※この作品はR-18です。

海軍史上最悪の男   作:チャリ丸

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一部深夜テンションで書いた部分もありますが、まあ大丈夫なはず。

どこを持って最終回とするかによりますが、ある一つの大きな区切りが近づいているのは間違いないです。

※ここから、原作における男海賊キャラがさらに酷い目に合うことになります。
苦手な方は、ご注意ください。


ちょっとは戦闘描写を描きたいですねー。





羽化

 

 

 

 

「おいジャックハート! "麦わらの一味"全員、揃ったぞ!」

 

 島に上陸してから30分後。"麦わらの一味"が全員軍艦の前に揃っていた。

 島の内部はただのジャングルだけであり、別に特別強い生物がいる訳でも、罠が仕掛けられている訳でもない。

 そんな中、ジャックハートが待ち構えているというだけで警戒しきっていた一味は、精神的に少しだけ疲弊していた。

 

「お〜、やっと来たか。待ちくたびれて、もう15回戦ぐらいやってたわ」

「おい」

「あ?」

 

 甲板にはジャックハートの部下である女海兵たちがずらりと並んでおり、中心のみが空いていた。

 サンジのその声に応えるようにゆっくりと船の奥から歩いてきたジャックハート。その格好は海軍のズボンに黒いインナーだけという人前に出るのに決して相応しくはないものだった。

 人を舐めた態度、言葉、姿勢、服装。

 それらに苛立ちを覚えていたらキリがない中、低い声を発したのは、ルフィだった。

 

「ナミとロビンは無事なんだな」

「ケハハハハ。ハンコックちゃんのことと言い、随分と女々しい奴だな。……ま、いいか。ナミちゃん、ロビンちゃん」

 

 ジャックハートが船の奥にいる2人に声をかける。

 "麦わらの一味"は軍艦に乗れている訳ではなく、島内から見上げているだけ。そしてその角度により彼らからは見えなかったが、彼女たちが出てきたのはジャックハートの寝室だった。

 数分前、"見聞色の覇気"により彼らの接近に気づいたジャックハートの指示により、全身に跳んだ精液や汗、母乳を拭き取り、ジャックハートが事前に用意していた綺麗な衣服に身を包んだ彼女たちが、ジャックハートを挟むように甲板に現れた。

 

「ナミ! ロビン!」

「変なことは何もしてねぇよ。なぁ、2人とも」

「えぇ」

「安心して、されていないわ」

 

 変なことは何もされていない、というナミとロビンの言葉に、態度には出さないものの安堵する。

 そう、彼女たち2人は変なことは何もされていない。されて当然ということをされているだけなのだ。

 

「それじゃあ、時間も惜しいことだ。二つ目のゲームに行こう。ナミちゃん、ロビンちゃん。2人はどうしたい?」

 

 陸にいる"麦わらの一味"たちに一言挟む隙すら与えることなく、話はジャックハートを中心に進む。

 もちろん、この問答もジャックハートからナミとロビンに指示があり、受け答えは全て彼の指示通り。

 

「答えるのが怖いってんなら、沈黙でもいいぜ。俺としても、ゲームが進まなきゃ面白くねぇからな」

「……」

「……」

「ナミさん、ロビンちゃん……!」

「答えられる訳ねぇだろ、この状況で……! 俺たちの前で肯定したら、何されるか分からねぇ……!」

 

 ナミとロビンが海賊を続けたいと言ったら次に進む。そう伝えていたが、それはつまり、海軍本部大将の前で海賊になると宣言するようなもの。

 沈黙でいいのなら、不用意に喋る必要はない。

 

「なるほどな。それじゃあ、次に進むか。お待ちかねの戦闘だ。そっちの1人は俺の子どもがボコボコにしちまったみたいだからな、参加するのは6人でいい」

 

 ジャックハートが次に進むと言った瞬間、ナミとロビンは誰に言われるでもなくジャックハートの部屋へと下がった。

 彼が指定したのは、ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ、フランキー、ブルックの計6人。

 サンジも軽い怪我ではないが、退く訳にはいかない。

 

「リングなんて丁寧なモン、要らねぇだろ。お前らが下がって、軍艦の前でやればいい」

 

 戦う場所に指定されたのは軍艦の前。

 ジャックハートの腰には、そのラフな格好に似合わない一本の刀があり、その柄に手が触れている。

 彼の視線は常に"麦わらの一味"を捕らえており、彼らはジャックハートの言葉にただ従うだけだった。

 

「で、だ。流石に一勝でいいってのはそっちにハンデとしてデカすぎるからな。そっちが出る順番は俺が決めさせてもらう」

「早くしろ! なんなら、お前から先にやってもいいんだぞ!」

「へぇ……」

「お、おいバカ、ゾロ! そんなこと言ってマジで出てきたらどうすんだよ!」

 

 剣士としての嗅覚なのか、その剣を腰に挿したジャックハートに戦意を向けるゾロ。

 最上大業物・天艶(てんえん)

 まだ抜いてはいない薄い紅紫の直刃のその刀は、7年前にジャックハートが中将となった際、異例の速さの昇進と実力を買われ、世界政府から直々に与えられたものだった。

 

「ま、そんなことは今はどうでもいい。ぐだぐだされるのが俺は嫌いなんだ。進めるぞ」

 

 あわや一触即発、となるところだったがそれは言葉と雰囲気だけで終わった。

 そして、誰にも言葉を挟まさせることなく、ジャックハートの言葉だけで進んでいく。

 

「まず、ルールを設ける。互いに"覇王色の覇気"で気絶させるのはなしだ。こっちの陣営は多少耐えられるように訓練はしているが、フェアじゃねぇだろ。んで、殺しはしない。どちらかが気絶するか、降参するまでだ。もちろん、外部からの援護射撃も無しだ」

 

 彼が決めたルールは、至って単純なもの。

 複雑ではなく、そして残酷でもない。

 

「黒足、まずはお前だ。さっさと終わらせて、ゆっくりしたいだろ?」

「……どこかの誰かさんが痛めつけてくれたお陰でね。俺が先鋒なら、ありがたく行かせてもらうぜ」

 

 まずジャックハートが指定したのは、つい先ほどジャックハートに完敗を喫したと言ってもいいサンジ。

 その目はリベンジに燃えており、誰が出てきても必ず勝利を収めるという意思がひしひしと感じられるほどだった。

 

「こっちはじゃあ、頼む」

 

 顔を向けるだけのシンプルな合図。

 奥にいる海兵を呼んだのか、と一歩前に出たサンジが推測する中、ジャックハートに呼ばれた()()が返事をする。

 

「はい」

「っ、……まさか、この声って……」

 

 たんっ、と一つ小気味良い音を立てて甲板を蹴り、人影が宙に舞う。

 空中で回転しながら地面に着地したその人物は、着地の際に乱れた金色の長い髪を掻き上げ、ズレたメガネを直した。

 

「以前はCP9として、役人としての役割が多く、そしてあんな上司の命令を聞きたくなかったので手を抜いていましたが、今日は違います。愛するジャックハート様の御前。徹底的に叩き潰します。つまりは、半殺しです」

「君も、か……」

 

 サンジの前に降り立ったのは、エニエス・ロビーにてロビン奪還の時にも一度戦った、"アワアワの実"の能力者でもあるカリファ。

 胸元が開いた白いシャツに黒いミニスカート、そして白のガーターを身に纏い、以前とは見た目の雰囲気も違う彼女に、少しだけ気圧される。

 

「ママーッ! 頑張ってー!」

「ッ!? リリー!? なぜまだこの船に!? "G-5"に戻ったのでは!?」

「この戦いだけ見たいんだってさ。せっかくのママの活躍だ。見させてやれよ」

 

 着地したカリファに、軍艦から大きな声援が送られる。

 その発信者こそ、ボニーの能力で成長していたのが元に戻り、実年齢になったカリファの娘のリリーである。

 

「ま、ママァ!?」

「ってことは、まさか……」

「えぇ。あの子は私とジャックハート様の娘、ジョー・リリー、10歳。彼女も立派な海兵です。……私が既婚者かつ一児、いえ。二児の母であることが、何か問題でも?」

「二児って……」

「ッ! ママ!?」

「えぇ。リリー、あなたももうすぐお姉ちゃんよ」

 

 わーいわーいとはしゃぐリリーに対し、カリファと相対するサンジの表情は優れない。

 一度対戦し、その当時は相手が手練れであったこともあるが、自分が女は蹴らないということを心に決めていたため、完膚なきまでに叩きのめされた。

 ナミとロビンが捕まり、何とか取り返そうとしている中、今回はさらにその相手が妊娠中だということも知ってしまった。

 

「ケハハハハ、安心しろよ黒足。お前が想像しているようなことにはならねぇ」

「テメェ……」

「なんなら、カリファちゃんの代わりに俺が出てもいいんだぜ? ま、それなら残りの全ての試合に俺が出るが」

「……クソッ」

 

 ジャックハートに全て出られると、勝ち目がない。

 しかし、敵とは言えサンジが妊婦の女性を攻撃できるはずがない。

 

「なら、試合開始だ」

 

 痛む両足で地面を踏みしめ、苦悶の表情のまま構える。

 ジャックハートの掛け声を聞いたカリファの姿が、サンジの視界から消えた。

 

 

 ◇

 

 

「……」

 

 戦闘が始まった頃、ナミは1人、軍艦の内部を歩いていた。

 とある錠の鍵を持ち、軍艦の奥にあると言われて向かっているのは、暗い廊下の先にある一つの牢屋。

 

「……トラ男?」

「……な、ナミ屋……か……」

「だ、大丈夫なの?」

「そう、ゴフッ……みえ、る……か……」

 

 その牢屋の中にいたのは、全身を痛めつけられ、満身創痍の状態で転がるように投げ捨てられた元王下七武海、トラファルガー・ロー。

 "麦わらの一味"の同盟相手であり共にこのドレスローザまで来たが、彼は王下七武海を剥奪されて海軍に捕まり、その"麦わらの一味"も現在ここで足止めを食らっている。

 

「……海楼石の錠、くすねてきたわ。これで……」

「……や、めろ。もう、意味は……ない」

「意味ないって……」

「俺は……医者、でもある。自分の死期は、自分で分かる……。これはもう、治らねぇ……。ジャック、ハー……トっ、との、戦いで……、能力も、使いすぎた……」

 

 彼の姿は、正しく最後の力を振り絞っている最中と言ってもいいもの。

 ドレスローザでジャックハートに飛ばされてきた時はすでに満身創痍。戦闘で気を失い、痛みで目を覚まし、また気を失う。そうしてダメージを蓄積し続けた彼の身体からは、生きるのに必要な血液がすでに大量に無くなっており、ジャックハートの手によりいくつかの内臓も壊されていた。

 

「ナミ、屋……。どうせ、なくなる命、だ……」

 

 自身の能力を使い、なんとか身体に入り込んだ細かい瓦礫や欠けた骨などを取り出し、できうる限りの必要最低限の処置をし終え、身を隠していたところをたしぎに見つかったのだ。

 リリーやダレスによる業火のような攻撃に耐え切る体力は、彼には残っていなかった。

 

「どうせならこの命……ッ! くれてやる……!」

「っ、ど、どういうこと?」

「出血多量に、内臓破裂……! 骨や、筋肉……健まで、ぐちゃぐちゃにされてる……。能力で意識は繋ぎ止めてるが、もうもたねぇ」

 

 心に決めたように、ローが身体を起こす。

 見れば、右足は膝から下が欠損しており、左腕はまるでもぎ取られたかのように途中からちぎられている。胴体には人の指が食い込んだ後のような穴が多数開いており、外から見ても分かるほどに全身の骨が歪んでいた。

 

「"オペオペの実"の最上級の、技だ……」

「何を、するの……?」

「ゴブッ! ガッ……ゴフッ、グ……! もう、説明する体力が……ない……。とにかく早く、錠を……」

「わ、分かった!」

 

 いつ心臓が止まってもおかしくないほどに息絶え絶えなローに急かされ、まずは牢屋の錠を開けるナミ。

 右足と左腕を失っているローの能力を封じているのは、胴体に乱雑に巻きつけられた海楼石でできた大きな鎖と錠。

 その錠を、ナミが外した。

 

「いい、か……。お前たちは、生きろ……! 生きてさえ、いれば……奴に、勝てるはずだ……!」

「奴って……」

「ジャックハート、だ。……それより、ナミ屋。ドフラミンゴは、どうなった……?」

「捕まったわ。ドンキホーテ・ファミリー全員ね」

「そう、か……」

 

 ナミのその言葉に、どこか安堵したような表情を浮かべるロー。

 一瞬だけ出たその笑みを、真剣なものへと変える。

 

「ナミ屋。お前は、生き続ける覚悟があるか……?」

「……あるわ」

「分かった。……なら、これが最後だ」

 

 "オペオペの実"により、薄く、小さなルームが貼られていく。

 ローが口から血を吐き、彼の顔色もどんどんと悪くなっていく中、ナミの身体が薄く光る。

 

「"延命措置(エクステンション)"!」

 

 "オペオペの実"の最上級の技。事前に知らされていたことだが、いざ自分の身にそれが起こるとなると不思議な感覚がある。

 目の前で力なく倒れていくローを見て、ナミは例え難いものを感じた。

 自分の中には、特筆して変わったようなことが起きたという感覚はない。しかし、彼が言った技と、自分の身を包んだ光。そして、"オペオペの実"の最上の業である"不老手術"。

 

「……ねぇ、トラ男? おーい」

 

 軽く触れ、揺すってみるも反応はない。

 

「……私、ホントに不老不死になったんだ」

 

 ナミがジャックハートに受けた指示は、まだ同盟が続いているフリをして、"オペオペの実"による不老手術をナミ自身に受けさせることだった。

 息を引き取ったローを牢屋の中に置いたまま、ナミは来た道を引き返していく。

 

「あとは、また出てきたオペオペの実とヤミヤミの実、モドモドの実でジャックハート様のやろうとしていることが完成するって言ってたわね」

 

 彼女が捕まるつい数時間前までは同盟相手であったローの死に直面しながらもナミの心情は至って冷静。

 ジャックハートと対峙してしまった海賊がどうなるか、というものを思い知ってしまったからこその落ち着きをもって、ナミは甲板に戻った。

 

「あっ、ロビン。……どうなってる?」

「予想通りよ。サンジは結局、カリファを蹴ることはできなかったわ」

「……そっか」

 

 途中から戦いを観戦していたのか、ロビンも甲板に立っていた。

 彼女の視線の先には、カリファに倒されて下がったサンジの姿。現在戦っているのは、フランキーとアイン。

 アインのモドモドの実の能力により、"新世界"に入る以前、ナミたちと出会うよりもさらに前の姿へと戻されていた。

 

「随分とまあ、呆気ねぇな。"鉄人"フランキー」

「は、ハハハ……! こりゃ、たまげたぜ……!」

 

 自らの身体を改造しているフランキーの時が戻されるということは、実質的に成長が全て消されたようなもの。

 事実、シャボンディ諸島で別れ、また集合するまでの2年間で培ったものは、時が戻ったことにより消えていた。

 

「"悪魔の実"の能力、だけじゃねぇ……! なんだ、この女海兵……!」

「アインちゃんをただの女海兵だと思うなよ。俺の後を追う形だが、正真正銘自分の力だけで中将になる実力は持ってんだ。そこに、"覇気"や六式の使い方をさらに教えてやれば、億越えしてねぇカスぐらい、簡単に捻ることはできる」

「ハァ……! ハァ、ハァ……! たまらねぇな、そりゃ……!」

 

 記憶はそのままなので強者と戦う際の経験はあるが、文字通り成長を消されたフランキーが、ほぼ自力で海軍本部中将となった実力を持つアインに実力で勝てるかと言われればそうではなく。

 離れれば"モドモドの実"、近づけばジャックハート仕込みの近接戦。

 "モドモドの実"の光線に触れることで12年若返ることになる。12年前のフランキーは、まだサイボーグにすらなっていない、海列車が完成した直後の姿。

 

「……もうあなたに、勝ち筋はないかと」

 

 "覇気"と六式を会得したアインに勝つ可能性は、限りなく0に近かった。

 

「負け、だ……。俺じゃ、勝てねぇな……」

 

 反撃の意思を見せるたびにチラつかされる、"モドモドの実"。触れれば触れるほど時は戻り、生まれて12年未満のものに触れると消滅させることができる"悪魔の実"を前に、フランキーは動きを封じられた。

 そして、まともに鍛えられていない時のフランキーに対し、アインは"武装色"と"見聞色"を身につけていた。

 その差は、歴然だった。

 

「あっけねぇな"麦わらの一味"。テメェらそんなんで、よくここに来たもんだ」

「テメェ……!」

「なら、さっきから威勢の良い、ロロノアに出てもらおうか?」

「上等……! 俺で、ケリをつけてやる!」

「んじゃ、頼むわ」

 

 申し訳なさそうに引き下がるフランキーと入れ違いになる形で、ゾロが前に出る。

 剣を抜きながら出てくるその姿は、どこから見ても戦意に溢れていた。

 

「ペローナちゃん」

「っ!」

「ホロホロホロッ! どうしたんだ? たしぎが出る、とでも思ってたみたいな顔だが」

「テメェ……! まともに戦う気はねぇのか!?」

「海賊が海兵にまともを求めてどうする。そんな馬鹿なオツムだから、今こうして遊ばれてんだ」

 

 ゾロの顔に、一気に焦りが生まれる。

 とある時期からジャックハートの側にいることが増えたたしぎ。ローグタウンでのことがあり、てっきり彼女が出てくるだろうと踏んでのことだったが、予想が外れた。

 たしぎになら負けない。そう思っていたが、出てきたのは相性が最悪の相手。

 

「試合、開始だ」

「クソッ……! おい、逃げるな!」

「やなこった! 痛いのは嫌なんだ。それに、身体に刀傷を負いたくねぇしな」

 

 試合開始の合図の直後、高く飛び上がるペローナ。本体も飛ぶことが可能になった彼女にとって、周囲に遮蔽物がない一対一は独壇場と言ってもいいほど、得意としていた。

 

「チッ。"三刀流"……」

「おいおい。上ばっかり見ていて良いのか?」

 

 宙を跳び続けるペローナに痺れを切らしたのか、ゾロが立ち止まって刀を構える。

 斬撃を飛ばして一か八かの攻撃を仕掛けようとした彼の膝が、折れた。

 

「ホロホロホロ。ゴーストはどこでもすり抜けられるからな。試合開始と同時に地面に隠していれば、飛ぶ手段がねぇ奴はかわせねぇだろ?」

 

 両手を両足を地面につき、ネガティブな発言を繰り返すゾロ。

 誰がどう見てもすでに戦意を欠いてしまっているその姿に、戦闘を続けることを期待するものはいなかった。

 

「さて、じゃあロロノアも脱落したところで、だ。次は誰が出る?」

「俺が……!」

「待てルフィ! つ、次は、俺だぁ!」

 

 サンジがカリファに、フランキーがアインに、ゾロがペローナに負けた。

 これまでの傾向からして、過去対戦したことがある女性陣をぶつけにきている、または有効な"能力者"をぶつけているというのがウソップの見解だった。

 

「いいか、ルフィ。あいつは、関係があった女をぶつけに来てる。お前にぶつけるとなったら、ほぼ確実にボア・ハンコックだ。お前も強くなっただろうが、元王下七武海があいつの元で鍛えてるってなったら、苦戦するかもしれねぇ」

「ウソップ……」

「だからお前は、ここでブルックと一緒に作戦を立ててくれ! 俺と関係があって、あいつの元で海兵やってる女はほとんどいねぇはずだ。……俺も、ここまでされてずっと黙っていられるか……!」

「ウソップさん……」

 

 ウソップは自分で、勝ちをもぎ取ることができないというのを薄々ながら感じていた。

 いくら相手が女性とはいえ、強さは別格。今までのうち2人は能力にやられた面もあるだろうが、それを差し引いたとしてもウソップが勝てるかは怪しかった。

 

「俺の戦いなら、なんとか時間くらいは稼げる。その間に、頼むぞ……!」

「ウソップッ!」

「なんだ。話し合いはもういいのか?」

「あぁ……! 次は、オレ様だ!」

 

 単身、前に出たウソップ。

 ブルックがルフィに声を掛け、恐らく後半に控えているルフィの戦いに向け、気持ちの整理をつかせていく。

 ボア・ハンコック。元々ルフィがここまで無事に来ることができた理由となる恩人の1人であり、半分ルフィのせいでジャックハートに捕まってしまったような人物。

 そんな彼女を、海賊にしてはどこか優しいルフィが殴ることができるのか。仲間をかけた戦いとはいえ、兄であるエースの元へ送り届けてくれた人物を殴ることができるのか。

 

「さ、さぁ! 誰でもかかってこ〜いっ!」

 

 そして、もう1人控えるブルック。彼と接点を持つ女性も少なく、誰を当ててくるのか分からない。

 同じ剣術使いというのなら、ゾロには当てなかったたしぎが来るのか。他が来るのか。

 前の3人が瞬く間に倒されてしまい、作戦を立てることすらできなかったが、ウソップは自分の役割を自分なりに果たそうとしていた。

 

「……ほう。まさかあの"ゴッド"ウソップが出てくるとはな。ドフラミンゴが見たら嬉々として参戦しそうだが、ここにはいねぇ」

 

 とはいえ、ウソップ自身が何もしないかと言われればそうではない。

 出てくる相手次第だが、もちろん負けるために出るわけではない。ルフィやブルックの作戦を練る最後の時間を稼ぐと同時に、自らも勝ちを狙いに行くのだ。

 

「お前の相手だが、どうするか」

 

 足がガクガクと震えているウソップを、まるで玉座に座る王のような態度で甲板から見下ろしていたジャックハート。

 ここで、ジャックハートとウソップ本人の間で、ウソップに対しての認識の差が生じていた。

 

「ウソップ。以前の手配書の名はそげキング。本人の戦闘能力はそこまで高くないが、その狙撃の腕は見事。エニエス・ロビーでは世界政府への宣戦布告とも取れる、旗の狙撃。ドレスローザでは、労働力として働いていたはずの賞金首たちを解放、その後地上に解き放った」

「……え?」

「そして、パンクハザードでシーザーを捕獲した人物でもある。……気の抜けたようなフリをして、実際は常に隙を伺ってた……ってわけじゃなさそうだな」

 

 "見聞色の覇気"で行動どころか、それに至るための心理すら読み取る。

 つまり、世界政府の見解としては、実力はそれほどないがある意味での脅威ではある人物、というものだった。

 

「よし」

 

 そこから導き出される最悪の結果として。

 

「俺が行こう」

 

 ウソップの相手がジャックハート本人となるのも、ある種頷ける。

 

「……え?」

「お前の狙撃の腕は本物だ。それは世界政府も認めてる。そして、エニエス・ロビーの旗を打ち抜いた張本人ってことで、それにブチ切れてる天竜人もいるんだ。ま、俺本人としては意味の分からんものを女に打ち込まれたくねぇからってだけだ」

「お、おい……っ! お前が出るなんて、聞いてねぇぞ……!」

「おー。目が覚めたのか、黒足。確かに出るとは言ってねぇが、出ないとも言っていない。そもそも、この場にいる俺の選りすぐりの海兵ってなりゃ、本部大将の俺を選ぶだろ」

 

 初めてと言ってもいいジャックハートとのまともな会話。だが、その中身はよく考えればこれまた後出しのようなもの。

 時間稼ぎにと意気込んでおり、もしかしたら勝てるのではないかと考えていたウソップにとって、まさに最悪の相手。

 

「……ってやる」

「あん?」

「やってやるって言ってんだよぉ!」

 

 足は震え、声も震え。

 しかしそれでも、戦わない理由にはならない。

 ナミとロビンを助けるために。

 

「ウソップ! ……お前、俺と戦え!」

「やなこった。認めたくねぇが、お前には"新世界"を生き抜く最低限度の力はある。だからこそ、前半ではそれなりに名を挙げることができた。……が、政府としては、大して力のないこいつが、なぜここまで神経を逆撫でするようなことばかりできるのか。そこが気になるらしい」

「ウソップさんッ!」

「いいんだブルック! 俺に、やらせてくれ……!」

 

 戦う相手がジャックハートと分かってもなお、臆病なウソップが退こうとしない理由。

 それは、ジャックハートが一瞬だけ動いた際の視線と、彼が一言呟いた、後ろにいる仲間たちには辛うじて聞こえないほどの小さな独り言。

 

「俺は、勇敢なる海の戦士になる男だ……! 仲間を前に、ビビって逃げ出す訳には行かねぇ……!」

「心意気はご立派だな。とはいえ、それだけでどうにかなるような実力差でもねぇが」

「おいウソップ! お前、殺されるぞ!」

「ケハハハハ。ルールを忘れてるぜ、黒足。これはゲームだ。殺しはしない。第三者が介入するってんなら、話は別だがな」

「クソ……!」

 

 意を決した仲間の覚悟を雑に扱う訳にもいかず、かと言ってこのままでは目の前で悲惨な戦いが繰り広げられる未来を想像することは難しくはない。

 ウソップとジャックハートが戦う。これはもう避けられないことであり、ウソップに棄権させることもできなかった。

 

「あぁ、武器なら使ってもいいぜ。無論、俺も使わせてもらうがな」

 

 自分を馬鹿にされ、仲間をコケにされ、一味全体が舐められ続けている。

 勝ち目がほぼないとはいえ、その状況を黙って見逃せなかった。

 

「……もう仲間を、バラバラになんてさせてたまるかよ……!」

「ケハハハハハハッ! 残念ながら、それはもう叶わねぇ。だが、俺も鬼じゃねぇ。最後まで夢は見させてやるよ」

 

 腰の愛刀に手はかけず、脱力した立ち方のまま、鬼気迫る表情のウソップに相対する。

 

「試合、開始だ。楽しませてくれよ」

 

 決められたルールを破った際、ジャックハートが何をするか分からない。

 そのため派手な動きを取れない"麦わらの一味"は、戦いの開始を焦りを滲ませた表情で見つめていた。

 

「ジャックハート様、お気をつけてください」

「おう」

 

 軍艦の上からは、女性陣の声。

 複数人のその声が、"麦わらの一味"をさらに苛立たせていく。




現在の状況

カリファVSサンジ → カリファ

アインVSフランキー → アイン

ペローナVSゾロ → ペローナ

です。空飛べるペローナとか普通に考えてタイマンで負けることないんじゃね、と思いました。

悪魔の実のご都合主義な活用方法。いずれ、使い方は出します。

次回はジャックハートVSウソップです。どちらが勝つのか。


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