「……ふぅ……」
古城は自室で深い溜め息をつき、肩を落とした。見るからに疲労困憊といった有り様だが、これには理由があった。
あの雪菜に襲われた日の夜を境に、雪菜の行動が大胆に……有り体に言えば、過激になって来たのだ。
今までは『私は先輩の監視役ですから』の言葉を盾に古城の外出時には常に同行しようとする程度だったが、それに加えて今では人目のない所では自分からキスをねだり、胸や太腿を触らせる等の過激なスキンシップを図って来るようになったのだ。
あわよくば物陰に連れ込んで情事にもつれ込もうと誘って来た事も、一度や二度ではない。
古城としてはこのまま雪菜の身体に溺れると取り返しがつかなくなる気がして及び腰であったが、あの夜味遭った雪菜の身体の良さはしっかり覚えていたので、雪菜の誘いを断り続けるのも限界に近付いていた。
古城とて、雪菜のような可愛い子からこうも好意を向けられるのは嫌な気はしない。
これまでは自覚はなかったが、今の雪菜の直接的な行動を見て彼女の好意をようやく理解していた。
思い返せば、雪菜が不機嫌になるのは決まって古城が他の女性と一緒にいる時だ。
不機嫌になる原因が古城と一緒にいる女性への嫉妬なのだとすれば、辻褄は遭うのだから。
……まあ、実際は凪沙から雪菜の真意を伝えられて、ようやく理解したのであるが。
どうやらあの日、凪沙と雪菜はグルだったらしく、凪沙が叶瀬の所に泊まりに行ったのも雪菜と共謀しての事らしい。
凪沙曰く、「そろそろ古城くんも年貢の収め時だからね」との事だったが、その真意を聞いても「浅葱ちゃんに聞いてね」の一点張りで、凪沙の口からは話そうとしなかった。
古城は仕方なく凪沙の言葉通り、浅葱に話を聞く事にしたのだ。学校で聞いても良かったのだが、昼に浅葱に「話がある」と告げると、浅葱は今夜家に行くから待つように古城に伝え、古城はこうして浅葱が来るのを待っていたのであった。
「浅葱か……」
古城は一人、様々な想いを込めて呟いた。今まで浅葱と二人きりになってもそう緊張する事はなかったのだが、今となっては話が違う。
浅葱は以前、古城にいきなりキスをして「そういう事だから」と告げている。あの時は理解を拒否してしまったが、今思えばあれはまごう事なき告白だった。
これまで明確に面と向かって好意を伝えられたのは、冗談めかしている為本気かどうか判断がつかないラフォリアや親愛なのか恋慕的な意味なのか分からない叶瀬や結瞳を除けば、それこそとうの浅葱くらいだ。
ラフォリアと叶瀬の事はどう判断すればいいか分からない為保留している状態であり、浅葱に関しても無意識のうちに考えないようにしていたが……雪菜の全霊の好意を身を以て知る事になり、浅葱にどういう態度を取ればいいのか分からなくなったのだ。
これが普通の一般人であれば誰か一人を選ぶのが普通なのだろうが、自分は吸血鬼の第四真祖という特殊な存在であり、
前に矢瀬から冗談半分で言われた「ハーレムを作ればいい」という提案も、やろうと思えば不可能ではないのだから。
だから目下の問題は、浅葱の扱いをどうするかという事だ。『電子の女帝』と呼ばれる浅葱の電脳戦での能力は、正直言ってこの
下手に彼女を振ってその能力が失われるような事態だけは、避けなければならない。何より、そんな事よりもあの大切な友人を失うような真似は、古城自身が耐えられそうになかった。
口では色々言っているが、結局の所浅葱は古城にとって大切な友人であり、なくてはならない存在なのだ。
古城としては浅葱は傍にいて欲しいし、彼女が他の男に靡く等考えただけで胸糞悪くなる。
真面目に恋愛感情を向ける相手として考えた事こそなかったが、彼女が魅力的な女の子である事は間違いなく、
「こんばんは、古城。お邪魔するわよ」
「お、おう」
そんな事を考えていた時にチャイムが鳴り、浅葱が部屋の中に入って来た。今まで浅葱の事を考えていただけに妙に気恥ずかしくなり、緊張しながらも浅葱を招き入れる。
奥の部屋に浅葱を招き入れたはいいものの、古城としてもどう話しかけていいか分からず、押し黙る。そんな古城を見て、浅葱から話を切り出した。
「なぁに古城、柄にもなく緊張しちゃって。私とアンタの仲じゃない、今更何意識してんのよ」
「いや、その……」
からかうような浅葱の言葉に古城はどう答えていいか分からず煩悶するが、そんな古城を見て浅葱はくすり、と笑った。
「……それとも、雪菜ちゃんの身体を知ってようやく私に欲情するようになったとか? そうだとしたら、あの子達の企みに乗った甲斐があるってもんだけど」
「な……」
……そして、思いも依らない爆弾発言を言い放った。茫然とする古城を前に、浅葱は大きく溜め息を吐く。
「あのね、話の流れで察しなさいよ。凪沙ちゃんが私と会うよう促して私がこうして何の疑問もなく来たって事は、私も事情は知ってて当然でしょうが? 凪沙ちゃんはなんて言ってたの?」
「その……詳しくは浅葱に聞け、とだけ……」
「ふぅん……まあいいわ。ちゃんと、話してあげる。まずは、これを見て頂戴」
浅葱はそう言うと持って来たバッグをひっくり返し、大量の手紙がテーブルに散らばった。
「これは……?」
「アンタに……いえ、『第四真祖』当てに届いた、見合いや貢ぎ
「な……」
浅葱に言われてざっと手紙を見渡すと、そこには仰々しい肩書きなんかが書き連ねられており、これらの手紙が権力者達からのものだと理解する。
問題は、どうして古城当てのそんな手紙を古城に黙って浅葱が所持しているかであるが……
「政治に疎いアンタに直接これを渡しても、上手く対処は出来ないでしょうからね。私の方で
「ど、どうすればいいってんだよ」
古城としてもそんな手紙を貰っても対処に困る事請け合いだったので正直助かったが、今後どうすればいいか等見当もつかない。
そんな古城の考えはお見通しだったようで、浅葱は深く溜め息をついた。
「だから、その為に雪菜ちゃんを
「ど、どういう事だよ……?」
事情を理解出来ず狼狽える古城に対し、浅葱は根絶丁寧に説明していく。
「まず、こういうお誘いが大量に届く原因の一つに、アンタが伴侶や従者を眼に見える形で抱えていない事があるの。だから婚約者でもなんでもいいから取り敢えず伴侶を作ってしまえば、こういう誘いが来ても
「は、伴侶って……姫柊はその事を、納得してるのか?」
浅葱はこくり、と頷き……
「当然でしょ。返答内容は、『
「そ、そうか……」
そういえば、最近の雪菜は『私は先輩の監視役ですから』といういつもの台詞の監視役のルビに、『お嫁さん』という言葉を被せていた気がしないでもない。
最初は職務意識が強いだけだったのが、古城と関わっていくうちに彼女の中で監視役=古城のパートナーという意識にすり替わり、いつの間にか監視役=お嫁さんという思い込みが発生していたのだろう。
思い込みが激しく物事への執着の強い雪菜であれば、有り得そうな話ではある。
「で、アンタが雪菜ちゃんを娶れば取り敢えず見合いの類いは来なくなるけど、それだけだと貢物として女を送って来ようとする輩まではいなくならない。だから古城、アンタは……ハーレムを、築く義務があるわ」
「は……?」
浅葱の言っている事が理解出来ず呆然となる古城だったが、浅葱は溜め息を吐きつつ捲し立てる。
「だから、充分な量の妾さんを抱えればそういう輩もいなくなるって事。幸いと言っていいのか分からないけどアンタに好意を持ってる子は私を含めて相当数いるんだから、相手には困らないだろうし」
「ちょ、ちょっと待て……っ! い、いきなりそんな事言われてもな……っ!」
肉体こそ普通の人間とは違うが、価値観そのものは常識人よりであると自負している古城にとって、いきなり
実の所古城の価値観は常識人寄りとは言い難い部分が多々あるのだが、それは言わぬが花である。
そんな古城を見て、浅葱は再び溜め息を吐いた。
「あのねぇ、
「う、それは……」
確かに、好意を寄せてくれる女性の中から一人を選ぶなど、古城には出来る気がしなかった。もしも誰も傷付かない選択肢を選べるのであれば、選びたいのが本音だった。
普通の一般人であれば、そんな選択肢など許されないだろう。だが、今の古城は
普通では許されない事でも、実現出来てしまう立場に古城はいる。それならば、常識なんぞ投げ捨てて我儘になってしまってもいいのではないかと、そういう考えが古城の胸に過った。
「その顔を見る限り、図星みたいね。ま、色々思う事はないでもないけどこれが最善でしょ。私もあのメンバー相手にアンタを取り合うとか、出来ればしたくないしね。アンタは吸血鬼の王様で、この国の長なんだからハーレム作ったっていいじゃない。下らない常識なんかより、皆の幸せを願う方が古城らしいと思うけど?」
浅葱の言葉を聞き、古城は天啓が降りた気分だった。皆の幸せを願う……口にするのは簡単だが実現となると難しいそれを、実現出来る手段がある。ならば、自分がそれに飛びつかない理由を探す方が難しかった。
「そうか……そうだな、浅葱。皆を幸せにする、なんて夢物語に聞こえるけど……それが出来るんなら、やらなくちゃあ損だよな。普通の感性からすればおかしいんだろうけど、それで皆が幸せになるなら万々歳だ。妾と言わず、皆正妻にしてやるよ。文句は言わせねぇ……こっから先は、俺のルールでやってやる」
浅葱の言葉に古城は覚悟を決め、堂々とそう言い放った。そんな古城を見て、浅葱は満足したように笑みを浮かべた。
「ええ、それでこそ古城よ。じゃあ、正妻二人目として早速私を抱いてくれない? 一番手は雪菜ちゃんに譲ったけど、
「ああ、抱いてやるよ。もう、覚悟は決めたしな……こんな形で悪いが、お前の全部……俺にくれ」
「うん。私の全部、古城にあげる。だから、いっぱい愛して頂戴」
古城は浅葱の懇願にキスで応じ、そのまま浅葱と連れ立って寝室へ向かうのだった。
1話で終わらせようと思ったら予想以上に長くなったので前後編構成となります。
ちなみに作中で古城に言わせた台詞は、私が作品を書く上での考えを代弁させたものでもあります。
自分、恋愛絡みの漫画やラノベで見る『誰か一人のヒロインを選ぶ為に他のヒロインを振っていく』シーンが好きではないんですよね。
そりゃあ現実ではそうするしかないんですが、折角のフィクションなのになんで皆幸せじゃ駄目なの? 皆とくっついて皆幸せでいいじゃんって思ってしまうんですよね。
なので、私の書く作品は大抵ハーレムモノとなります。要するに、私の作品は私の願望を反映させた代物なので、どうしてもそうなってしまうんですよね。
だから書くものも基本的に自分で選びますし、直感的に『書けそうにないな』と思ったものには手を出しません。物書きは『書いてて楽しい』と思わなければ、いいものは書けないというのが持論ですし。
商業作品なら『必要だから書く』『求められて書く』でいいと思いますが、私が筆を執るのはあくまで私が書きたいからであって、書いていて楽しいからです。
なので私の作品は私の趣味や性癖を100%反映させたものしか書いていません。今後とも性癖を反映させた小説を好きに書いていきますので、よろしくお願いします。