※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 6 女王の戴冠式

白いローブの女が空中にウィンドウを表示させた。一番上の項目には「ラプラス・ライブラ」と書かれている。彼女のダイバーネームだ。

「デスサイズヘルコープス...」

眼の前に依然として聳え立つ機体の名を再び口にし、噛み締めるかのように余韻を感じ取る。ようやく辿り着いたというべきか、自らの理想とする力を体現するモビルスーツを得たラプラスの目はどこか力強さを湛えていた。また騎士の男が戻って来た。

「ラプラスと言ったか?早く来いと仰せつかっている」

「分かっています。今行きます」

ラプラスはくるりと機体から向き直り、廃工場を後にした。外には何十人もの観衆が集まっており、新たな女王の誕生を今か今かと待っていた。赤いカーペットが敷かれた道を通り、王と呼ばれる人物が居る一室に入った。金色に輝く壁や、宝石を散りばめたシャンデリアなどが目を引く豪華絢爛な部屋であった。ラプラスは臆することも無くただ真っ直ぐに王の元へと歩みを進める。王は白髪の老人だが、その顔立ちは賢人その物だ。

「新たな女王の誕生に先立ち、君の力となってくれる物をプレゼントしておいたが、気に入っていただけたかな?」

ラプラスは驚きを隠せず一歩後ずさる。一体どういうことなのか分からず暫し黙考するが、程なくして気づいてしまった。自分が新たなる女王の座に立ったのだ。ラプラスは思わず跪く。

「あの機体はそのような意味があるとは知らず...察せられない私をお許しください」

「顔を上げ給え、ラプラス。何も言わず渡してすぐに理解できるものなどいない」

王は優しい声音でそれを赦し、すっと席から立ち上がった。

「さて、君は女王の座を手にした訳だが...君のすべき事は何だ?」

ラプラスは王の目をしっかりと見据えた。

「JOKERを討伐し、我々がダイバーズの新しい時代を拓く。それが我々"ヴォルクール騎士団"の目指す理想」

「結構。デューク!」

王が合図を送ると、騎士の男"デューク"が金属製の箱を持って壇上に上がった。箱の中には華美ながらも落ち着いたデザインのティアラが入っていた。ラプラスの雰囲気に合わせて用意したものと推察するのは容易だ。デュークがそのティアラを王に手渡す。

(この儀が終われば、彼女は完全に女王となる。これが吉と出るか凶と出るか...)

デュークは顔には出さぬものの、内心穏やかでは無かった。と言うのは、女王の選別が秘密裏に行われた為に基準が明瞭でない状態で、決められたからだ。本来ならばデュークの承認も取り付けた上で決定される。今回ばかりは王の考えを計りかねる。王がティアラをラプラスの頭に乗せた。その瞬間ラプラスの左目、顔の右半分、背中に光のラインが走り消えた。女王としての力とその資格を示しているのだろう。

(怜...)

ラプラスは深々と礼をすると踵を返し、王の間を後にした。程なくして、再びデスサイズヘルコープスの安置されている場所を訪れた。ラプラスが機体をまっすぐ見上げると、一瞬だが彼女の顔に光のラインが走った。デスサイズヘルコープスもそれに呼応するかの如くデュアルアイをぼうっと点灯させた。たった今、この瞬間にデスサイズヘルコープスはラプラスを主と認め、彼女以外に従わぬようになった。

「随分と気に入っているようだな。我々としても何よりだ」

「デューク。私は今にでも、この機体を慣らしておきたいんです。付き合ってもらえますか?」

「そう焦るんじゃない。君を実戦で使えるよう教育する予定はある。だが今はその期にない」

「どういう事ですか」

怪訝そうな顔で見つめるラプラスに、デュークは小さなウィンドウを表示して見せた。デスサイズヘルコープスの調整進行状況をモニタリングしているが、数値だけ着目すれば完成と言って差し支えないように見えた。

「まだこの機体は完成していない。君自身の願いをインプットして初めて形になるのだそうだ」

「私の願い、ですか」

機械であり、現実には模型でしかないものに願いを乗せる。ラプラスの感覚では理解できない話だった。

「冗談はやめにしていただけませんか。そんな事をあなたから聞きたくて聞いたのでは...!」

「君の言いたいことは分かるが、それが事実だ」

立ち去ろうとするデュークを呼び止めようとしたが、諦めた。どうにも彼の様子からして冗談の類ではないようだと悟った。

(この機体が、私の望みを...そんな事、本当にできるのかしら?)

ラプラスは眼鏡を掛け直すと、リフトを使ってデスサイズヘルコープスの近くまで上がった。

 

突然の欠席から3日後、怜は学校にやってきた。しかし、制服ではなく私服を着ていた。授業を受けるという訳でも、美彩達に合う訳でもなく全く別の用件で訪れていた。

「今日は来てくれてありがとう、久遠さん。話は君のお祖母様から聞いているけど、君本人から最後の確認を取りたかったんだ」

片桐がクリアファイルとクリップボードを持って職員室に入ってきた。最後の確認とは、怜自身が日本を離れアイルランドに生活の場を移す意思の有無についてだった。

「お祖母様はどうしてもとは言ってたんだけどね...だけど君自身の最終的な判断が無ければいけないんだ」

片桐が言葉を続けようとしたところで、怜が口を開いた。

「先生...私、日本から離れる気は無いよ。お祖母ちゃんが大袈裟に反応しているだけだから、先生は気にしなくていいんじゃない?」

「君、本気でそれを言っているのかい?強がるにしても説得力がないじゃないか...」

片桐は怜の正気を疑った。何しろ怜は未だに眼帯を着用しており、首の傷跡は残ったままであったからだ。そのような状態で大丈夫だからと言われても、二つ返事で了承できる話ではない。

「私は大丈夫だから。目も少し事故ってぶつけただけだし、すぐ直るから」

「そういう問題じゃないだろう...!君の家庭の事情は、僕にだってそれなりに伝わっているんだ!こないだだって、ケースワーカーの人を追い返してしまったって聞いたんだ」

片桐は昨日、市役所に要請して怜の家にケースワーカーを派遣させていた。結果を聞くとやはりと言うべきか、怜は何の問題も起きていないの一点張りで引き返せざるを得なかったとの回答が来た。実はこれが初めてという訳ではなった。過去にも近隣住民やクラスメイトの親達が陳情してケースワーカーを利用した事があったそうだが、10回行われたうち3回目のみ怜を保護する事ができた。しかし、異変に気付いた母親が強引に怜を連れ帰った挙句更なる暴行を加えられ、翌日教室内で突然倒れる事態に陥ったと言う。

「だから何って訳?そう言う優しいふりとかいらないから。体調、あまり良くないから帰らせてほしいんだけど...」

「そういう訳には行かない。これは僕個人としても放って置きたくないんだ」

「...だったら、勝手にすれば。私は日本は離れないし転校も引っ越しもしない。それでいい?」

怜は畳みかけるように言い放つと、足早に職員室を出た。足元も視界も定まっていない状態で学校を後にした。

 

 帰宅してすぐに怜は感情に突き動かされるままダイバーズにアクセスした。ブルームーン内における自室で目を覚まし、そのままMSデッキへ直行した。ルミナクェーサーのコクピットに乗り込むとダイブポイントを設定し、再び目を閉じた。

「ルミナクェーサー、出る」

レイが静かに呟くと、機体が青い粒子に包まれ消失する。交流広場第4区画まで移動している間、オンラインマッチングをONに切り替え、対戦の準備まで整えた。早速マッチングクリアし、対戦に移行した。

「始まった...」

ルミナクェーサーを着地させると、建物の陰に隠れ敵が現れるのを待つことにした。市街地戦はルミナクェーサーの武装構成からして、特に問題はなくむしろ好都合な部類に入る。早速レーダーに1つ目の反応が現れた。

(デスティニーガンダム...いきなりアレを使うってどうなの...?)

光り輝く翼をはためかせ亜光速で移動する機影を目視した。この瞬間に、戦いの膜が上がった。デスティニーガンダムがバレルロールをしながら長距離ビーム砲を構え、上空からルミナクェーサーめがけ発射した。レイは素早くレバーを動かし、ルミナクェーサーを左にステップさせる。そして、フリーズバスターを構えつつ建物の間を縫うように移動した。デスティニーガンダムも市街地を縦横無尽に飛び、ルミナクェーサーを先回りしようとする。だがここでまたもう一つの反応が。

「洒落臭い奴!落としてやるッ」

飛竜を思わせる重厚なフォルムのMS「ペーネロペー」が天空から舞い降り、全身から楔型の端末を飛ばしデスティニーガンダムを叩き落とした。

「ひぇえっ!?」

レイの歳の半分も行かないような見た目の、デスティニーガンダムのダイバーは悲鳴を上げ、どこまでも追いかけてくるミサイルを煙に巻こうとした。だが、いくら撹乱しようがペーネロペーが上空から捕捉しているうちは逃げ切れない。

「もう一人いる...よし!」

ペーネロペーのダイバーは意気揚々とウェポンセレクタを操作し、レバーを一気に倒した。ペーネロペーの各部から淡い波動のような物が発せられ、巨体に見合わぬスピードでルミナクェーサーへ接近する。これにはレイも半ば驚くが地面へフリーズバスターを撃ち込み、氷柱を生やして直線移動を阻害した。ミノフスキークラフトは直線的な加速に関しては非常に優秀なのだが、急激な旋回には向いていない。

「近づけさせるとまずいかな...取りあえずは...!?」

「甘いな!ペーネロペーを舐めるなよ!」

ペーネロペーが氷柱の前で急停止したかと思うと、グルグルと錐揉み回転しながら上昇、右腕のメガ粒子砲で薙ぎ払い撃ちした。ルミナクェーサーがシールドで受け止め、すかさず両肩のユニットを前面に展開。放射状にレーザーを発した。

「消えろ!」

「フン、そのくらい!」

ペーネロペーは流麗な動きでレーザーの射程外に一度出、再度加速をかけて距離を詰めた。今度は左腕のユニットからビームサーベルを発振させ振り下ろした。ルミナクェーサーも素早く反応して回避、ペーネロペーの胸部先端を蹴り押して飛び上がった。

「詰め寄られても、離れても向こうが有利...どうする?」

レイはこのマッチングの中ではペーネロペーが最大の脅威と断定した。ミノフスキークラフトによる加速性能がピーキーさを生み出しているにもかかわらず、手足の様に扱えるダイバーの実力は素直に認める所だが、負けるという結果は必要無かった。

「い、行っけぇ!!」

デスティニーガンダムがペーネロペーの背後を陣取り、対艦刀「アロンダイト」で貫かんと突進する。だが。

「悪いが...その程度、読めるんだよ!ファンネルミサイル!」

ペーネロペーの装甲の各部から、再び楔形の弾が飛び出してデスティニーガンダムを吹き飛ばした。その隙にルミナクェーサーがフリーズバスターをビームソードに切り替え、ペーネロペーの胴を一閃。斬り抜けてデスティニーガンダムをかばうような位置に立った。

「今の動き...どう見たって初心者じゃない...!」

デスティニーガンダムの反応がかなり遅かった時点で、レイはあの機体のダイバーが初心者だと看破した。

「あ、アルケイン...!?どうして...」

声からしてやはりレイより遥かに年下だった。レイはデスティニーのダイバーに努めて優しく声をかけた。

「今決めた...あなたを守るから、後は任せて」

「何...?どういう状況なんだ?」

ペーネロペーのダイバー、「ユウヤ・デリックス」はルミナクェーサーの立ち回りの変化に戸惑った。あのデスティニーガンダムに何かあるのか気にもなるが、今は目の前の戦いにケリをつける事に専念した。

「どうやり方を変えようと、俺の実力を持ってさえすれば...貴様如きッ!!」

ペーネロペーが両腕と両肩のメガ粒子砲とビームライフルを全面に向け、一斉に放った。氾濫原とも形容できる粒子の渦を前に、ルミナクェーサーは一歩も引かない。

「やって見るしかない...」

レイは何かを決心したかのように声を上げた。フリーズバスターはビームソードモードの状態で勢いよく真横に薙ぎ払った。すると、大気中の水蒸気とフリーズバスターから発せられた絶対零度の冷気により分厚い氷の壁を形成した。ペーネロペーのメガ粒子砲が着弾した瞬間に突風が発生し、両機共々吹き飛ばされた。温度差の大きい物同士をぶつけた時に風が発生する事があるが、それを利用した防御法である。

「何だと!?」

「これで隙が出来た...!」

ルミナクェーサーが左手首からビームワイヤーを伸ばし、ペーネロペーのビーム・ライフルを破壊した。立て続けにフリーズバスターをバスターモードに切り替え、最大出力で叩き込んだ。ペーネロペーは咄嗟に左腕のメガ粒子砲ユニットで防ごうとしたが、着弾した時点で凍らされて使い物にならなくなった。

「凍った...!?馬鹿な、そんな事が出来る訳が...えぇい!小汚い手を使うとは!」

ユウヤがルミナクェーサーの能力に衝撃を受けているのも束の間、ペーネロペーの眼前に近づかれていた。

「しまった...!?」

「これで終わらせる...!」

ルミナクェーサーがフリーズバスターをもう一度ビームソードに変形させ、回転斬りを見舞った。僅かな冷気の嵐も起き、その光景を見たデスティニーのダイバーは思わず「綺麗」と呟いた。

 

「やはり彼女だ...まだ続けていたのは、本当らしい」

ルミナクェーサー、デスティニー、ペーネロペーの戦いを遠くから見ていたMSが1機。JOKERと似通ったカラーリングをしているが、そちらとは異なり大型武装を身に着けているからか、重厚感溢れるフォルムをしていた。コンソールの機体ステータスの最上段には、「BLADET」と記載されていた。

「久しぶりに会うことになるなら、声くらいかけてもいいのにね」

BLADETの隣にまたもう一体のMSが着地した。こちらも赤いが、地の色が白く見る者にBLADETとは正反対の印象を与える。細身でありながらやや丸みを帯びたシルエットは、まさに女性そのものだ。勿論これを駆るダイバーも女性だ。BLADETのモニターには「フルーティストウイング」と表示されている。

「駄目だとハイラックが言ってたんじゃなかったのか『あくまでも動向の観察』ってさ」

「それはそうだけど...ウェルスだって少しは気になるでしょ?...アンノウン?」

二人とはまた異なる熱源反応が現れ、上空を見上げた。青い光を纏いながら飛ぶ白いMS。レーダーが感知するまで全く気づかなかったのが不思議だったが、それ以上にあの機体が不自然だった。

「デスサイズか?スラスターを全開にしているのに、音一つしない...」

BLADETのダイバーたる少年、ウェルスは頭上を通り過ぎる白き死神を怪訝そうな目で睨んだ。―嫌な予感がする。

 

ルミナクェーサーとペーネロペーの一騎打ちは未だ終結していなかった。ペーネロペーユニットをパージしたオデュッセウスガンダムの運動性能にレイが苦しめられていた。

「このッ!!ちょこまかと...!!」

「遅いな!貴様も所詮はその程度だ!」

高速機動を得意とする機体を相手に、砲撃機で戦うというのはやはり無謀であった。無数に存在するダイバーの中から、自動で決められたのだから運の悪さとしか言えない部分があるが、レイとしてはそれを認める気はない。たとえ運のせいで都合の悪い相手と対峙する事になろうとも、必ず倒さなければならない。それを最低条件として常に自分に課している。

「アンタをやらなきゃ、私は...!....!?機体反応...こんな時に...!!」

「新手か?丁度いい、これで状況を変えられるというもの!」

ルミナクェーサーとオデュッセウスの間に、白き死神が舞い降りた。全身に散りばめられたクリスタル、青く光る電子回路のような模様。機械然としているが元機体とほぼ同一の形状をしている翼。両手には機体の全高を超える長さの鎌が。その刃はビームで形成されておらず、実体を持っている。クリスタルを研磨して形作ったように美しく輝いていた。デスサイズヘルそのものの様に見えて、全く違う神々しさまで感じさせる。

「デスサイズヘル...コープス...」

レイはモニターに表示された機体名を何の気なしに読み上げた。だが同時にこの機体がJOKERに匹敵するほど危険だと本能的に察知した。

「頂いてゆくッ!!」

オデュッセウスガンダムは再度ペーネロペーユニットに換装し、ファンネルミサイルを射出した。しかし、発射の直前でエラーが発生し攻撃コマンドをキャンセルさせられてしまった。ユウヤはぎょっとして機体ステータスの確認を急いだ。だが機体の不調は見受けられず、ますます混乱した。

「何故だ!?ファンネルミサイルが使えないだと...だったらこれだ!」

ペーネロペーが両腕のユニットからビームサーベルを発し、飛び込み突きを仕掛ける。だが、デスサイズヘルコープスは左手に持った鎌でサーベルを軽く受け止めると、器用に刃をスライドさせてペーネロペーの両腕を斬り落とした。

「今のは一体!?」

「女王の前に不敬でしょう...消えなさい、有象無象は私と彼女のいる場には必要ありません」

右手の鎌の刃が向きと形を変え、薙刀の形状を取った。その刃先でペーネロペーの胴体を貫き、葬り去ってしまった。デスサイズヘルコープスがルミナクェーサーに向き直る。

「一体何なの...?...震えが、止まらない...!?」

レイの手がぶるぶると震え始めた。まるで地獄を味わっている時のような、心と体を押し潰されるような感覚に襲われる。だが、決定的に違うのは母親のような一方的な憎悪がない事だった。怖いことに変わりはないが、何かを振り切り過ぎたような狂気すら感じ取れた。しかしデスサイズヘルコープスは何も仕掛けることなく、飛び上がり虚空の彼方へと消え去った。まるで何かを確認する為に来たと、レイにそう思わせた。

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