第一話
凍り付きそうな程に冷えた潮風が吹く海上に、島と思う程に巨大なプラウダ学園艦が停泊している。そこに接舷する輸送船が一隻。
巨大艦船であると同時にひとつの学園都市でもある学園艦には様々な船が来る。寄港を待たずに人を行き来させるための連絡船、艦上の店舗に商品を運ぶ物資船などだ。
そして今接舷しているのは、手紙や送り物などを受け渡しするための郵送船である。プラウダ学園艦の艦上もひとつの住所として登録されており、「プラウダ学園艦上○○」などと送り先に書かれた郵送物が大量に運び込まれる。通信技術の発達により最盛期に比べてその量は減少傾向にあると言うが、それでも手紙などでなければ伝えられない事柄もある。
例えばその郵送艦から降ろされ、プラウダ戦車道隊長・カチューシャの仮住まいに届けられた一通の封書などがそれであった。表面には印刷されたロシア語が書かれている。
「………」
カチューシャは息を呑み、その封筒を開けた。中には数枚の書類。まず一枚目を広げる。
そこには最初に、大きくこう書かれていた。
“Переходя”
「……ふぅ」
大きく息をつき、カチューシャは表情をほころばせた。
「流石、私ね」
自信に満ちた言葉。しかし、その表情はすぐに曇った。彼女には似つかわしくない深い迷いがその顔には刻まれている。
しばらくそうしていた後、カチューシャは椅子に腰かけ書類に一通り目を通すと傍らに置かれた電話機の受話器を上げた。数度の発信音の後、応答の声。
「──ノンナ、ちょっといいかしら?」
「……毎年の事ながら、どうも慣れないな」
通りがかった一般宅の前に並んで立てられたヨールカ(クリスマスにロシアで飾られるツリー)と門松が並んでいるのを横目に見つつ、伍堂六郎、通称ゴロドクは呟いた。固まった雪の隙間を縫うようにして雪かきされた、歩道の細い箇所を歩く。
よく見ればヨールカと門松が並び立っているのはその家だけではない。そこかしこの家に同様にヨールカと門松が並んでいる。既に今日は12/27、ツリーの片づけ忘れではない。
日本ではクリスマスといえば12/25というのが一般的だが、ロシアでクリスマスといえば1/7である。これはキリストの生誕日が欧米のカトリックではグレゴリオ暦が使われていて12/25になっているのに対し、ロシア正教ではユリウス暦が使われ1/7になっている事に依る。ロシア色が強く、実際にロシア人の住人率が高いプラウダでは同様に1/7にクリスマスを祝うのが一般的だ。そこに日本人の新年の慶賀が噛み合うと、このように事情を知らぬ者には何ともシュールに見える光景になる。流石に三年目ともなり慣れてきたが、プラウダ艦上で初めて年末を迎えた時はゴロドクも驚かされたものだ。
年越し蕎麦と餅が入ったスーパーの袋を片手に、ゴロドクはそんな事を考えつつ自宅のマンションに戻っていた。エントランス前に、見慣れた少女がひとり立っている。
「あれ?」
「
そう言ってクラーラはゴロドクに手を振った。厚手の黒のコートに紺のスカートに若草色のブラウスというシンプルな着こなしだが、クラーラの透き通るような白い肌ときめ細かな金髪と相まって周囲の雪景色に映えている。
「クラーラ、どうしたんだ?」
「はい。年末から年明けにかけて故郷に戻りますので、そのご挨拶に伺おうかと」
「それで待ってたのか? 携帯の一本でもくれれば急いだのに……」
「そう遠くには行かれていないと思いましたので」
涼しい顔でクラーラは言う。
「そっか。時間大丈夫なら、少し上がっていくか?」
「ありがとうございます。ゴロドク」
ゴロドクの言葉にクラーラは微笑んで答えた。エントランスのロックを解除し、エレベーターを使ってゴロドクの部屋まで向かう。
「悪い、ちょっと散らかってるけど」
「いえ、お気になさらず」
玄関前でコートを脱ぎ、丁寧に靴を揃えるとクラーラは中に上がった。その動作からは正しく日本のマナーを習ったであろう事が伺える。
室内は整然と整頓されていた。床に積まれた本や脱ぎ散らかされた衣類などもなく、ベッドも布団が丁寧に畳まれている。
「………」
「ちょっと待っててくれ。お茶淹れるから……あ、コーヒーや紅茶のがいいか?」
「あるようでしたら、コーヒーですと助かります」
クラーラはそれらを興味深そうに眺めつつ、リビングの卓袱台に腰を落とした。
窓の外では一旦降りやんでいた雪がまたちらつき始めていた。ロシアでは年末年始は家族と過ごすのが一般的だ。そのため、この時期のプラウダ学園艦は日本海周辺の港に連続して寄港し帰郷する生徒たちを降ろして回る。必然的に雪と遭遇する頻度も大幅に上がる訳だ。
窓の外の雪をクラーラが眺めている内に、マグカップ二つを手にゴロドクが戻ってきた。クラーラの前にカップを置き、自身も腰を下ろす。
「いただきます」
「そんな大したモンじゃないよ。インスタントだ」
言いつつ、ゴロドクは自分のコーヒーを飲んだ。それを確認してからクラーラも自身のカップを取りひと口飲む。
「……で、もう今日中に帰るのか?」
「いえ、明日ウラジオストクに学園艦が寄港するので、その際に降りる予定です。戻りについては、父は『クリスマスまで残れ』と言っているのですが、そうなると冬休み終わり直前に連絡船で戻る事になるので……どうしたものかと」
クラーラは苦笑しつつ言った。
「お父さん……って確か、向こうの情報機関で働いているんだっけ?」
「
「それはそれで羨ましいけどな。ウチとかは『元気でやってりゃそれでいい』って感じだから」
「ふふ、それでもゴロドクの事を大事に思われていると思いますよ?」
「そんなもんかな……?」
ゴロドクはもう一口コーヒーを飲んだ。暖房が効くまでもうちょっとかかる。冷えた身体に熱いコーヒーが染みわたるようだ。
「……それにしても、ゴロドク」
ふと、クラーラは室内を見回して言った。
「ん?」
「冬休みに入ってから、ずっとノンナ様とされているのですか?」
「ッ!? ゴホッ、ゴホッ!?」
突然の言葉にゴロドクはコーヒーを吹き出しそうになった。クラーラの顔にかかるので何とかそれは堪えたが、今度は気管に入って思い切り咽る。
「ゲホッ、ゴホッ! な、何だって!?」
「いえ、ですからノンナ様と……」
「いや、聞こえなかったんじゃなくって! 何言ってんだよ!?」
抗議するゴロドクに、クラーラは逆に不思議そうに小首を傾げた。
「……違いますか?」
「え? あ、ああ。そりゃ『全く無い』とは言わないけど……」
「とりあえず、ここ三日ほどは休まずされていると」
「だ、だから違うって! 何でそう思うんだよ!?」
ゴロドクからすれば当然の疑問だったのだが、クラーラは答えた。
「何故と言われましても……ここまでノンナ様の匂いが残っていては、つい今朝方まで激しくされていたと言っているようなものです」
「な……!?」
ゴロドクは咄嗟に部屋を見回した。かなり消臭剤を吹き付けたのだが、それでもクラーラの嗅覚を誤魔化すには至らなかったようだ。
「それにゴロドク、外にベッドのシーツが干されているようですが……二枚も干すほど、貴方は独りで頻繁にシーツを汚されているのですか?」
「あ」
「あと補足するならば、男性の気遣いとしては至極当然かとは思いますが……スキンは黒い袋に入れてお持ち帰りされた方が良いかと」
「うっ……!」
ぐうの音も出せなくなり、ゴロドクはがっくりと頭を下げた。降参の合図だ。
「ゴロドク、頭を上げてください。別に貴方を責めようとか言っているのではありません。お二人の関係が良好なのは、私としても喜ばしい事です」
「喜ばしい事、ねえ……」
複雑な表情でゴロドクは顔を上げた。
ゴロドクがカチューシャから告白された事を契機に始まったノンナとの関係は、既に数ヶ月続いていた。それを知ったクラーラが途中から関係に加わってからも二ヵ月ちょっとになる。
「セックスには体の相性が重要」などと書かれた男性向け雑誌の胡散臭い特集記事などが真実だとするならば、自分とノンナの体の相性は(またクラーラについても)良かったと言えるのだろう。体を重ねる度に互いの快感を引き出せるようになってゆき、互いを求めるようになってゆく。少し前にカチューシャに関係を気付かれかけた後にこの部屋の玄関でノンナと交わった時などは特に激しく、外に声が漏れる事も気にせず玄関で、リビングで、ベッドで、浴室でと翌日腰が立たなくなるくらい激しく交わった。
だが──この関係が、間違っても健全なものでない事も自覚していた。それは時折、見えない棘のようにゴロドクの心に刺さった。
そんなゴロドクの内心を知ってか知らずか、クラーラはいつもの調子で言葉を続けた。
「はい。交わっているお二人の姿は非常に美しいと思います。特にノンナ様は、日頃の凛とした姿勢からはとても思えない乱れた様を見せて下さりますので」
「……それは、どうも」
どう答えて良いのか分からなくなり、ゴロドクはとりあえず答えた。
「つきましては、私が今日こちらに伺ったのもそれに関する事でして」
にこやかな表情のまま、クラーラはゴロドクに身を近づけてきた。
「そ、『それに関する』って?」
「10日ほど学園艦を離れますので……ゴロドク、貴方に一度抱かれておこうかと」
卓袱台を回り込むように、クラーラはゴロドクに身を寄せた。香水だろうか、心地よい香りがゴロドクの鼻孔をくすぐり、クラーラの身体の温もりが伝わってくる。
「いつも思うんだけど……クラーラって、思い切りがいいよな」
「人を尻軽みたいに言わないでください。ノンナ様がそうであるように、私は貴方だからこそ身体を許しているんですよ?」
「それは、どうも……んっ」
「ンンッ……」
確かに、男としては光栄に思うべきところだ。ゴロドクは返事をしつつクラーラに唇を寄せた。最初は軽いキス、次第に舌を絡め、互いの吐息を交換する。
「ふぁ……ンッ!」
ブラウスの上からクラーラの胸に触れる。流石にノンナには及ばないものの、十分な大きさと張りを併せ持つ乳房の感触がゴロドクの掌に伝わってくる。ゴロドクはキスを繰り返しつつ彼女のブラウスのボタンを外した。黒のブラが露になり、クラーラの白い肌をより引き立たせている。
次第に熱さを増すクラーラの肌を撫でつつ、ゴロドクは囁いた。
「もう、熱くなってる……」
「ンンッ……ゴ、ゴロドク、それを言うなら貴方だって……」
「くっ……まあな」
クラーラの細い指がゴロドクのジーンズのジッパーを下ろし、そのまま中に侵入してくる。半勃ち状態の肉棒にクラーラの指が触れ、急激に血液が集まってゆくのが分かる。厚手の生地の中で窮屈そうに興奮を主張する肉棒を、クラーラは優しく撫でるとジーンズの留め具を外した。
「はあっ……ど、どうする? このまま、するか?」
「そう、ですね……良ければ、ベッドで続きは」
「……分かった。シャワーは浴びるか?」
「家で浴びてきましたので、このままで……」
よくよく彼女は準備がいい。ゴロドクは一旦クラーラから身を離すと、手早くシャツを脱いだ。クラーラも立ち上がり、スカートのホックを外すと床に落とし、そのまま流れるようにブラウス、下着と脱いでゆく。
日頃の戦車道の修練で磨かれたものであろう引き締まった肢体には一切の弛みはなく、それでいて豊かな乳房と張りのある腰回りはしっかりと張り出し、全体として美しい曲線を作り上げている。金色の薄い陰毛に彩られた桃色の秘所が僅かに除き、ゴロドクの視線を引き寄せさせる。
「ゴロドク、先に横になって頂いてもいいですか?」
「え?」
「ちょっと試したい事がありまして」
そう言うとクラーラは悪戯っぽく笑い、ゴロドクを促した。つい二ヵ月ほど前まで処女だった彼女だが、性に対しては非常に研究熱心だ。ゴロドクは言われるままにベッドに横になった。勃起して固くなった肉棒は腹に貼りつきそうな程に反り返っている。クラーラはゴロドクの足元からベッドに上がると、足をゴロドクの顔の方に向けつつ横になり、愛おしそうに肉棒に触れた。
「うっ……!」
「ゴロドクは今日は何もしないでください……私が、全てして差し上げますから……」
「あ、ああ……分かった。頼む……ううっ!」
甘い声でクラーラは言うと、肉棒を優しく扱き始めた。白い指が赤黒い肉棒に絡みつき上下する様はそれだけで煽情的だ。どうやら今日のクラーラは、主導権を握って進めてみたいらしい。
右手でゴロドクの肉棒を刺激しつつ、クラーラは左手を自身の股へ伸ばす。ゴロドクの眼前で張りのある尻がくねり、桃色の陰唇をくちくちと捏ねるように指を動かす。ゴロドクはその尻に手を伸ばしたくなったが、クラーラの願い通り我慢した。喉の奥が鳴る。肉棒は更に充血し、亀頭が露出してゆく。次第に粘りある先走りが溢れ、クラーラの指を汚してゆく。
「ぐっ……上手くなったよな、クラーラ……っ!」
「ふふっ。これからですよ、ゴロドク……はむっ……ンンッ……」
「うあっ! ク、クラーラっ、熱っ!?」
ゴロドクの言葉にクラーラは嬉しそうに答えると、大きく口を開けて肉棒を口に含みそのまま喉奥まで迎え入れた。唾液を溜めていたのだろう。肉棒が根元まで熱いぬめりに包まれ、ゴロドクは思わず声を上げた。腰が無意識に浮きクラーラの喉奥に亀頭が当たるが、クラーラは少し息苦しそうに眉を寄せただけで頭を動かし始める。口の端から唾液と先走りが溢れ、ゴロドクの陰毛を濡らす。
「ンッ……んふっ……ふぁ……ゴ、ゴロドク、いかがですか?」
「あ、ああっ……最高だ、クラーラ……!」
一度口を離し、手で扱きつつクラーラが尋ねてきた。股間からの快感を堪能しつつゴロドクは素直に答える。
クラーラはその反応に満足したのか、自身の秘所を弄る手を止めないまま再び肉棒を咥えた。頭の動きが激しくなってゆき、じゅぽじゅぽと淫らな水音がゴロドクの耳に届く。腰がびくびくと震え、射精感が腰の奥からこみ上げてくる。
「くうっ……ク、クラーラ、このままだと……っ!」
「っぱ……もうちょっと、堪えてください」
肉棒から口を離し、亀頭をひと舐めするとクラーラは身を起こしゴロドクの身体を跨いだ。自ら秘所を指で押し広げ、もう片方の手を肉棒に添えて位置を定める。
「最初の射精は、私の膣内でお願いします……いきますよ?」
「あ、ああ。頼む……うっ!」
「あはぁっ!」
ずぷずぷとクラーラが腰を落としてゆくと、膣内の無数の襞が待ち侘びていたゴロドクの肉棒に絡みついてきた。最近では締め付け方が分かってきたのか、クラーラは適度に腰を揺らしつつ時折力を入れてくる。それに合わせて膣内がきゅっと締まり肉棒を締め付けてくるのは堪らない快感だった。
「んっ、あんっ! ゴ、ゴロ、ドク……っ! 届いています、奥っ!」
一方のクラーラもゴロドクの肉棒から与えられる快感に堪えているようだった。身を震わせつつゴロドクの胸板に手を置き、腰を振り始める。
クラーラが腰を落とす度、白く豊かな乳房がゆさゆさと揺れる。先端の薄桃色の乳首は固く尖り彼女の快感の度合いを示す。ゴロドクはその光景に堪らなくなり、手を伸ばすと乳房を強く揉んだ。
「ああんっ! だ、駄目ですっ、ゴロドクっ! 今日は、私が……!」
「そう言われても、こんなに目の前で揺らされちゃ……」
「あっ! ああんっ! ゴロドクぅっ!」
制止しようとするクラーラにゴロドクは答えると、乳房に手を添え下から捏ねあげるように揉み続ける。白い身体に幾つもの汗を浮かべ、クラーラは悶えた。更にゴロドクは下から突き上げるように腰を上げた。結合部から飛沫が飛ぶほどに激しい結合に、互いの肉が打ち合う音が室内に響く。
やがて、再び強い射精感がこみ上げてきた。クラーラの乳房を揉む手に力を込めつつ、ゴロドクは更に腰を動かす。クラーラの腰の動きもそれに合わせるように激しさを増してゆく。
「うっ、うあっ! だ、駄目だ、クラーラ! もう、出るっ……!」
「いいっ、ですっ! ゴロドクっ! このまま、中っ、中にっ!」
「うおぉっ! イクっ、イク……っ!」
「ひぃっ! わたっ、私、もっ……ああぁっ!」
我慢を解き、一気に射精感に任せて精液を迸らせる。どくどくとクラーラの膣内に熱い精液が届くと同時に、クラーラも絶頂に達した。
「あっ、あはぁ……ゴ、ゴロドク……こんな、沢山……!」
「ううっ……クラーラの、中、絞ってくるっ……」
繋がったままクラーラは脱力し、ゴロドクの胸板に身体を任せた。クラーラの豊かな乳房が張りのある弾力を伝えてくる。ごぽりと膣内から肉棒が抜け落ち、溢れた精液がシーツを濡らしてゆく。
「あ、ありがとうございます、ゴロドク……いい、お土産になりました……」
「こっちこそ……」
荒い吐息の中で律儀に礼をしてくるクラーラに、ゴロドクは答える。ふと気付いたように彼女が尋ねた。
「……そう言えばゴロドク、ノンナ様はどうされたのですか? ご一緒でしたら、二人でゴロドクを責めようかと思っていたのですが」
「ああ……何だか、カチューシャから呼び出されたって……」
最初に嘘をついたゴロドクだったが、それは本当だった。戦車道の練習も冬休み中はそんなに無かった筈だが、急な連絡を受けて彼女のもとにノンナは向かったのだ。
「そうですか……あの、ゴロドク?」
「ん?」
「……もう一度、いいですか?」
「じゃ、今度は俺がクラーラを好きにする番で」
「……はい」
紅潮した顔で頷くクラーラに、ゴロドクは身体を再び重ねた。
「その判断で正しいかと思います」
カチューシャ宅、ノンナは彼女の話を聞き終え静かに頷いた。
「……そうよね。そうするのが一番よね」
自分が言った事だというのに、カチューシャの表情は重かった。あるいはノンナに自身の提案を否定してほしかったのかもしれない。
しかし、ノンナは彼女の言葉を正しいと思った。彼女は“地吹雪”のカチューシャ。昨年のプラウダ戦車道を全国大会優勝に導き、今年度もベスト4まで牽引した偉大なる指導者。
そう在り続ける事は容易いことではない。嫉妬や羨望を跳ねのけ、実力を示し、時として自身の感情を殺さねばならない。それが例え、どれだけカチューシャにとって辛い事であろうとも。
「私が言伝致しますか?」
ノンナの問いかけにカチューシャは首を横に振った。
「……いいえ、私が直接言うわ」
そう答えるカチューシャの表情は今にも泣きそうで、しかしそれでも強い決意があった。