男と最初に会ったのは、三か月ほど前の友人を通した食事会の席だった。最初からあまり良い印象を持たなかったが、話せば話題も豊富で面白く薦められたグラスをいつもより多く空けてしまった。
妻の男性関係は硬い方で、薦めらたからと言って見知らぬ男の前でそれほどまで酒を飲むことは今までなかった。
気が付いけば見知らぬベッドの上、目覚めた妻は自分の恰好に愕然とした。一糸まとわぬ姿、嫌な臭いのする白濁の液体が体中に付いていた。傍にいた男を茫然と見れば、男の手には携帯電話が握られており、情事の映像が流されていた。
丁寧に妻がその時どんな声でよがっていたかをニヤついた顔で説明してくる。酔いのせいでそのほとんどを覚えていなかった妻も映像で見る自分の姿に言葉が出ない。男はまた連絡すると言い残し妻を置いて去って行った。
聞いたことのある話だ。悩み多き異性を酒で酔わせいい様に言いくるめてホテルへと誘う。妻は私から見てもしっかりしている。まさか妻がそのようなことになるはずがないと決め込んでいた。
この頃の私は仕事ばかりで妻に愛の一言も囁いていなかった。会話という会話もなく交わすのは挨拶程度だったろうか。酒を呷る妻はどう思っていただろう、そこを付け込まれた。私に責任が無いと言い切れるだろうか。勿論、この男が現れなければ一番よかったのだが……
妻は震える肩を抱きしめながら続きを話し始めた。
次の日には男から呼び出しがあった。大した用事ではない、共通の友人と一緒に会ってほしいというものだった。指定の場所に行くと食事会で男を紹介してくれた友人である女性が同じテーブルに着いていた。友人は男が妻に手を出したのではないかと勘ぐったそうだ。酔いつぶれるほど酒を薦めていればそう考えるのも無理はない。実際に手も出されている。そのことで妻に釈明をさせようとしていた。
男の隣の席に座り友人と他愛ない会話を続ける。と、妻の大腿に男の手が伸びた。妻は少し肩を跳ね、男をねめつけた。
妻が男を見るとあのいやらしい笑みを一瞬だけ見せ、ゆっくりと手を動かし始めた。恰好に指定などは無かったのでパンツで来たことが正解だったと妻は内心ほっとした。不快感はあるが素肌に触れられるよりはずっとましだ。それでも、内腿をなぞられたときは鳥肌が立った。
友人の前なのに何故。そんなことを考えている間に男の手は足の付け根まで上ってきていた。
もう耐えられ無い、男の手を払いのけようとしたその時。
「そういえば面白い動画見つけたんだよね」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。例の動画なのか別の動画なのか。男を見るとにやけ顔でこちらを見ている。友人は何かと興味を持ってしまった。妻だけが青い顔で、止める様に首を小さく横に振った。男は眼を細めると乗り出しながら携帯電話の画面を友人に差し出した。
妻は俯いて事の次第を待った。聞こえてきたのは友人のはしゃぐ声と猫の鳴き声。顔を上げると男がしたり顔で顎に手を当てていた。その眼は"いつでもばらせるぞ”と訴えかけて来るようで妻は身動きできなくなってしまった。
男は友人に動物の動画を薦める傍ら妻への愛撫を続けた。数十秒の動画がいくつか再生された時、男の手が妻のパンツのファスナーを器用に下ろし、そこに指を差し込むとゆっくりとショーツ越しに恥部を撫で始めた。
妻は早くこの時間が終わってくれることを祈るしかなかった。二人の会話が途切れところで、そろそろお開きという時には、妻の頬はほんのり桜色に染まっていた。それが羞恥心からなのか、男の愛撫によるものかは分からなかった。
友人と別れるとそのままホテルへと連れていかれ、部屋のドアを潜るなり唇を吸われた。私とするような唇を触れさせるようなものではなく、舌を絡ませる濃厚な口づけを。
拒む為に顔を背ければ頭を掴まれ強引に口を吸われた。ベッドへと投げ出され碌な抵抗もできず衣服を剥ぎ取られる。露わになった豊かな双丘を鷲掴みにされ痛さに瞳がにじむ。蒼穹の先、薄紅色の突起にむしゃぶりつく男に嫌悪感と同時に淡い快楽を感じ、妻は顔を両手で覆った。男は妻の秘部に手を伸ばしその入り口を指で擦りあげる。僅かな湿り家を感じて男が笑う。嫌いな男に触られて感じるのかと言われても妻は顔を見せることは出来なかった。
男は自身の怒張したモノを出し、一気に妻を貫いた。あまりの衝撃に妻は仰け反ってくぐもった声を出したが顔は両手で覆ったままだった。男の
抽送が始まっても妻は声一つ上げることは無く頑なに顔を見せはしなかった。男はいつもの下卑た笑いを浮かべると穿つ場所を少しずらす。とたん妻は体を仰け反らせ艶やかな声を一つ上げる。戸惑う妻が面白いのだろう男は高笑いしながら妻の弱点を突く。
我慢していた声に吐息の漏れる音と共に嬌声が混じり始めると男は徐々に動きを激しくしていき妻の体内に白濁の液体をぶちまけた。肩で息をする男は同じく肩を大きく動かす妻の手を顔から離す。妻の顔はだらしなく蕩けきっていた。上気した頬と口の橋から漏れる涎、弛緩した体は快楽で達したことを如実に物語っていた。
男は携帯電話を取り出すとその蕩けきった妻の顔を撮り始めた。妻が弱弱しく顔を隠そうとすれば、男は妻の秘部の奥を突き上げ快楽に震え体を仰け反らせる妻の顔を撮った。
体位を変え、責める場所を変えながら妻の体を堪能した男は一人着衣を済ませると未だベッドに体を投げ出している妻に、次の話をして部屋から出て行った。放心した妻にはその要求を突っぱねる力も悪態をつく声も出ることは無かった。ただ涙を流すことしかできなかった。
それからは頻繁に呼び出され、様々なことを要求された。その多くは公衆の面前でのセクハラ行為が多かった。手や口を使っての奉仕をやらされたこともあったという。
そして、三週間前の私が出張に出たあの日から男は我が家に入り浸るようになる。我が物顔で居座り、妻に食事や入浴の世話などをさせていた。暴力を振るうことこそなかったが、この三週間は妻にとって一番の苦痛だった。
男からの執拗な快楽攻めが始まったのだ。四六時中妻の体を弄ってきたらしい。撫でまわすのはもちろん、料理中に胸や下半身を露出させられ指を秘部に挿入されたりした。足を上げた状態で拘束され、一日中性具で責められたりもしたという。
そんな生活を三週間、当然妻の体は快楽に敏感になっていった。男の狙い通りだっただろう。妻は男の陰茎を挿入することに抵抗も無くなっていったという。勿論、避妊具などは付させてもらえなかった。代わりに男は何処からか避妊薬を用意していた。だが、幾らかの金と引き換えにしか渡してもらえなかった。妊娠するわけにはいかないと支払えば小量の錠剤を渡されるが、一日に一錠ずつ支払いを要求される。借金をするほどではないにしろ、金銭を毎日のようにせびられるのは苦痛でしかない。
それでも私に相談することはできなかった。私が近くにいなかったこともあるが、何より私にこんなことを知られることが怖かったと。
妻は、肉体的にも精神的にも疲弊していき、快楽にも抗え無くなってきた今日、男は明日には私が帰るからと"最後にしよう"と提案してきた。妻はその言葉を信じた。信じることしかできなかった。妻の忍耐を削る為の男の嘘だと頭ではわかっていたらしい。それほど妻は疲れ切っていたのだ。
最後なのだからと男は乱れた妻が見たいといい始め、全ての行為を妻に任せた。男に嬲られ続け貞淑だった妻は少し撫でられても反応しまうような敏感な体になっていた。最後だからと今この時だけはと快楽に浸る自分を解放してしまった。
それが先ほどまでのこと。確かにあれほどまでに乱れた妻を見るのは初めてだった。妻は最後に涙ぐみながら私を愛していると言ってくれた。そして別れてほしいとも。
こんな話を聞けば大半の男性は妻に男を付け込ませるような要因があったのではないか、と勘ぐったり、話は全て嘘で口から出まかせを言っているのではないか、という意見もあるだろう。だが、私は妻の話を全て信じている。時間にして一時間も経たないほどの会話。それでも彼女にとって忘れがたい屈辱の日々を夫である私に話したのだ。
「その話はまたにしよう」
驚いた表情を見せた後、"はい"とか細い声で返事をした。彼女を浴室へと促す。話し込んでしまったが、汗やあの男の体液などは未だ妻の体を汚したままだ。
妻が浴室へ向かうのを見送った後、目を覚まさない男を見やる。呼吸はあるので問題は無いだろう。男の脱ぎ散らかした衣服を調べれば、確かに妻の痴態を収めた携帯電話が見つかった。画像に動画までもが多量に収められている。中には妻ではない別の女性が映った映像もあり、その中に男を紹介した例の女性を見つける。成程、ここから既に妻は狙われていたようだ。
記録を自分のPCに移すと携帯電話の記録を全て消した。妻が出てくるまでにこの男をどうするか。今しがた犯罪と呼べる証拠の数々を消した理由は他の痴態を撮られた女性を気遣ってのこともあるが。一番の理由はやはり妻だ。画像や動画を消したところで妻の記憶には消すことのできない傷が残ってしまった。この男を許すことは出来ない。
だが警察に行ったとしてどんな理由で逮捕されるだろう。強姦罪、脅迫罪、傷害罪や不法侵入、色々出せるが女性が更に傷つくことになるか、でなければ数年で出所できるような軽い罪しかないだろう。
許されないのはまた妻に近寄るのではないかということ。この世から消してしまえれば実に簡単であるし私の溜飲も降りる。だが、そんなことはできない。私も人間なのだ、人を害してしまえば私にも影響が出る。それで逮捕されたとして妻はどう思うだろうか。ここは落ち着いて別の方法を
考えるべきだ。
私は寝室のドアを閉め男を後ろ手に拘束し、動けないように足も縛った。猿轡変わりに男の下着
を口に詰め、男の頬を引っ叩く。男はぼんやりとこちらを目を向け、直に襲い掛かろうと手足をば
たつかせた。
冷めた目で見降ろせば。荒い呼吸を整えようともせずにこちらをにらみつけている。
「データは全部消したよ」
彼のスマートフォンをちらつかせながらそういえば、抗議するように暴れた。反応を見る限りではデータを他へ移したりはしていないようだ。
「警察には行かない」
言えばぴたりと動きを止め訝し気に目をこちらへ向ける。
「君の自慢の一物を切り取る。もしくは君の痴態をカメラに収めよう」
前半の台詞に一瞬震えたが、直ぐに後半の言葉に目を剥く。どちらもこの男の人生を壊すには十分だろう。前者は言わずもがな"男"を已めることになる。後者はその映像を私がどうするのかで彼の人生に大きな影響を与えるだろう。それは彼にとって安息の日が無くなることを意味する。
荒い呼吸が激しくなる。どちらが彼にとって譲歩できる条件だろうか。
「切り取るかい?」
男はかぶりを振る。
「どんな動画を撮ろうか?」
また首を振る。
「選ぶんだ。君が、自分で」
彼の頭が動くことが無い様に髪を掴んで男の瞳をのぞき込む。その瞳は次第に歪み始め、端に涙を浮かべる。私が本気であることを理解したようだ。
前者かと問えば、男は震えながら小さく顔を横に振った。私は彼が最初に私に向けた笑みを浮かべた。男は選んだのだ。
"私に今後の人生のありかたを"
男は茫然とした表情で自分の荷物と共に帰路についた。妻は彼の代わり様に口に手を当てて見て
いたが忘れる様に首を振り私に居直った。私も妻の目を見ながら先ほどの答えの出ている問につい
て考える。私が何か語るのをじっと待つ妻。あぁ、妻とこんなに長く見つめ合うのはいつぶりだろ
う。付き合っていた頃も内心浮ついていた心を御するのに大変だった。妻はあんなに笑顔を振りま
いてくれていたというのに。私はいつもの無表情で愛を囁くこともなかった。口には出さなかった
がその分誕生日などには精一杯の恰好をつけて花束などを送った。妻はそんな私の愛情をよく汲み
取ってくれたと思う。
自分は腹を決めたという顔で待つ妻に私は……
「しばらく、実家で過ごしてほしい」
愛しているでも別れてくれでも無く、回答保留の言葉だった。