とある山中、異界の神性『シュブ=ニグラス』を奉る為に建てられた教会。
あらゆる欲望が叶えられる、とは本人の弁だが実際の所、それはちょっとした誇大広告である。
彼女は万能だが全能ではなく、全知を持った存在でもない。欲望に応える事は出来ても要望全てに応えられるわけではないのだ。
「お疲れ様でしたぁ♪」
「ああ……良かったよ……やっぱり君は最高だ」
「うふふ、ありがとうございますぅ」
今日の来訪者は早朝に現れた。今回で三度目となる再訪者はスーツに身を包んだ中年の男性だった。
男の欲望は然程珍しくもない、強姦への欲望。一度目は薄暗い廃墟で婦女子を、二度目はこの教会でシスターを。背後から襲いかかり、抵抗を許さぬ強引な性行為を求めていた。
そして此度の舞台は電車の車内だった。
つり革に掴まった女の尻をいやらしく撫で回し、人目を憚らず衣服を破り捨て、窓に胸を押しつけて乱暴に犯す。嫌がる女の悲鳴はやがて嬌声へと変わり、辱めながら犯し尽くした。
「うーん……でもなあ」
「えっ! 何かご不満がおありですかっ!?」
聖堂から外へと繋がる扉の前、何やら煮え切らぬ態度の男に彼女はショックを受けたように慌てた様子で手をばたつかせて、男の手を取った。ついでに胸も押しつけた。最後までサービスを怠らないのがモットーだった。
「ぬふっ。ああ、いや、不満という程のものでもないとも。君は美しいし、私の欲望を満たしてくれる女神だ」
「気になる事があるなら仰って下さい! 遠慮は無用、配慮は不要ですから!」
「本当に大した事じゃないんだ。むしろ君の気遣いなんだと思うが……私は動く電車の中、それもぎゅうぎゅうに人が敷き詰められたような満員電車の中でやってみたいと思っていたんだよ」
男が普段から利用している電車。今日、この教会を訪れたのもその満員電車に四苦八苦しながら乗り込んだ時の事だった。彼女が読み取った男の今日の欲望はそれに起因していたのだろう。
「マンIN臀射、ですか……」
「うん、多分違うね」
行為の最中とはまるで違う冷静で素早いツッコミだった。歪んだ欲望を秘めているとはいえ、男は会社内では部下に慕われるノリの良い上司なのである。
「いや気にしないでくれ。君を好きに抱けるだけでも十分に私の欲望は満たされているんだから」
「はい……」
「また会えるだろうか?」
最愛の恋人との別れを惜しむような、名残惜しげな愛の籠もった口調だった。
先ほどまで彼女の口に下着を突っ込んで塞いでいた男とは思えない。
「そ、それは勿論! ロザリオの角が伸びきればまたすぐにでも! お待ちしてますよぉ!」
「ああ、それは楽しみだ。これからの仕事も頑張れるよ。ええと、前と同じで行きたい場所の扉を思い浮かべて開けばいいんだったね」
「はい♪ そのロザリオは『銀の鍵』のレプリカのようなもの。『窮極の門』へと至る事は出来ずとも地上なら何処にでもひとっ飛びですよっ」
「ははっ、よく分からないが秘密道具のようなものだと思っておくよ。それじゃあ、また」
男を手を振りながら笑顔で見送り、軋んだ音を立てて扉が閉まった瞬間。
わなわなと彼女の体と、教会の建物そのものが揺れる。
「なっ、なんて事でしょう!? お客様の欲望を叶える事が出来ないなんて! 全知ならざるこの身を呪いますぅ!」
約束を破り、教会の外へ出る事もままある彼女だが、男の言う満員電車に乗車した経験はない。それどころか乗り物というものに乗った事すらないのだ。街に下りれば決まって男に乗ったり乗られたりはするが、それはいつもの事である。
人間の欲望を読み取り、それに応える事をライフワークとしている彼女だが人の世界への理解はまだまだ不十分だ。
電車の揺れも芋を洗うような車内も読み取ったイメージだけでは完全な再現は出来ない。もっとも彼女の極上の肉体の味わいに比べれば男の言ったように些事ではあるが、彼女のプライドがそれを許さなかった。
◇◆◇◆
教会を訪れる最後の方法、それは彼女自身に誘われる事。
教会で大人しくしている分には過度の干渉はしない。そういう約束の下で快楽と怠惰を満喫している彼女だが、やはり待っているだけでは中々人はやって来ない。こそこそと街に下りるのは珍しくなかった。
約束の相手もそれに気付いてはいるが、大事にならないのであればと黙認している。そもそも力関係でいえば彼女の方が上位なのだ。
「ほ、本当に本番なしの口でなら一発これだけでいいんだね……?」
ラブホテルのラウンジ、部屋の一覧パネルの前で指を一本立てて教会に訪れたのとは別の中年男性が彼女に確認する。
「勿論ですよぉ。お金に困ってて、おじさまが声をかけてくれて助かりましたぁ」
シスター服ではなく学生服に身を包んだ彼女が男の腕にすり寄りながら甘えた声で囁く。
基本的に一文なしの彼女が街に下りて最初にするのは資金調達だ。
教会に再訪する人間の中には善意の『寄付』を申し出る者もいるが、現金は受け付けていない。それよりも服でも食べ物でも嗜好品の方が彼女には好まれる。
教会を維持する為の資金繰りをしているとある組織にとっては迷惑な話のようで、実際にはあの教会で行われる狂態こそ組織にとっても望ましいものであるのだが、そこは割愛しよう。
「たったこれだけで君みたいな美少女にしてもらえるなら安いものだよ」
今の彼女は普段よりも若く、幼さを残す風貌をしていた。平時であればコスプレにしか見えない学生服も違和感なく着こなしている。
今回はこの姿の方が都合が良さそうだと、響花の風貌を勝手に参考にさせてもらっていた。
「わぁ、美少女だなんて嬉しい♪」
余計な面倒事を起こさない為に教会の外では自らの能力、権能の行使を封じている今の彼女では男の秘めたる欲望までは見抜けない。
だからこそ外では対価を求める。対価を支払う事で相手に欲望を晒す事への予防線を張らせるのだ。合意の上、払うものを払った上でなら遠慮はいらないのだと。
(本当ならお金なんて関係なしにお相手してあげたいんですけどぉ……お安くしておきますから許して下さいねぇ)
基本的に奉仕精神に溢れる彼女は心苦しいが、そんな内心など男は知らず格安で相手をしてもらえる事への興奮と幸運で頭が一杯だった。
一番安い部屋を選び、鍵を取ってエレベーターに乗り込むと男は上擦った声で彼女に尋ねた。
「そ、その制服は
「名前ですかぁ? ユラ、って呼んで下さい。黒森ユラ」
何の捻りもない偽名だが、彼女、ユラ自身は気に入っていた。自らのネーミングセンスに拍手を送りたいくらいだった。
「ゆ、ユラちゃんか。お金に困ってるってな、何か欲しいものでも──んんっ!?」
視線を彷徨わせながら会話を探す男の唇をユラが自分のもので塞ぐ。触れるだけの軽いキスだが男を黙らせるには十分だった。
「お話するのもいいですけどぉ、キスは料金に含まれてないんですよぉ? どんなに深くても──きゃ♪」
わざとらしく舌を出して誘惑するユラの姿は、男の余計な我慢を取り払うのには十分だった。両肩を抱き、男の方から唇を押しつけると舌を侵入させ、ユラの口内を味わい尽くすように舐め回す。
二階、三階、四階。目的の階に着く頃には二人の口元は互いの唾液で濡れていた。
息を荒げたままエレベーターを下り、部屋に入るとすぐにユラは膝を下ろして男のベルトに手を掛ける。
「はぁっ、はぁっ、し、シャワーは……」
「そんなの後でいいじゃないですかぁ♪ おじさんのここはもう我慢できないって言ってますよぉ」
ベルトを外され、パンツごとズボンを下ろされて露出した男の肉棒は完全に勃起し、醜悪な臭いを発していた。
「あはっ、おっきぃ。すんすんっ、それに臭いもすっごぉい。さあどうします? お口? それともお手々?」
「口でっ、そのちっちゃな口でくわえてくれっ!」
「はぁい♪ はぁーむっ」
ユラは上目遣いに男を見つめ、舌で筋をなぞりながら内頬に形が浮かび上がる程深くくわえ込んだ。
何の躊躇いも嫌悪感もないその動きに男の腰がはねる。今までこんなに情熱的なフェラをされた経験などなかった。
「んっ、じゅぽっ、ずずっ」
支えるように玉袋に手を添え、優しく揉みながら刺激を加える。ずっしりとした重みに射精の瞬間を想像してユラの目がとろける。
「ちゅぱっ、じゅるるっ、じゅっ、じゅーっ」
わざとらしく音が響かせながら自らの唾液を肉棒に余すことなく漬からさせる。それを上塗りするように鈴口から我慢汁がどんどんと溢れてくる。
(おちんちんから興奮が伝わってくるぅ♪ もっともっと興奮して下さいねぇ)
「うっ、激しい……!」
「ぷはっ、腰を引いちゃ駄目ですよぅ。逃げないように抱きしめちゃいますっ。じゅぷぷっ!」
膝裏に手を回し、快感に悶える男は逃げ場をなくし与えられる快感を甘受する他なくなる。そしてその快感は久しぶりの女との行為に興奮しきった男に耐えられるものではなく、あっという間に限界が訪れる。
「うあっ、だ、駄目だ! もう……!」
「ふぇ? んぐっ!?」
男が訴えた時点でもう止められるものではなかった。せめて最後まで快感に浸ろうと腰を突き出し、ユラの口の感触を全体で味わいながら肉棒を震わせた。
「んんっ、んっ、ぢゅるるるるる!」
ユラの対応は迅速だった。責めを緩めても射精を遅らせる事は出来ないと悟り、せめてと勢いよく啜り上げ、気持ちの良い射精を促進する。
「イクッ!」
「んーっ♪ ずずずずっ、じゅっ、ぢゅぅううううう!」
腰が抜けてしまいそうな快感と共に男の精がユラの口の中へと吐き出される。
想像した通り、期待した通りの濃厚な、ゼリーのような粘度と重量感のある精液を一滴も零すことなく口で受け止める。
「くっ、うっ、ふぅ、ふぅっ……」
肉棒の震えに合わせて玉袋を揉まれ、男は今まで出した事のない量、時間の射精を終えるとゆっくりと肉棒をユラの口から引き抜いた。
「んはぁ……」
肉棒を引き抜かれたユラの口は白く染まり、ずっしりとした精液が舌の上でぐちょぐちょと糸を引いている。
「あ、ああっ、ティッシュ、ティッシュ……」
その様子に射精の後だからか興奮よりも気遣いが勝った男は部屋の奥、ベッド近くに置かれたティッシュボックスを見つけ、慌てて靴を脱いでそれに手を伸ばそうとした。
「んーんー」
しかしそんな男の手を掴み、ユラは首を振る。一体何のつもりかと男は狼狽えるが、ユラは精液を舌で転がしつつも、どうにか意思を伝える。
「ひょれ、のんでも、いい、でひゅ、かぁ……?」
「な、え……」
「んゅ、じゅるっ」
声を発した事で口の端から零れ始めた精液を啜り上げ、ユラは男の返事を待たずして口に溜まった精液を嚥下し始める。
「ぐちゅっ、ずっ、じゅる……んくっ、んんーっ……はぁっ、ごめんなさい。もう飲んじゃいましたぁ♪ 零れたら勿体ないですもんっ」
「そ、そこまでしてくれるなんて……」
男は興奮よりも先に感動を覚えていた。本番なしとはいえ一万でここまでのサービスを受けられるなんて夢にも思わなかった。
ユラのテクニックに情けなくもすぐに射精してしまったが、男の肉棒はまだ勃起したまま。一度だけのつもりだったがこんな極上の女を前にして一発だけで済ませるなんて勿体ない。
「な、なあ君。本番はいくらでしてくれる……?」
財布の中身を思い出しながらそう切り出す。今は三万程度しか持ち歩いていなかったはずだが、後二発か、出来るなら本番で一度は射精したい。
「本番ですかぁ? それならこれでどうでしょー?」
ユラが立てた指は五本。手持ちでは足りなかった。
ホテルの近くにコンビニがあった事を思い出し、そこで今すぐに引き出して来ようと決める。
「ご、五万だねっ。すぐに下ろしてくるから待っててくれないかっ!? 最初に今の分の一万は払うし、絶対に逃げたりもしないから頼む!」
「へ?」
必死に頼み込む男だが、ユラは間抜けな声を上げて首を傾げた。
どうやら話にすれ違いが生まれていたらしい事に気づき、ああと手を叩く。
「あははっ、違いますよぉ。ホテル代は別でぇ、お口とお手々は百円。本番なら五百円ですよ?」
だから指を一本立てたのだ。そも、普段は無料でやってるのにそんな金額で迫るなんて業突く張りにも程があるとユラは内心で笑ってしまった。
「え……えっ!?」
「それなのに一万円とか五万円とか……うふふっ、おじさま、そんなにすごいことを私にするつもりだったんですねぇ……♪」
制服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿となったユラは自らの秘部に指を当て、既に濡れそぼったそこを男に見せつけるように開いた。
「いいですよぉ。おじさまのやりたいこと、ぜーんぶ私にして下さい。あっ、でもぉ、ゴムなんてしたら罰金ですよっ?」
「うっ、うぉぉおお!」
「きゃあ♪」
もう男に憂いはない。気の済むままにユラを抱いた所でお釣りが来る。
思考を放棄し、ただ肉欲と獣欲に身を任せて男はユラへと覆い被さり、それから数時間に渡ってユラの体を味わい尽くすのだった。
もっとも、それでもホテル代の方が高くついた事に変わりはなかった。
今回の収入。
フェラ&手コキ──300円
本 番────2000円
合 計────2300円
そうして当初の目的だった電車代をユラは手に入れたのだった。