7月が近くなり、本格的に暑くなってきた今日この頃、俺はそれでも行きつけの公園でアコギの練習をしていた。とはいえ、日の当たるところで練習すると楽器に悪いから、木が生い茂って日陰になっている場所にあるベンチに座って練習している。一人暮らしを始めてからほぼ毎日この場所で練習してるから、近所の小さな子供から「ギター仙人」とかいうあだ名を付けられてるみたい。まぁギター侍じゃないだけいいや。懐かしいな波田○区。今何してるんだろ。
関係ない話になるけど、俺はピックじゃなくて指弾き。何か、指で弾くことに安心感を覚えるというか何というか。うん、俺も途中から何言ってるか分かんなくなったからもう言うのやめる。
「あー!せんにんだー!」
なんて色々考えながら練習してたら近所の子供が近寄ってくる。男子でもこんな高い声出せるんだから若いっていいよねぇ。高校生が何言ってんだろう。
「よう。今日は何してんの?」
「今日はねー、サッカーする!」
「そっかーサッカーかー…サッカー…」
サッカーにはいい思い出ないんだよなぁ…パス貰おうとしたら「近寄んな」って言われて全力でボールぶつけられるんだぜ?あの後ほど泣き叫んだことないよ。
「どしたのー?」
「いやなんでもない。楽しめよ」
「うん!」
子供が走り去る。さて、練習続けるか。うーん、ここのフレーズのここの指の運びが全然出来ないんだよなぁ…
「あ…」
「ん?…あっ」
聞こえてきた声に頭を上げると、片手に本を抱えた女性がいた。目を隠すほどの長い前髪に特徴的なヘアバンド。ヘアバンドはそうでもなかった。
「七影…さん」
「…ども」
「隣…いいですか?」
「あ、はい。…どうぞ」
適当に投げていた鞄を片付けて隣を開けると、鷺沢さんはそこに座る。実を言うとこの日陰、親子連れはよく遊んでるけどちょっと離れてるから割と静かなんだよね。もしかしたら鷺沢さんもここが好きなのだろうか。やだ、超運命的。俺キモイ。
「七影さんもここが好きなんですか?」
「はい。日陰ですし割と静かなんで結構気に入ってます」
「へえ…」
「鷺沢さんは読書ですか?」
聞きながら、鷺沢さんが持っている本に目を向ける。分厚いなぁ、何かの論文だろうか。
「はい、私も七影さんと同じ理由でここで本を読むのが好きなんです」
「そうなんですか」
いつも室内で読書してるイメージだったからちょっと意外。
「七影さんはスタジオとかで練習しないんですね」
「ええまあ、確かにスタジオ借りた方が夏は涼しいんですけどね…」
「…?」
「ずっとここで練習してたから、ここじゃないと落ち着かないんですよ。それに、ここじゃ出来てもスタジオじゃ出来ないこともありますし」
言って、少し目を細める。思えばここから見る景色ももう何年見てきたか分からないほどだ。今更場所を移動する気にもならないし、何より、
「ここにいると…親がいた頃を思い出すんです」
「親…ですか?」
「はい…俺の両親、小さい頃に交通事故で死んじゃって。そんな両親が俺をよく連れて遊びに来てたのがこの公園なんですよ」
「七影さん…」
ここにいれば、父さんと母さんに会える気がしたから。それがここで練習する一番の理由。
…って、ダメだダメだ。ついしんみりする話をしてしまった。あぁほら鷺沢さんも俯いちゃってるし。
「さ、さぁて!暗い話はもう終わりにしましょうか!練習しよ練習…」
「……はい」
暗い話をしだした張本人が言うセリフじゃないけど、そんなことはこの際どうでもいい。
俺はそう割り切ってギターの練習を始める。同時に鷺沢さんも本を開く。自分への戒めだと思ったのか、俺は自然にファイルをめくって、できるだけ明るい曲を練習していた。
しかしその日、鷺沢さんに笑顔が戻ることはなかった。
読みごたえがない小説で大変申し訳ありません。