疲れ果てて(笑い疲れて)眠りに就いたナミこと平良木真奈美を見て、ふぅとため息をついた。
どうにか、もうやめてください、からやめて、にまで落とし込むことに成功した事は、己も、そして小さな灯りの下で携帯電話を早打ちしている穂村も、褒められてしかるべきことだと思う。
それくらい、この子の人見知り……いや、対人恐怖症はひどいものだったから。
打算が皆無だったわけではない。むしろ、その
あり得ないにすぎる。もし彼女の美味を知らぬ者にこの話を聞かせれば、気でも狂ったかと思われることだろう。
だからこそ、その味を知ってしまった――もう後戻りできない段階まで中毒になってしまった
しかし、誤算があった。
最初は噂の域でしかなかったために、”使えるカード”程度の認識でしかなかった彼女が、会ってみて、話してみて、接してみて……どうだ。
すでに、愛おしい。
それは多分、生物として「この美味なるものを手放してはいけない」という、本能的な愛情も含まれているのかもしれないが、匕首秋華の理性の部分もまた、このか弱い子羊を守ってやりたいと、愛してあげたいと、そう思うようになってしまった。
そうなると今度は困りごとが生まれる。
即ち、姉に――匕首会の面々に見せるかどうか、という話。
匕首会、ひいては匕首の一族は、その名の通り、昔物騒なことをやっていた一族の末裔である。今でも、物騒なことは、ある。大っぴらには言えない事だが……あって、しまう。
そんな彼らに、姉に、平良木真奈美を見せたらどうなるか。
独占する――それだけで終わるだろうか。髪の毛一本が、三万円で売れると知られたら――最悪、最悪の可能性が、思い浮かぶ。
匕首秋華は家族を信用していない。いつか乗っ取ってやろうと思っている。
だが、今はただの女子中学生で、何の力もない。多少腕っぷしが強いだけ。数にも大人にも勝てない。それを知っている。
考える。
どうすればこの子を手放さず、且つこの子を守れるか。
「シュカちゃん、今度の土曜日夜にガッコのみんなでパーチーねー。なんとなんと全員参加! 上の人たちも呼んでいいかって申請きてるくらい!」
「ダメ。いやホント、ダメ。呼んだら最悪の未来になるから」
「シュカちゃん顔マジ怖いって……最悪の未来? なにが?」
「いいから、ダメって言っておけってこと。一人でも外部の人間紛れ込んだら、呼んだやつ追い出すって言っておいて」
「おぉ、いつになく怖いシュカちゃんであった……」
この調子に乗って何にも考えないバカが、一番のリスクだと思う。根はいいやつだから、おそらくおすそ分け感覚なのだろうが、匕首会の怖さというものを根本的に理解していない。今所属しているやつらだって、この締め付けのない気風を気に入って入ってきた……
親が親なら子も子、というべきか。
いや、親が厳しすぎて子が堕ちるというケースも無きにしも非ずだが……。
「それでー?」
「なにが」
「一城グループとの摩擦はどうする気なのかなーって」
……このお調子者は、そういうところは鋭いのよね……。
「仕掛けてきたらたたき返せばいいでしょ。ただし、バレないようにね」
その「バレないように」の相手はもちろん、後ろですやすやと寝息を立てている子。ほかの生徒にはバレたって問題ない。どうせビビって近づいてこないだろうし、ナミにも近づけない。
一城奈央の獲物を横から奪ったようなものだ。怒り心頭なのは安請け合いだが、手を出していないのは少々驚いた。大事にとっておいたのかは知らないけど、そんなことをしているから奪われるのだと見せつけてやる所存である。
「ふぃー、それじゃあウチらも寝ない?」
「そうね。朝起きてナミに手ぇ出してたら、寝間着のまま廊下に放り出すから」
「……寝相は許されると信じてる!」
「ダメだっつの」
全く、油断も隙もない……。
……まぁ、耳を舐めるくらいは許すケド。アタシがやりたいし。
両側からの耳舐めという恐ろしい責めに、俺の意識は覚醒した。
カーテンの暗さを見るに、まだ夜中。両脇の二人は起きているのかいないのか、寝息はするのに舌は動いているという何かの才能を感じざるを得ないコトをやってのけている。
「ふっ……んん……ぅ、ふぅ……」
耳孔を這うザラザラの触手。
全く別の動きで耳孔を駆け回り、壁を抉る様に撫でていくそれらは淫靡な音を醸し出し、何より”美少女二人に両耳舐めをされている”という事実が俺を興奮させる。
「ん、はぁ……ぇろ……」
「ちゅ……んる、んふぃ、ひぃ……」
寝息たる鼻息に交じって、舌を出し続けているためだろう、なんとも甘ったるい吐息が混じる。二人の唾液で耳はびしょびしょに濡れていて、それが耳孔に詰まって音を反響させる。より深く、より大きく、二人の舌の活動が聞こえる。
ウネウネ、じゅるじゅる、ごく、はむ。
淫猥な水音は途絶えることなく俺を攻め立ててくる。
「はぁっ……はぁっ……」
火照った身体は冷めることを知らず、心臓は早くなるばかり。
パジャマを着ていることが暑くて仕方がない。脱いでしまいたい。
そんな時、
「ぃ、ひゃぅっ!?」
「うぇへ、うぇへへへへ……」
俺の欲求を感じ取ったのか、はたまた単なる欲望故か。
実は起きていたらしい穂村ちゃんの手が俺の腹を撫でた。冷たさに一瞬腰が跳ねる。
穂村ちゃんの手は俺の腹を撫でさすり、そのままパジャマを押し上げつつ上に上がる。外気に触れた腹や、ナイトブラ越しとはいえ解放された胸が体温を逃がし始めるが、それを追い越す勢いで火照っていく身体が俺に落ち着くことを許さない。
穂村ちゃんの手がナイトブラへとかかる。
そのまま、一気にずり降ろされた。
「ひひひ……はぁ~~むっ」
「きゅ、ひゅぅ……う、ぁ、ぁぁ……」
そして――しゃぶりついてくる、口。
どこにって、そりゃ、もちろん――乳房に。
間違いなく巨乳と言い切れる秋華ちゃんとは違い、俺の胸はそこまで大きくはない。小さいことはないと思うのだが、普通クラスだ。
それに、まるで空腹の赤子のような勢いで、穂村ちゃんは吸い付いてきた。
乳房を食み、吸い込まれた乳頭を舌の根の辺りが撫でる。舌先よりも唾液に溢れ、包み込むような動きをするソコは、まるでイソギンチャクに乳首を食われたかのような(食われたことはないけど)感触で、ヘンな声が出てしまう。
自分の出した声に恥ずかしくなって、穂村ちゃん側から逃げるように顔を逸らすと――そこにあったのは、真顔で俺をじっと見つめる秋華ちゃんの顔。
「あ……んんぅっ!?」
キスは唐突だった。
無言で、絡めとる様に。
秋華ちゃんが起きていることに驚いたのか、一瞬穂村ちゃんの責めが止まる――けど、すぐに再開した。激しいキスに奪われるはずの意識は、奈央のそれとは違う――「責めるための舌技」によって感じてしまう乳首のせいで、行ったり来たりを繰り返す。
なめられて気持ちいい、ではなく。
舐めて気持ちよくさせられている……それが、今生においては初めてで。
「ぁ、っはぁ……んん、き、もちぃ……ひゅぅんんっ」
秋華ちゃんのキスが終わった瞬間、思わずそれを、口に出してしまった。
ぴた、と止まる穂村ちゃんの責め。
「乳首弱いんだ。そんじゃアタシはこっち舐めてあーげる」
「いひひ……シュカちゃん公認~。初めての乳首責めで虜になっちゃえ~」
左の乳房……いや、乳首が、コリっと挟まれた。
火照りに火照った身体に、その刺激はあまりに強い。
穂村ちゃんによって焦らされすぎていた左乳首はすでに勃っていて、噛みやすかったことだろう。
そこから壮絶なる責めが開始された――の、だろう。
曖昧なのは、そこで俺の意識が途切れているからだ。
よほど激しい責めだったのか、それとも俺の気絶癖か。
ともかく、朝起きたとき、ショーツが別のものになっていたことは――いや、考えないでおくとしよう。
二人も何も言ってこないし。
結局、真奈美が帰ってくることはなかった。
赤く腫れた目をどうにか元に戻し、登校する。
真奈美はまだ、彼女のクラスに来ていなかった。
「やぁリーダー。この世の終わりみたいな顔だね。ふんふん、察するに平良木ちゃんに愛想をつかされたのかな? ……おいおいさらに落ち込むなんてリアクションは予想していないぞ。え、ホントに? 嫌われたかも? ……いやまぁ、その可能性は決してゼロじゃあないが……あんなにリーダーに依存していた子がリーダーを嫌うなんてあり得るかなぁ。
え、酷いことをしてしまったのにちゃんと謝れなかった? あー……。納得。納得するな、って言われても……いや多分、一城グループの人間なら全員納得すると思うよ?
ああ、はいはい。わかったわかった。真剣に考えるから睨まないでくれ。
ええと、どうやったら仲直りできるか、ってことだね。うーん。一番は素直にごめんなさいと謝ることだけど……まぁ、リーダーに素直に謝るなんてできるわけないし、どうしたものだろうね。
……匕首会ィ!? おいおいリーダー、なんで止めなかったんだ! あんなトコに引き込まれたら、平良木ちゃんは
……本当に知らないのか。いや、参った。うちのリーダーは思ったより純粋だったみたいだ……いいかい、リーダー。匕首会は――おっと」
「……」
こっちは何も言っていないのに、サイコメトリーかと思うような勢いですべてを察してきた幼馴染の口が噤まれる。彼女の目に浮かんでいるのは、警戒。
私の背後……振り返ると、そこには。
「よぉ、一城。
「な、奈央……おはよう」
真奈美の耳を両手で塞いで、ニヤついた笑みを浮かべる匕首の秋華の姿があった。
彼女のは真奈美の耳から手を放し、そのまま――ほっぺをぐりぐりと、指先でつつく。一瞬で爆発しそうになった怒り。
だが。
「ちょ、ちょっと、やめてよ、秋華ちゃん……!」
「はは、いーだろ? アタシとナミの仲なんだしさ」
その様子に、すべてが萎んだ。
真奈美が完全に警戒を解いて――敬語も取り払って、あだ名まで許している。
もういらない、と。
いわれているような気がした。
「んじゃ、一城。
もらっていくよ」
「……好きにすれば」
引き留める言葉は出なかった。
突き放す、拒絶の言葉が出ただけ。
一瞬真奈美が目を見開いたが……どうでもいい。もう、関係ない。
あの子とはもう、相部屋なだけだ。
「――ちょいと待ちなよ、匕首の」
「あん?」
いらないことをする幼馴染を睨みつける。だが、睨み返された。
「……平良木ちゃんは、自分の意志で匕首会に入ったのか? それとも、何かを盾に無理矢理」
「自分の意志だよ。なぁ、ナミ?」
「う……うん」
「……そうかい。引き留めて悪かった」
「はいよ。じゃ、行こうかナミ。教室まで送って行くよ」
……ほら。余計な事だ。
私が選ばれなかったというのが確実になっただけ。
選ばれなかった?
……拒絶したのは、私のほうでしょ。
「このままでいいのかい?」
「いい」
「……重症だな、これは。さて、どうしたものか……」
もう、いい。
もう――嫌われることを、心配しなくていいのだ。
「リーダー、いいかい。平良木ちゃんは別に君を嫌っているわけじゃ」
「別に、どうでもいいわ。そんなこと。私も特に好いていたわけじゃないし。利用価値があるから付き合っていただけ。あの子の利用価値は消えていないのだから、何か問題ある?」
「……リーダー。いや、奈央。落ち着け、そう卑屈になるな。君は嫌われては、」
「だから、どうでもいいって言ってるの!」
……トクベツ、なんて。
結局、その程度の価値しかないのだ。関係性がたった数日冷めただけで、トクベツの価値も薄れる。下の名前を呼び捨てにする事より、あだ名で呼ぶことの方がよっぽど親しいじゃないか。家族と奈央だけだよ、なんて。やっぱり、その場しのぎ。理事長と私の顔を持つための方便でしかない。
対人恐怖症もたった一夜で治ってしまったじゃないか。よほど相性が良かったのだろう、私なんかよりも、ずっと。
もう、いい。
やきもきしていた自分が馬鹿みたいだ。ストレスを溜めたことにさえ怒りが湧いてくる。
このイライラ、どこにぶつけるか。
「奈央」
「……なによ」
「オマエ、今、すごく最低なコトを考えているだろ。やめておけ。崩れるぞ」
「昔からわかったような口を聞くと思っていたけれど、今回はとびっきりね。当て外れにもほどがあるわ」
「その程度では私は怒らない。だが、彼女は幼い。あまりにも。今の君の言葉と態度は、たやすく彼女を傷つけるぞ」
「それが?」
「……後悔するなよ、リーダー」
そんなもの。
もう、とっくのとうに――。
「た、ただいま……」
学校が終わり、秋華ちゃんの部屋に寄って着替えを返してもらって、奈央との相部屋に帰宅できたのは少々遅い、二十時頃だった。着替えを返してもらうまでにひと悶着――穂村ちゃんによりイタズラ(静粛済み)――があったからこんな時間になってしまった。
今朝、相も変わらず怒っている様子だった奈央。
愚かなことに自分が何をしてしまったのかは思い出せないが、自分が何をしたのか聞いて、謝るつもりだ。奈央との関係は壊したくないし、何より怒ったまま、というのは奈央がつらいはずだから。
「……奈央?」
部屋は暗い。
玄関にはしっかりと奈央の靴があるのに。
もう寝てしまったのだろうか?
玄関と部屋を繋ぐ廊下を行く。部屋の扉は閉まっている。
「……奈、」
央ー? と、言いながら部屋に入ろうとして。
物凄い力で部屋に引き込まれ、ベッドに押し倒された。
そして、両手が纏められ――ガムテープだろう、粘着質のそれで、硬く縛られる。俺の両手を縛ったその存在は、そのまま俺に馬乗りになって両足をつかみ、同じようにガムテープでぐるぐる巻きにした。
今度は髪の上から、目を覆うガムテープ。後で取るのが痛そうだな、などとのんきな事を一瞬考えたら、耳まで塞がれてしまった。
そして、仕上げと言わんばかりにぐしゃぐしゃに丸められた布が口に突っ込まれる。
あまりにも早い、そして乱暴なそれに声をあげようとして――喉を掴まれた。
苦しい。涙が出る。
離される手。再度声を上げようとすると、また掴まれる。
声を出すなと、そう言いたいのだろう。
だんだんと掴む時間が長くなっている事実に恐怖し、声を出そうとすることをやめた。
「それでいいわ」
ガムテープによって遮られた、くぐもった声が聞こえる。
たとえくぐもっていても聞き覚えのある――聞こえ間違えようのないその声だったが、声を出そうとすると喉を掴まれることを思い出して、その名を問いかけることはできなかった。
ジョキ、という――布を切り裂く音。
腹に冷たいモノが当たっている。昨日の穂村ちゃんの手のような人肌ではない。
金属製の――冷たい、モノ。
それは少しずつ、少しずつ首の方へ上がってきている。
「暴れてケガしてもしらないから」
どう考えても彼女とは思えないその声に身体を硬直させた。
そして、とうとう首の付近まで達したそれが、チャキ、と音を鳴らす。
外気に触れる上半身。あぁ、やはり。
そして同じく、下半身――スカートとショーツもまた。
わざわざスカートを切る辺り、そうとう怒っている――いや、恨んでいるのかな。
自身の肌が、恥部が――外気に晒されたことを感じた。
全身の力を抜く。
これは贖罪になるのかな。
これで奈央の怒りが、鬱憤が晴らされるのなら……素直に、為すがままになろう。怒らせたまま放置した俺が悪いのだ。むしろ奈央のような美少女に強引にされて、ご褒美だと思うのは……不謹慎かな。うん。せめて謝ろう。謝り続けよう。
彼女はまだ中学生なのだ。大人の俺が、子供の彼女を怒らせてしまったのだから、その怒りは甘んじて受け止め、いち早く仲直りをする機会を作らないとだよな。
……それが性的な事である、というのは、まぁ。
ちょっと……ちょっとだけ、まぁ、その。
嬉しかったり……いやいや。うん。奈央の好きにしてくれていいよ。
「ごめんね……ごめんね、奈央……うぎっ」
「黙って」
首を掴まれた。
……こんな邪念たっぷりで謝られても、怒りは収まらないよなぁ。
美少女からのレイプなんてご褒美にキマッテッダロ!!