何気に中学生。
とにかく寒い日だった。この分だと午後4時頃から明日にかけて雪が降るだろうとニュースが騒ぐ。…確かに降ってもいい頃かもしれないが、毎年自分たちが住む場所にはちらほらとしか雪が降らなかった。熱斗の幼い頃からの密かな夢は、ふわっふわの雪山にダイブすることだったりする。
「うぅ〜、寒ぃ…」
今日の天気と気温を見くびっていた。流石にいつものシャツに七部丈ロールアップパンツという出で立ちではなく シャツに厚手のパーカとジーンズ、それに適当なネックウォーマーをつけてきたのだが、それでは足りない。コートがほしい。
「熱斗くん、近くのお店に入って待ってたら?暖かいだろうし…」
「ダメだよロック、あそこどー考えても大人の店だって。俺が入っても浮くだけ!」
ロックこと熱斗のネットナビの「ロックマンエグゼ」が提示した店は、確かに大人っぽい高級料理屋だった。だがそんなところに熱斗のような子供が入っても追い出されるだけだろう。そう思って熱斗はネックウォーマーに口元までうずまる。
「でも、炎山がいつくるか分からないもの。君が風邪引いちゃうのは困るなぁ…まだ冬休みの課題とレポートもあるんだろう?」
「ゲッ、…それよりロックは兄さんだろ?課題より俺の心配してよ!俺の!」
あはは、と笑ってロックが返した。…そう、この寒空の中 熱斗は恋人である炎山を待っていたのだ。突然「今日会えないか」と簡潔なメールを寄越してきて、熱斗が浮かれて支度を終え、そこに向かうと PETに「すまん、仕事が長引きそうだ、待っててくれないか」とメールが入った。いつもは熱斗が遅刻する側だからそのくらいは、と思って待っているが、IPCの若副社長…炎山は一向に現れない。既に一時間半も待っていたのだ。
「…いつもならもっと早くに連絡くるんだけどなー、あいつも忙しいんだろうな」
「そうだね熱斗くん、…うわぁ!手が冷たいよ!PETにさわんないで!」
熱斗の冷え切った指先がPETに触れた途端、大袈裟にロックマンが騒ぐ。
「ったく、ちょっとは我慢しろよ。なんでナビが寒さ感じてんだっつの」
そんなことをいいながら通話画面を開き、炎山のページを操作する熱斗。見兼ねて電話をかけようとしていた。すると…
「…熱斗、捕まえた」
「!!?」
突然後ろから抱擁された。普段人のいるところでなんて滅多に言わないようなセリフを吐きながら登場した彼…炎山は、遅れたことに悪びれもせずご機嫌そうだ。
「なっ、…炎山、お前…いつもは連絡くれるのに!どうしたんだよ?」
「あぁ、そういえば…。待たせて済まなかったな、熱斗」
そう言って頭をポンポンと撫でられてしまっては、熱斗は何も言えなかった。
「…お前、狡いんだよ…っ ばーか!ばーか!」
「はいはい。ほら行くぞ、映画に遅れてしまう」
半ば強引に、それでいて優しく引かれる手。
「!…お前、手が冷たいな…手袋をしてこなかったのか?」
「…こんな寒くなるなんて知らなかったんだよ…持ってきてない。寒空の下、お前を待ってたから余計に冷たいぜ」
じと、と炎山にしけた視線を送ったが、それもふわりとした炎山の笑顔でかき消されてしまった。
「馬鹿だな、熱斗は…こうしてやるから、行くぞ」
「!…あ、う、うん…」
流石は紳士・炎山。自分のコートのポケットに熱斗と自分の手を忍ばせ、ゆるりと歩き出した。
悔しいけどとてもとても綺麗な笑顔だった。
じんぐるべーる、じんぐるべーる、すっずっがーなるー…
普通に人が通行する冬の街。どこかの子供の聖歌隊がクリスマス・ソングを歌う。そういえば今日はクリスマス・イヴだったっけ。
どうやらロックマンは炎山のPETに移動し、炎山のネットナビであるブルースと話をしているようだ。彼らも自分たちのおかげで長い付き合いになりつつあり、互いに信じられる親友だと思っているようだ。
「炎山…その、手…。人、いるから…」
「混んでるから大丈夫だ。…それにお前となら噂になったって…いい」
「はぁっ!?ば、馬鹿じゃねーの…」
素っ頓狂な声を上げても周りは忙しなく歩き回り、確かに二人のことをじっと見つめる者はいなかった。
「…ふ、ほら 着いたぞ」
そこは最近新しく建設された映画館で、空中通路を伝うと近くの大型ショッピングモールの二階へ渡れるタイプだった。
「わー、ここ来たかったんだよな!…行こうぜ炎山、早く「天才ドクターの天災な日々」見よーぜ!」
「お前って奴は…ああ、いくか」
元気にグイグイと自身を引っ張る子供のような熱斗に苦笑し、炎山も中へと入った。
「あー、楽しかったな!やっぱああいうのってワクワクするぜ」
「楽しめてよかったな、俺も楽しかった」
二人が見たのは「天才ドクターの天災な日々」というSF系の映画だった。
天才博士の作った自然環境保護用ロボット「G-557s」が突然暴走して時空を移動し、それを止めるべく対策マシンを作った博士が追っかけで時空を移動する…という話で、途中に科学的なことやパソコンのハッキングなど熱斗の興味をくすぐる内容があったもので、彼は大喜びだった。
「で、次は何する?…あ」
ぐぎゅるる…と盛大に熱斗の腹が鳴り、炎山が吹き出す。
「ぶふっ!…腹が減ったのか、じゃあ何か食べよう。熱斗の食べたいもので構わない」
「はは、わりー…やっぱ空腹には勝てないよな!」
もう一度笑われたあと、ボソッと可愛いな、と言われる。熱斗はまた赤くなってしまった。
「な、なんか今日の炎山、変だぞ」
「ん?そう見えるか?…何にもないよ」
やはり変だ。そりゃあいつも余裕綽々で嫌みたらしいところはあるけれど。
何だか今日は、
「…なんか…かっこいい、かも」
ボソリと呟いた言葉は幸か不幸か、彼には届いていなかった。
「なにか言ったか?」
「え?あ、ううんなんも! 何にも言ってない!」
人混みの中で二人の暖かな声が響いた。
夕飯は熱斗が食べたかったパスタを食べに、近くの洒落たイタリア料理店に入った(炎山の特権で熱斗も其れなりに堂々としていられた)。本当はカツ丼が食べたかったのだが、そこは彼も中学生で、少しはムードというものを優先させようと思った結果だった。実際パスタはとても美味しく、舌鼓をうって食べていると炎山に笑われてしまった。まだまだ上品にムードたっぷりに食べることは難しい。
二人はパスタ店から出ると、街のクリスマスツリーの近くまで歩を進めた。ここには毎年超巨大なツリーが飾られる。煌びやかな電飾とたくさんの飾りによって、街を一気に暖かなクリスマスの雰囲気に包んでくれるのだ。
「わー…いつ見てもキレーだな。まだ電飾はついてないけど」
「…うん、俺は毎年なかなか来れなくてな…こんなにじっくり見たのは幼いとき以来か」
「え?炎山は毎年見ないのか?」
この街の住人なら必ずや見るであろうこの巨大ツリーを見ていないのだと知って、熱斗はきょとんとして炎山をみた。
「考えてもみろ、俺は元旦以外は大抵仕事漬けだろう?見る暇もないんだ」
「あ、そっか…」
穏やかな顔でツリーを見つめる炎山は、確かにずっとずっと仕事漬けである。幼い頃からずっと、大変な思いをしてきているのだ。
「えんざん…」
ぼう、と炎山を見つめる熱斗に気づき、彼は少し首を捻って熱斗を見た。
「どうした?」
「…あのな、これからは…来年からは、毎年見にこよう!それで、ツリー以外だって…花見にだって、海だって、紅葉狩りだって、何だって行こう!俺と、俺と一緒にさ!」
言って、歯を見せて笑った熱斗にたっぷり五秒は魅入ってから、炎山はぽんと熱斗の頭に手を置いた。
「ありがとうな、…そうさせてもらうよ。今年も来年も、これからずっと…お前といたい」
「炎山…ああ、ずっとだぞ」
熱斗が本当に嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に目を瞬いた炎山は、無言で熱斗の手を引きツリーの裏側へと回り込む。
「え、えんざんっ…どこ行くんだよ」
「…、熱斗」
「…っんう!?」
完璧に裏に回り込むと、炎山はいきなり熱斗にキスをした。裏と言ったって案外広いスペースがある。ただ、人は通らないし溜まりもしないのだが。突如、一斉にツリーがライトアップされた。
数秒後、二人が口を離した。
「…わぁ…なぁ炎山、見てみろよ」
「あぁ、見てるよ…綺麗だな」
「うん…… え?」
見上げた熱斗の鼻先に、ちょこんと白いものが舞い降りた。炎山はそれを見て、真上を見上げる。
「…雪だ…」
ホワイトクリスマスだった。やはり熱斗の読みは当たっていて、現在20時38分にふわふわの羽毛のような雪が降ってきたのだ。
「こんな雪がふるってことはやっぱ、すっげー寒かったんだな」
「お前、そんな薄着で大丈夫なのか?」
「心配ないよ、炎山いるし」
「俺がいたって何もならないだろう…ふ、ばか熱斗」
炎山はそう言いながら熱斗を優しく抱きしめた。熱斗は一瞬戸惑うも、直ぐにおずおずと相手の背に腕を回した。
「メリークリスマス、熱斗」
「メリークリスマス、炎山!」
抱きしめあった二人はこの日、一番暖かかった。
ねーブルース、熱斗君と炎山…すっごくいい感じじゃない?
あぁ…炎山様が…俺の炎山様が
なに言ってるのさブルース!オペレーターの…親友の幸せが一番じゃないか!
…まあ、そうだな…
落ち込まないでよ!僕らも仲良し仲良し♪
貴様!腕を組むな!腕を!
END
なんとも甘くておバカさんになりましたが許してください…
投稿を再開した本編と、まだ止めていますがソロのお話もよろしくお願いします。