「くそ、眠い」
鬱蒼とした森の中を右へ左へ進みながら呟く。
原因はもちろん昨夜目を覚まして厠に行ったあと妹紅とヤっていたからに違いない。
「ここは右か、あ、左か」
地図を片手にうねうねした道を歩いていく。
商人が通ったのか一部だけ雑草などが少ない道と言える部分が見え隠れしている。
整備はされてないので足を取られては疲れがたまる。
夜は肌寒いく昼は涼しいこの季節だが雲がないと日が照りつけるので地味に暑い。
この暑さが寝不足の俺からさらに体力を奪っていく。
出発にあたって妹紅が心配性を発揮したので荷物が増えた。
「おや、こんなところがあるのか、休憩所とかか?」
雑草がない少し開けた場所に出た。
中央にとなりのト◯ロに出てくるような木が鎮座しているのでその木の根に座って休憩としよう。
この時代にリュックなんていう代物はないので荷物を持って歩くときは籠などを使うのだが肩に紐が食い込んで痛くなるのでオーダーメイドでリュックも作っておいた。
「ん?なんか視線を感じたような」
なんとなく視線を感じた。
森には妖精や妖怪が住んでいるらしいがこの辺りは危険なやつはいないと聞いている。
用があればいずれ出て来るだろう。
リュックから妹紅に渡された弁当箱を取り出す。
ちなみに献立はこちらの希望もありおにぎりだ。
塩加減がちょうどよくて疲れた体を刺激する。
「こんなとこに人間がいる、普段は誰も来ないのに」
「お、君は?」
やはり見られていた。
商人が近くを通るとはいえここで休憩していく人は少ないだろうし珍しいのだろう。
興味津々の様子の彼女は透きとおるような綺麗な長い銀髪を揺らす。
目は水色に輝いていた。
自己紹介すると言って俺の隣に腰掛ける。
「私はイリア、ここに住んでるの。お兄さんは誰?」
小柄で肌も透きとおるように白いイリアは俺の顔を見上げるように覗き込む。
白の薄手のワンピースから谷間が見え隠れする。
顔を体も幼いくせに胸だけはそれなりの物を持っている。
身長は150ないぐらいか。
「俺は一条詠。今は東に向かってる...。その、おにぎり食べるか?」
「ほんと!?食べる!」
俺の自己紹介の途中から目線が俺の顔からおにぎりへと移って目をキラキラさせていたので試しに1つ差し出すと今度は目を星にしてかぶりついた。
頰に米粒をくっつけながら大きいおにぎりを頬張る。
「ちゃんと噛んで食べろよ」
「わはっへるほ、ひっかりはむから」
「落ち着いて食べろよな」
直径でいうと10センチ以上のかなり大きいはずのおにぎりがあっという間に口に飲み込まれていった。
口元を拭ってやると目を閉じて顔を預けてきた。
俺は少し悪戯心が芽生えてイリアのおでこに自分のおでこをくっつける。
「よし、綺麗になった。目開けていいぞ」
「はーい、、、はわぁっ、、んぎゃっ」
気づいたイリアは慌てて体を戻そうと身を引くがバランスを崩して再び俺のおでこへ。
よくゴチンって擬音が使われるけど本当にそんな音がするもんだ。
「あいたたたたた、、、」
「大丈夫か?」
「おにいさんのせいだよね今の」
「悪い悪い」
俺がイリアの肩を支えて起こそうとするとイリアが俺に抱きついてくる。
妹紅よりも大きいくらいの胸が俺に押し付けられて形を変える。
軽く手を回してやると俺の胸に埋めていた顔を覗かせる。
「もう少しこうしててもいい?私こうして誰かに抱きしめてもらえるの初めてで今とっても幸せ」
「俺なんかでいいならいくらでも」
「おにいさん優しいね」
そう言って再び顔を埋めてしばらく、すーすーと寝息が聞こえ始めた。
30分ほど寝ていたイリアは俺の膝の上で目を覚ました。
すでに弁当は片付けてお茶をすすっている俺を見てうとうととおはようと呟いた。
「お茶飲むか?」
「お茶?美味しい?」
「美味しいよ」
そう言って新しいコップにお茶を注いで渡す。
かなり熱めのお茶なのだが一気にのみほそうとして体をビクつかせたりする。
今更だがこんな森の中でこの子は一体どんな存在なのだろうか。
「イリアは妖精とかなのか?」
「なんでそう思ったの?」
「なんか綺麗というか可愛いというか人間とは違う気がするんだよな。こんな森の中にいるし」
「やっぱり人間でもない私が人と同じようにしてるの変だよね」
「変じゃないよ。イリアが人と違う存在でも普通の女の子だと思うな」
「ありがとおにいさん」
よほど可笑しいのかくすくす笑いだすイリア。
そんなに変なことを言った気はしないのだが。
元気になってくれたことだし良しとするか。
「そういえば腹減ってたのか?おにぎりがっついてたけど」
「ううん、私は食べなくても生きていけるんだけど美味しくて」
「ならよかった」
食べなくても生きていけるなんて便利だ、と思ったが逆にいえばお腹空いて何かを食べる喜びはないと言える。
そういえばそろそろ出発しないとだな。
「イリア、悪いんだが俺はそろそろ行かなきゃなんだ」
「なら急がないと、私が寝ちゃったから遅れてるんでしょ?」
「まあな、でも気にしなくていいよ。いい休憩になった」
「また会える?」
「いつか会えるかもな」
荷物をまとめて立ち上がる。
再び森に入っていく。
「今日はありがと、おにいさんとっても楽しかったよ」
「俺も楽しかったよ、じゃあまたな」
手を振るイリアと別れ歩き出す。
手を振るたびに揺れる胸に目がいってしまったのは内緒だ。
しばらく道を進み野営の準備をする。
暗くなると獣が活発になる。
なので暗くなりきる前に火を起こして獣払いをしておく必要がある。
食われたくはないからな。
こうしているとこの世界に来てしまった頃を思い出す。
ついこのあいだの事ではあるがひどく昔のことに思えてくる。
日は西の方に沈み空には星が輝き始める。
明日も早いので早めに寝るとしよう。
「はぁ...また夢か」
翌日日が昇って明るくなった森の中で俺は目を覚ました。
また同じ夢を見た。
内容はさらに明確になり、俺は何かを浮かし攻撃していた。
相手方の攻撃はバリアのような物が俺を守っていた。
そして俺は首から何かをぶら下げていたのを覚えている。
その先のことは覚えておらず、何か重要なことで近づいて来る気がする。
「さて、今日も頑張r...」
「おやおや?こんな森の中でお前はなにをしているんだぜ?商人には見えねえな」
「えーと、君は誰だ?」
背伸びをして今日の自分に向かって意気込む所に金髪をたなびかせる少女がやってくる。
黒を基調として所々に白いリボンやフリルのついたワンピースというかドレスというか。
とにかくそんな感じの服を着て髪に黒のリボンを付けている。
「私は霧雨有理沙だ。一応魔法使いだぜ。この近くで霧雨魔法店をやってる。そういうお前は誰なんだ?」
「俺は一条詠だ。今は東に向かってる」
「何か目的があるって顔だな。聞いてもいいか?」
そういうと有理沙という少女は先ほどまで俺が椅子にしていた丸太にどかっと腰を下ろして足を組む。
隣に座るように手招きされたので隣に腰を下ろす。
「それで東に行く目的はなんなんだ?もしかして巷で噂のかぐや姫の試練ってやつか?」
「え⁉︎」
「その反応、そうみたいだな。お前いい男だからそうなんじゃないかって思ったよ。当てられて驚いているのかい?」
「あ、あぁ」
俺の様子を見て満足げな有理沙は俺に笑顔を向けて続ける。
「試練の内容はなんだったんだ?」
「言わなきゃだめか」
「そうは言わないぜ。せっかく知り合えたんだ、手伝えることがあったら手伝ってやろうと思ってな」
確かに有理沙の手助けがあれば試練は早く済むだろう。
相手は人喰い妖怪だというので護身用にいくつか魔法具なる魔石を買い込んできたがもっといいものが霧雨魔法店にはあるかもしれない。
「わかった。話すから霧雨魔法店で何か買ってもいいか?」
「もちろんいいぜ。まずはどんな試練なのか聞かせてくれ」
「話すだけなら簡単なんだが東の人喰い妖怪のところに行くんだ。絶対危険だよな」
「それってルーミアのやつか?あいつの力はリボンで封印されてるから危険性はないぜ?」
「その髪飾りに用があるんだ」
「まさか持ち帰れとか言われてないよな。それは危険すぎるぜ」
有理沙の表情が急にこわばる。
話を聞くに人喰い妖怪ルーミアとは昔名を馳せた大妖怪らしい。
その力はそこら辺の妖怪とは格が違い、力ある神ですら抑えることができなかったらしい。
ちなみにこの世界において神は信仰が多ければ多いほど力を高め、妖怪は人に恐れられれば恐れられるほど力を高めるらしい。
ルーミアは東方面だけでなく全国的に恐れられた妖怪で封印され危険性は無くなったとはいえ未だに恐れられる妖怪だそうだ。
こんな試練を提案したのはおそらく翁だろう。
「だからルーミアのリボンを取ればどんなことになるかわかったもんじゃないぜ。諦めた方がいいと思うぜ」
「でもやらなきゃいけない。情報ありがとう」
「どうしても行くってんだな。それならとりあえずうちに来るんだぜ。戦力になるかわからないが少しは助けになれるかもしれないからな」
「ああ、助かる」
「そういやお前さんのその服見たことないな。特別な服なのか?」
「あぁ、これか。俺のデザインだな」
少し首を傾げていたが納得したのかうんと頷いて森へと足を踏み入れた。
案内されたのは森を掻き分け川を渡り森の奥深く。
現れたのは山小屋というには大きく西洋風の立派な一戸建て。
この近くと聞いていたはずだが近くとは一体なんなのだろう。
「着いたぜ。ここが霧雨魔法店だ。ちなみに私は普段箒で飛んで移動するから歩いて来るとそれなりに時間がかかるんだぜ」
「それを先に言ってくれよな、、、。」
「すまんすまん箒ならあっという間だからな」
森の中だから遠慮がないのか高笑いしながら家に入って行く有理沙。
後に続いて扉をくぐるとそこにはごちゃごちゃと物珍しい品が並んでいた。
ずんずん奥へと入ってく有理沙から色々説明を受けながら俺も奥へと向かう。
「そうだなぁ、戦闘用なら魔石とかがオススメだな。魔石とかは持ってるのか?」
「ああ、護身用に少しだけ買ってきた」
「ふぃう、高いのによく買えるもんだな。護身用だけじゃなくて戦える方がいいな。魔道書でもあればいいんだがちょうど切らしててな」
「魔道書ってなんだ?」
「えーとな...うんしょ...魔石は使い捨てなんだよ。だから魔石に保存された魔法を魔道書に登録しとくんだ...あれ、確かこの辺に...だからコスパ的にも最適なんだがなにぶん手に入らないからな、お、あったあった」
俺の質問に答えながら奥からいくつかの箱を取り出してくる。
トレジャーハンターなら宝だ宝だと騒ぎ立てそうな形の箱にはさまざまな色をした石が入っていた。
「すごいな。京の街より色々ある」
「そりゃ一応にも魔法店だからな。そこら辺の店より揃えてるつもりだぜ」
そして水色に輝く魔石を取り出すと机に並べた。
他には紫色に輝く魔石も並べた。
「この水色の魔石があるだろ。これが守護魔石というやつだ」
「それなら持っているぞ。ほら」
カバンのポケットから似た色の魔石を取り出し見せる。
受け取った有理沙はそれをまじまじと見た後他と同じように机に置いた。
「確かに護身用として流通している魔石だな。でも防げる攻撃の威力次第では割れちゃうんだよなこれ。だから上位互換といえるこっちがオススメだぜ」
そう言って先ほどの水色の魔石を指差す。
「じゃあそれを買うよ。ちなみにこの紫のやつはなんの魔石なんだ?」
「お、まいどあり。これか?これは念動魔石といって所謂念力が使える魔石だな。攻撃だけじゃなくて身を守ることにも使えるんだぜ。持っておくと何かと便利だからオススメできるぜ」
だが魔石というのは本当に高価だ。
有理沙の人が良いお陰で多少安くしてもらえているがそうそう買える値段ではない。
不比等から貰った金で買えるのもせいぜい守護と念動の各一つだけ。
これは切り札にとっておこう。
「魔道書が入ってきたらお前さんに売ってやるから待ってるんだぜ」
「ありがとな、魔道書買える金があるか微妙だけどな」
2人で顔を見合わせて笑う。
すると誰かに背後からくいくいと袖を引っ張られる。
「おにいさんは魔道書が欲しいの?魔道具じゃだめなの?」
「「うわっ、、」」
「なんだイリアか、びっくりしたなぁ。ついてきたのか?」
「うん!」
「その子は?」
有理沙は突然現れたイリアに目をパチクリさせているが俺の知り合いだと知ると安心してね胸をなでおろした。
「イリアちゃんって言ったか。魔道具じゃダメってどういう意味か教えてほしいんだぜ」
「確かに。なんでイリアがそんなことを?それに魔道具ってなんだ?」
「魔道具ってのは魔道書より高位で人の形で存在するっていう伝説の存在なんだぜ。って、まさかイリアちゃんは...」
「魔導精霊だよ♪」