※この作品はR-18です。

Ith-Videoは観測する   作:灰の熊猫

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*贋を捧げよ

「ん、ふぅっ……う。いやに、優しいです、ねっ?」

「言ったろう、”味わう”と」

 

 見通せぬ程ではないが、お互いの表情の色も闇によって薄れるほど。そんな場所で、男とルージュは共にベッドで横たわり、吐息の熱を少しずつ上げていく。

 杏色の仄かな照明と、窓の外から見える生活の光。それのみが部屋での全ての光だった。

 その薄灯の中、男が最初にルージュに求めたのは、頭の位置を逆に寝そべらせながらの相互口淫――数字の六と九の字を二人の身体でシーツに描く事。そんな前戯からだった。

 

「んっ、ふっ、う……意地悪ですね」

「どうした、しないのか」

「やっとベルトを外した――ンッ、所なんです。こちらも脱いでくれれ、ばっ、良かったのに」

「そちらに頼みたかった。不快か」

「いえ、全然♪」

 

 と言いつつも、現状は男がルージュの股間に顔を寄せ、肉裂の上から舌先で小さく掻く様にしているだけで、ルージュは未だに行為にありつけていなかった。

 というのも、男は上半身の衣服こそ派手に取り払ったが、ズボンはそのままだった。

 ただ面積の狭い下着を僅かに横にずらせば、それだけで局所が全て露わに出来てしまうルージュと違い、男の局部を刺激するには手間が要る。ルージュは秘部を舌で刺激されながら、ようやくベルトとジッパーを解放し終えた所だった。

 

「ンッ。……意外ですね、もっと声を荒げさせたいものかと」

「優しい方が好みなら、激しくする。逆ならこのままだ」

「やはり、意地悪ですねえ。まぁ、どちらも同じですよ」

「そうか、ならば激しくしよう」

「あんっ!」

 

 男はそれまで、舌先で優しく秘部の表面だけをなぞる愛撫をし続けていた。それがここに来て、鼻を股間に密着させる程に顔を寄せ、音を立てて吸い始める。

 舌先に力を入れ、僅かに湿り気を帯び始めている陰唇を割り開く。誰もが触れるほどに無防備でありながら、未だ触れられていなかった内側を強く舌で突き、舐め上げる。

 それで、ようやく声が聞こえた。飾り気の無い――ように聞こえた――、ルージュの色声。

 

「……本当に変わりましたねぇ。小手先の騙しは嫌いだった筈ですが」

「そうだな、面倒だし不得手だ。だが、たまにはいいだろう。どうせ一夜だけだ、色々やろう」

「ふふ。……それじゃあ、反撃させてもらいますよー♪」

 

 口を一度離し、言葉を交わす。ルージュの声は再び元の高さに戻り、息を整えている様子も無い。

 少しの愛撫だけではルージュの何重も重ねられ、思考を阻んでくる仮面を取り去る事は出来ない。わかりきっていた事だ。だからこそ、色々試す。

 男は再び陰唇の表面を舌でなぞるだけの動きに戻す。変化をつけ、”もどかしい”と思わせれば十分に勝ちだ。目の前の女の飾らない本心(ことば)なぞ一度も聞いたことがない。だからこそ、目指す価値のある景色だ。

 男のズボンが下着ごと引き下ろされ、十分に屹立した肉棒がルージュの鼻先へと突き付けられる。男の口にはまるで性の色が無い。男もまた、真実を隠したまま生きることに慣れ、結果ペルソナを外せなくなっている。

 だが、そこだけは違う。肉棒は黒く脈打ち、先は僅かな明かりを反射して張り詰めている。一舐め、一呼吸。それごとに、内側に隠して本人すら持ち出す事の出来なくなった”男”を反映する。

 冷たい両掌が、熱に添えられた。

 

「こんなに大きくして。うーん、あ(・)な(・)た(・)とは何年ぶりでしたっけかー」

「恍けるのもそこまで来ると小言すら言えんな。”初めまして”とでも伝えろ、口の中でだ」

「はいはい。日本で足りない小粋なジョークの、ッ、つもりだったんですが」

「いつから日本(しま)に帰化した。そもそも、国籍など在るのか」

「んっ――忘れちゃいました、ごめんなさい♪」

 

 口だけは軽快に、しかし吐息は熱く。秘部を緩やかに、しかし偶に深く愛撫されながら。ルージュは鼻先のモノへと、贋作の愛情を表現して数度刻んだ。

 贋作だ。何もかも、贋作だ。関係も、囁く言葉も、動かす身体も。どれもこれも真実には程遠く、仮に実像であったとしても閉ざした心という万華鏡が映した、只の作(・)品(・)に過ぎなかった。

 お互いにそれを問うことは無い。どちらでも良いのだ。肌を合わせていながら、どこまでも心は隔絶されている。あるいは、お互いに肉体が造り物である可能性すら否めない。そんな世界だ。

 事実、ルージュの身体は造り物と言われても驚かない。肉を着た人形に魂を込めたり、或いは実体として触れる事の出来る、意のままに動かす幽体か。そう考えてしまうほどには、掌は冷たかった。

 ”冷たい手と温かい心”。そんな比喩すらも贋作に出来る。冷たい手が作りたいだけなら、肉(・)体(・)だ(・)け(・)が(・)死(・)ね(・)ば(・)それで済む話だ。いくらでも、贋作を作ることが出来る。それは、良く知っていた。

 しかしそれでも、男の目の前の秘部より溢れる熱と薫りだけは真と感じる。贋作を、真実と視て。お互いに贋作を提示し合い、享受し、そして身体の熱を求める。

 ――この一晩の夢の中でだけは。そんな偽り(やさしさ)に浸りたかった。

 

「んっ、ふ、ンッ!……ふふっ、フ、んぅう……」

「く……はぁ、む、う」

 

 静かな時だった。ただお互いの脚の間に頭を埋め、どちらとも知れぬ吐息を出し合い、舐め合う。

 あらゆる音から離れた時間の中に、吐息と身体しか無い。お互いの仮面を睨み合う必要もない。どうせ、どちらも死ぬまで仮面を下ろす事など出来ないのだから。

 お互いに濡らし、濡らし合い。零して、熱を吐いて、呼吸する。

 それが、命というものだった。その実感だけを、どんな骨董品(さがしもの)より求めていた。

 

「あッ、はっ……!?ンッ、ンッ……!」

「……どうした。まだまだこちらには余力があるが」

「……ふ、ふ。本当に意地悪に、なられて……」

 

 深くに舌を埋め、何度も吸ってやる。声の艶は次々に増すばかりで、平常の声に戻る間隔は少しずつ狭まっている。

 初めは冷たく感じていたルージュの身体も、はっきりと熱を帯びている。前戯だけでこれだけになるのは、それだけ感度が高く、今されている事を全て受け入れているからだ。

 だ(・)か(・)ら(・)、(・)心(・)配(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

「――なかなかの効力(もの)ですね。何を煎じたので?」

「中東では野菜と同じ程に採れる薬物(モノ)があった。まぁ、路上に転がるものはどれも粗悪な物だったが……その大本の植物を、一晩かけて私にも効く様に調合した。これが無ければ、面倒な欲を散らすに時間がかかるのでな」

「ふふっ、んぅっ!……悪い人。こんなもの、人に呑ませるものではありませんよー」

「お互い常人(ヒト)では無い。それに、貴方は解っていながら呑んだろう。止める間も無かったぞ」

「あはっ。バレちゃいました♪」

 

 顔を上げ、胴越しに視線を交差させる。赤く、しかしルージュの瞳ほどではなく。それでも肌は熱に染まり、色に浮かされているのがわかる。

 男もまた全身に回した強壮剤の効果が出てきているのを自覚する。しかしそれを真に見れるのは、相手だけだ。相手の目を通し、相手の瞳の奥と言葉で、それがようやく真実と自覚できる。

 自分のことなど解らない。下手をすれば、誰かの心よりも。

 だから、こういった薬にも頼った。仮面の裏に落として失くした、自分を拾う為に。

 

「後遺症が気になっちゃいますねー。あっ、”これからの一晩”は”死ぬまでの一晩”だったり?」

「悪いが、自身と人とで臨床は済んでいる。常人であれば一口で色に狂い、自覚する頃には自我を溶かして気絶するまで貪り続ける。……あれだけ飲んで口が回る相手に、そんな効果は望めん」

「あー怖いですねー。危うくお持ち帰りされちゃうトコです。新婚旅行ならハワイがいいです♪」

「薬程度で壊れる相手を伴侶に選ぶつもりはないし、この薬が効かない程の相手を連れるのは御免被る。”命が惜しい”とは言った筈だ」

「あら残念。私、尽くすタイプなんですけど」

 

 身体の向きをゆっくりと向こう側へ戻し、再び両の掌を合わせて共に白いシーツへと沈める。

 ルージュの口振りは一切変わっていないが、それまでの人へと向ける作り笑いは消え、男へ向ける薄い笑みと見開かれた深紅の瞳がこちらの視線と合わせられていた。

 ルージュが軽く絡めた指に力を入れ、柔らかなベッドへ掌を引く。身体を引かずとも、それだけで心は惹ける。男は腿にかかっていたズボンを膝まで捩って下ろし、そしてルージュの胸を自らの身体でゆっくり覆い被せる。キスが再び、交わされる。

 

「ンッ……ふ、んぅ、う」

「……――」

 

 言葉を封じる。お互いに、言葉を封じ合う。

 舌を止めなければ、軽口で飾ってしまう。だから、舌を合わせ合う。口を貪る。増幅された性欲に完全に支配される前に、やれる事はやっておく。ただそれだけの、深くて浅い口吻だった。

 馬鹿馬鹿しい事だった。故に、贅沢であり、夢だった。

 命を賭け、化物に追われ、一つの時計を手にし。下界より離れ、まるで新築の様な空間で一晩を過ごし。薬を使って、美女を抱き、それだけ踏んでやる事はこんな事だ。

 犯そうと思えばいくらでも出来る。何時でも出来る。向こうが泣き喚こうと、今の自分自身をそのまま力だけで突き込めば、すぐに性交でお互いの水分が液体へ替わるまぐわいを始められる。

 だから、ただ口付けをする。それも偽りで、仮面で、乖離で、夢だ。

 

「――ぷはっ、あッ。あ、ふ、ぅう……」

「……そろそろか?」

「余程強いモノを使ったようで……ん、ぅ。カラダに障りますよ?」

「触るのはこれからだ」

「あー、まーたそうやってはぐらかしてー。心配しますよー?」

「嘘だな。貴方は、私など視てはいまい」

 

 ルージュの下半身だけが動き出す。腿を擦りつけ始め、瞳が潤んでいる。ルージュの背へと男が手を伸ばし、胸を覆う三角の下着を取付具を外して引き剥がす。

 それを遠くへと投げ捨てた。置かれていたリモコンを弾き飛ばした音を聞くに、手の届かぬ所には行ったらしい。

 はっきりと表れたその胸の先は赤く、固くこちらを見つめている。男を指し示す様に、視線を奪うように、吸ってほしいと言う様に。男が膝をルージュの脚の間へ入れれば、吐息より熱く湿った空気と、ベッドの水気を感じる。

 既に準備が終わっていた。偽りと薬と時間を使い、ようやくルージュの身体が男を受け入れようとしている。少なくとも、あの薬を男よりも多く服用して、ようやくこれだ。頭痛がする。

 やはり、この女には勝てない。だが、それで良い。

 魔術師としても、男女としても。証左にならない勝ち負けなど、夢から現へは持ち出せないのだから。

 

「だが、それでいい。貴方は変わってくれるな。昔も今も、だからこそ美しい」

「――……あら、あらあら。ふふっ、嬉しいですねえ」

「何度となく言われた言葉だろうに。”嘘で塗り固められた”品だ」

「違うでしょう?」

「……ふん。やはり、貴方は苦手だ」

「やんっ♪……ンッ、あっ。や、ぁは……良いです、よっ……」

 

 仮面を通して、飾りを透して、愛を嘯く。しかし、その内側を見透かされる。照れ隠しに、右掌で片側の山を収めて、強く優しく、変化をつけながら触れていく。

 昔より、彼女は変わらない。超然と其処に在り、物を積み上げ、関係を捨て。彼女の周囲だけが変わり、彼女だけが変わらない。

 ルージュを”魔女”と称する者を知っている。彼女は裏側でも主張が激しい訳では無い、しかしこれ程の魔術師を男は知らない。彼女の魔術など、一つとして見た事は無い。それこそが魔術であり魔法だった。

 左側に見える余った胸に吸い付く。薬が回った身体は本来、前戯など必要ともせず即座に準備を済ませ、理性を消し飛ばす。ルージュはその影響を言葉のおくびにも出さないが、身体は既に出来上がっている。

 故に、乳首を噛む。噛み潰しこそしない、しかしその手前ほどの力で硬く尖った頂点を刺激し、それをルージュは甘えた声で受け止めた。

 

「……焦らさないで、下さいよ。これだけさせておいて……」

「焦らしているのはどちらだ。挿れられたいなら態度で示せ」

「フフ。では、その様に……」

 

 柔らかな胸から顔を上げてルージュを見れば、内側の熱に追いやられて仮面が削げ落ち、微笑みすらも留まることなく静かに吐息で唇を濡らしている。

 目が笑っている。紅の瞳に乱れは無く、しかし目蓋の裏へ隠されている事も無い。小さな弧で象られた瞳もまた熱を宿している。そう見える。見える、だけだ。

 見えるのに、見通せない。そんな物だ。肉体を制したとしても、精神に触れる事は許されていない。そんな眼差しにすら思えるが、それすらも自分の思い描くただの夢幻にしか思えない。

 男がその表情へ自分を映している中、ルージュは未だ乱れていない自身の脚の間の三角の頂点に指をかけ、掌一つ分だけ横に動かす。どろどろに溶け落ちる最中の様な、何かを求めて呼吸するような、そんな動きで秘部が曝される。

 身体だけが、晒されていく。

 

「――”お願い。もう、待ち切れないの。だから、貴方で貫いて”……?」

「……くく。女優にでもなったらどうだ」

「残念、オーディションが見つからないものでー」

「やはり俗世に見る目は無いな。……するぞ」

 

 心の底からの情の様に、しかしあまりにもわざとらしく。そんな自然で不自然な言葉がルージュより漏れる。

 その上で、肉の谷を自ら双方の指で横へと開き、埋めるモノを求めた小さな口が痙攣しているのを見せてきた。

 毒だった。どんな薬や死病よりも危険で、熱く、身を焦がす毒だ。

 ワインを飲んで熱された身体はもはや自制の限界にある。あとは理性を手放せば、それで身体は目の前の女を貪り食うだけだ。おそらくはルージュもそうだろう。そのつもりで、毒を次々に飲み干したのだから。

 孔へ、熱した槍を添える。挿れてしまえば獣、とはよく言ったものだ。

 獣も人も、同じ生き物に過ぎない。獣は人であり、人は獣だ。その境目が、此処なのだろう。

 故に――まだ、越えない。境界線を、熱の先だけで細かく擦る。

 

「んっ、んぅっ。意地悪、ぅっ!……私から、挿れちゃいますよ……?」

「それはそれで見たいが、後でだ。最初だけは、焦らす。そして後は獣だ」

「うふふ、怖いです。私は、食べられちゃうんですねー♪」

「お互い様だ。あれだけ飲んでおいて、獣でないなど有り得ん。お互いに食い合う、終わるまでだ」

「あはぁっ――とっても、イイ、夢ですねぇ……んぅっ、あっ!」

 

 なぞる、なぞる、僅かに沈め、またなぞる。

 肉の芽を尖端で弾けば、ルージュの上体が跳ねて揺れる。孔に添えれば吸い付かれ、溝で擦れば液が漏れてこちらを濡らしていく。理性よりも身体の方が既にダメになっていた。

 既に身体は獣に成り果てている。理性だけが、人である事を示す。快楽を享受し、どこを撫でれば目の前の女が良い反応を返すか、今にも果てそうな快楽の中で他人事のように分析する。

 沈める抵抗が段々と薄れ、もはや独りでに肉孔は開き切っている。あまりに狭く、しかし何者をも受け止められる、その入口。一晩中繋がる、繋がりそのもの。

 亀頭の先だけを、挿れる。受け入れながら吸い付く唇の強さに、それだけで果てそうになる。

 ――流石に、もういいだろう。待ち切れないのは同じだ。

 

「……あ、んッ……挿れ、ちゃうんですね……」

「”待ち切れない”のだろう?足りないのなら、再び上からやり直すか?」

「……意地悪。いじわるです。絶対、モテません」

「お墨付き感謝する」

 

 口では余裕を崩さないが、それも取り繕ったものだ。ここまで来て、身体を離すのはこちらへの拷問に等しい。

 既に絶頂を覚えているのではないかと疑う程、ルージュの秘部は愛を吐いている。上の口では呟けぬ、肉体の愛を垂れ流し、触れている男を求めて止まない。ずっと、ずっと。

 沈めた亀頭の、さらにその傘の根本まで入り、狙いを定め終える。再び両手を合わせ絡め合う。胸を合わせる。胴を、腕を、脚を、性器を合わせる。

 唇も、奪う。同時に、内側を一気に貫き、奥まで征服した。

 

「――……ッ!!」

 

 ルージュが果てた。ただ一つ、子宮までの空間を満たされただけ。

 それだけを望んでいた肉体が、焦らされ続けて耐え切れる訳もない。細い肢体が跳ねようとする、しかし合わせた男の肌と重さがそれを許さなかった。

 抑え込まれている。全身を絡め取られ、男の堅さと固さに包まれ、緩やかに重みで沈むベッドに受け止められ。通常では有り得ない程に鋭い感覚が、充足感を覚える。

 本当に、懐かしい感覚だった。

 

「……はァッ、はァッ……ンッ、うぅ、ふぅぅ……」

「なんだ、もう果てたのか。豊富とばかり思っていたが」

「さすがにッ、薬まで使って――んぅ、ッフ……っは、スる事など、そうは――」

「そうか、意外だな。動くぞ」

「あァッ!ンはッ――む゛っ」

 

 顔を離して見つめ合う。身体だけは深く合わさったままだ。少しの軽口で、休憩を取る。

 それを、最期の言葉とした。

 

「んッ、んぅぅッ!ふっ、うっ、ンぅ、ぁッ」

 

 口の中で再び舌同士を吸い合いながら、男は腰を上げては叩き付けた。

 良質なスプリングが軋む音がやけに通る。しかしそんな音も、肉同士を弾き合う激しさの中では静けさの一つでしか無い。声は、全て男の舌が絡めて潰してくる。

 鼻先で喉の声は絞られていった。僅かな口同士の隙間からは、熱く、熱い快楽で浮いた吐息(こころ)しか通ってこなかった。それ以外を、許されない程に。男の腰は、早く動く。

 身体の限界という弩(おおゆみ)が引き絞った欲は、理性という手を離れて何度と打ち込まれた。ただ、種を殖やすという本能。生物の原点を全うする、ただそれだけの為に男は動いていた。

 余裕などとうに棄てていた。かつて犯したかった女を、今自由に出来るのだ。あの頃からは何もかも変わったが、目の前の女だけは変わっていない。美貌も、性格も、身体も。なにもかも。

 だから、だからこそ。男はただ、精を吐き出す為に、ルージュを嬲った。

 

「ンッ、んぅぅうッ!!ぁ゛ッ、ン゛ゥッ!フッ、フッ――」

 

 もはや軽口は要らない。言わせない。痙攣し続けるルージュの内側を貪り続ける。

 合わせる気も無い。ただ気持ちよくなるだけだ。勝手にお互い、それぞれの肉体を利用し合っている。ルージュの膣が四度目の大きな収縮を見せた所で、予兆も見せずに男は精を吐き出した。

 

「……ッ……!」

「ンッ、ん゛、フッ――!」

 

 まずは一度。奥の奥、腹にまで届かせるほどの勢いで、奥に打ち込んだまま精を打ち込んだ。奥から降りてきていた子宮が動き、亀頭に噛み付いた様な錯覚があった。

 視界が一瞬眩んだ。腰の、さらに一点にのみを除き、身体から力が消えた錯覚。

 それほどに、重く長く、深い一度目だった。深い、深く、深みへ。ただ浸る。

 

「……ぁ……あっ!?ん、ふううゥッ……また、ぁっ……!」

 

 男の硬度が失われるまで、ルージュの膣は震え続けていた。中では締め続け、奥と入り口では吸い続ける。そんな極上の感触を味わいながら、外付けの後押しを得た性が、吐いただけで黙ったままでいられるわけもない。

 一度目以上の硬度が宿る。再び、犯す為に。何度となく奥を突き、押したまま潰し、時には抜け落ちる所まで腰を引き絞ってから一気に奥を殴る。

 

「フッ、フッ、う、ぐッ――!」

「あッ、はッ!や、またッ、イ゛――んぅむぅっ!」

 

 またルージュが声を上げようとするのを、口を合わせて留める。見開かれた紅が、男の眼だけを映す。それだけ。ただ、自分だけを映させる様に。この一晩だけ、モノになる様に。

 インターバル代わりに、腰を引いて半ば程と入り口付近の天井を擦ってやる。それすらも大きく身動ぎし、耐えきれず動こうとルージュが暴れようと体を動かす。

 許さない。腕を沈め、合わせた胴に体重をかけ、両脚に脹脛をかけて上から抑え込む。さらに、唇を付けて舌を喉まで伸ばそうという勢いで、顔と顔を合わせる。

 この五体を、完全に奪う。

 

「ンゥッ、ぃ、んッ!――あっ……んむっ……ンッ!?んぅ、ふ、ァッ――」

 

 下を優しくすれば、上の唇が深く繋がる。呼吸を挟み、また上の唇を落とす。

 下を激しくし、上を緩める。下を優しく、上を深く。深く、浅く。繰り返す内にスパンは短くなる。

 重ね合った肌は、もはやどちらの体温かもわからない程に熱し合っていた。愛は偽りだが、身体は真(ただ)しかった。正しく、深く、絡め取り合う。

 男の二度目の射精は、動きながらだった。弱い部分を探り当てて、その締め付けを受けながらさらに攻めた。

 気付けばルージュの両脚は、男の腿の裏側へと絡んでいる。奥へ、奥へと誘ってくる。それを無理矢理、体幹の力で弾き返し。その上で、自ら奥側を深く突いてやる。

 身を沈ませながら、ルージュが背を反った。向こうはもう何度目か、数えるのをやめた。

 

「ンッ、ンッン゛ッフッ!!」

「ぐ、ン、ムッ、ウ゛」

 

 交合だった。性交と言うには余りにも情を感じさせず、互いが互いを見ていない。

 別の方を向き合っているのに、身体だけは重なり合って、互いに快楽を貪り、分け与え続ける。何時まで続くのかもわからない程に深く、しかし何時でも終わるほどに浅いつながり。

 汚れて粘ついた水音が、叩き付ける毎に混じり始めていた。もはやルージュの膣は余さず白く染め上げられ、互いの性器は摩擦による泡が付いている。

 本来痛みすら覚える程の交わりを終わらせない為の、白く濁った繋がり。

 離したくはない。いつかは離れる。離れる為に、今は離さない。

 そんな、穢れたつながり。

 

「ン゛――ゥウ゛んぅンッ!!ゥ、ッン゛!!」

「――ッ!!」

 

 疲労がようやく見えて、お互いが汗ですら熱を抑えきれない事に今更気付いて。

 本能に差し込まれた人並の迷い。そこを強く締め上げられ、思わず男の動きに果てが来た。

 再び、膣の最奥へ亀頭を当てる。ごりごりとした感触に熱で固めた亀頭を押し当て、腰の震えを送りながら奥へ精を放つ。放ち続ける。

 一瞬の疲れが、その絶頂を強く体に染み渡らせ――一度、完全に交合が止まった。

 全身を繋ぎ合わせ、お互いに長く長くイきながら。そこでようやく、互いが完全に身体を留めながらも、両方の唇を深く合わせたままで、止まった。

 ――流石に、堪える。それが男にようやく戻った、最初の思考だった。

 

「――ァ゛、ハッ、ハッ……は、ア、ぁぁー……あのぉ、すみません。さすがにちょっと、強すぎませんかね?」

「悦んで受け止めていただろうに。もう顔が戻りかけているぞ」

「ン゛ッ、ぅ。いや、クスリですよ。……ちょっと予想以上、だったのですが」

「成程。調合では読みを上回ったという事か。悪くない気分だ」

「反省、してます?」

「見えるか?」

「いえぜんぜん」

 

 纏わりつくルージュの汗から逃れる様に身体を離し、目の前の惚けた顔を眺める。

 それを受け、遅れて瞳に光を戻したルージュはこちらを小さく、しかし中々見れないだろう顔で睨んできた。どうやら、想像よりも男の作った薬が効いていたらしい。

 全身から発汗し、熱も相俟って湯気が出ているのではないかという程の肢体。脚の間からは今も流し込まれた精が奥から順に吐き出され、身体のあちこちが震えるごとに最も柔らかな双丘が揺れている。

 一日もかけて作るような代物(くすり)を大量に臓へ含んで、この程度で済んでいるのが男にとっては予想外ですらある。改めてルージュの規格外さと、しかしその身体にも通した自身の調薬を少し誇る。

 それを何故反省する必要があるのか。散々、ルージュも気持ち良くなっただろうに。

 

「はぁ、あっ。これ、いつも使ってるんです?」

「週に一度、煙草一服の副流煙(けむり)程度の分量だ。最近は慣れてきたが、やはり強すぎるのでな」

「ふぅー……、ンッ。……明らかに、毒でしょうに。こんなものを定期的になど、カラダ壊しちゃいますよ?」

「とっくに壊れている。それに不能になったとしても些細なことだ」

 

 正直、男にとってはわざわざ維持するような機能でもなかった。

 ま(・)と(・)も(・)さ(・)にはもはや疲れ果てた。この身体と頭に残るのは、僅かだが強固な理性と、残りを埋める神秘と狂気、そして超常への意欲のみだ。だからこそ、既にこの身体の有無などどうでもいい。

 動きさえすれば、肉体だろうと人形だろうと変わらん。それもまた良し、か。

 

「いや、ダメです。徐々に減らして下さいねー」

「医者の真似事か?似合わんな」

「いえいえ。だってほら。使えなくなっては、もうこんな事出来ないかも知れませんし♪」

「またするつもりでもあるのか?情が移ったなどとつまらん事を抜かすなよ」

 

 しかし、ルージュは心配の言葉を、未だ組み伏せられた状況でありながらもかけてくる。ルージュにとって男はただの魔術師、その一人に過ぎない存在だ。

 男に出来る事は多々ある。しかし、男でしか出来ない事などは、ルージュにとって無い。別を頼れば、懐中時計にしろ他の魔術品にしろ、いくらでもツテとアテがある筈だ。

 自分の心配とは、贋物(みせかけ)にしても随分珍しいことだ。男は冷めた目で、見下ろし続ける。

 

「いや?しかし、先のことなどわかりません。また五年、あるいは十年、はては百年。その先、また同様に誰かを求めることだって、無いとは言えないでしょう?」

「同じ尺度で言ってくれるなよ。私が長生き出来るとでも?」

「さぁ?でも、備えあれば、という事です。どうせなら、楽観的に考えましょー♪」

 

 微笑み一つ。しかしその笑みは、わざとらしく作られたようなものではなく、自らの瞳の紅さで真っ直ぐに見据えながらの物だった。真か贋かは、やはりわからない。

 そうか。それなら、止めるか。特に拘る事でも無いので、素直に言葉を受け取る事にする。数少ない”友人”――というには、少々開きがありすぎるが――の頼みでもある。

 

「……んふ……汚れちゃい、ましたね。シャワー浴びましょっか」

「どうせこれからも汚れ続ける。互いにあれだけ飲んだんだ、気を失うまでこのままだぞ」

 

 満たされたかに見えた欲求が、再び疼き出す。目の前の女の汚れた姿だけでも、十分に反り立つ。

 ワインの中身に仕込んだものは媚薬に等しくはあるが、体力を補う為の薬でもある。一晩寝ずに過ごすことなど用意であり、少々思考に雑念が交じる事に目を瞑れば緊急時の気付けにもなる。

 そんなものを、大量に酒で呷った上に欲のエンジンで血を張り巡らせ。まともで居られる訳も無く、少しすればお互いにまた人をやめて、ただ交わって吐き出すだけの存在に逆戻りだ。

 そんな杯と解っていながら交わした。故に、ずっと止まって居られる筈もない。

 

「まぁそうでしょうけどー……綺麗なものは壊すからこそ、良さがわかるものですよ♪」

「――……ふむ。一理、あるな。成程、それは確かに、だ」

「でしょう?じゃ、行きましょっか。お背中、お流ししまーす」

 

 未だ熱気は立ち昇ったままではあるが、ルージュの表情には既に理性が戻りきっている。上体を起こすと、邪魔そうに腰に未だまとわりついている布と下着を更横へと取り払った。

 無造作に捨てられた先に意図はない。照明をつけない限り、見つからない様な物陰へと落ちていった。それはつまり、もはやルージュはこの先の一晩、自らを隠して逃れるつもりはないという事だ。

 悪い女だ、だが良い女でもある。うまく食べられる為に、そして貪る為に。身体を清めるのは、ただのポーズであり誘いだ。わかりきっている。

 ルージュがベッドから立ち、震える脚の間から真っ白な液体が零れ落ちていく。どちらのものかわからない。どちらのものでもあった。カーペットの毛の間に落ち、体温から離れたことで果てて渇いていく。

 

「あーあー。デキちゃったらどうするんですかー」

「今更白々しい。腰に脚を回し、散々締めて出させたのは誰だ」

「私でーす♪……ね。もし子供が出来たら……よろこんで、くれます?」

「その上目遣いも、知らない人であれば十分に騙せるだろうがな……どうせ、デキないようにな(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のだろう」

「面白くありませんねえ。では、仲良くガラスケースへゴー、ですよー」

 

 男の腕がルージュの胸の山合に深く挟まれ、しなだれかかった身体と体重を受ける。その長い髪で胸板を擦られながら、ガラス張りの浴場へと二人で向かう。

 それだけを見れば、知らぬ者には恋人同士にも見えるだろう。そうではないからこそ、そう見せる。そういった見せかけもまた、一つの楽しみであり、酒であり、肴であると知っている。知り尽くしている。

 既に知った感触には気にも留めず、しかし欲だけは勃たせる。この調子では、洗いながら何度交わることになるかわからない。茹でるまで交わり、再び流し、また交わるのもありだろう。

 まだまだ、始まったばかりだ。夜は――

 

「――未(ま)だ。夜は長いですからねぇ」

 

 横から自分の思考が、声となって飛んでくる。

 しかしその声に、男の内側の様な熱はない。

 どこまでも。どこまでも真贋をぼやかす、冷たさに満ちていた。

 




やりたい事もやれないこんな世の中じゃPOISON

登場する薬品は架空のものであり、ゲームのあれとは無関係です。あと実際にああいうのを酒に混ぜると色・味・匂いが変わってモロバレだよ(毒のおねえさん的知識)

当小説でもっと見たいヒロインは誰ですか?

  • 蓮ちゃん
  • ユーリヤさん
  • 真魚ちゃん
  • 蜜柑さん
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