とある教会、大聖堂を抜けた先。
あまり使用される事のない応接室に今日は明かりが灯っていた。
「んっ、ちゅ……」
「っ、は……で、ですから、先の『審問官』の一件から、各派閥の在り方を今一度、うっ、明らかにすべきだと、一部の者からの……意見が、出て……」
ソファに腰掛けた男はつかえながらも言葉を紡ぐが、対面には誰も座ってはいない。
では誰に向けた言葉なのか。
「んんっ、でまひゅかぁ……?」
「ち、違っ、そうでは、なくて……」
それは本日も平常運転で男の股の間に座り込む、シスターに向けてだった。
ちろちろと舌で玉を転がし、右手で肉棒をさするシスター──ユラは男の話を聞いているようには見えない。
「シ、『シュブ・ニグラス』……この『黒山羊派』と連絡が取れず、近しい教義を掲げる我々が連絡役に選ばれた、のです……が……っ」
「んっ、んっ、んーっ」
「あっ、くっ……で、
「んぶっ、んぐっ、じゅっ……んっ、んくっ」
職務であり神に与えられた使命を全うしようとした使者はユラの責めに耐えきれず、己の欲望を彼女の口内へと吐き出した。
目を細め、射精に震える肉棒の形を確かめるようにカリに舌を這わせてユラはそれを受け入れた。
「……ぷはっ。ふぅ、ご馳走様でしたぁ」
射精を終えた男の肉棒を労り、一滴も残らぬように精を舐め取るとユラは両手を上げて体を伸ばした。
「目覚めの一発はやっぱり効きますねぇー」
男が来訪したのは早朝、ユラがまだ眠りに落ちている時刻だった。
寝ぼけ眼に男をこの応接室に案内し、そのままなし崩しで精を頂戴し、ようやく目が覚めたらしい。
つまりはここまでの話のほとんどは頭に入ってはいない。
「お、同じ性の儀式を行っているとは聞いていましたが……な、成る程これは……」
最初は困惑こそしたが、射精を終えた男は感心したように呟いた。
男が所属する派閥には崇める神が二柱存在する。そのどちらもが性魔術に関する神格であり、男の派閥でも儀式として性行為を神に捧げている。
「女性でありながら自らを捧げるとは、流石は『シュブ・ニグラス』を奉るだけの事はありますね。我々、『ウトゥルス派』の女たちは性行為ではなく拷問を行う者がほとんどですから」
性行為と拷問。『ウトゥルス派』が奉る神、『ウトゥルス・フルエフル』と『カソグサ』に捧げるのはそれだ。
快楽と苦痛、時に容易く入れ替わるその二つを神への供物とし、男たちは神へと仕えていた。
「しかし近しいとはいえ我らは異なる神を崇める身、流されてしまった私にも落ち度はありますがこのような真似は困ります。ともすれば神への背信になりかねない」
普通ならばこの時点でユラに骨抜きになっているだろうが、男は全てを神に捧げる事を誓った信徒、自らの使命を思い出して冷静に忠告した。
もっとも、ユラがそれを素直に受け入れるはずもない。というよりは興味など端からないように立ち上がり、男に背を向けて用意されていたティーポッドから紅茶を注いでいた。
「今はあなただけですか? 司祭様や教祖様、それに準ずる方は……?」
「此処に居るのはずっと私だけですよぉ」
「それは……ははっ、まさか。確かに末端に過ぎない私は他の派閥の内情に明るくはありませんが、それでも外なる神を奉る派閥が構成員があなただけだなんて……」
外なる神『シュブ・ニグラス』。
原典たる物語と同一でないにせよ、外なる神というのは最も強大とされる神格たちだからだ。とはいえ信仰によって外なる神から得られる恩恵というのは少ない。だからこそ教団は無数の旧伸や旧支配者を信仰する派閥に枝分かれし、樹形図じみた組織図となっているのだが、それでも外なる神を信仰する者は大勢存在しているのは事実だ。だからこそ男はユラの言葉を信じようとはしなかった。
「そんな事はどうでもいいじゃないですかぁ」
話をはぐらかした、という様子ではない。ユラは本当に、心底から興味がなかった。
男の話も勿論だが、男自身への興味も薄れてきている。
(うーん、久しぶりにつまらない人が来ちゃいましたねぇ)
その理由は精液を取り込んだ事で読み取った、男の欲望だった。
薄い。あまりに薄味過ぎる。理性で押さえ込んでる訳でもなく、男の秘めた欲望はユラにとっては面白みに欠けていた。
人間は理性という器の中に欲望を秘めている。その器から欲望を溢れさせ、それに溺れる事がユラの喜びだ。
だというのに男はそもそもの器も、内側の欲望も、そのどちらにも問題がある。理性の器は脆くひび割れ、秘められた欲望は狂気に侵され本来の味を失っている。
狂人と聖人、男はユラが興味を抱けないタイプの人間だった。
「私がお話だけは聞いておきますよぉ」
男の所属する『ウトゥルス派』を含めた全ての派閥へ命令が下ったように、一応の秩序は存在している。明確な教団全てを率いる教組こそいないが、象徴として統率者は存在しているのだ。
そしてその統率者はユラが頭の上がらない存在でもある。男を追い出すのは簡単だが、そうもいかなかった。
「……人が居ないというのは本当のようですし、一応はあなたにお伝えしておきます」
大丈夫なのか、という不安がつきまとうが別の派閥に必要以上に首を突っ込む事は男も望んではいない。『黒山羊派』へのメッセージを伝えるという役目を果たせるのならいいだろうと自分を納得させ、改めてユラへと伝言を伝える。
「あなたがご存じかは分かりませんが、教団の自浄機関であるはずの『審問会』に所属する審問官が暴走しました。恐れ多くも神の名を騙り、偽りの神託を信者に与えたばかりか、あまつさえ神そのものを操るという不敬を為したのです」
「はぁ」
男の語る『審問会』とやらにユラは聞き覚えがあるような気がしたが、詳細は覚えていない。教団の運営にも運行にも興味はないからだ。
気の抜けたユラの返事に男は目を細めたが、かまわず続けた。
「既に背信者たるその審問官は捕らえられ、直に処罰が下るでしょう。ですが神を騙るその所業は信じる神が違えど許せるものではありません。それぞれが崇める神に不敬がないか、それを確かめる為にそれぞれに『鍵守』が来訪する事になりました。今一度己の行いを見直し、教義に背く事がないか、己の潔白を証明せよ、と」
眠気が覚めた後も男の話を聞き流し、一人紅茶を啜っていたユラの表情が強張る。聞き流せない単語が男から発せられたからだ。
「『鍵守』、ですかぁ……?」
「ええ、あなたもご存知でしょう? かつて教団の創始者が召喚した代弁者にして代表者です」
「あ、あはははー、それはもう、お噂はかねがねー」
引きつった笑みを浮かべるユラの様子はまるで、悪戯が見つかった子供のようだ。
ユラと『鍵守』の繋がりなど知るはずもない男は一度頷くだけだった。
「いずれ此方にもいらっしゃる事でしょう。あなたの前に現れる事はないでしょうが、この件はしっかりと『黒山羊派』の代表にお伝え下さい」
「は、はぁい。承りましたぁ」
では、と男は立ち上がり、出口へと向かう。そしてドアノブへと手を掛けた時、見送ることもせず口をもごつかせて何かを考えているユラを振り返ると務めを果たした開放感からか男は笑みを浮かべて告げた。
「それと、もしも我らが『ウトゥルス派』に来られる事があれば歓迎致します。あなたならばきっと、我らの神の素晴らしい供物となるでしょう」
「はぁ、そうですか」
誘い文句を聞き流され、むっとした表情で男はドアノブを回した。見所のあるシスターではあったが、もう二度と訪れる事はないだろうな、と不愉快な気分で。
「それでは」
ガチャリとノブが回る音と同時に、扉を引いていないにも関わらず内側へと開いた。
「あっ」
「……失礼します」
倒れ込んできた少女を一瞥し、今度こそ男は立ち去った。一瞬、目が妖しく光ったような気もしたが、焦る少女は深くは考えなかった。
そうして部屋に残されたのは今も思案に耽るユラと、部屋の外で聞き耳を立てていた少女──響花だった。
「……なあ」
「うーん……どうしたものですかねぇ。別に悪い事はしてないんですけどぉ、来ると言われると何だか落ち着かないというかぁ……うーん」
「……おい」
「ウルちゃんって生真面目すぎるんですよねぇ。私にも口うるさいですしぃ、これも一種の亭主関白になるんですかねぇ……」
「おいって!」
無視に耐えかね、響花が声を荒げた。勿論、そんな程度でユラが堪えるはずもないとは分かってはいたが。
「ん、あら響花ちゃん、いらっしゃい。また来たのねぇ」
「なんでちょっと近所のお姉さんみたいな対応なんだよ!?」
「いやぁ、ちょっと動揺しちゃって上手く力が使えないんですよぉ。リクエストがあれば口頭でどうぞぉ?」
いつも通りの底知れない余裕を持った態度。少なくとも響花にはそう映った。
だが黒のロザリオに誘われてこの教会に迷い込んだ時はいつも嗜虐的な笑みを浮かべて現れるはずのユラの姿がいつまで経っても見えなかったのも事実。
それを幸いとして響花はどうにか脱出を試みたのだが、教会の外は見知らぬ風景が広がる山の中、仕方なしに歩き回っていた時、あの男の声が聞こえて聞き耳を立てていたのだった。
「ならさっさとあたしを家に帰せ!」
「でもぉ、此処に来たって事は色々と溜まってるんでしょう? もう何度も来てるんですし、そろそろ素直になってもいいじゃないですかぁ」
つい最近知り合ったばかりの女学生などは一度この教会を訪れ、帰る頃にはユラをお姉さまと呼ぶ程になっていた。
女学生に限った話ではない。人間たちは訪れる内にユラに溺れていく。それこそが悦びでもある。だというのに響花の態度はいつまで経っても軟化しない。それがユラには不思議だった。
強靱な理性を持つ聖人というわけでもない。一度快楽を与えてやれば容易くそれに呑み込まれ、翻弄される。なのにそれはその一時だけ。再会する度、響花はユラに抗おうとする。
「ふざけんなっ! あんたたちみたいな得体の知れない連中に誰が! 教団とか神とか、そんなカルトな奴らとなんて関わりたくもない!」
「得体の知れない……そうですよねぇ。私たちって中身があってないような、そういうものですしぃ」
「場所も分からないし証拠もなくて警察も取り合ってくれないし……本当になんなんだよ、あんたら」
相変わらずの警戒態勢を取る響花。力が使えずとも籠絡する事は容易いが、珍しくユラはそういう気分にはなれなかった。
本人が望んでいないと言い張るのなら、今日の所は帰してあげてもいいとも思った。
(あ、でも今の私じゃ送ってあげられませんねぇ)
力が上手く使えないという言葉に嘘はない。人の姿、人の形のままでは、という前提が最初にあるが、今のユラの力は不安定だ。こうして少し気に掛かる事が出来ただけで使えなくなる程度には。
今の姿を捨てるのはユラにとって望ましくない。それを望む者もいるかもしれないが、当分その予定はない。と言いつつも時折、羽を伸ばすように角を出しているのだが。
「ならそうですねぇ。今日はお話をしましょうか」
「はぁ……?」
響花は怪訝な表情でユラを睨むが、その鋭い視線を受け流してユラは男には用意しなかった新しいカップを戸棚から取り出し、紅茶を注いだ。
「紅茶を飲んで気分を落ち着けて、そしたら今日は帰してあげますよぉ? それに私の事を知ってくれたら、素直になってくれるかもしれませんし、ね?」
「……本当だな?」
「本当ですよぉ。たまにはそういうのもいいですよねぇ」
◇◆◇◆
私は遙か昔に闇から生まれた。
後から出でる者たち全ての母として、また名付けられざるものの妻として存在を確立した──という設定になっていますねぇ。
その辺りは私の認識と記録がそうなっているだけで、あまり実感はありませんが。夢の中でのお話みたいな感じです。
私を、黒森ユラと自称する個体について語ろうとしても、そう多く語る事はないですよぉ?
元々、私には縛られるような習性も特性もありませんから。そういう存在として望まれたから、その通りに振る舞っていただけです。
そういう気まぐれな存在として、気まぐれに人の姿を選んだだけ。結果としてそれが今の私の思考と嗜好を形作ったんですよ。
淫蕩と母性、その属性がより顕著に、かつ可愛らしい程度に収まっているんですよねぇ。
え? ああ、そうですよぉ。私は人間じゃありません。
うふふっ、そういう反応は新鮮ですねぇ。訪れる人たちは皆、そんな事気にしませんからぁ。
とある男ととある神様から生まれた神格、外なる神の一柱。とは言っても今の私はただのシスター。名乗るとすれば黒森ユラですよぉ。
目的ですか? 別にありませんよぉ。言ったでしょう? 縛られるような習性も特性もない、私はただ在るだけです。思考に嗜好はあっても志向はない。これが私の子供たちなら違うかもしれませんけどねぇ。
ある子は時の流れに逆らう者を狩る事を目的にしてるかもしれませんし、ある子は人の生け贄を求めるかもしれません。もしかしたら私に反抗する子もいるかもしれませんねぇ。
ああ、でも共通している部分はありますよぉ。本能と言えばいいのか、根っこの部分にあるのは同じです。
誰が呼んだか
よく分かりませんかぁ? そうですよねぇ。でも分からなくていいんですよ。ほら、あれです。知らない方が幸せな事もあるって事です。それに私にはあまり関係ない事ですしねぇ。
はい。根っこは同じでも私くらいになると割と融通が利くんですよ。これでも私、すごいんですよ?
それなのにどうしてえっちな事ばかりするのかって? ……気持ちいい事をするのに理由っていりますか? あ! 勘違いしないで下さいね! えっちなのは素ですよぉ! 別に私は何も企んでたりしませんから!
どうしたんです? そんな微妙そうな表情を浮かべて……?
◇◆◇◆
響花は大きな溜息を吐いて、注がれていた紅茶に口をつけた。
正直な所、ユラの話は全く理解出来ない。情報が増えてもユラに対する認識は変わらない、人ではない化け物だという事しか分からない。
「どうです? 少しは私の事、分かってくれましたぁ?」
「全く」
きっぱりと言い切って、響花はそれ以上のユラの正体に関する思考を放棄した。
知って何が変わるわけでもないのなら、考えるだけ無駄だ。
「……あんたと関わった奴らがみんな、あたしみたいに嫌がってるわけじゃないってのは分かったよ。特に男ならあんたみたいな都合の良い女は大歓迎だろうさ」
「ええ? 響花ちゃんだって嫌よ嫌よも好きの内ですよねぇ?」
「あたしは本当に嫌なの! あんな化け物に乱暴されて嬉しいわけないだろ!?」
たとえ本当に響花が深層心理で抱いている欲望だったとしても、自分の中にあんな恐ろしい欲望が眠っているなどと、理性のある内は認められるはずがない。
それは人として認めてはいけない欲望だ。少なくとも響花自身はそう思っている。
「……だからもうやめてくれよ。他の奴らが望んでるなら、あたしは口を出さない。だけどあたしはもう嫌なんだ。自分が自分でなくなるみたいで……怖いんだよ」
「響花ちゃん……」
「滅茶苦茶にされる度、自分が駄目になっていくんだ。滅茶苦茶にされる事を受け入れそうになる自分が嫌なんだ。これが本当のあたしなんだって、そう言われてるみたいで……おかしくなる」
今にも泣き出しそうな、弱々しい声音だった。
そんな響花の態度にユラも茶化す事は出来ない。
その悲痛な表情を快楽で歪める事は出来るだろう。けれど、響花はそれを望んでいないという。彼女の欲望を読めない今のユラにはその言葉を鵜呑みにする事しか出来ない。
望む望まないに関わらず至上の快楽を与える事は出来ても、ユラには誰かを慰める事など出来ない。そんな経験は今までなかった。
ユラがユラと名乗る前、概念にも等しい『シュブ=ニグラス』だった頃は人の心になど興味はなかった。
響花を解放するのは容易い。黒のロザリオを回収してしまえばもう二度とユラと出会う事もないだろう。
けれど今のユラは与えるモノでも奪うモノでもなく、人の欲望に、心に応えるモノなのだ。
それを心と呼ぶには歪だが、概念でも現象でもないユラという一個の人格を得た今、響花の姿には感じ入るものがあった。
「響花ちゃん、それなら──」
ユラが俯く響花に声を掛けようとしたその時、応接室の扉が大きな音を立てて再び開け放たれた。
「──お姉さまぁ!」
突然の物音に驚いた響花とユラが扉の方に目を向ければ、ユラにとっては見知った少女が息を切らせ、瞳を潤ませて立っていた。
先日知り合った例の女学生だった。その時と同じ制服姿だが、何故か薄汚れている。まるで山道を上ってきたように。
「こ、琴音ちゃん?」
名を琴音。他の来訪者たちと同じく、ユラに心を奪われた少女である。
いやともすれば他の来訪者以上かも知れない。なぜなら彼女が持つロザリオの角はまだ伸びきってはいない。鍵としての役割を取り戻してはいない。
「私、私! 我慢できずに来ちゃいました!」
電車内のか細い声からは想像もつかないはきはきとした声を出しながらずんずんと進み、跪くとユラの手を握り、それを頬にすりつけ、うっとりとした表情を浮かべた。完全に心酔しきっている。
「お姉さまにまた滅茶苦茶されたくて、居ても立っても居られなくて……ああっ、お姉さまの手すべすべぇ……えへへっ」
「あ、いや、あの、ありがとう、ございます?」
欲望に精通こそすれ、自分も含めて心の細かい機微にまで未だ疎いはずのユラは何か、嫌な感覚を感じ取った。
見れば響花は俯いたまま、その肩を震わせていたかと思えばバン! とテーブルを叩き立ち上がる。まだ中身の残った紅茶がその振動で零れ落ちた。
「帰る」
「え、で、でもまだ元の場所に繋げるのはちょっと無理っぽいと言うかぁ……」
「その子だって自分の足で来たんだろ。ならあたしも帰れる」
「あの、響花ちゃん?」
何故だろう。修羅場、そんな言葉がユラの脳裏を過ぎった。
「なんか馬鹿らしくなった。あんたはその子とよろしくやってればいいでしょ」
琴音の登場は最悪のタイミングと言っていいだろう。
自分とは真逆に滅茶苦茶にされたいという欲望を受け入れ、自ら曝け出している琴音の姿は響花にとって酷く不快だった。
こういう奴が居るから自分も同じに見られ、陵辱に晒されたのだと、そう思ってしまった。
響花はポケットからロザリオを取り出す。何度捨てても気付けば戻ってくるそれを握りしめ、そしてユラに投げつけた。
「だからもうあたしには関わるなっ!」
豊満なユラの胸にはじかれ、ロザリオがソファへと落ちる。それを見届ける事もなく、響花は背を向けて扉の向こうへと消えていった。
「……お姉さま。何なんです、今の人?」
いつの間にかユラの膝に顔を埋めていた琴音がむすっとした表情で顔を上げた。
ユラに対して親愛を越えた情を抱くに至った琴音にとって、響花の無礼な態度は許せるものではなかった。
「うーん……琴音ちゃんと同じお客さん、だったんですけどねぇ」
投げつけられたロザリオを手に取り、ユラは困り顔で眉をへの字に曲げた。
来訪者を皆、笑顔で送り出して来たユラにとってはこれが初めて、笑って見送る事が出来なかった日だった。