※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 5 居場所なんて無い

「ビームが...裂かれてる...!?」

一体何が起きているのか分からず、レイは狼狽する。次の手を出さねばならないが、必殺の一撃とも言える出力を使っている以上、フォトンバッテリーの容量を大きく消費する。怜はフリーズバスターを緊急停止させ、機体を浮き上がらせるべくペダルを踏んだ。距離さえ取ってしまえば活路は見いだせると思っての事だが、JOKER相手には無策も同然であった。

「逃げるにしても頭使えよ...」

ジョーカーの気だるげな声に、レイは無意識に眉をピクリと動かした。あからさまな挑発だった。JOKERが身をかがめた直後、全身のバーニアを全開にしてルミナクェーサーに詰め寄り、居合の構えから大剣を斜め左上へ振り上げた。ルミナクェーサーもフリーズバスターをビームソードモードに切り替え、弾き返そうとするがあっけなく返り討ちにあってしまった。JOKERの持つ剣による斬撃は、一つ一つが重く鋭い。レイはビームサーベルをウェポンセレクタから呼び出して格闘戦に転ずるが、元来G-アルケインは接近戦が不得手な機体であった。JOKERに追い込まれるのは自明である。だがここで一矢報いなければならないと、レイは引き下がる選択肢を自ら断った。

「やめろぉおおおお!!」

黒いストライクが空中へ躍り出、その最中大型ユニットとドッキングした。4基の大型ブースターから発せられる莫大な推力と、翼から生まれる揚力。2つの力の相乗がストライクに音をも超越する速さを与える。そしてまた別のユニットを呼び出し、懸架されていた大剣を両手に構え突き進んだ。

「ストライカーパック...どこから持ってきたんだか...まぁいい、どっちも片づけるか」

JOKERがくるりと黒いストライクに向き直り、大剣を変形させ銃口を向けた。

「近づけばこっちにだって、チャンスはある!」

雄々しく叫ぶが、ストライクのダイバーの額を冷たい汗が伝う。機体の装甲越しにでも感じ取れるプレッシャー。一歩も引けぬ戦いは精神を鼓舞させるのに十分すぎる舞台だが、今回はそのような物とはかけ離れていた。ストライクが対艦刀「シュベルトゲベール」の切っ先を向け、突きを一撃ぶつける。案の定JOKERは体を僅かに傾けるだけで回避した。

「読み通りに動いた!」

ストライクが両足のバーニアを使い半ば強引に旋回、その勢いを利用して右足でJOKERを蹴りつけた。足先からは刃が伸びており、ダメージを確実に与えるにはもってこいであった。ところが、その刃はJOKERに食らいつくことなくバキンという甲高い音を立てて弾け飛んだ。

「...相手を知らないとなると、ν-Typeでもこんなもんなのか」

ジョーカーはぽつりと呟いた。JOKERがビームライフルを溜め撃ちし、大き目の光弾でストライクの右足を吹き飛ばした。その間、数秒足らず。

「そんな...どうなってるんだ、あの機体...!?うぁ!?」

ストライクのダイバーが呆然としている間に、レイのルミナクェーサーが押しのけた。

「退いて、邪魔」

JOKERが向き直るよりも早く、レイはトリガーを引いた。ルミナクェーサーがシールドを前に向けると、半円状にレーザーを放った。

「またそれかよ!厄介な武器持っててさ!」

ジョーカーは舌打ちをして大剣の腹でレーザーを受け止めさせるが、刀身に細かい傷が生まれた。ルミナクェーサーがもう一撃加えんと手首からビームワイヤーを伸ばそうとするが、その時点ではJOKERの姿は消えていた。

「あれが、JOKER...あの人が言っていたのは噂なんかじゃなかった...」

ストライクのダイバーは僚機のガンダムを見つめる。一方のガンダムのダイバーは、ルミナクェーサーをちらりと見、そのままこの場を離脱しようとペダルとレバーを押した。彼の表情はどこか苦しげだった。

「もう二度と姿を見せる気なんてなかったのに...しかもJOKERを取り逃がすなんて...!」

レイのルミナクェーサーも彼らとは反対方向へ移動し始めた。二重の悔しさのあまり、コンソールモニターを殴る。

 

レーダーにブルームーンの反応が映り、機体を着艦させた。外観からして修復は完全に行われたようであった。レイはドックに機体を固定させるとすぐさまブリッジへ向かった。

「レイか。ご苦労だったな」

キャプテンがレイの入室に気づき、労いの言葉をかける。しかし、レイは何も返さず、近くの自分のシートに座った。レイの座席にはかなり大きめなクッションが置かれており、ケイト曰く座り心地は最高だと言うが設置した本人は何も感じていないようだ。

「レイ...悔しいのは分かるが、少しでも返事はしくれないか?気分がいいもんじゃない」

キャプテンが苦言を呈するが、それでもレイは無言だった。これ以上のやり取りは意味がないとキャプテンはそれ以上は言わなくなった。

(こっちにもレイと同い年くらいの娘がいるが...どっちにしてもデリケート過ぎる、か)

そう思考に耽るのも束の間、キャプテンは何かを思い出したかのように受話器を手に取った。

「シロー、悪いがそろそろ連れてきてもらえんか?ああそうだ、少しはいい刺激になるだろうな」

ふとレイの方へ目をやると、彼女も少し興味があるのかこちらをちらりと見ては窓の外へ視線を戻した。程無くしてシローがブリッジに入ってきた。

「キャプテン、例の新人連れてきたぞ」

シローが背中を押す形で招き入れたのは、レイと同い年か少し下くらいの少女だった。ブラウンのボブカット、髪と同色の瞳をしたあどけなさの残る顔立ちをしている。彼女の着ている服は、「機動戦士ガンダム00」に登場するソレスタルビーイングのオペレーターの一人、「ミレイナ・ヴァスティ」と同じものである。

「アヤカ・ルービィです!本日付でブルームーン本隊に加わることになりました!よろしくですっ!」

はちきれんばかりの笑顔で可愛らしく敬礼のポーズをとった。

「確か操舵の方法もケイト・ブッシュから教わっているそうだな?早速で悪いがやってみてくれ」

「了解です!」

アヤカは溌剌と返事し、操舵席に座った。コントロールパネルとコンソールモニタを前にした途端、顔つきは真剣そのものとなった。

「あ...えーっと。どこへ行くんですか?」

行先を知らないことに気づき、キャプテンへ苦笑交じりに問う。キャプテンも伝え忘れたと目を丸くした。

「いやぁ、済まんな。第3区画まで頼む。光学迷彩までつけてくれよ、見たら皆びっくりしちまうからな」

「はいです!それでは、出発進行ですっ!」

これまでブルームーンはケイトかオートパイロットによる操舵で運行していた。しかし、ケイトが動かしている場合あまりにも荒く操縦するため気分を悪くする者が必ず一人は出ていた。オートパイロットも一度決めた路線に対して急な変更を受け付けない。アヤカを加入させたのは恐らく航行のストレスを減らすためだとレイは見た。その証拠に、発信に伴う振動はほとんどない。スムーズな加速が心地よささえ与える。

 

ブルームーンが第3区画に到着したころ、改めてアヤカは皆の前で自己紹介することとなった。彼女は高校生になったばかりらしく、レイの2つほど後輩にあたる。そして通っている高校もまた、レイも中学生の時に耳にしたことのある名前の学校だった。偏差値が高く、全国的にも有名な名門校。更には同じく難関校と称される大学の付属校でもある。現実でのスペックも相応に高いのは想像に難しない。

「と言うわけで、これからお世話になります!えっと、レイさんって言うダイバーがいるって聞いたことがあるんですけど~...」

アヤカはきょろきょろと周囲を見渡した。レイはため息交じりに右手を挙げた。

「私だけど?何?」

「えっ!?こんな綺麗な人があのレイさんなんですか!?びっくりですっ!!」

ずいっとアヤカは距離と縮めた。憧れと嬉しさで輝く笑顔で見つめられ、レイは心底気分が悪くなった。

「近いんだけど、退いてくれない?」

「あ...ごめんなさい!私、ダイバーズ始めたのレイさんがきっかけで...」

「はぁ...それ、無いわね」

えっ、とアヤカは目を丸くした。周囲の空気もまた凍りついた。

「初対面でいきなり密着してきて、「憧れでした」とか言われて、どうしろって言うの?喧嘩売ってるの?」

「わ、私そんなつもりじゃ...!」

「じゃあ私のことは放っといて。そして、出撃しているとき以外は関わらないで。それじゃ」

レイはそう言い残すと、ブリッジを出て行った。

「一体どうしたんだ?レイの奴...」

シローは困惑した顔で頭を掻いた。レイは基本的に初対面の相手には突き放すような言動をとるが、今回はかなりひどく感じられた。まるでアヤカの存在を認めたくないかのように見て取れた。

 

「また...やっちゃった...」

怜の目から涙が零れ落ちた。ダイバーズから現実に帰還した途端、後悔の念に苛まれる。ガンダムのダイバーとの間接的な再会、JOKERへの敗北、アヤカへの拒絶。どれもこれも自分自身の性格ゆえの至らなさが招いたことであると、思わざるを得ない。

(私がこのままJOKERを取り逃がすようなことがあれば...ブルームーンに居場所が無くなる...一人になるのは苦しくないはずなのに...)

本人ですら知覚できない何かに胸が押しつぶされる感じがした。ただでさえ家庭に居場所がない上に、学校でも時折居心地の悪さを感じる。ダイバーズだけが自由になれる場所だと信じていた。その思いを反芻するたび、余計に涙が止まらなくなる。自分はやはり、無価値なのだと思い知らされてならない。玄関のドアが開く音がし、怜は全身が硬直した。時計を見ると23時を回っていた。帰ってくるとすれば母親以外有り得ないが、それにしては早すぎる気がした。

「はぁ~あ...たったこれだけじゃあ、何も買えないっての!」

何かをあてにしたが、外れたらしく妙に苛立ちのこもった声が聞こえた。間違いなく母親だった。

(こっちに来る...!)

怜は息を殺しながら修繕途中のガンプラを机の中にしまった。そしてとうとう母親が部屋に前に立った。

「怜ちゃん?入っていい?」

「い、いいよ...」

恐る恐るドアを開けると、にこにこと笑う母親が。着ている服は露出度は高いがどこか気品あふれるデザインをしていた。この格好で毎日見知らぬ男達と遊んでいるのだろう。そして母親は、ハンドバッグと妙に分厚い封筒を怜に差し出した。

「はぁいこれ、お土産!」

怜は鞄に刺繍されているロゴを見て絶句した。何と「ルイ・ヴィトン」のハンドバッグだったのだ。まだ高校生である怜には到底早すぎる代物である。そしてこの封筒の中身は、見ずとも察しがついた―現金だ。

「どぉ怜ちゃん?大好きな怜ちゃんのために頑張ってきたのよ」

先日の地獄から一変した母親の行動が、むしろ怜を恐怖させた。このようなことは今に始まったことではないが、暴力よりも辛く感じるのに変わりはない。

「あ、ありがとう...で、でもこんな高いの受け取れないよ...私にはまだ早すぎるし...それに、こんなたくさんのお金...」

「何よ。受け取れないっていうの?せっかくどーでもいいアンタのために金はたいてやったっていうのに?どういう神経してんのかしらね...?」

怜の耳元で囁く。言葉の一つ一つが怜の心を切り裂いていく。

「ねぇ、怜?受け取ってくれる?」

母親は再び目の前でにっこりと笑む。怜は本能的に危険を感じ取り、反射的にうなづいた。だが、これが地獄への引き金となってしまった。

 

「怜、また学校休んじゃったね...史佳までどうしちゃったんだろ...」

翌日。美彩は力なく机に伏せていた。しかし欠席していたのは怜だけではなかった。入学から昨日まで、皆勤を継続していた史佳までもが学校を休んでいたのだ。

「何か怜、私が日本を離れる前より酷くなってない?目がもう死にかけっていうか...死んだ後みたいだったよ?」

奏が目の前に座り、美彩の顔をじっと見つめた。美彩も同じく奏を見つめながら、彼女の前髪を指で弄る。

「いろんな人が家にやってきて、助けになろうとしても断ってるっていうしねぇ...」

「怜...昔からそういう所はあったよ。何ていうか、自分が可哀そうって目で見られるのが嫌みたいでさ」

「それはそうかもね~...前に一度史佳がね、怜を何だっけ,,,何ていうんだっけ」

美彩が施設名を思い出せそうにないと奏が察した。

「家庭相談所?」

「そう、それ!そこに連れてこうとしたら史佳、マジギレされちゃって」

「強引にしようとしたんでしょ?それじゃ誰でも怒るよ...」

しばらく沈黙する二人。怜の家庭の事情は彼女の普段の様子から見て取れるほど痛ましいものである。何とか状況を改善させたいが、未だ高校生という立場では出来ることなど殆どないのである。歯がゆさばかりが募る。やがて授業開始を告げるチャイムが鳴り、奏は急いで自分の席に戻った。その折、美彩の携帯に一件のメッセージが届いた。

 

From:ふみか To:Misa☆

怜が日本を離れることになったって、今電話が来た どうしよう

 

「えっ!?」

美彩は思わず声を上げた。その場にいた生徒たちもぎょっとして一瞬だけ美彩を見てまた元に戻った。奏も気になり再び美彩の前の席に座った。

「どうした?」

「れ、怜が日本を離れるって....史佳が...」

「どういうこと?...あっ...怜のお祖母ちゃんだ!そう言えば海外で仕事してるって結構前に聞いた!もしかして?」

「そうかも!....これで怜も安心できるといいなぁ,,,」

地獄のような生活が終息すると思うと、当人ですらない美彩も奏も安堵する。

 

 

昼を過ぎた頃。怜の家に祖母が訪れた。現在この家には怜しかいないので、この瞬間を狙って帰国してきたと言う。祖母は怜の顔についた傷を見て息を呑んだ。頬に刃物で掠められた様な傷、喉元の痣。挙句眼帯と指に包帯がなされていた。全部自分で処置したのか、包帯が固定の役割を果たしていない様子だった。

「怜!?こんな酷い...美智留...何でこんな事を...!」

美智留と言うのは、怜の母親の名前である。祖母は痛めぬように怜を優しく抱きしめ、痛かったろうにと声をかけてやる。怜はと言うと何も言わず、ただされるがまま。言葉を発そうにも、喉が押しつぶされたせいで空気が声帯を通るだけでも痛む。呼吸するので精いっぱいなのだ。出来ることなら泣いてでも感情を伝えたかったが、そうする事さえ叶わぬ程精神が摩耗していた。

「怜、今すぐ。私と行きましょう...このままだといつ命まで危なくなるか、わかったもんじゃいないわ!大体おかしいのよ、本来なら落ち着ける居場所のはずの家で、こんな始末は...もう、怜...怜....!」

とうとう祖母が泣き出した。これが普通じゃないことは怜も頭では分かっていた。しかし、他人の家庭を知る機会があったとしてもそれはTVのドキュメンタリーやドラマ程度のものだろう。所詮は作り物で、現実の紛い物でしかない。怜はそっと祖母の髪を撫でた。迷惑をかけ続けてきた分、今の自分にできる精一杯で気持ちを伝えたかった。少し落ち着いてきた時に、怜は祖母を伴って自室に戻った。これが高校生の女子の部屋とは思えぬほど殺風景であった。女の子らしいものと言えばハンガーに掛けられた服やクッションくらいのもので、後は必要最低限の物のみだ。

「お祖母ちゃん...」

怜は痛みを堪え、話しかける。祖母もじっと怜の目を見て聞く。

「私...ここを離れることはできないよ...」

「何でなんだい...!?これだけの目に遭っているのに...」

「大学はもう決まってて、家を出るのも時間の問題だから...それに、お母さんが法を犯さないでいられたのも、私が引き留められたからだと思うし...」

「怜!それは違うのよ?大学が決まったことは素直にお祝いしたいわ。でもね、あなたのお母さんがどうとかっていうのは、怜は全く関係のないことなのよ?」

「うぅん...私さえ、平気なら...どうなってもいいから」

考えがすでに地獄に毒されていた。このような思考を成人にも満たない子供が持っていいはずがない。だが怜はもう、その考え方を改めることはできない。幼い時から性と暴力の地獄と隣り合わせに生きてきた彼女が、今さら普遍的な考えを教え込まれたとして、簡単に上書きできるようなものではないのだ。心と体に深く刻み込まれた教義は、一生付きまとい苦しめる。怜には自分の幸せが何なのか掴めないまま、人生の終焉を迎える可能性とてあるのだ。これを自覚できるか否か、それだけが道を開く唯一の鍵となり得る。

 

ダイバーズのとある区画のエリア。廃工場を彷彿とさせる場所に、一人の女性が立ち入った。白いローブを身にまとい、さながら高貴な者を想起させる。

「これで、私は...JOKERを倒せる」

女はそう独りごちると、目の前に立つMSを見上げた。刺々しい足先と装甲の先端、機械仕掛けの羽。全体的なシルエットで見れば「ガンダムデスサイズヘルEW」そのものだが、装甲の色は白くまとめられていた。死神の姿をしていながら神々しさをも兼ね備える、矛盾そのものと言った姿だ。

「そこに居たのか。が探していたぞ」

暗がりから騎士を思わせる風貌の男がやってきた。

「王が...?どうしてです?」

「新しいQueen(女王)が見つかったというのでな。その話だろう」

「Duke(公爵)、この機体...私に与えてくださった恩は忘れません。必ずやJOKERを討ち取って見せます」

女はデュークに深々と礼をした。

「いきなり何を言うか。これも全てキングの意思だ。気にすることはない」

デュークが去り、再び女は一人になった。もう一度白い死神を見上げると、今度はややうっとりした顔をした。

「怜...待っててね。私があなたを助けるわ....」

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