第9話 かぐや姫
「車はお気に召さないかな?」
「まぁ、おれの時代の車と違って遅くてつまらない」
実際現代の車も大して面白いものではないと思っているが。
今は人力の車に乗りのろのろとかぐや姫の住む屋敷に向かっていた。
向かいの元気そうな不比等とは違い隣に座る妹紅はぐっすり眠っている。
それもそのはずで、昨日も夜中に布団に潜ってきた妹紅と朝までやりまくっていたからだ。
不比等にバレると怒られる気がするのでおれは眠れない。
昨日の夕飯の時に「明日のこともあるし子作りも程々にしなさい。」と釘を刺されたからだ。
「君の時代の車はどんななんだい?」
「機械で動かすんだ。簡単に言うと運転手はハンドルを操作するんだな」
「機械で動かすのか、河童の技術力があれば実現できるかも知れん、君の時代の技術をいろいろ教えてくれないか?」
「あんまり詳しくないからな?」
「なんとかなるだろう」
確かにこの時代は電気がないので現代のような便利さはない。
河童と言えば有名な妖怪だ。
その河童なのかわからないが技術がどれほどのものかわからないが現代の機械まで再現はまず無理だろう。
「不比等様、到着いたしました」
どうやら話し込んでる間に目的地に到着したようだ。
まあ、昨晩のことがばれなくてよかった。
妹紅を起こし不比等に続き車から降りる。
「そういえば昨晩は随分とお楽しみだったようだねぇ?詠くん」
前言撤回だ、ばれてた。
眠い目をこする妹紅に聞こえないような声量でひそひそと訪ねてきた。
仕方ないので謝っておこう。
「あ、謝るよ」
「うむ、よろしい」
不比等は満足したらしくにこにこしながら門をくぐって行った。
それに続きおれも門をくぐる。
見えてきたのは不比等の屋敷ほどではないが相当な豪邸というやつだ。
「ようこそいらっしゃいました。不比等様。妹紅様。そちらの方は一条詠様ですかな?」
「これはこれは出迎え感謝いたします。詠くんのこともご存知とは、恐れ入りました」
「いえいえ、あの妹紅様が婚約されたと巷では噂となっております。しかし、もっとたくましいお方と思っておりましたが、いえ、失礼した。さあ、こちらへどうぞ」
随分と失礼なことを言われた気がするがここは問題を起こしてはいけないので気にしないことにする。
隣の妹紅が一番怖い顔をしていた。
先ほどの立派な着物を着込んだ老人が俗に言う竹取翁だろう。
案内されたのは日本庭園を見渡せる縁側のある待合室だった。
「こちらでお待ちくだされ、本日は不比等様が来られると言うことでほかの皆様も揃っております。妹紅様はお茶とお菓子をを用意しております。どうぞこちらへ」
「あ、あの」
「行っておいで妹紅」
「お父様がそうおっしゃるなら」
少し戸惑い顔でここにいたいと訴えてくる。
そんな妹紅の背中を不比等が押した。
たしかにこれから見合いなのに嫁がいるのもなんだ、不比等からすれば見合いの場に娘を呼びたくないはず。
翁に続き妹紅が出て行く。
翁は元々そこまで身分の高い人ではないはずだがこれもかぐや姫の影響なのだろう。
「気分を悪くしたかい?あの人は讃岐造麿と言ってね、かぐや姫の育ての親だ」
「俗に言う竹取翁のことか?」
「お、よく知っているね、彼は竹取を生業としていたんだが光る竹からかぐや姫が出てきてからは裕福な暮らしをしているんだよ、全く嫌なやつだ」
「不比等もそう思うか、人は第一印象が大切と言うけどあの爺さんは最悪だな」
藤原の出自とはいえ実力でこの地位に就いている不比等からしてもかぐや姫の育ての親というだけでここまで地位を高めている讃岐造麿はあまり気持ちのいい存在ではないようだ。
おれからしても初対面でいきなり馬鹿にされてはいい気はしない。
「あんな爺さんに育てられたかぐや姫はどんな人なんだ?」
「それがな、美しく完璧としか表現できないお人だ。妹紅がかろうじて張り合えるかどうかだな。全く妹紅にかぐや姫、同時に嫁にできるなど詠くんは羨ましいよ」」
「そこまで言うか、それと、娘を嫁にしたいとか思ってんのか?言っとくがおれは一夫多妻とか反対だからな」
「結構普通だよ?とくに貴族などは家同士の繋がりのための縁談がたくさんあるからね」
それはよく聞く話だ。
家の権力を保つためや不比等の後世であるが摂関政治なども政略結婚からなる。
「おっと、愚痴もこの辺にしておこう、どうやらお迎えのようだ」
「そのようだな」
廊下を歩く音が聞こえてくる。
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
再び屋敷の中を翁に続き歩いていく。
案内されたのは待合室より広いがそこまで広いとはいえないぐらいの部屋。
部屋の真ん中に竹と月が描かれた屏風が飾られており、その前にずらっと立派な着物を身につけた男たちが並んでいた。
「不比等様はこちらの席に、一条様はその隣でございます」
貴族たちに並び不比等が腰掛ける。
礼儀作法などはわからないので不比等の真似をすることにする。
並んでいる男たちは不比等ぐらいの三十代くらいの男もおれば、二十代から四十代まで幅が広い。
おれの印象だが不比等が一番いい男というやつなのだろう。
現代でもモテる端正な顔立ちだ。
妹紅は不比等に似たのだろう。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。一人ずつ屏風のこちら側にお越しください。」
屏風の向こう側に腰かけたらしいかぐや姫は丁寧な言葉で貴族たちに指示を出す。
「では、多治比嶋様」
翁がおれの反対側から一人づつ呼び屏風の奥へ行くよう指示を出す。
それぞれ色々な話をしているようだったが1つ同じなのは皆かぐや姫を娶ろうと必死にアピールしているところだった。
あまり聞こえなかったがなんとなく伝わってくる。
欲望丸出しのやつもいるし、いかにも真面目そうなやつもいる。
それを見た不比等はやれやれとでも言いたげにため息をついていた。
「藤原不比等様、どうぞ」
「おや、私の番のようだ、では行ってくるよ」
翁に呼ばれ屏風の奥に入っていく不比等。
ほかの貴族と違い、10人のうち9人は振り向くようなカッコいい後ろ姿である。
かぐや姫と始めて会う者は少しの自己紹介などを挟み試練を出されるようだが、不比等のように既に試練を出された者は雑談から世間話などをしているようだ。
だいたい一人10分ずつくらいの会談である。
待ってるこっちもそうだが全員の相手をするかぐや姫もかなり大変だろう。
「一条詠様、こちらへ」
不比等が戻ってくると最後におれの名が呼ばれる。
「それじゃ頑張れよ詠くん」
「あぁ」
屏風の奥に入るとかぐや姫がこちらを見つめていた。
「あなたが一条詠様ですね。藤原妹紅様を娶ったという噂聞いております。どうぞおかけください。」
「あぁ、失礼しま、す?」
「かたくならなくて良いのですよ、取り繕うとしないでください。普段のあなたとお話がしたい。」
「そ、そうか」
かぐや姫は妹紅と同じで腰あたりまで綺麗は黒髪を伸ばしている。
妹紅は綺麗で笑うと可愛く睨まれると怖い目をしているがかぐや姫は不思議な目をしていた。
それは妖精のようで綺麗や可愛いでは表すのが難しい。
貴族が揃ってほしがるのもわかる気がする。
かぐや姫と会っているわけだがどんな話をすれば良いものか。
とりあえず試練のことでも聞いてみるか。
「この与えられる試練のことを話すのか?」
「それもあります。でも初めは一条様の事を教えてくださいませ」
「そうだなぁ、まず一条様はやめてくれ、なんかくすぐったい、詠でいいよ」
「では詠様とお呼びさせていただきますね。私の事も輝夜と呼び捨てで構いません」
早速名前呼びが許されることとなった。
他の人がどうなのかは知らないが、良いスタートを切れたことは間違いないだろう。
「ところで詠様はどうして私と婚約したいのですか?」
「あぁ、輝夜が綺麗だからかな、、、あははは...」
「詠様はあまり乗り気でないようですね。他の皆は私と婚約しようと欲望をむき出しにした方ばかりです。あなたのとこの不比等様も似たようなもんです」
「わかっちゃうんだな」
婚約の理由を聞かれて取り繕うとしていた仮面が剥がれる。
実際つい先日妹紅と婚約したおれは浮気のような今回の話にあまり乗り気ではない。
おれは妹紅が好きだ。
それに初対面の相手に求婚するほどの誑しではない。
「私と話していても心はどこかにあるように感じます。妹紅様の事をお考えなのですね。なぜここに?」
「すまん、今回の事は帝の命令らしいんだ。おれはかぐや姫を惚れさせて振ってこいだと」
「まあ、詠様も大変ですね」
今のおれは考えていることが顔に出ているらしい。
本心でないことはすぐに伝わってしまう。
隠さず話した方がお互いのためだろう。
正直な会話というのはどうも笑みがこぼれるらしい。
輝夜もたまにふふと笑っていた。
「でも妹紅様が羨ましいですわ、こんな素敵な方から愛されているんですから」
「素敵なんて買いかぶりすぎだ、おれはいたって普通だよ」
「いえいえ、今まで求婚してきた相手のほとんどは既婚者です。でも奥様を好きだとか一度も口にしません。私は奥様を大切にして愛してくれる人の元に嫁ぎたい。おかしいでしょうか」
「いや、それが普通だ。おれだってここにいるがやはり妹紅の事を置いて求婚なんてできない。この世界が一夫多妻制が認められたとしてもおれは嫁一人一人を愛すべきだと思ってる」
実際一夫多妻に文句はない。
でもこの時代の男はどうも次へ次へと嫁を増やすようだ。
おれはそれが認められない。
「詠様はやはり素敵な方です。詠様の常識がどうあれ私が見てきた男はみな目の前の欲望に忠実で私と結婚することしか考えてなかった。奥様の事など思ってもない様子でした」
「輝夜も大変だな」
「そんな風に言ってくれたのも詠様だけです」
「みんな結婚したいんじゃないのかよ。実際輝夜はどんな奴と結婚したいんだ?」
「私は詠様のような方と結婚したいです」
「ぶふっ、お、おれか?」
「はい、私は詠様と婚約したいです。詠様のような方は今まで会ったことがない。もっと詠様を知りたいです。側にいさせていただけませんか?」
「何故そうなった?」
唐突すぎて頭が回らない。
今プロポーズされた?求婚しにきたのはおれの方ではないか?
「実はこの婚約話、私は乗り気でないのです。正直あの方達と婚約などしたくない。詠様はあの方達と違って私が初めて婚約したいと思える相手でした」
「おれの演技かもしれないぞ?」
「そんなの目を見ればわかります。あなたは嘘をつく人じゃない。私を娶ってくださいませんか?まだまだお互い知らない事だらけです。でもこれから知っていけば良いと思います。だめ、でしょうか?」
「そこまで言われると断りづらいな、、、輝夜はいいのか?おれには妹紅がいる」
「構いません、どこに嫁いでもその方はみな既婚者なのですから」
最後にふふっと笑みをこぼし輝夜は翁を呼んだ。
「お爺様、私は一条詠様と婚約しとうございます」
「なんと、ですがこの人はほかの貴族のような地位があるわけではないですぞ。藤原家に居候していると聞いておる」
「だから良いのです。私は政治だとか地位だとか関係ない結婚がしたい。詠様のことが好きかはまだわかりません。でも私は詠様のそばに居たいです。詠様はほかの方とは違う何かを持っていてそれは私が求めるものだと思うのです」
「ううむ、そこまで輝夜が望むのなら反対はせん。だが試練なしに婚約となればほかの貴族は黙ってないだろう。一条様にも何かしら試練を提示した方が良いのではないか?」
「それもそうですわね」
翁と婚約話を進めているようだがおれはまだ婚約するとは言ってないが、まあいいだろう。
輝夜がこちらに向き直り翁との話をまとめた。
「私は詠様と婚約したいと考えています。詠様はどうですか?」
「おれは、まあ、輝夜がそれを望むならいいと思うし、大切にする」
「では詠様に試練を出します。ほかの方と同じ条件じゃないと貴族の皆さんが認めないでしょう。お爺様からの提案なのですが詠様には東に向かってもらい人喰いの大妖怪が頭につけている髪飾りを持ってきてもらいます」
「まてまて、おれも試練やらないといけないのか?輝夜姫本人が望んだってことじゃだめなのか?」
「私だってそうしたいのです。でもそれだとほかの皆さんと、、、」
「わかったよ、せいぜい頑張ってくるから」
結局試練を受けることになってしまった。
それに早く終わらせないと一生輝夜に恨まれるであろうオマケ付きだ。
「お願いしますね♪詠様♪」
お茶を楽しんでいた妹紅を迎えに行き、帰る支度をする。
正確にはあまり楽しそうではなかった。
かぐや姫に東方面の地図をもらい人力の車に乗って帰路を辿るのであった。
妹紅は怒るだろうか。