「じゃあ……まずは木の棒を……二本用意する」
「どれぐらいの長さがいいかな?」
木の棒でもさまざまな物があるだろうし。
「教えられる……のは槍術ぐらい………だからこれぐらい……の長さのやつ…がいい」
そう言って持ち上げたのは地面に置いてあった槍だった。
「その槍ってなんて名前なの?」
「方天画戟……何故かは知らない」
「そうか、そういえば恋の過去を聞かせてもらってもいい?」
恋が孤児なのは知ったけれどそれ以外は知らないからな。
「わかった…木の棒見つける時に………歩きながら話す」
僕達は洞穴から出て木の棒を探し始めた。
「木の棒を……探し終えたら…帰りに………魚を捕まえる」
今はまだお昼頃になるかならないかぐらいだから丁度よかった。
「うん、そうしようか。それで今気をつけないといけないことって何かない?」
「獣…特に猪と熊……この辺は………よく出る…戦うのも……稽古の一つ……でもまだ武器が………ないから恋がやる」
そうか、猪と熊が出るのかここ。今は恋からできるだけ離れないでおこう。
「わかったよ、できるだけ恋から離れないでおくよ」
「それがいい……奇襲されなければ………どうにかなる」
「この木の棒とかどうだろう?恋」
「長さはいい…でも硬さが足りない」
「そうか、あと恋はここにどれだけいるの?」
さっそく恋のことを聞き始めた。
「よく覚えてない……けど半年ぐらい?……だと思う」
それはこの年で一人でいるのは長いことは記憶がない僕にもわかった。
「そんなにここに一人でいたの?」
「うん……でもたまに……人里に行って……獣の毛皮とかを…交換しに行くよ」
「何を交換してもらいに行くの?」
「武器の手入れに………必要な砥石とか……解体の刃物とか……服」
確かに血とかで汚れた時の服は必要だよね。
「そうだよね。じゃあ恋に聞いたら怒られるかもしれないけど今何歳?」
「いつ産まれたのか……わからないけど…多分四歳……だから多分一緒」
やっぱり孤児だとかだとわからないことは多いよね。そういう意味でも今の僕と恋は似てるんだな。
だからこそ僕も恋と寄り添えられるように頑張らないといけないな。
「ごめんね、話しづらいこと聞いちゃって」
「ううん…恋のこともよく……知ってほしいから…いい」
「ありがとうね。あとこの木の棒とかどうだろう?」
「うん……いいと思う………それと後で…好恋の槍も……交換しに…………一緒に行く」
そっか僕の槍も手に入れないといけないもんね。今の僕、恋に頼りっぱなしだよな。情けないけど。
「そうだね、一緒に行こうか!」
「うん…後この木の棒で……いいと思うから…探すのおしまい……次は魚を捕まえる」
思っていたよりも時間は経たずに探せてよかった。
「それじゃあ小川があるところまで行こうよ」
「こっち……案内する」
そういえば恋ってどれくらいたべるだろ。
「恋ってどれくらい魚を食べるの?それによって魚の取り方が変わるんだけど」
「そうなの?………五匹ぐらいかな……どうとるの?」
思ってるより食べることに驚いた。僕よりも食べるんじゃないかな。
「それは小川で実践するよ」
「わかった………楽しみにしてる」
その時の恋はとても楽しいそうな嬉しそうな顔をしていた。僕は恋のこの顔をずっと守っていきたいとより決意した。
それから数十分後、小川に無事着いた。
これまででよく出ると言っていたわりにはまだ獣を見かけていなかった。でもまあ、こんな日もあると恋は言っていたけど何か嫌な予感がするな。
「ここがそう………それじゃあ…見せて」
「うん、そしたら悪いんだけど何でもいいから川に投げてくれる?」
「何でもいいの?……わかった……じゃあこれ投げる」
そう言って持ち上げたのは石ころ程度でよかったのに僕達の半分ぐらいある岩だった。
ドーン、バシャーン
すごい音を鳴らした。この時点でうまくいくかわからなくなってしまった。でもとりあえず実践はすることにした。
「成功しなかったらごめんね」
「大丈夫………そしたら……素手でとるから」
この時僕の頭の中では熊のように恋が川で鮭を捕まえているシーンを想像してしまっていた。
「さっきの音とかで小さい岩の下なんかに魚を行かせるんだ。その後その岩に他の小さい岩をぶつけてその衝撃で魚を気絶させて捕まえるんだよ。こんな感じにね」
そして、僕も魚が隠れていると思われる岩に小さな岩をぶつけた。
ゴーン!プカプカプカ
予想通りに魚を気絶させることができた。
「すごい………とりたい放題……全部とる?」
「必要な数だけとって後はそのままほっとけば勝手にまた動き出すよ」
「そうありがとう……流石恋の夫」
そう言って僕の方を振り向いた瞬間そいつは現れた。
「グルルワアアァァァ!」
その時、恋なら普通に反応して対処したのだろうと思う。
だが僕にはまだ熊の方を振り向いてもおらず、方天画戟を持っていない恋しか見えてなくて、自分でも気づいた時には熊と恋の間にいた。そして、
「ガアアァァァ!」
「ぐはっ!?」
「え?……そんな!…許さない!許さない!!」
僕は熊の爪で身体正面を切り裂かれて吹き飛ばされていた。
今の僕は身体中が痛くて多分この時、骨折もしていたのかもしれない。それに血もそれなりに出ていたせいか、意識も朧気でうまく周りが認識できていなかった。ただ一つだけ認識できていることがあった。それは
「よくも!よくも!よくも好恋を!!貴様だけは!貴様だけは絶対に何がなんでも殺す!!」
これ程までにも怒り狂っている恋が僕と熊の間にいることだ。
そして、この時の僕はまた、恋って感情が強く出るとこんなに喋るんだと馬鹿げたことを考えていた。
「グルルワアアァァァ!!」
「死ねねねええぇぇぇ!!」
熊は確実にこちらの気が緩んだ瞬間に襲ってきたことからも、きっと人を何度も襲ったことのある人喰い熊だったのだろう。
しかし、今回は狙う相手を間違えた。僕一人だけならそれは当りだったかもしれない。だが恋が一緒にいたことだけが熊の敗因だった。そのうえに恋の前で僕を傷付けている時点でもう熊の命はないだろう。
「ガアアァァァ!」
「くたばれれえええぇぇ!」
熊が何度恋に腕を振ってもことごとく躱される、方天画戟で弾かれ、防がれ恋を傷付けることはできなかった。
まあ、恋を傷付けたら僕が傷付いようと関係なしに熊に特攻するのだけど。
そして、逆に熊は少しずつ恋によって傷付けられていた。何度も傷付けられたせいか体力も失っていき
「これで!最後だああぁぁぁ!!」ザシュッ
「ガアアァァっっっ」ズドン
最後に恋に首を刎ねられ死んだ。
そして、僕は暖気にこれらを見ていた。何故ならもう僕はきっと助からないと思っているからだ。だってこんな場所でこんなにも血を出しているだもん。助かるわけがない。
でも僕はこのまま死んでも恋には悲しい想いをさせるけれども悔いはないのだ。だってもし、あの場で割り込まずに恋に傷ができていたのかもしれないのであれば、その事に僕は一生後悔すると思っているからだ。
そして、それが当たっているかのようにだんだん僕は目が見えなくなってきていた。
「好恋、ねえ好恋、しっかりして好恋!」ポロポロ
「恋、どうやらそんなにもう持ちそうにないんだ。だから悲しまずに今は落ち着いて聞いて。ね?」ポタポタ
「わかった…グスッ何?」ポロポロ
ああきっと今、恋はとても泣いているのだろう。
「僕が死んだら遺品として僕の髪を切って持っていて」
「わかった…他は…何かない?」ポロポロ
「そうだな、死ぬ前に口づけをしながら死にたいな」ツー
「わかった…そんなこといくらでも…するからだから……死なないで!」ポロポロ
「「んっんん、ちゅうっ…」」
「はは、何だか身体の痛みが引いてきたな。そろそろ死ぬのかな?」
「そんなこと…言わないで……っ!?好恋傷が」
「傷がってあれ?目もいつの間にか見えてる?それに傷も塞がってる?何で?」
「よかった……よかった…よかったよ……グスッグスッ……何でもいいけど…好恋が死ななくて…よかった」
こうして、僕は死ぬと思っていたが恋と口づけをしたことにより生き延びることができた。でもなんでだろ?