最初の予兆は音だった。ぱさり、と布を脱ぎ捨てる衣摺れの音。ベッドが小さく軋み、微睡みから意識を引き上げる。
次の予兆は甘い香り。着物に薫きしめた香木と、彼女自身の匂いが入り混じった芳香が鼻腔に忍び寄り、少女の輪郭に気付かせた。寝ぼけた脳が急速に覚醒していく。
最後の予兆は熱。布を掻き分けて背中に到達した少女の矮躯が、鬼種の高い体温を伝えている。細い腕が優しく胴に絡みつき、柔らかな双丘を押し付ける。
とくん、とくん、と背中から伝わり来る拍動が、少女の存在を否応なしに意識させる。
互いの熱を交換し合い、毛布の中が少し暑くなってきた頃に、茨木が口を開いた。
「立香、吾が来た時から起きておったのだろう?」
耳元で囁く声は普段の快活なそれとは違い、湿り気を帯びた艶のあるものだった。少しだけ抱きしめられる力が強くなる。
「…………正確にはさっき起きたところ」
「ふむ、ならば話は早い。何時ものように昏睡などしていたらどうしようかと思ったぞ」
少女が喉の奥でくつくつと笑い、振動が背中から伝わる。
彼女の真意がわからない。わからないが、様子の違う茨木に少し興奮している自分がいた。高鳴る鼓動がバレていないか心配で仕方がない。
「話って、何?」
「なぁに単純な話だ、夜這いというやつよ。汝も蛇娘で慣れておるだろう」
するり、と。きわめて自然な動作で下半身に向かった鬼の右手は、その爪でズボンをたやすく斬り裂き、布地の下で張り詰めていたそれを引きずり出した。
「ちょっ、茨木!?」
「鬼とは奪い、喰らい、蹂躙するもの。汝は人間らしく、されるがままで良いのだ。吾に身を委ねよ」
危険極まりない鬼に、ある意味で心臓や脳と同じぐらい重要な臓器を握られている。だというのに陰茎は硬く張り詰め、期待に震えて先走りの液を漏らしていた。
「こ、これが魔羅か。聞いていたよりも大きいな……というか汝、準備万端ではないか」
鬼の手がふにふにと陰茎を弄ぶ。爪が肉を裂かないように、指の腹で形を確かめるように握り締める。鬼の膂力を相当抑えているのだろう。ゆっくりと、じわじわと、慎重に力を込めて撫でられ、既に粘液で濡れたそれは暴発しそうだった。
「まさかとは思うが……もしや、期待しておったのか?」
「そん、なっ、訳……!」
「くひひ、口ではなんとでも言えよう。……なるほどなるほど、理解した。こうだな?」
何かを察した茨木が手指を筒のように曲げ、陰茎をゆるゆると扱き始める。
「ひうっ!?」
「男は皆これが好きと聞いた。ふふ……この反応、まことであったか」
笑う少女はそのまま耳元へ口を近づけ、軽く接吻をした。
そのまま濡れた唇が、耳朶を挟み込む。少し低めの室温に慣れていた耳が、茨木の体温に包み込まれる。牙の先端が軽く食い込み、歯列の間から伸びてきた熱い舌が耳孔を蹂躙する。
無防備な耳を犯されるということもあり、頭がどうにかなりそうな快感だった。
「じゅるっ、じゅぷっ、れろ……どうりゃ? りふか、きもひひぃか?」
耳朶を口に含んだまま、得意げな声で訊いてくる少女。
ひとまわりも小柄な少女にいいようにされている事に対する反抗心か、強がって嘘を返した。
「ぜんっ、ぜん。これっぽっちも気持ちよくないね」
「…………ほう」
背後にいるため表情は見えないのだが、茨木が意地の悪い笑みを浮かべた、ような気がした。虎の尾を踏んだかもしれない───と思ったのも束の間。強すぎる刺激により、思考が即座に吹き飛ぶ。
「ひあ゛っ゛!?」
亀頭をぐりっと握り込まれた。極大の快楽に、思わず腰を引くも、背後の少女が鬼の膂力で戒める。両脚を両脚で絡め取られ、強制的に腰を突き出す形にされていた。
「動くな、手元が狂う。汝も魔羅を喪うのは嫌であろう?」
指先でにちゅにちゅと竿を扱かれ、掌でくりくりと亀頭を擦られ、理性が限界へと近づいて行く。耳への愛撫は苛烈さを更に増し、鼓膜から脳を犯されているようだった。
「良い声で啼くではないか」
「いっ、いば、らき……もう、やめ、て」
必死に懇願するも、少女は愛撫を止めない。耳の裏側を舌で舐め上げられ、ゆっくりと吹きかけられる吐息に脳髄を蕩かされるような錯覚を覚える。
「大丈夫だ、吾が全て受け止めてやる」
右手は更にスピードを上げ、愛撫から搾精の動きへ変わっていった。暗い室内に淫靡な水温が響く。
「安心して」
耳朶を甘噛みされ、水音で脳を犯され、
「吾の掌に」
陰茎をずりゅずりゅと弄ばれ、下腹部に煮え滾る溶岩が陰茎を上り詰め、
「吐き出してしまえ」
そして───果てた。
「はっ、ぁ゛っ゛……! ぐっ……!」
声を上げることもままならず、辛うじて苦鳴を絞り出す。拍動に合わせて少女の掌へ熱を放ち、腰をカクカクと痙攣させる。尾骨から脳にかけて電流が絶え間なく走り、全身が多幸感で塗り潰されていく。
精を放っている最中も少女の右手は容赦なく陰茎を撫でさすり、快楽を供給し続ける。
やがて、永遠に続くかと思われた絶頂の波が引いて行き、ようやく鬼の拘束から解放される。
精を絞り取られて放心したみっともない姿を少女は覗き込み、満足気に笑った。
「うむ! 初めてにしては上手くできた方ではないか?」
息も絶え絶えの俺とは対照的に、けらけらと少女は笑う。その掌へ吐き出した粘液はぷるぷるとした半ゼリー状で、指でつまめるぐらい濃厚だった。
それを茨木は零さないように口元まで持っていき、じっくりと検分した後、啜り始める。
「すんすん……んっ……ちゅぶっ、じゅるるっ…………うえっ、とんでもなく青臭いし不味いぞこれ」
耳元で行われる飲精の音により、下腹部へ血が戻り、陰茎が急速に硬さを取り戻す。
「喉に引っかかるし、いがいがするし。こんなものがやみつきとは……めいゔの奴は正気でないな」
「…………メイヴちゃんか」
鬼由来の嗜虐的な性格はともかく、性的なあれそれに関して初心な茨木が夜這いを敢行するとは妙な話だ。コノートの女王が良からぬことを吹き込んだのか、それとも───
「ふん、勘違いするでない。吾は自らの意思でこのようなことをしているのだ。めいゔの奴や酒呑には相談しただけに過ぎん」
少女は精液の臭いを気にしたのか、ベッド脇の水差しに口を付け、もごもごと口をゆすぎ、一気に飲み干した。
唇の端から零れた水滴が白い喉を伝い、胸へと流れる。
電灯に照らされる少女の裸身に目を奪われた。
黄金の髪が白い肌の上を流れ、シーツまで広がっている。グロテスクな朱い四肢と柔肌の対比がアンバランスな美しさを感じさせた。控えめな乳房から意図的に目をそらすも、臍から下のうっすらと萌毛が走る股間を見てしまい、臍まで反り返った陰茎が硬さを増す。
視線に気付いた少女が首を傾げ、艶やかな唇を開いた。
「さて、立香よ。魔羅も活力を取り戻したようだが……続きはどうだ?」
黄金の瞳は微かに潤んでおり、期待に揺れていた。
「……お願いします」
「く、くくく!良かろう、鬼を屈服させてみせよ、人間!」
黄金の鬼が牙を見せて笑った。
▽
「ちょっと待っててね、確か婦長がくれたゴムがあったはず……」
以前に『マスター、もしこのカルデアでそういった行為に及ぶのでしたら、こちらをお使いください。性感染症・望まぬ妊娠といった事態を避ける為にもスキンの着用は必須です』と、短銃片手に釘を刺されたのを覚えている。
サーヴァントが相手なのだから婦長の言うセーフセックス云々は良いとしても、自分が出したもので茨木を一方的に汚すのは忍びない。
ベッド脇のチェストを漁る。組み敷かれた少女が眉間に皺を寄せ、苛立ちに満ちた声を上げた。
「ごむ? 待て立香、もしや汝は避妊具を使うつもりか? さあばんとの身では孕むことはないのであろう?」
「茨木に面倒な片付けをさせるのも嫌だし、一応ね」
「…………」
何を言ってんだこいつは、という表情で茨木に見つめられ、こちらも同じ表情で見つめ返す。
しばらく無言の困惑が続いた後、少女は俺の頭を両手で掴み、引き寄せた。眼前に迫る整った顔にどきりとする。
「吾らの契りがこのような薄膜越しで良いと思っておるのか?」
鬼が腕を軽く振るったかと思えば、既に手からゴムが奪われていた。銀色の包装が朱い指先に挟まっている。
「鬼と人でありながら種を越え同胞となった吾らには、このような隔たりは不要である……そうは思わぬか?」
鬼の五指が握り潰し、指の間から炎が吹き出る。ゴムの焼ける悪臭すら無く、高温で完全に灰と化したのが窺えた。
「……わかったよ、生ですれば良いんだろ」
「わかれば良い」
ふふん、と鼻を鳴らし、満足げな表情で
「さぁ来い、立香。せいぜい吾を楽しませてみせろ」
尊大な態度の少女が股を開き、媚びるように腰を突き出す。鬼の朱い指が秘肉を開く。中身の薄桃が露わになる。くちゅり、と亀頭をぬかるみの入り口に触れさせた。
「挿入れるよ」
みちみちと肉をこじ開け、一息に腰を沈めて行く。狭い膣口ではあったが、既に粘液が溢れており、想像よりは楽に潜り込めた。
「はっ、あ゛っ゛、がっ」
苦鳴を漏らす少女の顔は快楽と苦痛が入り混じり、その両方に必死に耐えているようだった。無理もない、自らの臍近くまである異物を胎内に受け入れているのだから。
最奥まで達した後、荒い息を整えながらしばらく抱き合っていた。少しでも動くとふたりとも即座に果ててしまいそうだったため、刺激に慣れるまでこのままでいようということだった。
互いの拍動と呼吸が落ち着いてきた頃、不安げに瞳を揺らす少女を見かね、口を開いた。
「何かしてほしいことある?」
「……笑わぬか?」
「勿論」
「その、だな……頭を、撫でてほしい。少しばかり、不安だ」
「いいよ、茨木がそう望むのなら」
耳のすぐそばから聴こえた、掠れるような声に言葉を返し、黄金の髪を梳くように指を潜り込ませた。
背中から腕を回し、頭を胸に抱くように撫でる。頭を撫でさする度に少女の身体が微かに震え、表情が次第に蕩けてゆく。
「動くよ」
腰を引くと肉襞が縋るように絡みつき、陰茎を舐め回す。亀頭が抜けるギリギリまで陰茎を引き抜き、再びぬかるみの奥へ沈める。
「中身、がめくれっ、りゅ、う゛……ひう゛っ゛!」
引き抜き、突き込む度に茨木は悲鳴を上げる。ぬかるみの手前、腹側のざらざらした部分を陰茎で捏ねくり回すと、唸るような喘ぎ声が漏れ出す。
「お゛っ゛、お゛お゛っ゛……い゛っ゛、だっ、だめだ立香! 今イッ…………あ゛ぁ゛っ゛!!」
絶頂した少女が痙攣し、鬼種の爪が背中の肉を抉る。少女の尿道からちょろちょろと液体が漏れ出してきた。
「見るな……尿を漏らすなどっ、鬼の威厳が……お゛っ゛!?」
苦言は極大の刺激により断たれた。突き込む度にぷしっ、ぷしっ、と断続的に尿が跳ねる。もしかしてこれは失禁ではなく潮吹きというやつではないだろうか、そんなことも思ったが直ぐにどうでもよくなった。
今は茨木の中に精を放ちたい、茨木を孕ませたいということしか考えられなくなっていた。
「このっ、ケダモノか汝は! 待て、一旦抜いて……! ああもう、出すならいちばん奥に出せ!」
制御を諦めた茨木が言うが早いか、最奥を抉り込むように突き上げる。
「ひっ───」
少女は突き上げられたままに息を呑み、身体を硬直させる。目尻には涙が浮かんでいた。
数瞬の後、腰をぐりぐりと押し付けながら吐精する。こってりした精液がとめどなく少女の胎内へ送られ、膣を満たして行く。接合部からは最早どちらのものかすらわからない白濁液が漏れ出し、シーツを汚す。
「い゛っ゛、い゛っ゛……ふぐっ…………」
再びの絶頂へ押し上げられた少女は許容範囲を越えたのか、涙を流しながら肩を甘噛みしていた。地味に痛い。
熟れた果実のようなそこは精を吸い上げるように蠕動し、射精を終えた陰茎が硬さを失うまで握り続けていた。
やがて目の前が真っ白になるほどの快楽の時間が過ぎ、泣き濡れた少女の顔が目に入る。
「ごめん、茨木。やりすぎた」
「……馬鹿者が」
茨木は腰に足を回して固定すると、逃がさないとでも言うように抱きついてきた。
やがて鼓動が落ち着いた後も、しばらく抱き合ったままでいた。
▽
「───で、結局メイヴちゃんや酒呑に何を相談したんだ?」
室内にドライヤーの音が響く。
「ん……ああ。『マスターを吾の物にしたいのだがどうすれば良い』と訊いたのだ。そうしたら身体に覚えさせるのが一番だ、と言われてな」
「はぁ……」
少女の矮躯が左右に揺れる。温風に靡く金髪がカーテンのように見えた。
「その後、様々な書物で勉強したのだぞ? 結局身体に覚えさせられたのは吾の方だったがな。まったく、未だに胎が疼いておるわ」
下腹部を撫でながら、少女が感慨深そうに呟く。その横顔にはささやかに朱が差していた。
「こんなことしなくても、いつでも俺は茨木の隣にいるよ」
驚いたような顔で硬直した少女はやがて口元を綻ばせ、手を差し出してきた。鋭い爪の載った小指がちょこんと伸びている。
「約束だぞ」
獣の微笑みを浮かべる同胞に笑顔を返し、小指を絡めた。