んでいる中で、いきなりアヤカがコクピットから飛び出してレイに向かって両腕を広げた。

「レイさぁあああーーーーんっ!!!」

「えっ....ぇええっ!?アヤカ!?」

レイは慌てて両腕を広げアヤカを受け止めようとしたが、運動エネルギーが強すぎるせいか押し倒される形で転倒した。アヤカは顔を上げてレイをじっと見つめると、いきなり泣き出した。

「レイさん.....!!無事で良かったです!!レイさんの事ますます好きになったです!!」

「そこまで言うかな.....?まぁでも、心配してくれてありがとう、アヤカ」

「レイさん......うわぁあぁあぁああっ」

「アヤカ....泣かないでよ....」

レイがアヤカを宥めているうちに皆がラプターアリオスから降りた。スワンが少女を連れてレイのもとへ駆け寄った。

「怜、お疲れ様!」

スワンに撫でられ、レイは若干気恥ずかしそうに頷いた。そして彼女の隣に立つ少女を見て、レイは目を丸くした。

「もしかして...美彩!?どうして....!?」

「せいかーい!死にかけたと思ったらアカウント消されちゃって、運営さんに無理言って作り直して今に至りまーす!」

舌をぺろりと出して力なく笑う美彩に、レイは溜息をついた。

「まさかあの中にいたなんてね....でも、美彩も無事で良かった。....ていうか今思ったけど、交流広場に何時の間にか戻ってるんだよね。何でラプターアリオスがあるの?」

エリィが待ってましたと言わんばかりにスワンの後ろに現れ、ウインドウを見せた。マザーメタトロンの艦長アーロンが映っている。

「ブルームーンとメイポールダンス、騎士団の皆様のお陰で、事件が終息しました。お詫びと感謝申し上げます。少しの間ではありますが、実装予定の機能を一足先に体験出来るようにしておりますので、お楽しみください」

「だから機体が動かせる訳なんだ...」

レイは納得した表情でウィンドウを眺めた。エリィは時折周囲を見渡し、絢斗を目視で探したが彼の姿は見つからなかった。

(もう、戻って来たんだ....ホント、レイちゃん以上に素直じゃないんだから。.....史佳もちゃんと戻ってこれてる.....?電話くらいは、しようかな)

彼女たちの様子を眺めるハイラックの肩を、エルニアが小突いた。

「今一番レイと話したいんでしょ?行ってきたら?」

「あの人達のあとで良いよ......流石に大人げないだろう?」

ハイラックが笑いながら返すと、エスが笑みを浮かべながらラプターアリオスの膝装甲の上に座った。

「バトル中には一切容赦しない人が何言ってるんですか!」

「それとこれとは話が別だ...まぁいいや、行ってくるよ」

ハイラックは諦めたように肩を竦めて見せ、レイの元へと歩み寄った。すると、レイはすぐに気づいたのかハイラックに駆け寄り抱きついた。これにはハイラックもやや予想外であった。

「色々と、君を苦しませてしまったね...」

「過去の事でもう謝るのは禁止。これから幸せになれば、いいんだから....汗臭ぁ...」

レイはハイラックの手をぎゅっと握り、密着して服の匂いを吸い込んだが、案の定激戦の後と言うこともあっての結果だった。そばで見ていたエリィとスワンは思わず吹き出し、クスクスと笑っていた。

「それは仕方ないでしょ!て言うかそう言うのまで実装予定だったとは....!」

ハイラックが困った様に笑い、レイの髪を撫でた。レイも嬉しそうな表情でハイラックを見つめている。

「とにもかくにも、君のおかげでこうしていられるんだ。ありがとう、怜」

「拓がいなきゃ、ずっと私一人だったと思う。だからこれからも一緒に居てね」

エスやシローからの冷やかしめいた声が聞こえ、周囲は一気に笑いに包まれた。そしてレイは幸せそうな笑みを浮かべ、皆に向き直った。

「皆....ただいま!」

 

 

事件から月日が経ち、怜達は高校を無事卒業し、大学の入学式までの所謂春休みに突入した。怜は国連大学から変えて、美彩と同じ堂夢大学へと進学した。奏はと言うと、別の大学へ進んでいた。祖母と英梨の手伝いもあって引っ越しは順調に進み、晴れて一人暮らしを始めることとなった。祖母と同じファッションデザイナーとなり、各国のコレクションにて競い合うのが怜の夢であった。その為に技術を身につける必要があり、入学式までは祖母の会社の一つでアルバイトとして経験を積む毎日を送っている。アルバイトが終わり帰宅した怜は、すぐにコンピュータを起動し、ダイバーズに意識をアクセスさせた。

「レイさんこんにちはです!」

レイがブルームーンのブリッジにやって来ると、アヤカが真っ先に声をかけてくれた。

「こんにちは、アヤカ。....あれ、キャプテンは?」

「席外してるですよ?」

今日はダイバーズに来る予定はなかったが、先週にキャプテンからメッセージが来たため、レイはアルバイトを早めに切り上げてダイバーズにやって来たのだ。そして呼び出した本人が来ないのは中々不思議であった。

「折角バイト早めに終わらせて来たのに、何なの?」

レイが半ば呆れ気味にシートに座ると、キャプテンとシローがブリッジに入って来た。

「おぉ!?レイか!いやいや済まんな、待たせちまった」

「呼び出しといて放置って....何それ?」

キャプテンがやや大きめの袋を出し、レイはそれを凝視した。

「実は戦いの後で御曹司と話をしていたんだがな?次のブルームーンのキャプテンの座を譲ろうと思ってるんだ。ちょうどその相手が見つかったんで、今ここで発表しようと思う」

「へぇ....誰になるんだろうね、新しいキャプテンは」

レイがあまりにも無関心そうに言うので、キャプテンは返答に難儀した。態度がかなり柔らかくなったとはいえ、根からクールである事に変わりはない。キャプテンは咳払いをし気を取り直すと、箱から青いコートを取り出した。しかしサイズがシローともアヤカとも違うように見え、レイは首を傾げた。

「お前がブルームーンの新しいキャプテンだ、

レイ。慣習に従えば、レイ・ブルームーンになるな!」

キャプテンの発表にレイはポカンとした表情のままアヤカを見て、またキャプテンに視線を戻した。

「無いわね....何かの冗談でしょ?私にそんなの出来ないから」

「だけど君がこのブルームーンを変えたのも事実だ。しかもダイバーズだって救ってる。これだけあれば、間違いなくキャプテンになれるだろ?」

シローがコートをレイに着せた。本来ならば先代が着ているのをそのまま引き継ぐのだが、初の女性キャプテンにして、最年少と言う事もありキャプテンの意向で新たに用意された。コートのデザインに見覚えがあり、袖や襟をよく観察した。何と絢斗が着ていたコートと同じデザインだったのだ。そして右袖の端にはペンギンをあしらった刺繍が施されていた。これを見たレイは赤面し、アヤカを恨めしそうに凝視した。アヤカはレイぬいぐるみを出し、ペコリと頭を下げさせ謝罪の代わりにしようとした。しかし謝罪の対象を使うのは、どうかとも思うが。

「何だ、どうした?これで新しいキャプテンが決まったわけだ!思えば俺がここに座っている期間がものすごく長かったな...あ、シートも直に変わるから安心しろ。親父の匂い染み込んだのは嫌だろ?」

「まぁ、確かに嫌ね」と頷かれ、キャプテンは自滅したような気がした。

「ふふ.....いいんじゃない。私、やってみるよ。ブルームーンの新しいキャプテン」

「頼もしい限りだな、こりゃ期待できそうだ。本格的に交代するのは来月からだ。それまで俺の仕事を見て勉強してくれや」

「了解、キャプテン」

レイの新たなる道は、ブルームーンのキャプテンとなる事で開かれた。これから先何が待ち受けているのか分からない。しかし、それでも乗り越えられると言う強い自信が彼女にはあった。頼れる仲間がそばに居てくれる。それを強く実感しているのだから。

 

 

エス・ブラックベイこと黒浦 聡は幼馴染の少女、天原 奈都と一緒に本屋に向かっていた。英梨が取材していたJOKER事件の記事を書籍化したとのことで、それを買い求める為であった。

「凄い大変だったんだね。それでずっとダイバーズでも会わなかったんだ?」

「そうだなぁ....思えばとんでもない事の連続で、本当にダイバーズなのか分かんなくなってたよ。何ていうか、本物のガンダム世界に突っ込んだような感じって言うか...あーもうよく分かんねぇ!」

「何それ....?でも私も会ってみたいなぁ、そのレイって人」

聡と奈都が談笑していると、向かい側から青年が歩いているのが見えた。聡が避けようとして視線を向けたところ、その青年に見覚えがあった。

「あ、あなたは....!」

「お前の事は前田からも英梨からも聞いている。お前の守りたい物、絶対に見失うなよ」

青年からアルミ製の箱を腹に押し付けられ、聡は思わず落としそうになった。振り返って見ると、青年は手をひらひらと振りながら去っていった。間違いなく、彼だった。

「何、あの人?知り合い?」

奈都が聡から箱を取り上げて開けた。中には赤と黒と白でまとめられた、ストライクガンダムグリッターが入っていた。両肩にはグリッターレヴとは違う形状のマルチユニットが、サイドアーマーには本体に匹敵する長さの大剣が2振りついていた。奈都は箱に同封されていた紙を開き、機体名を読み上げ首を傾げた。

「ストライクガンダム....JOKER....?」

その名前を聞いた瞬間、聡はふと空を見上げた。彼からこの機体を託された意味を、何となく感じていた。

「言われなくても分かってますよ。俺はその為に戦うと決めてたんですから」

聡の目は、普段よりも力強さを湛えていた。

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