仔犬が雌犬に変わったけど自覚なしで性的にしんどい 作:味噌田楽
──その日、作戦司令部に勇敢なる淑女、アークロイヤルの絶叫が響いたのは確か午後3時ごろ、私が装備強化の申請書類の12枚目に捺印した時だった。
「な あ あ あ ぁ ぁ ぁ っ !?」
その叫びが窓を震わせた直後、執務室へ向かってくる怒涛の足音が迫り───
「ししし指揮官! “アレ”は一体どういう事だ!?」
長い黒髪を振り乱しつつ、アークロイヤルは執務室の扉を破らん勢いで飛び込んできた。
怒りの最上級を「怒髪天」というが、人間(?)は本当に怒りに満ちると髪が逆立つのだなあ。
焦りに表情を歪ませつつも、私はどこか呑気な気持ちでそう思った。
そうする間にもアークロイヤルはずかずかと部屋に押し入ると、そこまで高級でない執務机の天板にヒビが入る勢いで拳を叩き付け、私を睨みつけた。
「答えてもらおう指揮官! 如何に指揮官といえど、“あのような所業”が貴方の指示によるものだとしたらこのアークロイヤル、見過ごす事はできんぞ!」
「……何の話だ、アークロイヤル? ウチの駆逐艦たちに何かあったか?」
長身黒髪に均整のとれたプロポーション、凛々しい姿でソードフィッシュ中隊を指揮する彼女がここまで感情を露わにする件は極めて限られる。すなわち彼女がこよなく愛する駆逐艦の少女たちの事か、駆逐艦の少女たちの事か、あるいは駆逐艦の少女たちのことだ。
そして私の態度は彼女にとっては「とぼけている」と見えたらしい。更に感情を昂らせつつ、アークロイヤルは私に言った。
「この期に及んで惚けるおつもりか!? ならば言うが、『駆逐艦を巡洋艦に改造する』などという悪魔の技術の事だ!」
「……は?」
「ああ……確かに彼女は如月や睦月のような幼さこそ薄かったが、あの屈託ない態度と奔放な姿はまさしく駆逐艦のそれだったと言うのに! そんな彼女を指揮官殿、貴方は!」
「いや、本当に何の話だ!?」
流石に心当たりのない事に対して激怒されては黙ってもいられない。私は若干口調を強め、アークロイヤルに問い返した。
「たっだいま~! 指揮官、お昼カレーだったでしょ! 廊下からでも分かったよ?」
その時、開け放しになっていた執務室の扉に手を添えつつ一人の女性が入室してきた。
「は?」
見慣れない女性であった。
黒いハイソックスに包まれた脚はすらりと長く、それでいて肉付きよい太腿は張りと艶やかさを両立させている。
スリット入りの黒いタイトスカートは極めて短く──と言うか、これはスカートと呼んで良いのだろうか。かろうじて腰からやや下までを隠しているだけの布地はほぼ太腿の付け根まで露出させており、立ったまま何か拾おうとすれば尻まで丸出しになるだろうと予測できた。
それでいて腰はきゅっとくびれ、清潔感ある白い布地で包まれた胸へと続く。
──いや、「包まれた」という言い方は適切ではないだろう。その豊満な胸は同程度の体格の女性のそれを大きく上回り、本来ならば乳房全体を包めるであろう布地でもなお足りず、双丘によって作られた深い谷間が覗いている。胸元のジッパーが今にも弾け飛びそうだ。
首には鈴付きの黒いチョーカー、栗色の髪は長く、サイドの片側には黒い髪留めが光っている。頭の左右には動物の耳めいたアンテナが取り付けられており、やはりこれも黒だ。
何より私の目を惹いたのは、その瞳だった。切れ長の青い瞳には蠱惑的な光が宿っており、視線を合わせるだけて引き込まれそうになる。
私の作戦司令部にも相当数の艦の名を宿した少女、あるいは女性たちが居るが、ここまで露骨に性的に訴えかけてくる外見の女性は記憶には無かった。別基地へ赴任予定だったのが、誤って来てしまったのだろうか。
しばらく言葉を失っていたのち、咳払いをひとつすると私は彼女に言った。
「コホン……失礼、ちょっと立て込んでいまして。ええと、貴女は?」
特に問題ないはずの、何気ない質問。
しかしそれは“彼女”にとっては予想外のものだったようだ。笑顔から急に驚きに、そしてやや怒った風に表情がころころと変わる。見た目の割に少女らしいところがあるようだ。
「“貴女は?”って……むー、指揮官が『改造が終わったら戻るように』って言ったんじゃない。それに今日はぼくが秘書艦のはずだよ?」
「………?」
私は彼女に言葉を返す事ができず、ただ怪訝な表情を浮かべた。
彼女の言葉に心当たりが無かった訳ではない。ただ、私がそれを指示した“少女”と、眼前の“女性”がどうしても私の中で一致しなかったのだ。
一方、まだ部屋にいたアークロイヤルは彼女を見ると天を仰ぎ、大声で嘆いた。
「あぁぁ……フォックスハウンド、何という姿になってしまったのだ!」
「え?」
アークロイヤルの叫びに、私は思わず素の返事をしてしまう。
そこで“彼女”は、本当に私が気付いていない事を察したのか強く言った。少し動くだけでも、ボリュームある乳房が重そうに揺れる。
「もう、指揮官! ぼくだよ、フォックスハウンドだよ!」
近代化改修。
ユニオン、ロイヤル各陣営の技術協力と重桜・鉄血連合、通称レッドアクシズから入手した技術。そして我々の最大の敵であるセイレーンの一部技術の応用によって発見された、艦の進化技術である。我が作戦司令部にも改修済みの艦は何人かおり、割と組織間では珍しくもない技術となっている。
未だ不明な部分も多く全ての艦へ適用できる訳ではないが、それは通常の強化などは比較にならない程のパワーアップを彼女らにもたらす。中には改修が完了するまでの過程で新たな戦術を見出す者もいる。
無論、そこまでの大幅な強化は彼女らの外観にも大きな影響を与える。
急激な強化に耐えさせる為だろうか。どうも近代化改修は対象が肉体的に成長し切っていない場合、急激な成長を促すらしい。既に成長している山城や祥鳳の場合は装備や服装が多少変わっただけだったのだが──
「……ここまでの変化は、俺も初めてだ」
「本当にびっくりしたよ、指揮官! 改修が終わったと思ったら、自分の足元が見えないんだもん」
自分の胸に手を添えてゆさゆさと揺すりながら彼女、フォックスハウンド改は言った。
確かに彼女は改修前から他の駆逐艦に比べて発育が良く、身体もそれなりに成長はしていた。とはいえ、それはあくまで少女の範疇に収まるものだ。
当時(数時間前を『当時』と言うのも変な話だが)のCカップ前後だった胸と比べ、今の彼女の胸はGかH、あるいはそれ以上あるのではないだろうか。
この事態が私にとっても偶発的なものであった事を理解し、アークロイヤルは嘆きつつも「次からは駆逐艦を改修する時は必ず教える」との約束を交わした事で満足したのか執務室を去っていった。今の室内には私とフォックスハウンドだけである。
何とか気持ちを落ち着かせようと、私は自分で淹れた緑茶を飲んだ。
「その……体調は大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと体が重くなったくらいで問題は……あいたっ!?」
私の質問に彼女は答え、元気を示すように手をぶんぶん振り──執務机の端に思い切り手をぶつけた。
「痛たたたた……!」
「おいおい!?」
どうやらまだ自分の手足が長くなった事に馴染めていないらしい。手を押さえてうずくまるフォックスハウンドに私は慌てて席を立った、彼女の近くに屈みこみ、手の状態を確認する。
「あ……」
「気をつけろよ? お前の身体は、前より身長を含めて色々と成長しているんだから」
「あ、ありがとう、指揮官……」
幸い、多少赤くはなっていたが骨までは痛めていないようだ。
私が安心していると、フォックスハウンドはくんくんと鼻をひくつかせた。
「くんくん……ん~、やっぱり指揮官っていい匂いがする~……カレーの匂いと合わさって、お腹が空いてくるよ……」
「っ!?」
そう言いつつ、彼女は私の胸に甘えるようにしなだれかかり、顔を私の制服に擦り付けた。
フォックスハウンドのこの行動は決して珍しいものではない。普段から犬めいた挙動が目立つ彼女は、私の匂いが気に入っているのか普段からくんくんと嗅ぎまわり、時折じゃれつくように私の身体に擦りついてきた。
問題なのはそれが幼さを残す少女の姿で行っているのと、今の成熟した女性の身体で行っているのでは絵面的にまるで意味合いが変わってくるという事だ。
屈んでいる私の胸板に彼女が顔を擦り付けるのと同時に、私の臍周りやや下あたりに柔らかく弾力ある感触を二つ感じる。考えるまでもなく、改修によって成長した豊満な乳房だ。
しかも急激な成長で合う下着が無かったのか、彼女はノーブラのようだった。身体を擦り付ける度に胸の布地は窮屈そうにずれ下がり、今にも乳房がこぼれ出そうである。
「ちょ、ちょっと待て!」
「わ!?」
思わず私は少し身体を引いてしまった。こちらに体重を預けていたフォックスハウンドの身体は当然ながらバランスを崩し、私の方に転ぶ。かつての彼女の体格ならば受け止め切れたであろうが、大きくなった今の身体では難しく私も転んでしまう。
「ど、どうしたの、指揮官?」
「いや、どうしたのと言われても……んむっ!?」
既に私の股間は勃起を始めていた。しかも、執務机によりかかる様に倒れた私の上に跨るように彼女は共に倒れ込んでいる。
先ほどは股間に擦り付けられていた二つの巨乳が、今度は私の顔に圧し掛かるように押し当てられていた。
かつてのフォックスハウンドは活発な少女らしい、化粧気の無い石鹸の匂いがしたものだ。しかし今の彼女からはむせ返るような妖艶な匂いが立ち上っていた。妙齢の女性から発せられる、フェロモンのようなものだろうか。それは私の脳髄を痺れさせた。
とはいえ、このままでは窒息してしまう。私は息を荒くし、何とか呼吸を確保できるように頭を動かした。
「ふあっ! し、指揮官! くすぐったいよぉ!」
「む、むむぅ……ぷはっ! ちょ、ちょっと胸を緩めてくれ、フォックス!」
私の息が間近で乳房に吹き付けられたのに反応したのか、フォックスハウンドの身体がびくんと震えた。頬に赤みが差し、私の頭に添えられた腕がより強く拘束しようとする。私は何とか口を彼女の胸から開放させ訴えた。
「え、胸!? わ、分かったよ指揮官! こうかな!?」
「!?」
しかし、私の「胸を緩めて」という言葉を彼女は「胸の布地を緩めて」と受け取ってしまったらしい。必死そうな私の語調に、フォックスハウンドは慌てて自身の胸元のジッパーに指を添えるとそれを一気に引き下げた。
「ぷるん」とか「たゆん」等と言う可愛い表現ではない、「ゆさっ」という重みある揺れと共に、両の豊満な乳房が露になった。
「………!」
私は思わず言葉を失った。
それは“冒涜的”とでも言うべき乳房だった。服の上からでも十分なボリュームを測る事ができたその胸は、それでも相当に抑えつけられていたらしい。解放された乳房は片側だけでも彼女の頭くらいの大きさを誇り、それでいて肌の張りと弾力は少女のままだ。まだ男性に触れられた事も無いであろう桃色の乳首が先端で揺れている。
少女の清純さと大人の艶やかさを併せ持つその乳房に、私の理性が悲鳴をあげた。抑えようとしても口の中に唾が溢れ、それを呑み込む。
私は口元を噛み締め、今にも唇を寄せたくなる乳房から必死に意識を逸らそうとした。フォックスハウンドは何も分からず、普段通りに接しているだけなのだ。そんな彼女に対して性的なものを求めてしまえば、私は指揮官失格どころか男として失格になる。その確信だけはあった。
「あれ? クン、クンクン……」
「ど、どうした?」
「指揮官……何か、別の匂いがする……」
ふと、フォックスハウンドが再び鼻をひくつかせた。視線は、私の股間に向けられている。
「何だろう……初めて嗅ぐ匂いなんだけど、何か、ドキドキするよ……」
そう言う彼女の瞳は潤み始めていた。無意識にか私に跨る太腿をもぞもぞと動かし、身体を摺り寄せてくる。
体が成長して感覚が鋭敏になった事に、彼女の意識や知識がついてゆけていないのだ。おそらく、彼女は自身の中に湧き上がっているものが性欲である事も理解していないだろう。
非常にまずい状況であった。ここで彼女の衝動のままに任せるのは論外、といって乱暴に引きはがせば彼女を傷つける事になるだろう。
また、ここで第三者が執務室に入ってくれば更にややこしい事になる。仮に来るとしても、理知的な話ができるロンドンや不知火、加古などであれば話もできるだろうが──
そんな私の不安が不幸を呼び寄せたのだろうか。その時、執務室の扉が勢いよく開いた。
「指揮官様! お待たせ致しました。この赤城、只今長期委託から帰投……」
赤と黒に彩られた着物に身を包む、どこか酷薄な印象を残す美女。
重桜所属からこの司令部に突如鞍替えし、今では本司令部所属重桜艦たちの顔役とも言える彼女、赤城はそう言って私に報告しようとしたまま動きを止めた。
「………」
「あ! 赤城さん、お帰りなさい!」
言葉を失う私を他所に、フォクスハウンドは元気に赤城に挨拶をした。乳房を丸出しにしたまま、私に跨りつつ。
「……分かりますわ、指揮官様」
数秒間ほど赤城は硬直していたが、やがて“全て察した”と言わんばかりに微笑むと形良い顎に指を添えつつ言った。
「指揮官様が、私が長期に渡って不在となりその身体を持て余していた事。如何に軍の務めとはいえ、やはり寂しい思いをさせてしまったのですね……赤城は本当に、申し訳なく思いますわ」
そう言う赤城の周囲に、人魂めいた幾つもの火球が浮かび始める。
「……そして、そんな指揮官を狙う“虫”が寄ってたかる事も、予測しておくべきでした」
やがて、人魂は飛行機の形を取り始める。我が司令部の一線を張っているだけに、搭載されているものは烈風や彗星、流星など最新鋭の優秀なものばかりだ。
「少々お待ちください。今からその“虫”を血だまりに変えますので」
にこり、と赤城が笑う。
「え? え?」
「ちょ、待て! 赤……!」
止める間もなく、執務室は爆発に包まれた。
完全にキレた赤城は、迷う事無く執務室を半壊させた。咄嗟の回避で死傷者が出なかった事に比べれば、私の制服一着と壁飾り数点、幾つかの家具が駄目になった程度で済んだのは安い代償と言えるだろう。
私とフォックスハウンドとの騒々しさと賑やかしさ、そして幾らかの艶やかさが入り混じる日々はこうして始まったのだ。