※この作品はR-18です。

肉欲教会 ~Sister Of Desire~   作:うた野

5 / 6
出張! 女神様 後編

 日が暮れた頃、公園のベンチに二人の少年を放置してユラは街の中心部にある駅へと向かった。

 出来る事なら少年たちを家に送り届けてあげたいが、余計な騒ぎになる事は目に見えているので後ろ髪を引かれつつも、せめてと下着をそれぞれのポケットに忍ばせておいた。少年たちが上手く誤魔化してくれる事を祈るばかりである。

 ユラは駅舎に入ると人の流れを少し離れた所から観察する。電車を利用する流れはなんとなく理解しているが、百聞は一見にしかずという奴だ。

 ユラの常識というのは彼女の存在同様、酷く不安定で曖昧な認識だ。同属の中には人を依り代とし、人間の意識を通して人の世界の造詣を深めたモノも居るが、彼女の依り代は教会そのもの。ただそこにあるだけの無機物だ。

 本来であれば今のこの世界に留まり続ける事も容易くはないが、そこは同属の中でも一際強力な存在であればこそ、力のほとんどを失いながらも人の形を取る事で世界に溶け込んでいる。

 人の空想より生じ、外なる宙から来たるモノ。全てを呑み込む対攻神話(プレデター・ロア)と称された神話において『外なる神』と呼ばれる数少ない神性であるが故に通る無理だった。

 

(ふむふむ、人の流れ的にはあそこが一番ですね)

 

 そんな無理を通して顕在している彼女が街に下りた目的。色々と人里を満喫していたが忘れるはずもない。

 

(──痴漢されるには!)

 

 あくまで満員電車を体験さえすればいいはずなのだが、どうやらいつのまにか目的が変化していたらしい。

 胸(ノーブラ)の前で拳を握りしめ、決意を込めてユラは券売機に向けてスカートを翻して(ノーパン)一歩を踏み出した。

 期待に胸を膨らませ、見よう見まねでお金を入れてタッチパネルを操作し、目的の切符を入手する。現代文明の利器には疎いが機械音痴ではない。難なく手にした切符を使い、駅のホームへと進む。

 その間も周囲への観察は怠らない。能力に頼らない、経験眼からどの列に並ぶべきかを瞬時に見定め、素知らぬ顔でサラリーマンたちが固まった列へと加わった。

 数分と待たずにホームへとやってきた電車に乗り込み、車内を進んで車両の端、連結部分近くへと陣取る。

 この角の位置ならば小柄なユラは人が前に立てば隠れるし、さらに背後は壁、逃げ場も少ない上にすぐそばの優先席に最初から座っていたサラリーマンは疲れ果てて眠っている。気付かれる危険性は低い。此処が痴漢する側にとってもされる側にとっても絶好のポジショニングであることを初見で見抜いたのだった。

 

(むふーっ。完璧っ、まさにパーフェクトな陣地取り……!)

 

 その、はずだった。

 発車した電車の揺れを感じながらしたり顔で今か今かとその時を待つユラ。一駅、二駅と人を入れ替えながら路線を巡るが、一向にその時は訪れない。

 

「おい、おっさん。疲れてるのは分かるけどそこ、優先席だぜ。占領してんなよ」

 

 それどころか今乗り込んできた若者などは眠りこけたサラリーマンを起こし、共に乗り込んできた老婆の席を確保してあげたではないか。

 何という事だろう。人の悪性を期待していたというのに善性を見せつけられるとは。

 起こされたサラリーマンも逆上するでもなくへこへこと頭を下げて自分の非を詫びている。優しい世界がそこには広がっていた。

 

(うぅ、素晴らしい事だとは分かるんですけど、私、冒涜こそ美徳みたいな所があるのでぇ……)

 

 意気消沈しながらも車内を見渡し、別の好ポジションをサーチする。真逆の位置、駄目。出入り口付近、駄目。この車両には既に痴漢に最適と呼べるポジションは存在しない。

 ならばと目を凝らす。人の身となっていても身体能力、肉体のポテンシャルは常人と比べるまでもない。ガラス越しに隣の車両。、カーブを利用してさらにその隣の車両を窓から覗き込んで位置を探す。

 

(──ッ!)

 

 そして見つけた。見つけてしまった。二両隣、ちょうど今のユラと同じポジションに位置する場所で俯く女学生。その手に伸びる男の手を。いや、そんな! あの手はなんだ! 尻に! 尻に!

 目を見開き、辛抱溜まらんといった様子でユラは連結部の扉を開けてずんずんとその車両へと近づいていく。人の間を抜ける時は胸を押し当てる事は忘れない、痴女の鑑。

 目的の車両の扉を開け放つ。すぐそばには問題の女学生と金髪の若い男。

 男はユラの接近に気づき、素知らぬ顔で手を引っ込めてスマートフォンを弄っているがその立ち位置を変える事はしなかった。

 女学生の方はスタンションポール──掴み棒をキツく握りしめて震えていた。金髪の男はその大柄な体を利用してそんな女学生の姿を巧みに隠している。

 

(私でも分かる──教会に来て下さったお客様とは違う。この男……手慣れている)

 

 ユラの登場にきょどる様子もなく、かといって諦める様子もなく隙を見せればすぐにでも痴漢を再開する用意がある。一朝一夕で身につく振る舞いではない。この若さで既に熟練の動き。

 

「お嬢ちゃん、そこに突っ立ってると邪魔になるぜ」

「っ……!」

 

 さらには立ち止まったユラに自ら声をかけ、誘導しようとしている。何という大胆さ。常人には気付かれないという自信、さらに女学生が逃げることも訴える事も出来ないという確信を持っていなければ出来ない対応……!

 ごくり、と男には聞こえないように喉が鳴る。ユラは今、理解した。

 何故、自分ではなく彼女が痴漢されているのか。この男ならユラの存在にも気付いていたはずだ。その上で彼女を選んだ。それは位置取りの問題だけではない。一目見ただけで彼女がこの電車内で最も痴漢に適したターゲットだと見抜いたからだ。

 ユラは知らぬ事だが痴漢とは現行犯逮捕が基本だ。逃げられてしまえば最後、被害者本人が警察に訴えた所で証拠がなければ逮捕までは至らない。監視カメラもない車内、証拠の隠滅など容易い。

 現行犯で捕まえるには誰かが声を上げなければならない。しかし目撃されないように女学生の姿を隠してしまえば、声を上げられるのは彼女ただ一人。だが今の様子から分かるように彼女にそんな勇気はない。恐怖から逃げることも出来ず、男にされるがままの彼女には。

 男はそんな彼女の気質を見抜いていた。平時のユラにはない気質だ。だからユラではなく、彼女を選んだ。危険を減らす為、確実に痴漢を成功させる為に。

 

(私が甘かったみたいですぅ……電車に乗って、位置取りさえしてれば大丈夫……そんな甘い考えしか持っていなかった私が、痴漢されようなんて……なんて傲慢)

 

 完敗だ。愕然としながら、改めて二人を見れば成る程、痴漢する側とされる側、お似合いの二人だ。ユラではその関係性は築けない。二人の間に割って入る余地などない。

 

「…………それ、でも」

 

 けれど。

 頭では分かっていても、どうにもならない事がある。

 野暮だと知りながら、譲れないものがある。

 選ばれなかったといって引き下がれるはずもない。

 黒森ユラという人の皮を被っていても、この身は人の理解を超えた異界の神性なのだから──!

 

「ごめんなさい、その子は私の友達なんです」

「え……」

「……」

 

 ユラのその言葉に、背を向けていた女学生が初めて顔を上げ、振り向いた。

 金髪の男は沈黙の後、両手を挙げた。

 

「へえ、そうだったんだ。ごめんごめん、邪魔なのは俺の方かっ」

 

 お調子者の仮面を被った男の目は、声とは裏腹に笑ってはいなかった。逢瀬(痴漢)を邪魔された怒りと値踏みするような下卑た感情が瞳には宿っている。

 それを正面から受け止めて、踵を返して移動しようとする男の背に言葉を投げかける。

 

「……あなたの顔、覚えましたよぉ」

「……ははっ、君みたいなかわいい子に覚えられるなんて光栄だな……俺も、覚えておくよ」

 

 それはユラの決意表明だった。

 次に会う時は必ず。

 

(──俺を捕まえる、ってか?)

(──私を痴漢させてみせますぅ)

 

 勿論そんな決意が伝わるはずもなく、互いに奇妙なライバル意識のようなものを芽生えさせて二人の変態の邂逅は終わりを告げた。

 

「……あ、あの。ありがとう……ございます……」

「……」

 

 しかし、彼女の不幸は終わらない。

 

「何を勘違いしてるんですかぁ?」

「え……」

 

 男と入れ替わり、絶好のポジションを手にしたユラはスタイリッシュな振る舞いで緑の挑発を腕で後ろに流し、再び彼女の姿を余人には見えないように自らの体で隠した。

 

「あ、あのっ……」

「ふぅー」

「ひゃ……!」

「声、出したら承知しませんよぉ……?」

 

 黒森ユラは仮初めの姿。その実態は異界の神性『シュブ=ニグラス』。

 強大な力を持つ女神にして男神の側面を持つモノ。今覗いているのはそちらの面だった。

 即ち、痴漢される側からする側へと目的をシフトしていたのだった。

 

(それはそれでアリです♪)

 

 気持ちをすっぱりと切り替えて、ユラの手が女学生のスカートへと伸びる。

 ユラの体格では女学生の姿を完全に覆い隠す事は出来ないが、傍目ではユラがノーパンノーーブラの痴女である事など想像も付かない。学生同士が体を寄せ合ってこそこそと内緒話をしているようにしか見えないだろう。

 あの男とは違い、背後からではなく正々堂々真っ正面からの痴漢を敢行した。

 

「や、やめて……」

「んー? ふふっ」

 

 女学生はスカートの端を握りしめ、足をきつく閉じてユラの手を拒む。それで抵抗のつもりか、とユラは鼻で笑い、スカートの中ではなくソックスとスカートの間、剥き出しの太股に触れた。

 

「ひぅ……!?」

 

 瞬間、男に触られていた時の怖気とは違う、ぞわぞわとした感覚が女学生を襲う。

 ただ撫でられただけで腰が抜けたような錯覚すらした。

 

(いいでしょう。触られたくないというのなら、あの男への敬意も込めて、私からは肝心な部分には触りません)

 

 そう決めてユラはスカート内部へと侵入する隙を見つけながらも、手を伸ばす事はもうしなかった。

 

(でもぉ、あなたが耐えられますかねぇ?)

「っ……」

 

 右手は太股に、左手はスカートを握りしめた手に、触れるか触れないかのフェザータッチを繰り返す。

 アルコールを摂取せずとも雰囲気に酔う、という事がある。人ならざる権能を振るう事なく、艶めかしく漏らす吐息、ねぶるような視線、やらしげな手付き、そしてユラの蠱惑的な魅力が女学生を酔わせているのだ。

 

「んっ……え」

 

 助けてくれたはずの同性に痴漢されているという状況だけではなく、思わず漏れた声に女学生は信じられないというような表情で口元を押さえた。

 それは体の隙であり、心の隙だ。

 ユラは緩んだスカートではなく、口元に手をやった事で僅かに空いた腋へと手を滑らす。

 ユラとは装いは多少違えど同じブレザーを纏っている以上、素肌に直接触れられるはずはない。にも関わらず、女学生は敏感に反応を示した。

 

「んぁ……!」

 

 そう反応する事を知っていたかのように女学生の声に咳払いを合わせ、その痴態を周囲へは気付かせない。

 反射的に締められた腋に挟まれたユラの手がわきわきと別の生き物のように蠢きながら、ブレザー越しに肌を擦り、抜ける。

 未経験でありながら、性的知識だけは十分に持つ女学生はその動きに膣から肉棒が抜かれる姿を幻視した。

 直接でもなく、性行為とは無関係な部分のはずなのに、これではまるで腋による性行為のようだとそんな馬鹿げた感想を抱いた。

 

「はぁっ、はぁ……」

「やらしい子……♪」

 

 ユラはわざとらしく、見せつけるように抜いた手を目の前で開く。勿論、その手には愛液どころか汗もついているはずはないのに、目が離せない。

 

「あぅ!?」

 

 胸元で両手を握りしめる形になっていた女学生を次なる快感が襲う。

 太股を離れたユラの手が腹部、臍、いいや違う。ブレザーの上から子宮へと触れていた。

 

「ぁ、あ……っ」

 

 女学生の声は線路上で電車同士がすれ違う轟音によってかき消される。全て、ユラの計ったタイミング通りだった。

 きゅんきゅんと子宮が疼くのを感じる。中心がじんわりと熱くなり、全身から発汗が始まっている。

 その感覚が、その反応が、興奮を越えた発情である事を女学生はまだ知らなかった。

 がくがくと足が震え、揺れる車内で立ち続ける事も困難。つり棒に寄りかかる形でどうにか膝を折ることだけは避けるがもう抵抗出来る状態にはなかった。

 ユラは立ち位置を変え、そんな無防備な女学生の姿を再び隠しながら腹部を、子宮をさすさすと執拗に撫で回す。

 

「あっ、あっ、あっ……」

 

 寄せては引いてを繰り返し、先ほどまでのように一定のラインを越える快感はない。だがぃっくりと着実に上り詰めていくのが分かる。

 これは開発だ。これから来るであろう本来であれば度を過ぎ、痛みへと変わるはず快感を快感のままに感じられるように開発されているのだと、女学生は無意識の内にそう理解した。

 

「や、やめっ、怖い、です……っ」

 

 砕けかけた腰のせいでもう掴み棒を手放す事は出来ない。女学生は口だけの抵抗の言葉を吐く事しかできない。

 

「怖がらなくていいですよぉ。心配もいりません。声も上げられないくらい、気持ちよくなれますから……♪」

 

 揺れる電車にあたかも体勢を崩したようにユラは女学生に身を寄せ、囁く。

 

「それに……あなたも本当はこうされたかったんでしょう?」

 

 それは確信だった。隠された欲望を読み取ったわけではない。

 だがこの女学生がこの状況に、与えられる恐怖と快感に暗い喜びを感じている事をユラは見抜いていた。

 

「そんなっ……」

 

 太股を伝う愛液がユラの言葉を裏付けるかのように光を反射している。

 同性からの痴漢という異常性とユラの妖艶さに惑わされ、女学生の心に戸惑いが生まれる。まさか、本当に? そんな普通ではあり得ない思考。

 

(違うっ、私は、そんな──)

 

 否定の思考は快楽で塗り潰される。

 ユラの手が制服の中へと侵入し、臍の周囲に触れたのだ。

 

「きゅ──!」

 

 声にならない嬌声が漏れ出る。魔術ではなく技術。人と同じ程度にまでその力を落としながら、ユラの手技はまさに神の領域へと踏み込んでいたのである。

 白に染まる視界と思考。感じた事のない快楽と呼んでいいのかも分からない、未体験の感覚に女学生は翻弄され、絶頂へと至っていた。

 けれど。

 

「はぁっ、はぁっ……?」

 

 息を荒げながら、女学生は顔を上げてユラを見た。

 確かに絶頂を感じた。だが、それは予感していた大波には程遠く、すぐに穏やかに引いていく程度のものでしかなかった。

 

「物欲しそうな顔ですねぇ。……でも、残念。時間です♪」

 

 車内アナウンスが次の駅名を告げている。

 だがそれは女学生の目的地とも、ユラの目的地とも違っていた。

 

「え……」

「物欲しそうな顔ですねぇ」

「ち、違っ」

 

 ではどうして無限に等しい時間を持つユラが時間を気にしたのかといえば、単純だ。

 ユラは、『シュブ=ニグラス』という神性は耐え性のない神性である。

 

「もしもあなたがその乾きを、欲望を満たしたいと思うのなら、これを育てて下さい」

 

 同時にありがた迷惑ともいえる奉仕精神を持つ神性でもある。

 

(私の全てを使ってその欲望、満たしてあげたくなっちゃいました♪)

 

 女学生の制服、その内ポケットにに黒いロザリオを忍ばせ、ユラは反対側の出入り口へと向かう人の流れに身を紛れさせた。

 乗客たちは誰も女学生を気にも留めない。この車両で起きていた事に誰も気付いていない。やがて扉が閉まる。駅のホームから車内を伺うユラの姿がガラス越しに見えた。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 女学生の荒い息づかい。電車は再び動き出し、ユラの姿が遠ざかっていく。

 触れられていた部分の熱は冷める事なく、右手は制服の上からロザリオを握りしめていた。

 完全に湿った下着に気付くこともなく、女学生は上気した頬で見えなくなるまで熱に魘された様子でユラを見つめていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。