人生がままならぬ日々をたくましく生きる女達の
ドラマが始まる。
「桃子、ここに新しい腰巻きがあるさかいこれをつけなはれ」
桃子は女将から手渡された新しい赤の腰巻きを
紅葉のような手で受け取った。
本来なら初物を扱うのは女に手慣れた中年の客と相場は決まっていたが
桃子の水揚げは、高野という若将校が名乗りをあげていた。
女将も杉江の遺言だけは守ってやろうという少しの情はあったようだ。
高野は杉江の上客だった。
入浴を済ませると、奥の畳部屋で桃子は将校の到着を待っていた。
廊下の板がみしみしと音を立てた。足音は桃子の待つ奥の部屋の前で止まった。
「待たせたね」
深緑の軍服に身を包んだ体格のよいその男は
桃子に落ちついた笑顔をみせた。
「よくおいでなさいました。旦那様」
桃子は両手の三つ指をつきながら額を畳につけ、若将校を迎え入れた。
「今日が水揚げの日と伺いましたよ。気楽にしておくれ」
桃子はまだ幼さが残るその横顔を将校に向けたまま身じろぎひとつせず
正座のまま着物の襟に手をかけた。
「桃子さん、君はなにもしなくていいから。どうかそのままで」
桃子は高野のなすがままに体を預けた。
着物の襟元をつかみゆっくりとずらすと新雪のような真っ白な
肌があらわになった。11才のまだ成熟していない女体は
今まさに若い将校のたくましい腕に抱かれようとしている。
将校は桃子の背中に手をまわし静かに寝かせると
桃子の首筋に唇を押し当てた。
生熟れのその体は、男性の肌が触れても意味合いを感じる
触覚は育っていなかった。
桜色の乳房に若将校の唇が触れる。将校はゆっくりと幼女を愛でた。
秘境の谷間はまだ反応することを知らず、殿方を受け入れる準備もできていなかった。
しかしながらこの儀式を通過せねば、遊郭の女として生きていくことは
できない。桃子は静かに目を閉じると、男の背中に手を回した。
男が抱いている少女の透き通るような肌の白さが、ある記憶をよみがえらせていた。
(まるでありし日の杉江さんの様だ・・・)
男は桃子の腰を浮かせ静かに体を重ねた。
「うっ・・・」
避けるような痛みが少女の体を貫いた。
女性はこんな痛みを堪え、生きていかねばならぬのか・・・
一瞬気を失いそうになりながら、桃子は畳に爪を立てむしり
ただ痛みに耐えていた。
鮮血が真新しい布団にほとばしった。
桃子は唇をかみしめ涙を堪えた。
自身の恋人であった高野を桃子の水揚げにあてがった
杉江の思いやりを踏みにじってはいけない、この筋骨隆々とした男を拒まないことで、最愛の姉女への義理を果たそうとする桃子だった。
高度成長期以前、二次対戦より前でしょうか。
貧しい家庭の女の子は、女郎屋などに売られていったという話を
聞いたことがあります。
今は人身売買は禁止されていますし、児童保護法などもありますから
考えられない話ですが、昔は実際にあったようです。