とある山中にその教会は存在している。
道中に案内板もなく、地図にも記されず、しかしかつてより在る異郷の教会。
定刻に響くカンパネラの音だけが何も知らぬ人間を呼び込んでいるのだ。
今日もまた、仔羊が一人迷い込む。
ギィィ、と古びた扉が軋んだ音を立てて開かれる。
建物の外観も扉の向こうの内装にも年季は感じられない。突如現れた教会に不気味さを感じたが、単に建て付けの問題だろうか。
小綺麗な内装とステンドグラスを透過する日の光に安堵した男は扉を後ろ手に閉め、声を上げた。
「ごめんくださーい」
二十代前半か、ともすればまだ未成年だろう若い男の格好は山に入るには軽装で、泥に汚れた服と額に浮かんだ汗が幸か不幸か道に迷い、此処まで辿り着いた事を示していた。
数瞬の間を置いて、「はーい」と明るい声が返ってくる。
「いらっしゃいませー」
現れた緑髪のシスターを見て、男はぎょっとした。
これまでシスターと出会う機会などなかったが、白と黒の修道服、胸にロザリオ。そんな漠然としたイメージを男は抱いていた。しかしその女の格好はシルエットだけならばまさにそのイメージと相違ないが、色合いが違う。
あまりに肌色の部分が多すぎた。
「……」
ワンピースのような黒服だがその胸元から臍に掛けてが鍵編み状で肌を隠すという機能を放棄している。
少し角度を返れば、少し身じろぎすればその豊満な乳房の頭頂部が露わになってしまいそうだ。
「あらぁ? お客様は初めての方ですねぇ」
「えっ、あ、はい」
呆然としながら頷く。だが視線はシスターの肌色を捉えて逸らせない。
それを咎めるでもなくにこにこと笑みを浮かべるシスターにはっとなり、男は首を左右に振る。
「あ、あのっ、実は道に迷ってしまって……鐘の音が聞こえて、それで此処に、その、山の下り方を教えて欲しくてっ、えっと」
「あらあら、それは大変でしたねえ」
しどろもどろに語る男の手を取り、シスターは労るようにその手を胸に抱いた。
ふんわりとした幻想的な感触に男は言葉を失い、かーっと頬を赤らめた。
「ちょっと失礼しますねえ」
「えっ、んんっ!?」
右手で手を握りしめたまま、左手を男の頭の後ろに回したかと思うとシスターは突如、自らの唇を男のものに重ねた。
突然の出来事に空いた手が無意味な開閉を繰り返す。すぐに押しのけるべきか、いやしかし伝わる柔らかい感触は逃げるには惜しい。
混乱の最中の男を余所に、重なった唇からシスターの舌が男の口内へと侵入した。
「んっ、ちゅ……んーっ」
慎ましさとは無縁の暴力的な動きでシスターの舌が男の口内を縦横無尽に犯していく。
舌を絡め取ったかと思えばなぞるような動きで歯の一本一本に触れ、口襞をつつき回し、男の舌を弄ぶ。
どれだけそうしていただろうか、時間にすれば十数秒のはずだが唇が離れた時には男の肉体は疲労感に包まれていた。
名残惜しげに唇の端から繋がった唾液を舌で絡め取り、頭を抱えていた手で口元を押さえて、わざとらしくシスターが言った。
「まあ随分お疲れですねえ。さあさ、向こうで腰を
「はっ、はい……」
言われるがまま、されるがまま、男は教会の奥へと誘われる。
奥に設置された聖母の像がそんな男の姿を見送っていた。
◇◆◇◆
シスターによって誘われた部屋は壁も床もは染み一つない真っ白、広さは十二畳程度のようだが、家具もなにもなく上下左右の区別がつかなくなりそうだ。
「ちょっと待ってて下さいねえ」
手で男の目を隠し、シスターは何事かを呟いてすぐにその手を離す。
「えっ……」
その時には既に部屋は変貌していた。
先ほどまでの白は何処にもない。何処までも灰色の無機質なコンクリートが剥き出しになり、壁には何か怪しげな道具が──男の知識が間違っていなければSM器具が──膨大な数並んでおり、さらにはX字状の拘束具、天井からも鎖と輪が垂れ下がっている。
「お客様の望みはよぅく分かりましたよぉ。純朴そうなのに、随分と酷い人ですねえ」
「あ、あの……」
困惑する男の目の前でシスターはベールを外す、隠れていた髪がバサリと重力に従い落ちる。床に着きそうな程に長く、艶やかな髪だった。
「これくらいで、こういうのが好みなんですねえ」
髪をすくい、息を吹きかけるとたちまちにシスターの髪の長さと髪型が変化する。
ストレートのロングヘアーがツーサイドアップとなり、乳房を覆う程度の長さまで短くなる。
「初めての方ですし、最初は私がリードして、素直にしてさしあげます」
シスターはコンクリートの床に跪き、男の股間の前でにっこりと微笑んだ。
上目遣いで男を見やり、愛おしそうに男のモノをジーンズ越しに撫でる。
「んふっ」
そして口でチャックを咥え、そのまま下ろすと空いた隙間に擦るように鼻と口を突っ込み、パンツの上から大きく息を吸い込んだ。
「んっ、はぁー……」
「ちょ、ちょっと……!?」
器用にパンツの上端を噛み、引きずり下ろすとジーンズを履いたまま男のモノが外気に晒される。
完全とはいかないまでも男のモノは勃起し、ぴくぴくと脈動している。
「すぐにその気にしてあげますからぁ」
「うわっ」
何の遠慮も躊躇もなくシスターは男のモノを口内へと招き入れた。
だが唇をすぼめ、形を確かめるかのようにそのまま微動だにしない。
しかしシスターの口内の心地よい体温にそれ以上の刺激がなくとも男のモノに血液が流れ込み、その大きさを変えていく。
(あーこれこれ……好きなんですよねえ、口の中でおっきくなっていく感覚……♪ 皆さん最初からおっきくしてくれるから、何も知らない一見さんじゃないと出来ないし♪)
完全に勃起した事を確認し、ゆっくりと吸いながら引き抜く。
じゅるるっと吸い込む音と嚥下の為に動く喉、そして快感。明らかに異常な状況に男は何も出来ない。
「ぷっはぁ……んふふ、おっきくなったぁ」
「何でいきなりこんな……」
男の問いには答えず、シスターは勃起した男性器を顔に乗せ、自らの唾液と滲み始めたカウパー液とで鼻と頬を汚す。
その姿に男の暗い欲望が刺激されるが、まだだ。男は理性的な人間である。自らの欲望、性的嗜好を正しく理解している。それは抱えるだけならまだしも解放してはいけない類いのものだと。
「こっちもぉ……」
亀頭を鼻に擦りつけながら徐々に竿をなぞって下へ下へと下り、男根が額を越える辺りでシスターの口がまだパンツの中に隠れていた玉袋へと到達した。
「はふぅ……♪」
「っ!」
吹きかけられた熱い息、自分では決して出来ない玉袋への吐息の刺激はむず痒く、男の意思とは関係なく腰がびくりと跳ねた。
「ここ、好きな人多いんですよぉ。汗で蒸れてすっごい匂い……いいですよねぇ」
「っ、う……」
「はむはむ、してあげますねぇ」
袋ごと玉がシスターの口の中へと入り込み、舌で転がされながら唇でぱくぱくと弄ばれる。身震いしてしまいそうな感覚に思わず男は後ずさる。
「駄目ですよぉ」
シスターは両手を男の腰の後ろに回し、逃がすまいと引き寄せた。
さらに深く男の玉袋が飲み込まれ、亀頭が触れた髪がカウパー液で糸を引く。
「じゅっ、ずっ、じゅるる!」
抗議するように強く玉袋に吸い付き、男は直接中の精液を搾り取られるような感覚に襲われる。
シスターの肩を両手で押し返そうとするが、吸い付く力が強くなるばかりで逃れる事は出来ない。
「ぷはっ……んふふっ、かわいい顔してくれますねえ。それも私好みなんですけど、手はこっち、じゃないですかぁ?」
シスターは男の手を取り、顔の横に垂れ下がる自らの髪に触れさせた。
さらさらとした感触と絹のようなしっとりとした肌触りが両立した美しい緑髪はいつまでも触れていたくなる魔力がある。
「いいんですよ、好きにしてくれて。此処なら誰にも見られませんし、誰にも咎められません。此処ではあなたの欲望の全部が正しいものなんです。我慢は毒ですよぉ?」
「うっ……」
男の心が揺れる。未だに状況は理解できない。どうしてこんな事になっているのか分からない。ただ道を訊きたかっただけなのに、このままでは道を踏み外してしまう。男の理性がそう告げる。
「余計な柵なんてぜーんぶ捨てて、素直になっちゃいましょう? 溜まってるものぜーんぶ吐き出しちゃえばいいんです。私はあなたの
理性など、この場では何の意味も持たない。
もういいか、と男は思考を放棄し、自らの嗜好に従う事にした。
そう決めた途端、まるで肩の荷が下りたようだった。罪を懺悔し、それが赦されたかのような、神の後押しを受けるような、それで正しいのだと全てが肯定されたような気持ちになった。
「あ、ああ……ああっ!」
男は咆哮し、シスターの髪を握りしめる。シスターに対する配慮など何もない、自らの欲望のままに目の前の牝を使う事しかもう頭にはない。
「おらぁ!」
「んぶぅ!?」
握りしめた髪を手に巻きつけ、決して逃れる事が出来ないようにして頭を掴むと男根を一気にシスターの口へと突っ込む。
「ぶっ、んっ、ぐっ、んんっ!」
「あぁ……これだよ、これ……!」
自らは腰を動かすことなく、シスターの頭を前後させて男根を口で扱かせる。
およそ人体に対する扱いとは思えない乱暴な動き。息苦しさも遠慮なしに打ち付けられる顔への痛みも知った事ではない。ただ自分が気持ちよくなれればそれでいい。
「なんだよその目……お前から誘って来たんだろうが!」
豹変した男にシスターは目に涙を浮かべ、どうにか逃れようと首に力を込めるが髪が引っ張られるばかりで決して口を離す事は出来ない。
「逃げようとしてんじゃ、ねえよ!」
「んぎゅう!?」
喉奥にまで男根を突っ込み、そのままぐりぐりとシスターの顔を腰に擦りつける。
もがき続けるシスターを見下ろし、その様子と口を陵辱する感触を十分に堪能した後で巻きつけた髪を解放する。
「おえっ、げほっ、ごほっ! うっ、うぅ……」
床に倒れ込み、咽せながら必死に呼吸するシスターは男を見上げて懇願する。
「や、やめて……た、たすけて……」
「ははっ」
必死の懇願に対して嗜虐的な笑みを浮かべた男への恐怖からシスターは背を向け、逃げ場などないはずの部屋の中で必死に這いずりながら男から離れようとした。
──それが男の欲望をさらに刺激するのだと知っていたから。
「きゃああ!」
背後から覆い被さった男の手で鍵編み状のシスター服が呆気なく破かれ、上半身が完全に露わになる。
「いい体してるよな、お前」
「や、やめっ」
乳房を乱暴に掴まれ、頭は床へと押さえつけられ、一切の抵抗も
男は隠れていた白い下着をずり下ろし、尻を撫で回した。
「ああ、主よ……どうか、どうか……」
震える両手で祈るシスターの、何も分かっていない牝の尻を二度叩いた。
悲鳴を上げる牝の髪を掴み、顔を強引にあげて振り向かせる。
「お前の主は俺なんだよ。お前は俺に祈るんだ」
「あっ、あぁ……どうか、どうかお許しください……ご主人様」
望んだ通りの反応、嗜虐的な笑みを深めて男は髪を離し、再び倒れ込んだ牝の尻を掴んだ。
「許すわけねえだろ!」
「いやぁぁあああ!」
処女膜のささやかな抵抗も意味を為さず、男根が牝の膣内へと侵入する。
牝の叫びを心地良いBGMに男のさらなる陵辱が始まった。
「抜い、抜いてください! いやぁ! 助けて! 誰かっ、誰かぁ!」
「想像通りのいい具合じゃねえか!」
口内を犯した時よりもさらに激しく打ち付けられる腰と部屋に響く肉音が抵抗が無意味であると女に思い知らせる。
「うっ、あっ、あっ」
「もっと良い声で鳴けよ、牝らしくよお!」
「ああっ!」
男が尻を叩くとその望み通り、牝の声が変化する。苦悶の呻きではなく、甘美なものを含んだ喘ぎへと。
「そうだ! その調子だぞ!」
「あっ、んっ、ああんっ!」
響く嬌声にさらに男の興奮は高まる。女の思い通りにする快楽、肉の快楽、欲望が満たされる快楽。男の求めた快楽の全てが此処にはあった。
(ああん♪ 初めてってやっぱりイイ……!)
そして女の求めた快楽も此処に。
「んっ、くぅ……! あっ、ああ! ご、ご主人様ぁ! 許し、許して、んあっ、くださいっ! こんな、んっ、こんな事もうっ、あっ、やめてぇ!」
必死に訴えながらも感じる快楽には抗えず、漏れ出る声。
そんな有様で男を止める事など出来るはずもない。
「お前も感じてるじゃねえか! 素直になれよ!」
「そ、そんなっ! わ、私はぁ!」
「こういうのが好きなんだろッ、お前も!」
「んひぃ! あっ、ああっ! お尻ぶたないでぇ!」
執拗に叩かれ続けた白い尻は腫れ、痛々しい。しかし牝の声は甲高く、痛みを訴えるものではなかった。
「だったらこっちのが好みかあ!?」
「んぎぃ!? おっぱいちぎれちゃいますぅ!」
乳首を捻り上げると一際大きな声を上げる牝は男の手を掴み、抵抗する。鬱陶しげに乳首をつまんでいた手でそれを払いのけ、その手を背中に押しつける事で抵抗を許さない。
床に押しつぶされた乳房が男の腰つきによって擦れ、また別の
「潰れちゃう、壊れちゃ、んひぃ!? お尻ぃ!」
絶えず襲い来る次なる陵辱。押さえつけるのとは別の手、男の指が尻穴へと突っ込まれていた。
「そうだっ、もっと締め付けろ!」
ぐちゅぐちゅと尻の穴を人差し指で掻き回し、強まる締め付けを楽しみながら男は腰を打ち付けるスピードを速めた。
膣内の男根が大きくなっていくのを感じる。男の絶頂が近い事を示していた。
(ああっ、来るんですね♪ 分かりますっ、欲望に任せた射精、さいっこうに気持ちいいっですよぉ……♪)
高まる期待感をおくびにも出さず、男の望む通りに牝は喘ぎを漏らす。
「しますっ、しますから! だからもうやめてぇ! あっ、あっ、んぅ! お尻駄目ですぅ! おっ、ああっ!?」
「それを決めるのは俺だッ!」
「お、ごぉおお!?」
はじめからそこにあったかのように床に転がっていた張形を牝の尻穴へと突っ込み、尻尾のように揺れるそれを深くまで押し込みながら男は絶頂へと昇っていく。
「おっ、ああっ! ごりごりってぇ!? お尻、深っ、あっ、あっ、あっ、んああっ!」
「そろそろ射精してやるからな……ありがたく受け取れよ……!」
「い、いやっ、中はっ、中だけは許してっ、許してくださいご主人様っ、何でもするから、何でもいいからそれだけはやめてぇ! んぎぃ!」
男は尻の代わりに突き出た張形を手のひらで叩き、うるさい牝を黙らせる。
もう人の言葉など必要ない、ただ獣ように鳴いていればいいのだと。
「おっ、おっ、あがっ、んああっ!」
「射精すぞ、お前の中に射精してやるからな……!」
「駄目なのにぃ! わ、私もっ、来るっ、来ちゃいますぅ! ご主人様ぁ!」
「イクなら下品に叫べよ、牝豚みたいにみっともなく鳴け!」
押さえられた背中が張り詰めていく。荒い呼吸と喘ぎ声の間隔がどんどん短くなっていく。真っ白に染められていく意識の中、牝は鳴く。一際大きく。
「おお゛っ、おっ、あっ、あっ、んぐぅ! イクっ、イクッ、イキますっ、私、豚みたいに、はしたなくイッちゃいますっ!」
「俺もイクぞ……!」
「あっ、あっ……! だめっ、来る、イクッ──」
パァン! と響く最後の一突き。男の腰が跳ねた。それが合図だった。
「んぐッ、おっ、あ、はっ──イッ、ク、んきゅぅぅぅぅッ!!」
背筋を反り返らせた絶頂。
牝はだらしなく口を開け、涎を垂らして床に染みを作りながら男の言いつけ通りに人とは思えない声を上げた。
ビクビクと男根が脈動し、最後の一滴までも漏らすものかと牝の子宮を満たしていく。
「お、ほっ……あっ……あぁ……」
力尽き、自らが作った唾液の水溜まりに牝は沈む。
小刻みに体を震わせ、閉じる事を忘れた口からは絶頂の余韻が喘ぎとなって漏れ出る。
「あっ、ぁ……ぁ……ぅ……」
「……ははっ」
膣内から男根を引き抜き、床に腰を下ろした男はその様子を見て悦に浸るが、まだだと女の髪を掴んで引き寄せると、股間へと擦りつける。
「掃除もお前の仕事だろうが……」
「おぶぅ……!」
最後まで容赦のない男の陵辱に牝は抵抗する事も出来ず、侵入してきた男根を受け入れるしかなかった。
◇◆◇◆
陵辱の後、気がつけば男は真っ白の部屋でもコンクリート張りの無機質な部屋でもなく、入ってきたのと同じステンドグラス越しに日の光が照らす聖堂の長椅子に座っていた。
「あ、あれ……?」
目を瞬かせ、自分の頬に触れる。夢を見ていたのだろうか。
そう想いながら周囲を見渡した時、泥だらけだった自分の服がクリーニングしたてのように清潔になっている事に気づく。
「お疲れ様でしたぁ。勝手ながら綺麗にしておきましたよ?」
「えっ、あっ、ありがとう、ございます……?」
背後から肩に手を置かれ、振り向けば緑髪のシスターが微笑みを浮かべて立っていた。
しかしその格好はあの肌色が多すぎるシスター服などではなく、男がイメージした通りの白と黒、露出などないシスター服だ。
やはり夢だったのか、神聖なる教会でなんて夢を……と自己嫌悪に陥る男の耳元にシスターが口を近づける。
「おちんちんを綺麗にしただけじゃ、気持ち悪いですもんねぇ」
「えっ……えっ!?」
シスターから発せられたとは思えない単語に驚く。同時にあれが夢だったのかも分からなくなる。
何がどうなっているのか、それを問いかけようとした男の顔をシスターがその豊満な胸で抱きしめた。
「わっ」
「ちゃーんと素直に出来ましたねえ、良い子、良い子ですよぉ」
頭を撫でられ、恥ずかしげに身をよじるがシスターは中々離してはくれない。
その心地よい感覚に浮かんだ疑問がどうでも良くなってしまう。
「この教会を出てまっすぐ道なりに行けば街に出られますから、心配しなくても大丈夫ですよぉ」
「あ、ありがとうございます」
うんうんと頷き、シスターは男を解放した。
頬に手を当てて朗らかに笑う姿からは夢で見た淫蕩さも牝も感じられない。まるで聖母か女神のようだった。
「それと、こちらをどうぞぉ」
「これ、は……?」
シスターが男の手に握らせたのは黒のロザリオだった。十字架の中心部からは二本の小さな角が生えている。
神聖なはずの十字架には相応しくない意匠だった。
「初めてのお客様にはお渡ししているんです。うーん、会員証? スタンプカード? 手形? とにかく肌身離さず持ってくれると嬉しいです」
「はあ……」
「その角が
「えっと……」
何と答えたらいいのか、何を訊けばいいのか、考えがまとまらず、握らされたロザリオとシスターを交互に眺める。
「あなたは一体……それに此処は……」
唯一尋ねられたのはそんな漠然とした疑問だけだった。
シスターは「うふふ」と夢で見たような淫靡な笑みを浮かべ、答える。
「此処は『シュブ=ニグラス』の教会。私はその女神様ですよぉ?」
そうして男は自分の身に何が起きたのか最後まで確信が持てないまま、夢見心地に教会を後にした。
けれど何故だろう、その気はなくともこの教会にまた訪れる気がする。
シスターの言う通り、この黒山羊が角がねじれ、伸びきったその時に。
「またのお越しを~♪」