寝台が浅く軋み、鬼の軽い身体が少年を優しく押し倒す。降り掛かる洛叉の金糸が御簾となり、彼の視界を狭めていた。
眼前には白い肌、整った鼻梁、朱い紋様の入った額。艶やかな唇が固く引き結ばれ、金の眼が収まる眼窩には焼け付くような思慕と、些かの逡巡が灯っている。
「本当に、良いのだな」
惑う鬼の声に平時の威厳は影も形もなく、硝子細工に触れるような緊張があった。礼装の留め金に掛けた鬼種の朱指が、微かに震えたまま少年の返事を待っている。
組み敷かれる少年は柔らかく微笑み、頬への軽い接吻を返歌とした。
「お好きにどうぞ」
口づけを貰った少女はじわじわと頬を染め上げ、目を伏せ、押し黙ったまま礼装の下へと手のひらを滑り込ませる。
「……後悔しても知らぬぞ」
茨木が呟き、鍛え上げられた身体へ朱い手のひらが這う。ちょうど左胸のあたり、いのちの音が手のひらを通して伝わっていく。
「なんだ、汝も緊張しておるのではないか」
「そりゃあ好きな女の子が目の前にいるんだしね、緊張ぐらいするさ」
「歯の浮くような台詞を吐くな。そもそも大江山の首魁たる吾を『女の子』とは……くひひ、よほど命が要らんと見える」
先程までのしおらしさは何処へ行ったのか、少女は真珠の犬歯を見せて小さく笑った。
「好きにして良いと言ったな」
乱暴に礼装を剥ぎ取られた少年の胸へ耳を押し当て、目蓋を閉じる。流れ出る金髪が黄金の川となり、シーツに零れていた。
「ああ、ここに汝があるのだな」
今ここで五指を沈めたならば簡単に搔き消せる生命。皮膚と筋肉と肋骨の下より涌き出で、少女の鼓膜を撫ぜる駆け足の拍動。心の臓から押し出される血が運ぶ、肌から肌へと伝わる温かさ。自身の着物に焚いた伽羅と、間近に感じる立香の匂い。それら全てが入り混じり、少女の胸を高鳴らせた。
「好い、あまりにも好い。思わず抉り取って吾の懐へ収めたくなるわ」
心音を確かめ、鬼の少女が欲望を口にした。
「あ〜ごめん、命に関わるようなのは勘弁してくれ。そういうのは下総国で懲りた」
かつて掻き回された臓物を思い出し、少年は腹部をさする。自らの魔術回路を整える為だったとはいえ、流石に二度は味わいたくない出来事だった。
「……冗談だ」
「茨木が言うと洒落になってないからさ……」
「ふん、まあいい。……ただ、この柔らかな首筋は実に魅力的だ。実に吾の好みだ」
もはや我慢ならないと言わんばかりに、金の瞳が爛々と輝く。
「これくらいは許せよ、立香」
黄金の鬼は獣の笑みを湛え、少年の首筋へ唇を近づける。少年は彼女の意図を察し、古い歯型の残る肌を曝す。
熱い吐息が首筋にかかり、鈍い痛みと共に鬼牙が沈み込む。密着する茨木の陽だまりのような熱と甘く優しい匂いが、立香の脳を痺れさせる。
「はむ、ちゅぷ、れろ……んちゅ……」
皮膚を裂き、滲み出てきた雫を一滴たりとも逃さんとばかりに少女の舌が追いかける。
少年は鈍痛に眉を歪ませながら鬼の背中を撫でる。
「毎度毎度楽しそうだな」
「んぐ、勘違いするでないぞ。吾は汝を傷付けるのが好き、という訳ではない。……鬼の本能が働いておることは否定できぬが」
少女が口を離し、手の甲で唾液と血を拭う。
「と、言いますと?」
艶やかな唇には半月の笑み。
「これは汝が吾の物であると周囲に知らしめるための印付けよ」
「う、それはちょっと照れちゃうな……」
頬を赤らめ、顔を逸らす。その所作がいじらしく見えたのか、茨木は身を乗り出し両手で少年の顔を固定する。
「目を閉じよ」
言われるがままに目蓋を下ろす。数瞬の後、唇に湿った柔らかな感触。血と唾液の味。断続的に降りかかる啄ばむような接吻が、しばらくの間続いていた。
「もう限界か?」
蕩けきった表情の立香を見つめ、茨木が蠱惑的な笑みをこぼす。
「こちらは準備ができておるようだが」
ズボンのチャックを朱い爪の先で器用に下ろし、熱を孕む陰茎を引き出す。反り返る肉の凶器は既に先走りを零し、期待に震えていた。
「……ます」
「あん?」
「よろしくお願いします……」
自らの顔を隠したまま消え入るような声を漏らした少年に、鬼は苦笑した。
▽
固く熱い陰茎が媚肉を深く抉る。
「〜〜〜〜ッ!!」
肉が肉を掻き分け、胎を充たす感覚。みちみちと音を立て、肉の凶器が少女を押し広げて行く。最奥まで達した頃には茨木は荒い息を吐き、必死に立香の身体へしがみついていた。うねる膣内は少年に強烈な刺激を与え続ける。
「茨木こそ限界じゃないの?」
「うるっ、さいわ……!」
「あんなに余裕かましてたのにね」
薄い尻が快楽にカクカクと揺れながらも徐々に持ち上がり、重力に任せ、頂点から腰を落とす。
「かはっ」
股間から頭頂までを貫く刺激に、少女の肢体が痙攣する。そしてまた少しずつ腰を引きあげて行く。粘つく愛液が銀の糸を引く。
繰り返される鈍い抽送に痺れを切らしたのか、少年が軽い身体を持ち上げ、反転。少女を寝台へ押し倒す。困惑する少女を無視し、掘削機のように腰を打ちつける。
「今日は俺が上になるね」
いきなり与えられた暴力的なまでの刺激に目を白黒させる茨木。立香の声が彼女へ届いたかはわからない。
「ひゃあっ、ああっ、ちょっと、止めっ……!落ち着け!落ち着かんか阿呆!ひゃうっ!?」
「ごめん、もうムリ」
「りっ、立香っ待て!このままだと……んむっ!?」
唇を唇で塞ぐ。先程の啄ばむようなキスとは違う、情欲に浮かされた口付けだった。互いに息を止め、ただひたすらに互いを貪り合う。抽送に合わせて小さく揺れる、薄い胸の突起を摘むと少女が快楽に身を捩る。うっすらと汗の浮く白磁の肌に羞恥の紅が差し、彼女の興奮を如実に伝えていた。
「あんっ、あっ、ああっ」
肉と肉がぶつかり合う音に合わせ、少女の悲鳴が響く。ふたりの呼吸はキスの合間に行われ、唾液の橋が解けることは無かった。
引き抜くたびに充血した肉襞が別れを惜しむかの如く陰茎へ絡み付き、抜け出る寸前の陰茎を思い切り突き込めば少女の全身が快楽に跳ねる。霊基に刻みつけるかのように繰り返される抽送は、急激にふたりを限界へ押し上げていく。
「茨木、もう射精るっ……!」
「奥っ、奥でぇっ……立香ぁ……」
少女の懇願を受け止めた数瞬の後、ぐりぐりと腰を押し付け、立香が痙攣する。茨木は朱い四肢を絡め、身体と身体の距離を無くすかのように抱きついていた。陰茎を咥え込み、薄く盛り上がった下腹部が快楽に痙攣し、精を吸い上げる。不規則に跳ねる脇腹を指で優しくなぞり上げると更に締め付けが強くなった。
「ひゃっ、あっ……」
接合部からは白濁した粘液が逆流し、シーツを濡らす。永遠に続くと思われた絶頂の波が引いて行き、背中に走る鋭い痛みに気付く。抱きつく茨木は立香の背中へ爪を立てていた。表情こそわからないが、快楽を処理しきれない必死な様子が見て取れた。
「可愛いな」
「次、言ったら、殺す……」
ずるりと陰茎を引き抜くと、立香自身の形に押し広げられた空洞が見えた。くぽくぽと開閉するそれは、拍動の度に精液と愛液を吐き出す。優しくティッシュで拭うと再び腰が浮いて痙攣し、軽い絶頂を誘発した。
余韻に浸り、荒い息を吐く茨木へ立香が寄り添う。乱れた髪を手櫛で整え、小さな頭を撫でる。熱気の篭る部屋の温度が、少しだけ落ち着いたような気がした。
▽
ごうん、ごうん、と洗濯槽が回転する。掻き混ぜられる白布を眺めながら、少年は自らの手のひらに握る、小さな熱を意識していた。
「押し潰されて死ぬかと思ったぞ」
「その割にはノリノリだったような」
「やかましいわ」
ふたりは深夜のランドリールームにいた。立香の首筋と背中から溢れた血液やら茨木が散々撒き散らした愛液やらに汚れたシーツを洗いに来たのだ。
「たまには、な。たまには組み敷かれるのも悪くはない」
小さく声を漏らし、顔を逸らす。たったそれだけの動作が立香の胸に甘い痺れを来し、彼女の手を握る力を強めた。やや肌寒いランドリールームにあって、隣に座す暖かな温度を尚のこと意識してしまう。
「汝は鬼を凌辱したのだ。これから先、ロクな目に遭わんと思っておけ」
言葉を受け、立香は思考を巡らす。
「………………あれ?今までもロクな目に遭ってない気がするんだけど?」
「今までのはほれ、世界を救うための必要経費というやつよ。仕方のないことだ」
投げ出した脚をぶらぶらと揺らし、鬼の少女は言う。
「純粋な鬼である吾に人間が付き合うなど苦労するに決まっておる。後悔しても知らんと言った筈だが?」
「悪い気はしないけどね」
「言うではないか」
電子音が響く。洗濯機がその業務を完了したようだった。立香は長椅子から立ち上がり、洗い終わったシーツを取り出す。
「これからもよろしく、茨木」
そう言葉を投げかけ、少女の額へ接吻を落とす。少年はシーツを干すため、一足先にランドリールームを後にした。
「……まぁ、今更逃がすわけも無いがな」
ひとり残された少女は鬼の微笑みを浮かべた。