*虜囚の意志
「――う、くうっ……」
「良く眠っていたな、掃除屋」
目蓋が、重い。しかしそれ以上に、手足や腹部・頭骨の裏が痛んでいる。
痛覚により引き戻された意識が眼を開かせようと騒ぎ立てている。暗闇の中、石畳の上。膝をついている。
膝が、痛い。これまで意識が無かったにも関わらず、蓮は腰と背を下ろしていなかった。
手首が頭の上へと引かれている。誰かに掴まれているのでは無い、細いワイヤーの様な物がそれぞれに巻き付けられ、それを頭上で交差させる様な体勢で上へと吊られていた。
――何処だ、此処は。蓮の頭脳が、いやに鈍く回り始めた。
「呑気だな。まぁ、いかに人外と言えど、あれだけ暴れれば疲れもするか」
目の前から知らぬ男の声が聴こえてくる。目蓋と共に首をそちらへ上げれば、煌々と灯ったスタンド型のキャンプライトの前に、座り込む人影が見えた。
この暗闇を唯一照らす光源である温度の無い無機質な光は、狭いながらもその男の周囲を照らし出し、遠さから淡くなった光が蓮の今居る場所の足元までの輪郭をぼんやりと見せている。
眠っていた。この男の前で。誰だ。いや、違う。
――
「あんた――ぐ、ぅっ……!?」
未だギアが掛からぬ思考へ血を巡らせ男に質問を投げかけるも、頭の痛みに遮られる。
おかしい。体中の痛みで起こされた意識は、既にクリアだ。だが、頭の回転だけが異常に遅い。
まるで頭の中から実体を持たない小槌が小刻みにあちこちを殴りつけている様な、痛みの鈍さに反して耐え難い頭痛が蓮の思考の邪魔をし続ける。
この男は誰だ。私は何故こんな所にいる。政次郎くんは、ユーリヤは、皆は。
いや。何故今まで、私は眠って、いた。
「術は効いている様だな。やれやれ、たかだか女から力を奪うだけで、あれだけの呪いが必要とは思わなかったぞ」
「……な、にを……っ」
状況は不明瞭なままだが、把握よりも先に現状をどうにかすべきだ。目の前の男を、自分を拘束している糸の手枷を、まとめて溶かし尽くす毒の生成を始める。
だがその途中で、今度は脳天を鋭い痛みが貫いた。
「あッ、くぅぅっ……!?」
「やはり魔術では無いな。変異、異能の類か」
「く、ぅ、ぁぁ……な、なにっ、これ……!」
集中が痛みで邪魔される。男は座り込んだまま、一切の動作を取っていない。
手先も、口も、空間も。あらゆる場所で作り出して操作できる筈の蓮の毒が、一切発現しない。
――違う。これは、
「あんたッ……呪法、でしょっ――ぁ、うっ……!」
「ご明察。散々私達を掻き回してくれた以上、対策はした。とはいえ、結局は随分と犠牲を払ってしまったがな」
能力を使おうと頭を稼働させる度に、頭痛が走る。男の会話にあった”呪い”という単語、そして今の自分を蝕む痛み。そこから蓮は、一つの呪法に思い当たった。
人間個人に対する、魂への呪法。必要な手間と時間をかければ、人間一人の体の動きを完全に奪い、最悪で死に至らしめるもの。だが、規模を絞って正しく活用すれば、ただ殺すだけの呪いではなくなる。
少ない手間と時間なら、人間の魂から決めた一部を封じ込める事が出来る。片腕、片足、口、思考――そして魔術や異能。
魔術も蓮の能力も、どちらも人の魂に根ざす力を脳で扱う。様々な方法や道具を要するものでも、それを使うのは人間の思考な事に変わりない。そうであれば、どうとでも封じる手段はあるのだ。
「……私達の派閥も、随分と貴様らに荒らされた。正直、まだ貴様のような女を生かしている私の優しさに感謝してもらいたい」
「ふざけた事抜かしてんじゃないわよ、
「必要な犠牲だ。我々の神、目的、そして愉しみ。こういった生活をしていると、表では遊びにくい。なら、遊べる人間に来てもらうしかあるまい」
呪いの痛みでバラバラにされていた記憶の欠片が、少しずつ繋がっていく。
政次郎からの情報で、邪神教団の一部――小規模な派閥と見られる規模で、一般人の誘拐事件があった。唐館の東西、隅に近い場所で散発的な目撃情報が見られていた。
被害人数も、その頻度も少ない事から規模の大きな教団ではなく、一部の
だが、それが罠だった。
「これだけ戦力を集中し、呪法を用意して待っていて尚、多くの同胞が死んだ。なんとまあ、悲しい事だ」
「アンタの言う悲しみっていうのは……その薄ら寒い微笑みの事かしら……?」
「人の心の内など解るものかね」
「わかる必要はないわよ、下衆の腐り果てた性根なんて――ねッ……」
警戒はしていた、しかし魔術や異能を交戦中に一瞬止められ、その隙を攻め込まれた。
立地を知り尽くした上で誘い込ませた屋内、数に物を言わせた敵の戦術、術への対策。その場で即座に行う簡易的な呪いでは術を完全に失わせる事は出来ないが、それでも事前の準備があれば一瞬は効果を発揮出来る。
魔術や異能が力の根幹である蓮と真魚は連携を切られ、ユーリヤからの治癒も途切れ、三人を庇おうと前に出た政次郎と十三は徐々に押し込まれていった。
それでも、教団の呼び出した奉仕種族や魔術師の多くは倒していった。それでも、倒し切れなかった。
「悲しい、悲しい事だな。手間暇をかけて呪法を施し、生け捕りで留めた。これ程慈悲深く接した相手に、心のない言葉をかけられる。実に、悲しい」
「押し付けがましい上っ、他人の心がわからないのね、人でなしには……!」
「……はぁ。実に、悲しい」
一人一人、倒された。真魚からユーリヤ、十三や政次郎、それに庇われた蓮。最後の記憶は、手足を深く傷付けられて血と共に倒れ伏す仲間達の姿だった。
そして今、蓮はその元凶たる怨敵に囚えられている。百の恨み言を口にした所で、気が済まない。済むわけがない。湧き上がる怒りと憎しみが、目の前の男を睨みつけさせていた。
その男は蓮の視線を意にも介さず、腰を上げて蓮の方へと歩き始めた。
「――状況を一切理解していない、貴様の愚かさがな」
「っ!?」
蓮の目の前に立った男は、服の襟を左手で掴んで引き上げながら、懐から右手で取り出したナイフを逆手に持って喉元に突き付けてくる。
肘を伸ばしきれば喉を貫く、そんな位置で男はナイフを構えている。思わず蓮は顎を上げ、ナイフの刃先を見下ろした。
電池式だろうランタンの真っ白な光を受け、鋭く光を返している。汚れ一つ無い新品同然の刃は、容易く肉を裂く事が出来るだろう。喉が唾を飲み込ませるも、蓮は恐怖を抑え込んで男を睨み直した。
「殺すつもりは無い、でしょう?大方、政府か何かへの人質ね。……自分達が安全に逃げる為。そんなトコ、かしら」
「……成程」
冷や汗をかきながら、蓮は男の狙いを推察する。
殺すつもりならば、面倒な呪法を蓮に施してまで捕える必要は無い。それはつまり、抵抗の出来ない蓮自身が男にとって必要だという事実の裏返しだ。
呪法も永遠に維持させられる訳ではない。意識を失っている間に儀式を行ったのなら、相当の長時間呪いは保つだろう。そうして自由を奪った蓮を使って、大多数の戦力を失った奴らは逃げおおせるつもりだ。
ならば、殺される事は無い。同様の理由で、恐らく他のみんなも生かされている。
「確かに。正解だ。俺は貴様を殺さない、そのつもりは無い。そんな楽に死んでもらっては困る」
「…………」
想像通りの答えが男から返ってきたが、逆に蓮は訝しんだ。
わざわざそんな弱みを蓮に言う必要など無い。確かに男は蓮より上の立場で、余裕があるだろう。だが、”殺さない”と断言してしまえば、それは人質を安心させるだけだ。
命が保証されて安心した人質など、反抗の芽にしかならない。ここから蓮をどうするにしても、そんな言葉に意味など無いのだ。
「
「はっ――?」
真意を問うより先に、ナイフが動く。しかしその切っ先は、蓮の喉や顔には来なかった。
男の腕が下がっている。遅れて、男が掴んでいた服の襟が横へと動いた。男が力を入れて引っ張ったのではなく、垂れ下がる様に自然に横へとずれた。
妙な肌寒さを覚え、男の腕の、ナイフの行先を追って蓮が視線を下ろす。自分の一張羅である仕事着は真ん中から裂かれ、そこには外気に晒された自分の下着と胸があった。
「ちょ、な――あ、あんたっ……!?」
「正解だ、半分な。……散々暴れてくれた女を生け捕りに出来たのだ、憂さ晴らしぐらいは許されるだろう?」
「……ッ!!」
掴んで垂れた襟が、さらに左手で強く引っ張られる。
裂けた服の下部の布地がそれに合わせて千切れ、服の傷は締められたコルセットの部分で止まるも、蓮の右腋や右肩までに至る場所が露わになった。
欲に歪んだ男の目元を見て、蓮は男の本当の狙いを知る。
――このまま、犯す気だ。
「こ、このッ……!やる事なす事、とことん下衆なのね、あんたらっ……!」
「下衆、か。そうか」
羞恥から一瞬頬に血が昇るが、血はそのまま頭の上にまで到達した。
単に呪法や生贄の為に利用するだけならまだしも、下卑た欲求のつまらない行動の為だけに生かされ、囚われている。何よりもプライドを踏み躙る行為に、蓮は激昂した。
だが、そんな言葉も感情も、男にとってはただのスパイスにしかならなかった。
「や――あっ……!」
「下衆か、そうかな。そうかもしれん。これ以上何か言うなら、そうかもな」
ナイフの先が僅かに上げられ、胸の中央、下着のアンダーベルトの部分が切り裂かれる。
胸の左右を繋げるベルトが切れた事で、胸は重みに従って横に流れる。左右に別れた事で胸元からコルセットに至るまで、蓮の視界にも映る程に上半身が開かれてしまう。
それを隠そうと体を捩るも、両腕が上で縛られている以上は身体は決まった場所だけを向き、男から身体を見せ続けている。どうにもならない自分の姿と体勢に、情けなさがこみ上げる。
「さて。さっき、なんと言ったか。出来れば、悪い答えは聞きたくないぞ」
「う、くっ……!」
男の右手が、今度は蓮の左襟を掴む。左手は胸元に添えられ、指先に込めた僅かな力が蓮を威圧する。
次に男がどうするかは、既に実践済みだ。求めた答えを返さなければ、そうしてやる。男の弧に曲がった視線は瞭然にそれを見下げている蓮へと語りかけてくる。
黙った所で同じ事、蓮に自由は許されていない。力も、体も、何もかも無くなっている。
――それでも。
「――最低の下衆って、言ったのよ。耳鼻科にでも行けば?」
「…………」
蓮は強く睨み返し、男へ変わらぬ答えを吐き捨てる。
自分一人が恥を晒す事など、仲間を傷付けた相手への怒りに比べれば些細な事だ。例えどんなに辱められても、女一人に卑劣な手を使わなければ自由にも出来ない様な男に従う事は出来ない。
そう思えば、闘志すら湧いてくる。こんな男などに、プライド一つすら曲げてやるものか。そんな思いを伝えるべく、蓮は男を嘲笑ってやった。
「跳ねっ返りは好きではないんだ」
「くぅっ……!」
即座に、蓮を掴む両手に力が込められる。蓮の左肩を覆う服は強引に引き剥がされ、右胸の下着は手で下ろされる。守るものの無くなった乳房が、鷲掴みにされた。
男への嫌悪感が、胸の感触をねちねちと確かめる左掌によって助長される。蓮の体を責めながら、その反応を楽しもうと見下ろしてくる男の眼光が痛いほどに刺さってくる。
右胸がこねくり回されている間に、男の逆の手が肩から鎖骨へ、腋から脇下へ、線を描くように人差し指がゆっくりと動いて左胸の下着へと到達する。
「しかし、良い身体だな。荒っぽく扱いたくは無い。返答次第では、まだ考慮するが」
「くうっ……あんたなんかに尻尾振る理由なんて、欠片も有り得ないわよっ……!」
「身体がコレでも口がコレではな」
「ぅ」
隠されていた左胸が、指先だけの僅かな力で下に動かされ、何の抵抗もなくするりと斜めに落とされる。
コルセットで覆われた腹部を除き、男を向いた上半身の殆どが露わになる。細い首、華奢な肩、広がった胸元、突き出した胸とその頂点。染みの無い肌と、女性的な柔らかさを持つ体の線。
全てを外に晒した上で、薄い桜色の胸の先端を人差し指が押し込む。神経により近い部分を指の腹が撫でる事で、嫌悪よりも先にむず痒さが上体を伝わった。
「そら。声を上げて媚びてみせろ。売女の如く、娼婦の様にな」
「っ、ぁ、ふ……っ」
男の人差し指が胸を爪の先でなぞり上げ、掌が胸に覆い被さる。
遠慮も配慮も無く、自分自身の意志だけを込めた両の掌が二つの乳房を掴んだまま、それぞれで歪んだ円を描く様に揉みながら手首から先を回し始める。
蓮の腕はそれに反応して無意識で動こうとしたが、か細くも強く食い込んで縛り付けられた線がその一切を封じている。抵抗の余地もなく男に身体を自由にされる事に対し、ぞくぞくと嫌悪と屈辱が入り混じった感覚が喉にまで伝わってくる。
それでも、その声は出せない。ましてや男の望む言葉など、以ての外だ。
「理解に苦しむな。いくら私達に楯突いた愚か者でも、つまらんプライドに拘っていい状況でもあるまいに。そういう趣味でもあるのか」
「ん、ぐっ……っ゛」
耳元まで顔を寄せてきた男は、蓮の嫌悪を煽る為に囁きながら、右手の人差し指と親指で乳輪を刺激し始める。
敏感な部分を柔く、明らかに力を抜いて擦り、身体に性を自覚させていく。生理的な反応で僅かに膨れた乳首が、指と指で挟まれながら左右に捻られる。
左手は胸の側面から持ち上げる様に指を沈ませ、強弱をつけて掴んでは指を離す。異なった手法で声を上げさせようとする男の手管に、さらに蓮は強い怒りを燃やした。
望む声など、上げてたまるか。唇を噛み締め、男の掌から来る感覚を耐え忍び続ける。
「マゾかバカのどちらか。その行為は、どちらかでしかない。どうする、女」
”女”の部分を強調する様に、言葉が投げかけられる。もはやこの状況に至った時点で、男にとって蓮は脅威となる掃除屋ではなく、有象無象の雌の一つに過ぎないのだろう。
それでも蓮は、声を上げない。胸を弄る掌は動き続け、耳元で囁かれる声には脅迫的な低さがある。体も能力も動かず、蓮の感情に関わらず上体の感覚は鋭くなり始めている。
妙な刺激はせず、口先だけでもいいから男に従った方がいい。そんな事は百も承知の上、それでも譲れない所が心の底で騒ぎ立てている。この仕事を始めた時から、ずっと貫き続けてきたもの。
「……何を言われようが、何をされようが。あんたみたいなのに従うのは、死んでもゴメンよ」
身体を好きに眺められ、自由を奪われ、辱められて。それでも、
よくも皆を、他人を、日常を傷付けてくれたな。掃除屋は慈善事業では無い、それでも蓮自身の意志は正しいと思う事を選び続けてきた。
自らの勝手で奔放に誰かを傷付け、悪びれもせずにのうのうと笑って生きている。そんな連中になど、心を明け渡せるものか。
それを言葉にして、蓮は男によく見える様に舌を突き出し、自分の意志で歯を立てた。
「死んでも、か。それは、貴様以外の誰かでもか?」
「――!あ、あんたッ……まさかッ!!」
「政府に対する人質?それだけでは半分だ。
男が蓮の前から体一つ分離れ、次に冷徹な宣告が降ってくる。
そうだ、男にとって蓮達は殺すべき命ではない。生きている、生かされている。そして今、蓮の傍に
自分以外の命。蓮自身への人質。その二つが繋がる接点は、ただ一つしか有り得ない。
「私達にも仲間が残っていて、今もなお貴様の連れを見ている。たった今も、だ」
「最低の屑だわ、あんたァッ――ア゛、う゛、ぅぁあ゛ッ!!」
旧式の通信用の子機を懐から取り出し、男は蓮に見せつけてくる。その上、蓮達が戦った教団員はどれだけの数かわからないが、健在だと言う。
それはつまり、蓮の行動がそのまま仲間達への命に繋がるという事だった。それを理解した瞬間、蓮の怒りは自らに収まる限界を越えた。
頭が割れても、廃人になってもいい。目の前の外道を殺せるなら、それで十分だ。そんな破滅的な思いと共に毒操作能力を再び使おうとするも、それに応じて一番の激痛が頭を何度となく乱反射して貫いていく。
それだけの痛みを払っても、毛先ほどの毒も生まれず、空気の一粒も変える事が出来ない。絶対の自信を積み上げてきた能力が、自分の思い通りにならずに意志を裏切っている。その事が、痛みと共に視界を滲ませた。
「まだ理解してないと見える。……そうだな、貴様の相手はもういい。女はまだ居るからな」
「あ゛、くゥッ!う゛、ぅ゛うっ……!あんた、あんたッ……!」
「身体だけならあの忌々しい修道女だが、ガキでも構わんな。どうせ、口と穴があるのは同じだ」
痛みに頭を振りながら暴れる蓮を見て、男は立ち上がり背を向ける。
わざとらしくどちらを選ぶか、蓮に伝える為の独り言が呟かれる。痛み以上の怒りが、蓮の身体を震わせる。
こんな事を、こんな屈辱を。蓮を嘲笑う為に、ユーリヤや真魚に与えるつもりか。いや、もしかしたらその上で、命を奪われるかもしれない。
誰が政府への人質として相応しいかわからない。しかし女で遊ぶ様な男達の下卑た思考なら、一人ぐらいは死んでも構わない、いやむしろいい見せしめになる。悪い想像と想定ばかりが、蓮の思考にやってくる。
ふざけるな、ふざけるな。自分が辱められるだけなら耐えられる。だが自分の為に、自分のせいで。仲間達が良いようにされるのだけは、絶対にあってはならない。
「――わか、った……わかったから……やめ、て……」
「わかった?やめて?よく聞こえないな、身の程を知らない口振りなど」
「う、う……!わかり、ましたっ……!やめて、下さい……」
自身より信念を、誇りを選ぶ。しかしそれよりも、仲間達の方が大切だ。
自分のプライド一つ曲げて、仲間達が無事に済むならそれでいい。自分の体一つで、仲間達が辱められずに済むなら、こんな体などいくらでも渡そう。元々こんな稼業を始めた時点で、命も体も覚悟はしていた。
目の前の男に頭を下げ、言葉を弱める。自分の情けなさと無力感で、長い睫毛が目を覆って涙を押し出した。
「ほう、わかった、と。それなら、もう一度言おうか。……声を上げろ、売女の如くにな」
「…………」
奥歯を噛み締め、削る程に力を込める。それでも手足は自由に動かない、動く事を許されていない。
舌を噛み切って死んだ所で、この男の矛先が誰かに変わるだけだ。自分の命は、既に男の掌の上にある。これまで受けたどんな屈辱よりも、仲間達の命を掴ませた自分の無力が許せなかった。
それでも、それでも。自身よりも、信念よりも、もっと大事な物の為に――
「……おねがい、します……私の体を……好きにっ、さわって……犯して、ください……」
「なるほど。
意志を挫かれた昏い瞳で、負け犬の様に、尻尾を振った。
自分の意志で、他ならない自分自身を、無価値に売り飛ばす。そうしなければいけない、そうするのが無力な自分の責任であり、罰だった。
上体を起こし直し、男へ体を見せつける。張った胸を揺れ動かし、男を誘惑して意識をこちらに向ける。一度言った言葉は、曲がったプライドは、もう戻す事は出来ない。
「さて、それでは。娼婦の様に、遊ばせてもらおうか」
そんな心中を踏み躙る様に、男の手が蓮の身体を触り始めた。
そのくだらない物の考え方が命とりよ!クックックックッ
この男にはプライドはない……あるのはシンプルな思想だけだ……たったひとつ!
「心を折って支配する」!それだけよ……!それだけが満足感よ!
心が強いヒロインほど、折れるシチュが似合うのですきです。
当小説でもっと見たいヒロインは誰ですか?
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蓮ちゃん
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ユーリヤさん
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真魚ちゃん
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蜜柑さん
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夢ちゃん