第一話
プラウダ高校の高く重圧的に聳える校舎に、今日も静かに雪が降る。
肌が痺れる程の寒さの外と異なり、防寒対策が施された校舎内は思いのほか暖かい。プラウダの女子制服はスカートが短めではあるが、タイツを装着していない少女も少なくはない。
椅子に座らされた伍堂六郎、通称ゴロドクが目覚めた時に眼前に目に入ったのは、そんな素足の白い脚だった。
「お目覚めのようですね、同志ゴロドク」
「……へ?」
澄んだ少女の声がする。
どこか既視感を覚えつつ、ゴロドクは靄のかかる意識の中で現在の状況を確認しようとした。
眼前には白い素足、椅子に座らされている自分、パチパチと暖炉から音がする。
ゴロドクは椅子から立とうとしたが、身体が後ろに引っ張られそれは出来なかった。どうやら後ろ手に拘束されているようだ。
「!?」
慌てて拘束を解こうと試みる。手錠だろうか、ガチャガチャと手首に金属の感触が当たるだけで解ける気配はない。
「大丈夫です、同志ゴロドク。貴方を傷つけようという訳ではありません」
透明感のある、しかし微妙に発音が異なる日本語。そこでようやくゴロドクは視線を上げ、眼前の脚の持ち主を見た。
きめ細やかな金髪を肩口まで伸ばした、碧眼の少女がゴロドクをにこやかに見下ろしている。
見覚えのある顔だ。ゴロドクはそんなに多くない知人の顔から該当するものを探そうとした。
「ええっと、確かアンタは……戦車道の!?」
「はい、クラーラと申します。こうやってお話するのは初めてですね」
表向き交際しているカチューシャや、その裏で性的な関係にあるノンナから名前は聞いた事があった。ロシアからの留学生で、現在のプラウダ戦車道ではノンナに次ぐ実質的なNo.3の位置で活躍する戦車長。
試合などで遠目から見た事があるだけだったが、「ロシア系の美少女」というイメージをそのまま実現化させたような白い肌と整った顔立ちは、ゴロドクにも強い印象を残していた。
ただ、その彼女がこうして自分を拘束する理由については、全く想像できなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 同志クラーラ、こりゃ一体何の真似だ!?」
ノンナの時と同様に、カチューシャと交際している事に対しての嫉妬?
いや、既に自分とカチューシャとの交際は一ヵ月以上続いており、戦車道メンバーにも周知になっている今更で具体的な行動に出るとは思えない。
そもそもクラーラ本人が言う通り、自分とクラーラは今までほとんど話をした事もない。
戦車道という接点があるとはいえ、知り合いとも言えない関係の相手からこんな目に遭う道理は流石に無いだろう。
「私としても、こういった形でお話をするのは不本意なのですが……貴方からお話を伺うには、この自己批判室にお招きするしかなかったので」
そう説明するクラーラの表情には、申し訳なさは感じ取れない。まるでゴロドクを値踏みするかのようにしげしげと眺めてくる。
改めてゴロドクは周囲を見回した。彼女の言う通り、ここはプラウダの自己批判室のようだ。クラーラの横には無機質な机。カンテラの灯りが部屋を照らし、無機質な白い壁がゴロドクを見下ろしている。
だんだんと覚醒するまでの記憶が蘇ってくる。天候の急変による授業の半ドンで、帰ろうとした時に彼女から突然話かけられ──意識を失ったのだ。
「……事情は説明してくれるよな、同志クラーラ?」
「そんな怖い顔をしないでください。貴方に危害を加えるつもりはありませんので」
あまり強気に出られる状況ではなかったが、精一杯の凄みを効かせたつもりでゴロドクは尋ねた。涼しい顔でクラーラは答える。
皮肉めいた笑みを浮かべ、ゴロドクはわざとらしく手錠を鳴らした。
「……こんな真似をされて、信じられるかよ」
「まあ、それはそうでしょうね」
クラーラは頷きつつ、少し腰を落とすとゴロドクを正面から見据えた。
拘束された状況で、ロシア人の美少女からじっくりと見られるというのは何とも奇妙な感じだ。何とか視線を逸らさずに受け止めつつ、ゴロドクはそう思った。
「貴方をこうやってお招きしたのは、貴方が“要因”だからです。同志ゴロドク」
「よ、“要因”?」
「はい。まず前提をご説明しますが、私はカチューシャ様を敬愛しています。隊長としても、愛らしい少女としても」
やけに仰々しい言葉が出てきて戸惑うゴロドクに、クラーラは滑らかに説明を続ける。
「ああ、誤解はしないでください。ノンナ様と違い私の場合、性愛的な意味は含めていません。可愛らしいものを愛したいという、少女として自然な範疇の感情です」
「それって、自然な範疇なのか? あと今……」
「ところが……最近、ノンナ様が変わってきまして」
聞き捨てならない箇所があったが、どうやらこちらの疑問には答えてくれないらしい。クラーラは更に言葉を続ける。
留学生の彼女は純粋なロシア人の筈だが、すらすらとクラーラの口からは日本語が流れてくる。かなり頭も良いのだろう。
「変わってきた?」
「はい、端的に言うなら……女性として、非常に魅力的になってきました」
思わずため息をつくクラーラ。
果たしてそうなのだろうか。彼女にそう言われ、ゴロドクはノンナの事を思い返した。確かにノンナは魅力的ではあるが、この一ヵ月でそんな目に見える程の変化があったようには思えない。体を重ねる時こそ淫らな面も見せてくれるが、普段は自分にも鉄壁の無表情を崩さない“ブリザード”の二つ名に名前負けしない鋼鉄の淑女だ。
そんなゴロドクの疑問が表情に出ていたのだろう。クラーラは噛んで含めるように言った。
「疑問に感じるのは、貴方が以前のノンナ様を知らないからです……勿論、それまでのノンナ様にも凛々しい美しさはありましたが、そこに最近艶めかしさが加わってきました。正直なところ、女性の私でも見惚れてしまう程です」
「は、はあ……」
ここまで来て、既に厄介な状況ながらゴロドクの背に更なる厄介を感じさせる悪寒が走った。
彼女が「魅力的になった」と語るノンナと、表向きはカチューシャと交際しているだけのゴロドク。そこまでならば接点を見いだせない筈だ。
嫌な予感を覚えつつ、ゴロドクはおずおずと聞いた。
「……なあ、同志クラーラ。余計に分からなくなってきたんだが。俺が付き合ってるのはカチューシャで、その副官のノンナ……さんとは、顔見知り程度の関係しか無いぜ?」
危うく呼び捨てにしそうになり、どうにか言い直す。
「……まあ、そう言ってこられるとは思っていました」
そう言うと、クラーラは微笑みを崩さずに傍らの机の上に置かれていた複数枚の何かを手に取り、ゴロドクの前に差し出した。
「これは……?」
それは、ゴロドクにとって見慣れた建物の写真だった。ゴロドクが住んでいるマンションの玄関口を撮影したものだ。
だが──写真に写っている人物を確認した瞬間、ゴロドクの目は見開かれた。
「………!?」
インターホンを押すノンナの姿が写っている。中には、ゴロドクと二人でマンションに入ってゆく姿もある。
「おい! 何だこりゃ!?」
「『何だ』も何も……見ての通りとしか」
予想通りの反応だったのだろう。驚愕するゴロドクにクラーラはからかうように言った。
「カチューシャ様と貴方が交際を始めた時期とノンナ様が美しくなられた時期が一致している時点で、お二人の関連性を探る理由としては十分でした。あとは警戒心の薄い貴方の側を中心に探れば、こうして物証が取れたという訳です。流石にノンナ様も、貴方のマンションまでは警戒されていなかったようで」
「だ、だからって、こんな物どうやって!?」
「学園艦の住人の皆さんは、学生に協力的ですので……ちょっと『学園艦の防犯と防災についての協力』を、生徒会の腕章を着けてお願いしただけです」
「……あんた、生徒会もやってたのか?」
「いえ、やっていませんが?」
当然のようにクラーラは言った。
ヤバい、こいつはヤバい。ゴロドクの額に嫌な汗が浮かぶ。
この「ヤバい」には二つの意味があった。ひとつは眼前のクラーラがその穏やかな外見と裏腹に、ノンナとは別の意味で手段を選ばない相手であるという事実。もう一つは、自分とノンナの関係が第三者にバレてしまったという事実に対してである。
だからと言って、日々の生活で防犯カメラに注意しろと言われても無理な相談であろう。タレントならまだしも、平凡な学生であるゴロドクが身辺調査されると誰が想像するものか。
先ほどまでの強気な態度を潜め、出来るだけ彼女を刺激しないよう注意しながらゴロドクは言った。
「認めるよ、確かに俺はノンナとも交際……と言っていいのか分からないけど、とりあえず付き合ってる」
「ご理解が早くて助かります。あと、この件はまだ私以外には知らせていません。カチューシャ様が泣く姿を見る事は、今回の私の目的とは離れた不本意なものですから」
「……それはどうも」
彼女の言葉がどこまで真実か分からないが、とりあえずは信じるしかないだろう。ここまで来て、ゴロドクはクラーラに抵抗する事を諦めた。
「で、そのノンナが魅力的になったって言うのと、俺をこうして拘束しているのと何の関係があるんだ?」
「はい。ノンナ様が貴方との付き合いで魅力的になられたのは疑いようがありません。最近ではカチューシャ様からの覚えも良く、ノンナ様以上にカチューシャ様のお側にいたい私としては差を付けられる一方なのです。そこで、貴方に彼女を変えた秘訣をご教授願えればと思いまして」
にこやかに尋ねてくるクラーラに、ゴロドクは困惑した。
そもそもノンナが以前に比べて魅力的になったという事さえ、クラーラの言葉で初めて知らされたようなものだ。心当たりなどある訳がない。
「そ、そんな事を言われても……」
「………」
ふと、クラーラの顔から笑みが引いた。
「……やはり、そう簡単には教えていただけませんか」
「いや、そうじゃなくて……なっ!?」
おもむろにクラーラはスカートをずり上げると、ショーツに指を添えて下ろし始めた。白のレースが施された下着に、否応なくゴロドクの視線が吸い寄せられてしまう。男の悲しい性だ。
「先程も言いました通り、貴方に危害を加えるつもりはありません。外傷などをつければ、カチューシャ様やノンナ様に容易に察せられてしまいますし」
「……!?」
そのままショーツを引き下げつつ、クラーラは淡々と言う。
ゴロドクはクラーラの意図を読めないまま、彼女の股間への視線を逸らせずにいる。スカートを戻す寸前、金髪に彩られた秘所が僅かに見えた。
クラーラは脱いだばかりのショーツを手にしたまま、ゴロドクへと一歩近づいた。
「ですので……傷付けないやり方で、貴方からお聞きしたいと思います」
「いや。だから本当に……うわっ!?」
突然、ゴロドクの視界が白く覆われた。温もりを残す布地が鼻まで塞いでいる。
何かは考えるまでもなかった。クラーラが自身の下着をゴロドクに被せたのだ。甘い匂いとうっすらと残る汗の臭いが混じりあったものがゴロドクの鼻孔から脳を直接刺激してくる。
「ご存知ですか? 人間は、痛みにはある程度耐えられるように出来ています。危険を感じた脳が、痛みを和らげるからです」
視界が塞がれている中、クラーラの声が聞こえる。吐息がかかる距離。かなり密着してきているようだ。
「しかし……快感には、耐えられるように出来ていません」
ゴロドクの制服のズボンに手の感触。カチャカチャという音と共にベルトが外され、ジッパーが引き下げられてゆくのが分かる。
「ま、待ってくれって!」
慌ててゴロドクは抵抗しようとするが、両手を拘束されている状況では身体を揺する程度しかできない。それは逆にクラーラがズボンを脱がせる助けとなってしまう。
やがてズボンは膝までずり下ろされ、ゴロドクの下半身はトランクス一枚の姿になった。
「下手に動けば、傷つきますよ」
囁くようにクラーラは言いつつ、トランクスの上からゴロドクの肉棒に柔らかく触れた。びくんと肉棒は反応し、ゴロドクの意思を無視して充血を始めてゆく。
「逞しいものを、お持ちのようですね」
「うぅ……」
下着で目隠しをされ、ほぼ初対面に近い少女に肉棒を撫でられる。倒錯的な状況にゴロドクは混乱しつつあった。何とか彼女を止めようという焦る気持ちだけはあるものの、股間からの刺激に意識が持って行かれ、考えがまとまらない。
そのままクラーラは暫くの間、トランクスの上から優しく撫でていた。肉棒に快感を与えつつも一定以上の刺激を与えない、絶妙な手つき。
どこか手探り感を残すノンナの手つきとは全く異なる手慣れた動きに、下着の前面を押し上げつつ肉棒はびくびくと震えた。
「くうっ! な、何で、こんな……!?」
「本国では、諜報について多少の心得を学びましたので」
事もなげにクラーラは言いつつ、トランクスの隙間に細い指を差し入れると肉棒を引き出した。肉棒が外気に触れたのが感覚で分かる。
「………?」
ふと、肉棒からクラーラの指が離れた。何やらごそごそと探っているようだ。
少しの不安を感じたゴロドクは、クラーラに声をかけようとした。
「な、何を……ぐっ!?」
竿の根元を強く締め付けられる感触に、ゴロドクは呻いた。何か糸のようなものが結ばれたようだ。
「あっさり達してしまわれては困ります。まだ尋問を始めてもいないのですから」
そう言いつつ、クラーラの指はゴロドクの肉棒に蛇のように絡みつき竿を扱き始めた。やはり痛みと快感の境界線上を見極めたかのような、柔らかくも激しい手つき。たちまち肉棒は苦し気に充血し、露出した亀頭をひくつかせる。
「ぐっ、ぐうっ!?」
「それでは……ンッ……んはっ……」
「うあぁっ!」
熱い舌先が亀頭に触れ、ゴロドクは拘束されたまま腰を浮かせた。ぺろぺろと舐めしゃぶる感触に、視界を塞がれつつも自身の肉棒に顔を寄せるクラーラの淫猥な姿を否応なく想像してしまう。
「んっ……んんっ……」
「え……?」
クラーラの舌が急に亀頭から離れた。何か口ごもるような声が聞こえる。腰を半分浮かせたまま、ゴロドクは彼女の意図を読めず困惑した。
「はあっ……じゅるっ、んむぅ……」
「ふぁあっ! ク、クラーラ、熱っ!」
今度は亀頭だけでなく、肉棒全体が焼けるような熱く、それでいて柔らかいものに包まれた。
竿に絡みつく舌の感触が分かる。唾液を口に溜めたクラーラが、一気に肉棒を呑み込んだのだ。
体温が彼女は高いのだろうか、ノンナのフェラとはまた違う、鮮烈な刺激が股間から全身に伝わってくる。
「んっ、じゅっ、じゅぷっ……!」
更にそこからクラーラは頭を前後させ始めた。喉奥にこつこつと亀頭が当たっているのが分かる。
熱い唾液のぬめりと、唇による締め付け、舐め上げる舌による刺激が同時にゴロドクの肉棒に与えられ、思わずゴロドクは悲鳴をあげた。
「うあぁっ、クラーラ、それ、凄いっ!」
「んっ……あ、貴方のも、立派です……口に、入り切りません……」
一方的に攻め続けている状況にも関わらず、唇を離すとクラーラは甘く囁くように言った。
更に口を離している間も肉棒への刺激は止めない。竿を扱き、頬ずりをするように亀頭に吐息を吐きかける。
思わず腰を浮かせたまま、ゴロドクはびくびくと全身を震わせ達しかけた。しかし、
「うぐっ!?」
その射精感は、竿の途中でせき止められた。紐によって締め付けられた事で、射精に達する事が出来ないのだ。
「な、何だ……これ……っ!?」
「んっ……お忘れですか? これは“尋問”です。素直にお話して頂ければ、すぐに解放してさしあげますが……」
「ぐうっ……!」
クラーラの下着を自身の汗で濡らしつつ、ゴロドクは苦しげに呻いた。赤黒く充血した肉棒は一刻も早い解放と射精を求めて震えている。
そう言う間にも、クラーラの指はまた別の動きを始めていた。片手で肉棒を扱きつつ、もう片方の手をゴロドクの尻に回す。
「ちょ、待っ……うわっ!」
思わずゴロドクは悲鳴をあげた。唾液に濡れる細い指が、ゴロドクの尻穴に触れたのだ。そのままにゅるりとクラーラの指は奥まで押し入り、ゴロドクの内側から刺激を与えてくる。
話程度には聞いた事があったが、これが前立腺を刺激するというものなのだろうか。痺れる頭でゴロドクは考えたが、その思考も強烈な快感に押し流される。
「ふぁ……じゅぱっ……んむぅ……」
尻穴への刺激を止めることなく、クラーラは再びゴロドクの肉棒を喉奥まで咥えこんだ。じゅぷじゅぷとゴロドクの股間の辺りから聞こえる水音が、見えないだけに余計に想像を掻き立ててゆく。
「あぁ……た、救け……っ!」
通常ならば既に数回は射精しているであろう快感に、ゴロドクは音を上げそうになった。
もういい。どうせノンナとの関係自体は既にバレているのだ。有る事無い事言って、クラーラを満足させれば気持ちよく射精できる。それで良いじゃないか。我慢して何になる。
そう思い、ゴロドクは口を開こうとした。
「……!?」
瞬間、暖炉の火に水が降りかかる音が耳に届いた。水蒸気が立ち上り、部屋の湿度が急激に上がってゆく。
「これは!?」
クラーラの戸惑う声。彼女の仕業ではない。では誰が。
火の消えた暖炉の方から、今度はごそごそと何かが動く音が聞こえてきた。遠く、次第に近く。
やがて、暖炉の消えた巻木を踏み折る音。
「……やはり貴女でしたか、クラーラ」
聞き慣れた声が、下着を被らされたゴロドクの耳に届いた。