人通りも無い学園艦の町に、強い風と共に雪が吹き付ける。
カタカタと窓が鳴り、ベランダに積もった雪が部屋の灯りの照り返しを受けて銀色に光る。
しかし、キッチンで交わるゴロドクとノンナは互いの身体の熱さを感じ、更に昂るばかりだった。
「ああんっ! あっ……んっ、ンンッ!」
「くうっ! し、締まるっ……ノンナの、いつもより、強っ……!」
制服にエプロン姿のままショーツをずり下げられたノンナが、肉棒の挿入に嬌声をあげる。咄嗟に寝ているカチューシャの事を思い出したのか、指を咥えそれ以上の声が漏れるのを防ごうとする。
キッチンに手を置き、腰を突き出すような姿勢になった事でノンナの豊かな尻はゴロドクの腰に押し付けられるような体勢になった。見下ろしてみれば陰毛に彩られた秘所が肉棒を呑み込む様が丸見えだ。
それらが与えてくる快感を堪能するのと同時に、ゴロドクは挿入した肉棒を包む彼女の膣の熱さと締め付けに思わず声をあげた。幾度も身体を重ね、ノンナの身体に多少は慣れてきたつもりではあった。
しかし今、ゴロドクの肉棒全体を包む襞は更に熱く潤み、根元を強烈に締め付けつつも子宮に精液をねだるように蠢いて更に奥に導こうとしている。カチューシャがいつ起きるかもしれないという緊張感が、結果としてノンナの興奮を更に高めているようだった。
「んん……」
毛布にくるまったカチューシャが寝返りをうつ。
「……!?」
「うっ!?」
彼女が起きたかと思ったノンナが表情を強張らせる。同時にゴロドクは肉棒への締め付けがきゅっと強くなり、腰を震わせた。
「スゥ……スゥ……」
再びカチューシャは深い眠りの中に戻ったようだ。幸せそうな寝顔をこちらに向けている。
「カチュー……んひぃっ! ご、ゴロ、ドクっ……!?」
「悪い……ノンナのここ、普段よりも、凄く、いいっ……!」
カチューシャの姿を見て切なそうな表情を浮かべかけたノンナは、突然後ろから強く打ち付けられた肉棒の快感に抑え切れず声をあげた。再び肉棒を引き抜きつつ、汗を浮かべたゴロドクは彼女の耳に顔を寄せて小声で言った。
「うっ! ぐっ、ノ、ノンナ、ノンナっ……!」
「んっんっんんっ! ふぁ……あっ、ンンッ!」
ノンナの名を繰り返しつつ、ゴロドクは夢中で腰を振った。ぱんぱんとノンナの尻とゴロドクの腰が打ち付けられる音が、結合部からのぐちゅぐちゅという淫らな水音と共にキッチンに響く。ノンナは懸命に声を抑えようとしつつも、それでも我慢しきれないのか強く閉じた唇が時折開き、甘い嬌声が漏れる。
「ううっ……こ、こっちも……!」
「ま、待ってください、ゴロドク……そこ、揉まれたら、本当……にいぃっ!」
ゴロドクは細かなピストンを繰り返しつつ、両手をノンナの腰から胸へと移動させる。着衣のままブラを外され、エプロンの上からでも勃起した乳首まで分かる程に張った乳房をシャツの間から直接強く揉むと、ノンナは背を反らして悶えた。
170㎝の長身をしてなお存在を主張するノンナの巨大な乳房はゴロドクの手には収まらない程で、掌に堪らない弾力と確かな重量感をゴロドクに伝えてくる。普通ならば痛みを伴うほどに揉みしだくが、既にノンナの身体は相当に熱くなっているようだ。がくがくと脚を震わせつつも、口からは快感の喘ぎのみが漏れる。
「ヤバ……出るっ、出るぞ、ノンナッ!」
「はっ、はいっ! き、来て、下さい……早く、終わら……んあぁっ!」
「うっ、うあぁっ!」
「………っっ!」
ゴロドクの腰の奥から強い射精感がこみ上げてきた。乳房を揉んでいた手の片方を腰に戻し、一気にピストンを速める。
ノンナは泣きそうな声でゴロドクに懇願しつつ、肉棒が与えてくる快感に顔を紅潮させていた。その視線はカチューシャの寝顔に注がれている。振り乱された黒髪が、汗に濡れる火照った首筋に貼りつく。
ついに我慢できなくなり、ゴロドクはノンナの一番奥まで肉棒を突き入れると亀頭から精液を迸らせた。濃厚な白濁液は竿の中を昇り、幾度もの震えと共にノンナの子宮に吐き出される。溢れた精液は結合部から溢れ、ぽたぽたと二人の足元に滴った。
絶頂の叫びを、ノンナは指を強く噛んで堪えた。
「あ、はぁ……はぁ……!」
「あぁ……熱い……こ、こんなに、溢れ……っ」
射精が止まらない。まるで睾丸の中の精液全てが出そうな勢いで続く射精に、ゴロドクは視界が霞みそうなほどの快感を覚えた。
一方のノンナも、今までのセックス以上の快感を味わっているようだった。射精する度に膣が蠢き、更なる快感を肉棒から搾り取ろうとしてくる。
やがて射精が完全に収まる頃には、結合部の下には水たまりになりそうな程の精液と愛液が広がっていた。
「あぁ……ゴ、ゴロ、ドク……もう……」
「………」
懇願するようにノンナは振り返り、ゴロドクに潤んだ瞳を向けた。
ゴロドクの喉が鳴った。ゆっくりを腰を引き──半勃ちの肉棒を、そのまま再び突き入れる。
「ふあぁっ!?」
「ノンナ、まだ満足してないよな? もっと、もっと、してやる、からっ……!」
「だっ、駄目っ! カチューシャが、本当に起き……んくぅっ!」
火照ったままの肌、無意識に擦り付けられる腰、更に精液を求めるようにひくつく秘唇。
終わらせようとする言葉とは裏腹に、ノンナの身体が満足しきっていない事はゴロドクには分かっていた。
半勃ち状態の肉棒はノンナの膣の襞によって全体を扱かれ、瞬く間に硬さと大きさを取り戻した。締め付けに負けない程に勃起したのを確認すると、荒々しいピストンを再開する。
「や、やめて、やめて下さい、ゴロド、クぅっ! 本当にっ! 駄目、です……!」
肉棒を突き入れられる度に言葉を途切れさせつつ、ノンナはゴロドクに訴える。
「(……どうなんだ?)」
ゴロドクはノンナのそんな様子を見て、腰の動きを次第に緩め──深く挿入したまま止めた。
「あぁ……ゴロ、ドク……?」
「……そうだな」
不自然なタイミングでピストンを止めたゴロドクに、ノンナが戸惑いつつ尋ねる。
ゴロドクは汗を浮かべつつ、目を閉じたまま言った。今にも挿入を再開したい欲望を抑えつつ。
「え……?」
「ノンナの……言う通りだ。もしカチューシャが目を覚ましたら、俺も、只じゃ済まないしな」
荒い呼吸の中、ゴロドクはあえて落ち着いた口調で言う。
「抜いてくれ、ノンナ。それで今晩は終わりにしよう」
「……!?」
ゴロドクから腰を引こうとはしない。
そこでノンナはゴロドクの本意に初めて気づいたようだった。非難の色を瞳に浮かべつつも、頬を紅潮させたまま腰を動かそうとする。
「うっ……」
「………!」
襞が竿を撫で上げる快感に、ゴロドクは思わず声を漏らす。
ノンナはゴロドクに押し付けていた尻を引き、そのまま肉棒を膣から抜こうとしたが──その途中で腰が止まった。
「……どうしたんだ?」
「卑怯です、こんな、の……」
腰を震わせつつ、ノンナは悔しそうにゴロドクに言った。
ゴロドクにとってもこれは一種の賭けだった。このままゴロドクの肉棒を引き抜き、そのままノンナが殴ってきたとしても仕方ない。その自覚はあった。
しかし、もしノンナが──我慢できなければ?
「………」
「……んっ」
すぐにでも激しくピストンしたいと訴える腰を内心で止めつつ、ゴロドクはノンナの言葉に無言で返し、彼女の瞳を見た。
ほんの数秒、ノンナはゴロドクの瞳を見詰めると視線を逸らし──再び腰を落とすと、肉棒を強く締め付けた。
「うっ!? ううっ! ノンナっ!」
「ごめ、ごめん、なさい、カチューシャ……あっ、ああっ! いいっ、いいっ!」
カチューシャに謝罪するように呟くと、ノンナは自分から激しく腰を使い始めた。強烈な快感にゴロドクは呻き、こちらも肉棒により強い快感を与えるように腰を使う。ゴロドクの動きに合わせてノンナが動いていた一回目の結合と異なる、互いが互いを強く求めて淫らに肉を激しく打ち付け合う結合は二人の身体を更に熱くさせてゆく。
「い、いい、のかっ!? カチューシャが、起き、ちまうぞっ!」
「ごめっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ、カチューシャっ! うあっ! いい、熱いのっ、いいっ! ああんっ! もっと、もっとして、くださいっ! ゴロドクっ!」
ゴロドクの言葉にノンナは謝罪しつつも夢中で腰を振り、快感を貪るようにゴロドクの肉棒を求めてくる。
うねうねと襞が蠢き、無数の舌で竿を舐め上げるかのように肉棒を刺激する。それに負けじと亀頭がノンナの子宮口に達すると、跳ねるようにノンナの身体は反応して更に愛液を溢れさせ、抽送を滑らかにさせてゆく。
「ああ、やってやる! 全部、全部出して、やる、からっ! うおっ! ノンナ、ノンナっ!」
「あひいっ! ゴロドク、ゴロドクっ! んっ、んはっ……ちゅ、ちゅぅぅ……」
切なそうに喘ぐノンナに堪らなくなったゴロドクは、ノンナの唇に自身の唇を押し当てた。舌を絡ませ、上と下の両方で互いを求める。
同時にゴロドクの手は濡れた陰毛をかきわけ、ノンナのクリトリスを優しく撫でた。きゅんきゅんと彼女の膣の締め付けが強くなり、今にも腰が崩れ落ちそうになる。
もはや身体を支える事ができなくなったのか、腰をくねらせつつノンナは流し台に半身を預けた。突き入れる度に両の乳房が重そうに揺れる様は、彼女を組み敷いている事実をゴロドクに再確認させ、更に快感を湧き上がらせる。
「あっ、あはぁ! 駄目っ、イッ、イクッ! イキ、ますっ!」
「ううっ!」
ひときわ締め付けが強くなり、襞がぞわぞわと竿を締め付ける。ゴロドクはその刺激に震えつつ、何とか射精を堪えた。びくびくと絶頂に痙攣するノンナの腰を掴み、遠慮なく肉棒を亀頭の手前まで引き抜き、再び奥まで突き込む。
「ふぁぁっ! ま、待って、くださいっ! まだ、イッて……んあぁっ!」
「ノンナ、好きだよな、イッてる最中に、また、イかされるの……!」
「ひっ、あっ、ああっ! イクッ、また、イク……ッ!」
絶頂から引き戻されようとしたところに強引に再度の絶頂に導かれ、悲鳴めいた声と共にノンナは更に強い絶頂を迎えた。瞳から涙が零れ、濃い愛液が肉棒に絡みつく。
「あ、あぁっ! これ、以上はっ! ほ、本当に、おかしくっ!」
「大丈夫、だっ! どう、なってもっ! おかしく、なってもっ! 俺が、いる、からっ!」
「あひぃっ! あっ、あっ、ああんっ! ゴロドクぅっ!」
引きちぎられそうな程にノンナの膣がゴロドクの肉棒を求めてくる。ゴロドクはそれに負けじと腰に力を籠め、ノンナの身体から快感を得ようと角度を変えつつピストンを繰り返す。
「くうっ! で、出るっ! 全部、出るっ!」
「出してっ、出して、くださいっ! ゴロドクの、全部、全部っ!」
耐えがたい射精感が押し寄せてくる。ゴロドクが叫ぶように言うと、ノンナは尻肉を揺らしつつ射精をせがむように言った。
「イクッ、イクッ! うあぁっ! ノンナっ、ノンナぁっ!」
「ひあっ! 来て、ますっ! ゴロドクの、精液っ! ひっ、んあぁぁっ!」
二度目だというのに、ゴロドク自身にも信じられない程の大量の精液がノンナの中に吐き出された。
「あ、あはぁ……し、子宮、一杯、です……!」
「うっ、うあっ、うあぁ……!」
ぼたぼたと溢れた精液が零れ落ちる。射精される感覚に震えるノンナに覆い被さりつつ、ゴロドクは獣のような声を漏らした。
実際の時間はほんの数秒だったのだろう。しかしそれは、まるで数分間続くような強烈な快感だった。
「あ……はぁっ……」
「あぁ……ノ、ノンナ……」
「ンッ……」
再び唇を重ね、ノンナとゴロドクは荒い呼吸のまま舌を絡ませた。
「ノンナっ!」
突如、リビングでカチューシャが叫んだ。
「「っ!?」」
二人の身体が凍り付く。
「助けに来たわよ、ノンナ! こ、このカチューシャ様が、ノンナを苦しめる、やつは、許さないん、だからぁ……すぅ……」
毛布から手を突き出したカチューシャは、目を閉じたままだった。大きく叫んだと思ったら、その声はまた次第に小さくなり、再び寝息に戻る。
どうやら眠りながらもノンナの喘ぎを「苦しんでいる」と判断して、夢の中で彼女を護ろうとしていたようだ。
「……っ!」
「痛ーっ!」
突然、ゴロドクの足に強い痛みが走った。見下ろしてみれば、ノンナの足がゴロドクの親指を踏みつけている。思わず腰を引くゴロドクに、ノンナはふらつきつつも身体を離した。
「あ……」
「………」
肉棒を噛まれたり口の中を火傷したり足を踏まれたり、何だか今日は気持ちよいのと同時に痛い目にも遭っている。
そう思いつつ一歩引いたゴロドクは、ノンナの厳しい視線を受けた。
カチューシャの叫びで頭も体も冷えたゴロドクは、言葉を失いつつも彼女を見た。
「………」
ノンナの拳に力が籠り──やがて、その力が弱まる。
「……次に同じことをやったら、本気で怒ります」
どうやら今回は見逃してくれるようだ。ゴロドクは内心で胸を撫でおろしつつ答えた。
「あ、ああ……ごめん、やり過ぎた」
「本当に、頼みますよ」
「ただ、その……エプロンを着るだけのも、駄目か?」
「……検討しておきます」
首筋に貼りついた髪をかき上げつつ、ノンナは答えた。我に返って気付いたが、ゴロドクの身体も汗まみれだ。
「えーっと……シャワー、浴びるか?」
「そうさせていただきます」
「……一緒に入って、いいか?」
「……お好きなように」
エプロンを解きつつ、ノンナは浴室へ向かう。ゴロドクはシャツを脱ぎつつ、その後に続いた。
「……洗うだけですよ?」
「ああ、洗うだけだ」
──結局、浴室でもう一回セックスした。
「ふあぁ……どうやら、雪も止んでくれたみたいね!」
翌朝、マンションのエントランスの前は朝日を受けた積雪で光り輝いていた。
“一面の銀世界”そんなありがちな言葉を、空を見上げるカチューシャの右に立つゴロドクは思い浮かべた。
「今回は楽しかったわ、ゴロドク! また来て上げるから、今度は貴方がこのカチューシャを接待なさい!」
「ああ、分かったよ。それまでに何とか、料理のひとつでも覚えておく」
「味には期待しないでおきます」
「ちょ、そういう事を本人の前で言うかよ!?」
カチューシャの左に立つノンナが、素っ気ない突っ込みを入れる。その様子に、カチューシャは表情をほころばせた。
「良かった。二人も仲良くなってくれたみたいね!」
「え?」
予想外の言葉にゴロドクが問い返す。ノンナの表情にも、僅かな動揺が見て取れる。
その様子を単に「二人が驚いている」と受け取ったのだろう。カチューシャは得意そうに言った。
「いい、ノンナ、ゴロドク? 貴方たち二人はこのカチューシャにとって、どちらも大事な存在なの! なのに二人同志があまり仲良くないのは、カチューシャにとってもあまり良い事じゃないわ。だから今回は、カチューシャの料理を通して二人にも仲良くなってほしいという作戦だったのよ!」
「……そう、だったのか」
「カチューシャ、素晴らしい配慮です」
ゴロドクが何とか言葉を返す事ができたのと対照的に、ノンナは淀みなく言った。
「どうやら、上手くいってくれたみたいで良かったわ! 貴方たち、たまに会ってもところどころ余所余所しい雰囲気だったもの。それじゃ二人とも、挨拶して」
「あ、ああ」
カチューシャを挟み、ゴロドクはノンナと向き合った。表情に戸惑いが浮かぶゴロドクに比べ、ノンナの表情はあくまで鉄面皮のままだ。
「ええと……改めてよろしく、ノンナ……さん」
「よろしくお願いします。同志ゴロドク」
ぎこちなく、ゴロドクは頭を下げる。
ノンナは滑らかにお辞儀をした。
「なんかまだ固いわね、ノンナ……まあいいわ! それじゃゴロドク、また学校でね!」
「失礼致します。カチューシャ」
「え? ああ、そうね!」
ノンナの反応にカチューシャは若干不満が残るようだが、それでも満足できたのだろう。別れの言葉を言うと、側のノンナが腰を落とした。一瞬きょとんとするカチューシャだったが、意図を察して彼女の肩に跨る。
「それでは同志ゴロドク、また」
「日曜だからって、私たちが帰った後でごろごろしちゃ駄目よ!」
「分かってるよ。またな!」
肩車されたカチューシャを見上げつつ、ゴロドクは手を振った。嬉しそうにカチューシャが手を振り返すと、ノンナが方向を転換させる。身長170㎝超のノンナが120㎝前後のカチューシャを肩車させている様は、本当の親子のようだ。
カチューシャらが去る背中に手を振りつつ、ゴロドクは二人が角を曲がるまで見送った。
「……はぁ」
無意識にため息が出た。
自分の中にもやもやしている『何か』がある。罪悪感とか、背徳感とか、自己嫌悪とか、色々なものが混ざり合った『何か』だ。
自室に戻り、ゴロドクはカチューシャが寝ていた毛布などを片付け、部屋を軽く掃除すると一息ついた。ふと、腹が鳴る。
「朝飯……食うか」
キッチンに視線を向ける。ボルシチの大鍋がコンロに乗ったままになっている。「材料が多い程ボルシチは美味しくなるの!」とカチューシャが多く作り過ぎたのだ。
その鍋に火をかけつつ、ゴロドクは何となく床を見た。昨晩の精液と愛液で出来た水たまりは丁寧に拭きとったが、それでも若干の残渣が残っているように見える。
「……ん?」
インターホンが鳴った。火を一旦止め、通話ボタンを押す。
「はい、伍堂です」
「………」
無音。
誰かの悪戯だろうか。そう思いゴロドクが通話を切ろうとした時、声が聞こえた。
「……よろしければ共に朝食をと思ったのですが、ご迷惑でしょうか」
「……!?」
ノンナの声。
ゴロドクは驚きつつも返事をした。
「あ、ああ。大丈夫……ちょっと待っててくれ、今開けるから」
開錠ボタンを押す。
インターホンが切れた。おそらく中に入ったのだろう。落ち着かなげにゴロドクはボルシチを再び火にかけた。
数分後、部屋のベルが鳴る。
「入ってきていいよ!」
鍋から離れず、ゴロドクは声をドアに向けた。音もなくドアが開き、ノンナが入ってくる。
「失礼します、ゴロドク」
「あ、ああ……」
「やはり、朝食はそのボルシチでしたか」
「まあ、他に適当なのもないし……それより、何で?」
「お一人で片づけるには大変な量かと思いまして」
やがて、ぐつぐつとボルシチが熱くなってきた。二つの皿にそれぞれ掬い、食卓に並べる。
「……いただきます」
「いただきます」
手を合わせ、朝食を食べ始める。
一晩寝かせたボルシチは更に味わいが深まっているようだった。少し溶けたジャガイモが味にとろみを与え、牛肉の旨みが起きたばかりの舌を覚ましてくれる。
「………」
「………」
ゴロドクは無言でノンナを見た。ノンナの表情は変わらない。
「私も……」
ノンナが、静かに言った。
「え?」
「動揺しているんですよ。こう見えても」
「………」
「らしくないとは、思うのですが」
そう言いつつ、大きめのニンジンを口に含む。
「……そっか」
ゴロドクはそう言いつつ、ジャガイモを齧った。
自分とノンナの関係がどこまで続くのか、自分たちを大事に思うカチューシャを、裏切りつつ。
それは正直ゴロドクにも、おそらくはノンナにも分からないのだろう。
「なあ、食べ終わったあと、いいか?」
「……こちらからも、お願いします」
しかしそれでも、今のところは彼女を求めていたい。
自分の身勝手に自覚しつつも、ゴロドクはそう思った。