※この作品はR-18です。

海軍史上最悪の男   作:チャリ丸

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金欠……! 圧倒的金欠……!
というわけで懐に優しい趣味に時間を使います、はい。

書いていてまた思ったのですが、パンクハザード編ほぼ常に全体が移動してるのでその場にキャラを固定しにくかったです。
ドレスローザや……ようやく、ドレスローザや……。


断罪

 

 

「R棟66番ゲートへ急げえぇぇぇえっ!」

「死にたくなけりゃ、とにかく走れえぇっ!」

「が、ガスが来るぞぉッ!」

 

 パンクハザードの研究所の外を覆った殺戮ガス、シノクニ。

 研究所の主であるシーザーの判断により外壁が破壊され、研究所の中に侵入し始めたシノクニは、"G-5"や"麦わらの一味"、トラファルガー・ローたちを追いかけていた。

 

「"泡波(ソープ・ウェーブ)"っ!」

「おおぉおっ! ママすごいっ!」

「リリー、真剣になさい」

 

 そんな逃走劇で、意外な働きを見せていたのがカリファだ。

 元CP9であり現在もジャックハートの船に乗る彼女は、当時よりも能力の幅が広がり、その強度も上がっている。

 体から大量の泡をまるで大きな波のように放ち、シノクニを一瞬だけはねのける。

 

「これで止められるのはほんの一瞬。疲労を考えても、あと数回撃てるか分からないわ」

「それでも十分です、カリファさん。……ん?」

「おいハンコックッ! どうしたんだよ一体!」

「くどい! わらわに話しかけるな猿が!」

「……はぁ」

 

 カリファの攻撃により生まれたほんの少しの余裕。

 その隙に少しでもシノクニから離れなければならないのに、たしぎの視界の中では2人の男女の言い争いが起こっていた。

 

「おいルフィッ! 今はそんなことしてる場合じゃねぇだろ!」

「ハンコックさんも、先を急ぎましょう。さっさとこんなところ脱出して、ジャックハートさんと会いましょう」

「……うむ、そうじゃな。こんな貧相な猿に構っている場合ではなかったな」

 

 ハンコックとルフィ。

 ジャックハートから伝えられていたたしぎは知っていることだが、頂上戦争が終わった当時、女ヶ島にルフィを匿っていたハンコックを、島民丸ごと捕らえて分断したのがジャックハートだ。

 ルフィからすれば海軍に捕まった恩人にまた会えた、となっているが、ハンコックから見ればそうではない。

 

「……忌々しい過去じゃ。あんなに弱々しいこの世の何も知らぬようなガキ以下の猿に、少しでも心を許してしまっていたとは……」

「過去は過去、今は今です。そんなことよりも、生きて帰りましょう」

「分かっておる。ジャックハート様がわらわに求めておられるのは美しさなどだけではない。強さもそうじゃ。この程度、軽くこなしてみせる」

 

 ハンコックがある意味素直でよかったと思う反面、彼女ですら手懐けてしまうジャックハートに、少しばかり恐怖を抱いてしまった。

 ジョー・ハンコック。

 元王下七武海という彼女の元懸賞金は8000万ベリー。すでにジャックハートの元に嫁いだ形になっているためその懸賞金並びに手配書は無効となっているが、実力は変わらない。むしろ、彼のためにと思い戦っているため海賊だった時よりも強くなっている部分もある。

 

「しかし、ガスというのは厄介じゃの。わらわの"覇王色"が通じん」

「そりゃ普通アレは生物に使うもんだからな。何、触らなけりゃいいだけの話だ」

 

 大きな扉を超えた先に待っていたのは、とある一人の男。

 たしぎ自身も確信はしていたが、隣にいたハンコックの体がブレたのを見て改めて分かった。

 

「あなた様っ!」

「おっと。おいおいハンコックちゃん、こんな何もねぇ殺風景なところで熱くなるより、ベッドの上に早く行かねぇか?」

「その通りです。それと、その際にはきっちり私のことも隅々まで愛してもらいたいものです、ジャックハート様」

「わ、私もですよっ!」

「分かってるっての」

 

 突進する様にその男に抱きついたハンコック。

 彼女のそれを軽く受け止めたのは、もちろんジャックハートだった。

 ハンコックが抱きついたままのジャックハートにカリファとたしぎが急いで駆け寄り、ついでリリーが可愛らしく駆け寄ってきた。

 

「リリー、死者は出たか?」

「ううん。ママとわたしで、みんな守ったからねっ!」

「はぁ、はぁ……! リリーちゃん、マジ鬼畜すぎる……」

「えー? 死ぬよりマシでしょ?」

「確かにそうだけどよ……」

 

 背後にあった巨大な扉が閉まったことでシノクニの侵入が止まり、一安心する面々。

 目の前には強力な援軍が来てくれたこともあり、冷静さを取り戻せていた。

 

「あれ、スモーカーは?」

「スモーカー中将なら先ほど、ここにいた麦わらのルフィを強引に引き連れ先に進みました」

「なるほどねぇ。何考えてんのかは知らねぇが、俺らは俺らでやることやっちまうか」

「お、俺たちのやること?」

「あぁ。つっても、俺が過去のミスを揉み消すだけだ」

 

 ジャックハートが来た道を振り返る。

 "G-5"やたしぎたちはジャックハートとは真逆の方向から来ていたため、奥の通路を目を細めてじっと見る。

 

「よう。さっきぶりだな、ヴェルゴ。15年間楽しかったか?」

「お陰さまでな。お前のおかげで"覇気"の扱いも想像以上に上手くなった」

「ケハハハハハハ。ゴミはいくらやったってゴミのままだぞ? 当時10歳の俺に金玉片方潰されて惨めに泣いてたおっさんがどんだけ強くなったんだよ」

「……嫌なことを、思い出させる」

 

 そこから現れたのは、少し前にジャックハートと相対し、つい先ほどまでシーザーとともにいたヴェルゴ。

 自分たちの直属の上司であり、かつ信頼も厚い人物だと分かり"G-5"の面々にさらに活気が訪れるが、それとともに同じ海兵であるジャックハートに敵意を示していることに疑問を抱いた。

 

「あ、あれ? なあヴェルゴさん。なんでアンタ海兵と戦おうとしてるんだ?」

「アホで能天気なやつらに教えてやるよ。ヴェルゴ……こいつは15年前に入隊してくる前からずっとドンキホーテファミリーにいた男。つまりはスパイだ。海軍や一般人のためじゃなくドフラミンゴのため。今回の騒動も、シーザーを上手く使いたいドフラミンゴのために陰で働いてたってことだ」

「……う、嘘だ。嘘、だろ……? ヴェルゴさん」

「残念ながら嘘じゃねぇ。そんで、ヴェルゴ。お前にも残念なお知らせだ」

 

 持っていた"正義"の白いローブを隣に立つたしぎに渡すジャックハート。

 その姿を静かに見つめていたヴェルゴは、右手に持っていた竹竿に"武装色の覇気"を込めてくる。

 

「サカズキさんから伝言だ。お前はもう海軍には要らんから殺せ、だとよ」

「そうか」

「ってわけで、死ねやクソジジイ」

 

 強く地面を蹴り、一瞬にして距離を詰めたヴェルゴがジャックハートの顔を狙う。

 

「かぁあっ!」

 

 まさしく渾身の一撃。

 鍛え上げられたヴェルゴの"武装色"を纏った左の裏拳がジャックハートの左頬を捉える。

 

「……おいおい。せっかく教えてやったことを忘れてんじゃねぇよ」

「っ!? くそ……っ!」

 

 既に達人の領域に達していると言ってもいいヴェルゴの本気の攻撃。

 しかしそれすらも、ジャックハートを傷つけるには足りなかった。

 

「一つ、敵は本気で殺しにいけ。二つ、相手の隙を見逃すな。三つ、相手のペースに呑まれるな」

「チッ……ッ!」

「弱くなったなぁ、ヴェルゴ。せっかく俺が弱ぇお前のためを思って弱点むしり取ってやったのによ」

 

 バックステップで大きく距離を取る。

 自分でも改心の当たりだと確信していたヴェルゴは、今の一撃を受けてなお平然と立っているジャックハートを見て戦慄を覚えていた。

 

「なんだ、攻撃はもう終わりか?」

「化物め……」

「違ぇよ」

 

 冷や汗を流すヴェルゴ。

 彼の眼前から、一瞬にしてジャックハートの姿が消えた。

 

「てめぇが弱いだけだ」

「がぁッ!?」

 

 そしてほぼ同時に、自分の背中に突如として襲いかかる強烈な衝撃。

 言葉と気配から察することは容易であり、ジャックハートが背後に回り込んでいたのだ。

 ヴェルゴの背中にめり込んでいるのはジャックハートのただの突き。

 それだけでヴェルゴは前方に数メートル吹き飛ばされた。

 

「ケハハ、軽いな。何もかも軽い」

「クソ……ッ!」

「いいねいいねぇ、もっと来いよ」

 

 久方ぶりの強い"覇気"使いとの戦いにテンションが上がっているジャックハート。

 言葉も口数が増え、煽るような口調でヴェルゴを促す。

 負けじとヴェルゴも立ち上がり、反撃しようとするものの。

 

「グッ、ガ……ァ……!」

「弱ぇっての」

 

 止められる。

 竹竿での攻撃も、自慢の体術を使った蹴りや突きも、何もかも通じない。

 まるで見えない壁に阻まれ、ジャックハートが謎の技術を使っているかのように攻撃は重くのしかかる。

 

「ケハハハハハッ! 頼むぜヴェルゴ。……楽しませてくれよ」

 

 欠けたサングラスから覗く彼の左目。

 その目から見える20歳の青年の姿は、とんでもなく大きく、強く見えた。

 

「たしぎ、リリー。そいつら連れて先に行け」

「はっ! ジャックハートさんは、何を?」

「こいつの始末だ。んで、もう少ししたらまた外壁破壊してあのガスぶち込むつもりだろうしな。今のうちにお前達は逃げとけ」

「分かりました!」

 

 部下達に指示を出し、直ちにこの場から離れさせる。

 ヴェルゴ直属の部下である"G-5"の海兵達には嫌がる素振りを見せるものもいたが、たしぎやリリー、ジャックハートといった面々の真剣な雰囲気を流石に察したのか、静かに離れていった。

 

「……さて、観客もいなくなったことだ。さっさと終わらせようや」

「ここで、終わるのか……」

「あぁ、残念ながらな。どうせあんたも聞いてんだろ? ドフラミンゴさん」

『……気づいていたか』

「当然っすよ。お察しの通り、ヴェルゴはここで死ぬ。いくら王下七武海とは言え"新世界"に兵器やら人造悪魔の実やらを流してたんだ。あんたにも、それ相応の処罰はあるかもっすよ」

『フッフッフッ……! やってくれたな、ジャックハート……ッ!』

 

 ジャックハートとヴェルゴ。

 二人だけしかいない空間に突如として入ってきた一人の男の声。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。彼と通信が繋げられた電伝虫がヴェルゴのコートのポケットに入っていたのだ。

 

「トラファルガーがあんたに対して何かしら企んでるのは明らかだ。結果どうなるかは分からねぇが、あんたこのままだと落ちるぞ」

『……ジャックハート、取引だ』

「あ?」

『モネ、ヴァイオレット、ベビー5をファミリーから追放し、お前に渡そう。子ども達もだ。その代わり、ローと麦わらを止めろ』

「……話が分からねぇ人だな。そんなもん、何の交換条件にもなってねぇっすよ」

 

 相手は王下七武海きっての策士。

 闇の部分に最も近い存在であると分かっていながら、ジャックハートの態度は依然として大きいままだった。

 

「俺がトラファルガーと麦わらを相手すんのは当然のことだ。同盟組んだんならトラファルガーは七武海剥奪。普通の海賊として俺が相手することになるだろ」

『……』

「んで、俺の目下最大の敵はシーザーっす。あんなもん作られてたら落ち着かねぇ。あんたがどうとか関係なく、あいつは捕まえる。それだけだ」

 

 王下七武海と海軍本部大将。

 世界政府に認められた海賊である王下七武海である彼に、対等ではなく上に立っている。

 

「とにかく今は何もしないほうがいい。下手に動いたら、犬に噛み付かれるぜ」

『……フッフッフッ。なあジャックハート。お前も、ここに来るのか?』

「えぇ。誘ったのはあんたでしょう。"メラメラの実"を景品に出す大会を開くって。安心してくださいよ。俺からあんたに直接何かをするってことはない。ヴェルゴだけだ。こいつは、海軍に関わったからな」

 

 その関係にしているのはいたって単純。ジャックハートとドフラミンゴの力の差にある。

 ドフラミンゴ本人もそれをよく理解してしまっているからこそ、ジャックハートに強く出られないのだ。

 

『……相棒。お前とは一番長い付き合いだった。……今まで、ご苦労だった』

「ケハハハ。まるでここで死ぬみてぇな言い方っすね。大丈夫っすよ。ちゃんとあんたのとこにも送りつけるんで」

 

 今回のヴェルゴの一件で、非があるのは完全にドフラミンゴである。

 ジャックハートに何を要求されるか分からない現状で、今は一番の相棒と言ってもいいヴェルゴの命を諦めるしかなかった。

 最後の一言を伝え終え、ドフラミンゴは通信を終えた。

 

「……言いたいことは何かあるか?」

「いや、何もない。ただ、それなりの抵抗はさせてもらうぞ」

「ケハハ。好きにしろ。どうせ結果は変わらねぇ」

 

 自身の得物である竹竿に"武装色の覇気"を纏い、ヴェルゴはジャックハートに向かって駆けていく。

 

 

 ◇

 

 

 ドォォォォン……ッ!

 シノクニから逃れるように走るたしぎ達の背後で、遠くから地鳴りのような音が響いた。

 

「な、なんだぁ? まさか、また外壁に穴開けやがったのか!?」

「オイオイ、大丈夫かよ大将さん!」

「大丈夫です。ジャックハート様なら、必ず生きてここに戻ります」

 

 走り続ける彼女たち。

 そんな彼女たちに先ほど、研究所内での放送が入った。

 

「さ、さっきのローがどうこうとか言うの、放っといていいのか!?」

「だいじょーぶ。そんなことよりみんなは自分が生き残ることに集中して! ママの能力も、何回も使えないんだから」

「ありがとう、リリー。でももう大丈夫よ」

 

 放送の中身は、トラファルガー・ローがシーザーを裏切り何かを企んでいるというもの。

 恐らくドフラミンゴ側とロー側での対立があっただろう。しかしそれは、今現在の海軍側には関係のないことだった。

 

「そうだ、リリー。ママはもう大丈夫だ」

「あっ、パパっ!」

「えぇっ! もうここにっ!?」

「お前ら走るの遅すぎんだろ。もうちょい急げ。俺が向こう離れる時にまたガスが侵入してきやがったからな」

「ヒィィィィイイイッ!! ま、マジかよぉ!」

「あれ、ねぇパパ。その袋は?」

「汚ねぇ大人へのお土産さ」

 

 一心不乱に走る彼女たちの元に、大きな白い袋を提げたジャックハートが合流した。

 彼も放送や今までの会話は聞いていたようで、同じくR棟66番ゲートを目指して走っていた。

 

「リリー、たしぎ。また少し任せるぞ。少し先に用事がある」

「うんッ!」

「了解です!」

 

 そう言い残し、今度はジャックハートがたしぎたちから離れた。

 鍛え上げられた肉体による超速歩法の"剃"は、普通のそれよりも遥かに速い移動を可能にしていた。

 

「よっと」

 

 宙を駆けること数秒。

 ジャックハートがこの島に入った時からずっと感じていた懐かしい気配にようやく再開することができた。

 

「ケハハハハハハハッ! ガキと鬼ごっことは、随分と楽しそうじゃねぇか。なぁ、海賊ども」

「ッ! なんだ、こいつッ! いつの間に……!」

「海兵ッ!? おいお前、今は争ってる場合じゃねぇだろ!?」

「テメェらの尺度で俺を図るんじゃねぇよ。ガスもシーザーの野郎も俺にとっちゃ雑魚でしかねぇ」

 

 巨大化した子どもたちから逃げるように移動を続ける海賊たち。

 手配書で見たことのある顔と名前を一致させていく。

 男どもや彼らの船医であるトナカイを一目見てから、最後に共にいた女性二人を見やる。

 

「おーおー、随分といい女がいるじゃねぇか。おまけに腕の中には俺に似て可愛らしい子どもと来たもんだ」

「おいテメェッ! ナミさんとロビンちゃんに近づくんじゃねぇ!」

「あ? んだよ、お前の女だってのか?」

「ナミもロビンも、そういうんじゃねぇよ! 二人ともおれたちの仲間だ!」

「へぇ。こんないい女に手ぇ出さねぇなんて、お前ら枯れてんな。そんなんじゃ大事な時に気持ちよくさせてやれねぇぞ?」

「……なんだコイツ」

 

 ジャックハートの視線の先にいるのはもちろん、過去彼が肉体関係を持ち、その結果として子どもを産むこととなった女性たち。

 ベルメールを抱えるナミと、オルビアを抱えるロビン。

 巨大化した子どもたちや他の男どものことはどうでも良かったが、二人に会うついでに軽くからかいに来たのだ。

 

「あぁ、自己紹介がまだだったな。海軍本部大将のジョー・ジャックハートだ。以後よろしく」

「大将……ッ!」

「しかも、ジャックハートって……」

「おそらくこの二人から忠告されてんじゃねぇか? 最悪の女の敵だってな。全く失礼な報道の仕方だぜ。向こうから愛してくれって言われてそれに答えてやってるだけなのによ」

 

 片目に縦の刀傷を負った剣士、ロロノア・ゾロの問いに丁寧に答える。

 その返事として帰ってくるのは今まで出会った大半の海賊たちと同じような、驚きと嫌悪を示すものだった。

 

「ケハハ、見れば見るほどいい女だ。デートのお誘いでもすれば、頷いてくれるか? 熱い夜を約束しよう」

「テメェ……これ以上ナミさんとロビンちゃんにふざけた口聞くんじゃねぇ!」

「おーおー、怖いねぇ。……ま、おちょくるのはこれぐらいにしておくか。本題に入るぞ」

「本題?」

 

 やってきて早々の挑発するような態度から一転。ジャックハートの纏う雰囲気が真面目なものへと変わった。

 それを悟ったのか、この場での実力者でもあるサンジとゾロも真剣な表情になった。

 

「そ、本題。軽く状況を教えてやる。今ここでテメェら全員ぶっ殺してもいいわけだが、見ての通り手荷物抱えちまってるんだ。ヤニカスのアホが迷惑かけた分として、命だけは見逃してやるよ」

「ほう……!」

「挑発に乗らないで、ゾロっ! ……それで、状況って?」

「……。ここの主、シーザーは今現在"麦わらのルフィ"とトラファルガー・ロー、スモーカーと戦闘中。後者が勝つだろう。そして、俺が来た方向からガスが迫ってる。これも時間に余裕があるが、そのガキども相手にしながら逃げるのはきついぞ」

「どうやってそんな情報……。っ、覇気か」

「ご明察、剣士くん。この島で何が起きてるかは、今なら大体分かる」

 

 ジャックハートの口から語られたのは、今パンクハザードのこの研究所の中において、どこで何が起きているのかということ。

 シーザー捕獲に向けて同盟を組み、ルフィとローは勝利目前。ガスの進行にも余裕があるとのこと。

 

「信用できねぇな。そもそもなんで、大将がおれたち海賊にそんな情報をくれるんだ」

「信用したい、が本音だろうが。さっきも言っただろ? ここでは命だけは助けてやるって。俺には求めてるもんがあるんだ。それを叶えてくれるかもしれねぇのがお前たちってわけだ」

「求めてるもの……?」

 

 軽く走りながら再びナミとロビンの方を見るジャックハート。

 その口が、大きく弧を描く。

 

「あぁ。俺を満足させてくれるもの(・・・・・・・・・・・・)だ。期待してるんだぜ、頂上戦争を掻き回した"最悪の世代"の黄金ルーキー」

「ね、狙いはルフィか!?」

「お前たちっつったろアホ。……今は、思いっきり戦える状況じゃねぇ。時が来れば、本気で戦ってみてぇってことだ」

 

 ジャックハートのその言葉に、海賊たちが息を飲む。

 彼の言葉をそのままの意味で受け取り、闘志を燃やすもの。噂で聞いた彼の強さに少しだけ腰が引けるもの。そして、彼がここに来た意味と今の言葉の本当の意味を察したもの。

 

「また会おうや海賊ども。最近、俺は常に飢えてるからな。満足させてくれることを期待してるぜ」

 

 その言葉だけ残し、再びジャックハートは"剃"で移動を始めた。

 

「……3億か」

 

 一瞬にして辿り着いたのは、シーザーの部下と思われる大勢の兵士たちがいる部屋。

 その中心で戦っている人物たちを見て、ジャックハートはまた笑った。

 

「ケハハハハッ! 生きのいいのが揃ってるじゃねぇか、なぁ! トラファルガー、麦わら!」

「っ、誰だ……!」

「お前……!」

「……来たか。いよいよ終わりだな、シーザー」

「はぁ、はぁ……。この忙しい時に、誰だ……!」

 

 ガスガスの実の能力者、シーザー・クラウン。

 ゴムゴムの実の能力者、モンキー・D・ルフィ。

 オペオペの実の能力者、トラファルガー・ロー。

 王下七武海であるローの懸賞金を除いたとしてもその総額は7億にまで及ぶ。

 

「ローとシーザーはともかく、お前は名前覚えとけよ。一回殺されかけてんだから。俺はジョー・ジャックハート。海軍大将だ」

「白龍屋か……」

「……ッ! そうだ、ジャックハートッ! ハンコックをどうしたんだ!」

「あぁ? 俺の女がどうした。ハンコックなら今、毎日すっげぇ楽しそうに生きてるぜ」

「おい麦わら。今はそんなことで争ってる場合じゃないだろ。今は、こいつが先だ」

「しゅ、シュロロロ……。よりにもよって、ジャックハートか……」

 

 シーザー、スモーカー、ロー、ルフィ、そしてジャックハート。

 実質的にシーザーから見て1対4の形が完成した。

 

「おいお前ら、俺を捕まえたらどうなるか分かってやってんのか!?」

「当たり前だ。……麦わら屋だけでは心配だったから来てよかった。元から、お前を誘拐することが目的だったんだからな」

「……なるほどな。性格腐ってんじゃねぇか? トラファルガー」

「この場でお前にだけは言われたくないな、白龍屋」

 

 シーザーとローのやりとりから海賊側の狙いを理解する。

 ドフラミンゴの裏の顔、ジョーカーとしての一番のビジネスパートナーは四皇のカイドウ。

 彼が一番欲しているものが、人造悪魔の実である"SMILE"だ。

 そして、その元である"SAD"を作れるのがシーザーなのだ。

 

「ケハハハ。新世界がめちゃくちゃになるぜ、おい」

「元からそのつもりだ。……白龍屋。お前、ここに何しに来た」

「お前らとほぼ同じだ。俺も、そろそろボロが出そうなビジネスパートナーを切りてぇと思ってたとこだ」

 

 四皇の一角を落とし、そして過去の因縁の相手であるドフラミンゴも倒す。

 ローの頭の中にある最良のシナリオが完成すれば、新世界は一気に変わる。

 そして、ローの思惑とジャックハートの思惑が、一部分だけ一致していたのだ。

 

「捕まえるのは、もう少し先にしてやろう。俺もお前たちを相手にしなきゃならねぇほど暇じゃねぇし、次の予定が控えてる」

 

 王下七武海であるローはともかく、ルフィは普通の海賊。

 しかしジャックハートは、その両者ともを捕えないと言ったのだ。

 

「……何が目的だ?」

「さぁな。ただ一つ言えるのは、俺は退屈したくねぇってだけだ」

 

 ローとスモーカーが真剣な面持ちでジャックハートを見つめ、シーザーが新たな敵に震える中。

 

「ん? どういうことだ?」

 

 ルフィは一人、彼が何を言っているのかいまいち理解出来ていなかった。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 時を同じくして。

 

『つ、強い、強いぃ〜ッ!! "幻の王女"、そして最強の一角と名高いジャックスに愛された美少女剣士、レベッカ〜!!』

 

 ドレスローザ、コリーダコロシアム。

 この国の前国王、リク王の孫である彼女は、このコロシアムでとある一言を発するまでは全方位からブーイングを常に浴びるほどに嫌われていた。

 それもそのはず。そのリク王は国中の恨みを買ってしまった人物であり、唯一その血縁関係者だと知られているのがレベッカただ一人しかいないのだから。

 

『この試合でも、数多くの選手達が彼女を倒そうとしていますっ! しかし、その攻撃すらも華麗に躱し、反撃する!』

「チクショウ……! あのジャックスと関係を持ってるなんて卑怯だろ……」

「どんな手を使ってるか分かんねぇが、何がどうなって全部避けてるんだ……」

 

 しかし、その状況をいとも簡単に打破してしまったのが、ジャックスという名前。

 

(彼の名前をコロシアムの中で出した途端、恐らく彼の部下の人だと思うけど、私に強くなる戦い方を教えてくれた……)

 

 向かってくる敵の攻撃を"見聞色の覇気"で動きを読み取りつつ、場外へと叩き出していく。

 ジャックスに愛されている。

 彼女がそうコロシアム内で漏らした瞬間から、レベッカ本人はジャックハートの部下と思っている人物が、コロシアムの中にも関わらず、懇切丁寧な戦闘指導を行ってくれたのだ。

 

(兵隊さんに教えて貰ったことと、彼と部下の人に教えて貰ったこと。これで十分、戦える……ッ!)

「はぁあっ!」

『レベッカ、また一人を場外へと叩き出したぁーッ!』

 

 以前から自分の身を自分で守れるように、とおもちゃの兵隊に戦い方を教えられていたレベッカ。

 そこに、悪を倒せる力を身につけさせたのが、ジャックハートだった。

 

「私は、負けない……! もうこれ以上、あいつの好きになんてさせないっ!」

 

 過去ドンキホーテ・ファミリーに逆らったとして、コロシアムの囚人剣闘士にされてしまった彼女。

 未来を変えるため、彼女は戦い続ける。

 

 そして、レベッカがコロシアムで健闘を見せている映像を眺める人物が、ドレスローザの王宮にいた。

 

「……」

「どうしたの、ドフィ(・・・)。顔が怖いわ」

「……フッフッフッ。お前だな、ヴァイオレット。ジャックハートにレベッカの存在を知らせたのは」

「何か問題でも? あの人好みの女の子だったから紹介しただけよ。レベッカも、戦いばかりの生活じゃなくて、ちょっとは楽しいことを知った方がいいと思ったの」

 

 ドレスローザの現国王、ドフラミンゴ。

 そしてドンキホーテ・ファミリーの幹部、ヴァイオレット。

 

「余計なことをしてくれたな……! あいつが俺と、どういう関係か知っているはずだ!」

「えぇ。よく知っているわ。だからこそ、よ」

「何?」

「女の私から見ても分かるぐらいにスタイルが良くて可愛いレベッカよ? もし、そんな子をあなたが攻撃していると彼が知ったら、どうなるかしら」

「……。なるほどな、そういうことか。女の勘といったところか?」

「そうね。モネもベビー5もレベッカは彼好みの女の子だって分かってたから」

 

 ドフラミンゴにとってレベッカは、言わば晒し者にできる絶好の弱者だった。

 しかし、そんな扱いをしていることがもしジャックハートにバレてしまえば、どうなってしまうか分からない。

 

「あなたも良く知っているでしょう? 彼が一人の女性相手にどれだけ本気を出すか」

「あぁ、良く知っている。そう考えれば、いい判断だ。ヴァイオレット」

「ありがとう」

 

 表向きの理由としては、ドフラミンゴをジャックハートから守る盾を増やすため。

 本当の理由としては、レベッカに迫るドンキホーテ・ファミリーの毒牙からジャックハートに守ってもらうため、ヴァイオレットはジャックハートにレベッカの存在を知らせたのだ。

 

「今は私とモネ、ベビー5で彼も満足している。でも、以前あなたが彼に提示してしまった条件で、どう思われているかは私にも分からないの」

「そこに新しい駒としてレベッカ、か。フッフッフッ……! 十分だろう。所詮はあいつも性欲に狂ったただのガキだ。新しい女で満足させれば、しばらくは飼っておける」

 

 ──馬鹿ね、ドフラミンゴ。彼がそう簡単に私たちを諦めるとも思えないし、何より立場ではあなたの方が下よ。

 

 海軍内部の情報を女を抱かせるだけで教えてくれる存在を抱えていると考えているドフラミンゴと、そんな彼をどのタイミングでどう潰すかを考えていたジャックハート。

 力関係などはすでに数年前から如実に現れ出しており、異常な強さを誇るジャックハートにドンキホーテ・ファミリーの誰も刃向かおうとは考えていなかった。

 

「……まあいい。あいつと麦わらを同時に処理できるエサもある。フッフッフッフッフッ、食いつけよ、小僧ども……」

「ドフィ。ルーナのお世話をしてくるわ」

「あぁ。王宮の外には出るなよ」

「えぇ」

 

 一人高笑いをするドフラミンゴを尻目に、ジャックハートとの子供である女の子を抱き上げ、部屋の外に出るヴァイオレット。

 とある一室。以前ジャックハートと熱い夜を過ごした部屋に入ると、そこには2人の女性がヴァイオレットと同じように赤子を抱えていた。

 

「あら、ヴァイオレット。ドフィとのお話は終わり?」

「えぇ。……進展は無いわ。荷物をまとめておきましょう」

「いよいよ、私が永遠にジャックハート様のお傍にいるように……」

 

 モネとベビー5。

 ヴァイオレットとモネが第一子を妊娠した時には既にベビー5は出産していたというタイミングの違いはあるが、3人とも考えは同じ。

 

「私はともかく、あなたたちは大丈夫なの?」

「もちろんよ。この子のことを考えても、安全なのはジャックハート様の側よ」

「私も、この子を含めて今一番私を必要としているって言われたもの」

「……そう」

 

 かなり長い期間付き従っていたモネとベビー5が裏切っていると知ったらドフラミンゴはどんなキレ方をするのか。

 まあ旦那がいるから大丈夫だろう、と軽く結論を出したヴァイオレット……もといヴィオラは、娘であるルーナを抱きながら椅子に腰掛けた。

 

「いい? 二人とも。前にジャックハートさんが言っていた通りよ。彼が私たちのことをドンキホーテ・ファミリーの犯罪者として捕まえに来る時に、偶然引っ越しの準備が終わるようにするの」

「レベッカはどうするの?」

「一般市民をただ口説いたって扱いにするみたいよ」

「ジャックハート様はいつドレスローザに?」

「えーっと。そうね、見てみるわ」

 

 そう言って、"ギロギロの実"の能力を発動するヴィオラ。

 覚醒したその能力のおかげで以前のようなポーズを取ることなく遠い場所まで視えるのだから非常に使い勝手がいい。

 

「……今、パンクハザードにいるみたい。二人の女性と話しているわ。これは……海賊ね」

「この前言っていた麦わらの所の?」

「恐らく。……もうっ、羨ましいわね。あんなにジャックハート様とイチャイチャできるなんて……」

「ふふっ、どうかしら。みんながみんな、最初から素直というわけではないわよ?」

 

 赤ん坊を抱きかかえて授乳しながらも意味深な言葉を零すモネ。

 その言葉の意味を何となく把握しながら、ヴィオラは能力による視界の映像を切った。




裏で何が起きている、とかの補足説明は次話で書かせていただきます。

はぁ〜、これから自分でも書くのが楽しみです。
でもそろそろISとかオリジナルの方も進めよっかなって思い始めてます。ジレンマ。1日50時間ぐらい欲しい。

コメント、評価などお待ちしております!

今後の本番シーンについて、主にどんな内容が良い?

  • 主要キャラの一部を濃く
  • 主要キャラメインで大人数を書く
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