BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
序章ーRe-startー
暗い、暗い闇の中────────何処までも底の見えない漆黒の暗闇の中で、深い哀しみの籠った、悲痛な声が木霊した。
────ああ、そんな────────こんな、こんな
声には後悔と絶望が滲み出て、声の主の悲嘆の感情が痛い程に伝わって来る。
だが、徐々にその声に他の感情────────憎悪の色が、混じり始めた────────。
────許さない、許せない────────嗚呼、絶対に、こんな───
やがて声は憎悪の感情で埋め尽くされ、おぞましい怨嗟の叫びが堰を切って溢れ出す。
───こんな
そして、そんな憎悪の全てを凝縮するような絶叫が────────聞く者全てを呪わんとする悪意を以て、闇の中で響き渡った────────。
「────────っ!」
少女、六条クリスは鈍痛と共に目を覚ました。何か、夢のようなものを見ていた気がするが────────内容は、思い出せない。
酷い悪夢のような、それでいて何処か共感を感じてしまうような────────そんな、妙な違和感があった。
「ここ、は────────?」
クリスが周囲を見回すと、見渡す限りの瓦礫の山だった。
空は曇り、人の姿はおろかまともな建物すら見つからない────────クリスは現状を理解するべく、気を失う前の状況を思い出そうとして────────
「そう、か────────私は、あの爆発の時────────」
────────空から降り注ぐ無数の光条が、記憶の底から沸き上がってきた。クリスは思わず頭を抑えながら、フラッシュバックした記憶を思い返す。
天空から無数の光条────────恐らくは、
今日は
周囲の惨状を見る限り、生き残っているだけで奇蹟とも思える。
「けど、気が重いわね────────これじゃあ、鳳翔も六条の家もきっと────────それに、
六条の家のある場所は、照射を受けた場所の近くだ────────とても、家にいた養父達が無事とは思えない。
自分が通っていた鳳翔学院も恐らく跡形もないだろうし、自分の生活の基盤は文字通り消し飛んだと思った方が良さそうだ。
今まで育ててくれた義理の家族の死を悼まないワケでもないが、生き残る為にその感情を割り切る事が出来る程度には、クリスの精神はタフだった。
残る懸念は以前から交流を続けて来た星修学園の如月寮の面々の事だが、それも今すぐ調べる手段がない以上はどうこう言っても仕方ないだろう。クリスは覚悟を決めて、瓦礫の街を歩きだす。
「とにかく、今は保護を受けられる場所に行くのが先決ね。分かり易いのは、病院かしら? 一番近くの病院って、何処だったかし────────っ! あれ、は────────っ!?」
だが、歩き出そうとするクリスの目に
クリスの瞳には、胡乱な目をした見覚えのある少年が、今まさに瓦礫の中に倒れ込もうとしている姿が映し出されていた────────
「う────────あ────────」
──甲は何も見えない暗闇の中、何をするでもなく立ち尽くしていた。
周囲が闇に包まれたのではない。甲の眼が、見えていないのだ。
眼と耳がイカれてしまった為に甲は見る事も聞く事も出来ず、その場から一歩も動けずにいた。
空の最期を目撃した後の記憶は曖昧で、気が付けば甲は視覚と聴覚を失い、暗闇の世界に一人佇んでいた。
恐らく、対地射撃衛星群照射の煽りを受けて目と耳が使い物にならなくなったのだろう。
治療を受ければ治るものだとは思うが、今自分は自分で何処にいるかすら分からず一歩も前へは進めない状態────────こんな有り様で瓦礫の山を歩いても、途中で転んでしまい動けなくなるだけだろう。
そもそも、今の甲は生きようとする意志そのものが希薄だった。
画面越しで助けを求めながら無残に死んでいく空の姿は、未だに甲の脳裏に焼き付いている。
空のいない世界で生き残って、どうするというのだ────────恋人は生きながらに溶かされ、星修は消え去り仲間達も無事なのか分からない。
こんな絶望の中生きていくくらいなら、死んだ方がマシだ────────そんな思いが、甲の身体から力を奪い去り、ゆっくりと体が倒れていく────────
「────────っ!」
────────刹那、そんな甲の身体を柔らかい感触が抱き留めた。鼻孔を擽る甘い匂いからして、女の子なのだろう。
しかし、目も耳も効かない為相手がどんな姿をしているのかすら分からない。
だが、反応のない甲を見て甲の状態を察したのか、相手の子は
そして、ケーブル越しに少女の怜悧な声が届く。
『これで分かる? 貴方、見た所目と耳が使えなくなってるようだけど、身体は動くかしら?』
「あ、ああ────────」
ケーブル越しに聞こえて来た声に、甲は反射的にそう答えるのが精一杯だった。
正直、身体は動くがもう動く事も言葉を紡ぐ事さえ億劫だというのが本音である。
だが、その反応に今の甲の諦観と絶望に染まった心理状態を察したのか、相手の声に棘が混じる。
『何があったのか知らないけど、見つけた以上このまま見捨てるつもりはないわ。私が先導するから、付いて来なさい。最悪、引き摺ってでも連れていくわ』
その声と共に相手は甲の腕を引っ張り、そのまま歩き出した。最早抵抗する気力もない甲は手を引かれるまま、瓦礫の街を歩き始めた。
「はぁ────────」
甲は一人、仮想空間を歩きながら、溜め息を吐いた。
結局、あの後甲は少女の先導で病院まで辿り着いて治療を受け、今は治療の為に動けないので気紛れにネットに潜っている最中だった。
とはいえ、蔵浜市が壊滅した今、近くに碌な接続先は存在しない────────甲自身、何か目的があって没入したワケではなかった。
「皆、無事かな────────」
如月寮の皆の無事を案じる自身の声は、驚く程に空虚だった。
目の前で空が無残に死ぬ光景を見てしまったが為に、甲の精神は徹底的に打ちのめされ、何かをしようとしても気力が全く沸いて来ない有様だった。
如月寮の面々が生きていたとしても、その中に空の姿はない────────その事実が、甲の心からなけなしの希望を奪っていた。
「このままここにいても仕方ないよな。そろそろ
そのまま何もする気が起きず、ログアウトしようとした刹那────甲の眼に、見過ごせない光景が飛び込んで来た。
甲の視線の先には、虚ろな目でふらふらと夢遊病患者の如く歩いている幼げな少女────────水無月真の姿があった。
甲は反射的に真に駆け寄り、腕を掴んで呼びかける。
「真ちゃん! 一体、どうしたんだい!? いや、それより君は無事だったのか────────っ!?」
「────────せん、ぱい────────?」
甲の呼びかけに、真の眼に光が戻っていく────────そして、その瞳が完全に甲の姿を捉えた瞬間、真の眼に大粒の涙が浮かび上がり、甲に縋りつきながら大声をあげて泣き始めた。
「うぁ、あぁあ────────先輩、先輩、わたし、わたし────────うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────!」
「真、ちゃん────────」
突然泣き出した真の姿に甲はどうしていいか分からず、戸惑いながらも真に話しかける。
「真ちゃん、一体何があったんだい?」
「あぁ────────わたしの、わたしの所為なんです────────全部、全部わたしが悪いんです────────っ! 私があんな事したから、お姉ちゃんが、お姉ちゃんがぁ────────っ!」
真はそれ以上何も言う事が出来ず、ただひたすらに甲にしがみつき、泣き続けた。
甲は泣き叫ぶ真を無言で抱き締め、ただ真が泣き止むのをじっと待ち続けていた。
BALDR SKY Another World 世界X+Ωの序章を見て頂き、ありがとうございます。
この物語はクリスと真のダブルヒロインでやっていくつもりです。とはいってもダンロンのような交代制ではなく、プチハーレムに近いです。ただ、作者の好みの影響でクリスの方が目立つ事が多くなるかとは思います。