BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「なあ、ちょっといいか」
社長室から出た甲を、永二がそう言って呼び止めた。
甲達は今から聖良の言う通り
故に甲は足を止めて永二の方を振り返った。クリスもまた、それに続く。
「別にフェンリルに入れ、と言うつもりはねぇんだがよ。形だけでも、籍を置く気はねぇか? 嘱託扱いにすりゃ、色々融通は効くぜ?」
永二の言葉に、甲はやや億劫そうに答えた。
「そんな事をしたら、依怙贔屓してるって言われて親父の立場が悪くなるだろ? それならまだ、叔母さんに
この話は、退室間際に聖良から
聖良はフェンリルの力を借りたい時は、彼女にその協力内容を告げる事でフェンリルへの正式な依頼としてくれる事を約束してくれたのだ。
本当に、今後も聖良には頭が上がる気がしない甲だった。
「成る程ねぇ、聖良さんがそう言うなら俺から変な気を回す必要はなかったな。けどな、甲────────俺は確かにフェンリルの隊長だが、これでもお前の親である事を忘れた事はねぇんだぜ? 八重の死に目に姿を見せなかったこんな俺を、信じろってのは虫がいい話だが……」
「その事については、クリスから聞いて知ってる。親父は別に、母さんを見捨てたワケじゃなかったんだろ? 俺こそ、ごめん。もっと、親父を信じるべきだった」
甲の言葉を聞き、永二はハッとなってクリスの姿を見据えた。そして、先ほどの話を思い出したのか得心したように頷いた。
「嬢ちゃんから────────そうか、あの野郎の孫ってのがマジなら知っててもおかしくねぇか。すまねぇな、他人の家族の問題を気にかけてくれてよ」
「構いません。私自身、お爺様の所業には思う所があったので調べた結果得た情報を彼に話しただけですし。それに、あながち
クリスはそう言って意味深な表情で甲を見つめ、その様子を見た永二はからかうような笑みを浮かべる。
「……へぇ、成る程ねぇ。甲、お前も中々甲斐性があるようで何よりだぜ」
「えっと……」
「ちょ、ちょっとクリスさんっ! 抜け駆けしないって約束はどうしたんですか……っ!?」
だが、甲が返答するその前に慌てた様子で話に割り込んで来た真がらしくもなく大声をあげる。
その様子を見て、クリスはニヤリと笑みを浮かべた。
「あら、少しくらいいいじゃない。貴方にはある意味でリードされてるんだから、これくらい大目に見なさい」
「そんな事言って、外堀を埋めようったってそうはいきませんよ……っ! 先輩の恋人は、私なんですから……っ!」
真とクリスが言い争う姿を見て、永二はポカンと口を開けて固まるが────────甲がフォローを入れる前に、すかさずクリスが釈明した。
「……残念ながら、今は彼女と彼を取り合っている状態でして。どっちが勝っても恨みっこなし、という事で協定を結んでいるんです。正妻の座を掴めなかった方は、愛人として傍にいるという約束で。お義父様は、愛人には理解がおありでしょうか?」
「……あー、まあ、当人同士が納得してるならとやかく言うつもりはねぇよ。世間体が気になるなら、片方をウチの養女にするって手もあるしな。こんな世の中だ、細かい事を気にする方が野暮ってもんだろ」
中々にぶっ飛んだクリスの発言にやや驚きつつも、永二はそう言って豪快に笑って見せた。
その返答を聞き、クリスと真はほっと胸を撫で下ろした。
彼女達も、正妻の座を取り合って負けた方は愛人、という約束が常識外れである自覚はあるのだ。
真っ当な親なら、その場で激怒してもおかしくはない。
だが、傭兵として戦場を渡り歩いた永二は良くも悪くも常識よりも身内の幸せを第一とする人間だった。
甲が嫌がっているならともかく、お互い納得ずくの上であれば彼としても協力しない理由はなかったのだ。
ちなみに、聖良は言葉にせずとも甲達の関係を半ば察しており、甲が納得しているのであれば全面協力する心づもりでいたりする。
なんだかんだ言いつつも、彼女が甲を溺愛しているのは間違いなく、彼女もまた常識よりも甲の幸せを優先するのは永二と変わりなかった。
「ありがとうございます。正直、軽蔑されるのも覚悟の上でした」
「なぁに、これでも甲の人を見る目は信用してんだ。嬢ちゃん達は二人とも、甲には勿体ないくらいのいい女だ……これからも、倅をよろしく頼むぜ」
永二はそう言って再び笑い、それを聞いて真もパッと朗らかな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。お義父様って、呼んでいいですか?」
「いいぜいいぜ、嬢ちゃん達にそう呼ばれるなら大歓迎だ。どっちにしろ、門倉家の一員になるワケだからな。じゃあな甲、何かあったらいつでも呼べよ」
永二はそう言い残し、その場から立ち去った。
甲はアグレッシブ過ぎる恋人達と父親のやり取りに何も言えないまま、しかし満更でもない様子で苦笑を浮かべていた。
「……驚いたな。此処が、仮想空間か……?」
永二と別れた後、
頭上には青い空と白い雲が広がり、木々の緑と芝生の青さが暗く淀んだ現在の清城市に慣れた身には眩しく見えた。
その光景はまるでまだ世界が色付いていた頃にタイムスリップしたかのようで、却って現実感のない光景とも言えた。
緑の大地の中には白く清潔な建物が並んでおり、心なしか空気も綺麗に感じる。
子供の頃映画で見た、『未来都市予想図』そのものと言っていいような、人類の夢そのもののような光景だった。
美しすぎる光景は何処か喪失感を覚えるものだが、隣にクリスと真が並んでいる事もあり、甲は特段場違いな空虚感に襲われる事はなかった。
クリスと真もその光景に見入っており、クリスは感心した様子で、真は眼を輝かせて周囲を見回していた。
「ようこそ、アーヴァルシティへ」
突然の声に振り向くと、そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。
「私はモデルS5RタイプのP165番、アーク社の接客用NPCです。何か御用がありましたら、遠慮なくお申しつけ下さい」
「……じゃあ、西野亜季って人がいる場所は分かるかな?」
「はい。ご案内します」
そうして、甲達は無味乾燥な返答をするNPCの少女の先導により緑溢れる街路を歩き始めた。
道中NPCの説明を聞き流しつつ、甲達は目的地へと歩いていた。
暫く歩いていると、甲はある事に気付き立ち止まる。
そしてNPCに案内は此処まででいいと告げ、それを受けてNPCの少女は会釈して去って行った。
「先輩、此処ってやっぱり……」
「……ああ、恐らく間違いない」
「……成程、そういう事ね……」
案内役を勝手に帰した形になるが、二人共甲を責める様子はない。むしろ得心した様子で、周囲の景色を眺めている。
「此処まで
甲と真は自然と早足となり、緑に包まれた道を焦るように進んでいく。
クリスは敢えて速度を落としつつ、二人の後を追いかける。前に進む度に段々と甲達の足は速くなり、最後には遂に駆けだしていた。
「……やっぱり……」
「如月寮です、先輩……!」
そして、二人が辿り着いた先にあったのは────────木造建築の、レトロな雰囲気の宿舎。
学園生時代に甲達が過ごした思い出の場所、如月寮だった。
「…………」
甲は震える手で、引き戸に手をかける。まるで壊れ物を扱うかのようにそっと扉を開けた瞬間、中から聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「せんぱい、寝るのなら毛布をかけないと風邪をひきますよ?」
「う~、だってお腹すいた~」
「はは、相変わらずだな、姐さんは」
まるで幻のように聞こえて来る懐かしい声は、決して幻聴などではない。
その証拠のように、中から聞こえて来る声はしっかりと甲の耳に届いている。
「もうすぐご飯が出来ますから。さ、起きて下さいよ」
「この匂い……レバニラ炒め……?」
「ニラかぁ……甲の奴、今頃何してんだろうなぁ」
その声を耳にし、甲は波打つ心臓を抑えながら────────声が聞こえる部屋の引き戸を、ゆっくりと開け放った。
「あ……」
「あれ……?」
「まあ……」
引き戸が開け放たれた事で、中にいた3人の住人は甲とその隣に立つ真の姿を目撃し────────しばし目をぱちくりしながら硬直する。
そして。
「……ただいま」
「ただいまです」
数秒の沈黙の後、ようやく二人がそう言えた瞬間、二人の女性────────亜季と菜ノ葉が、泣きながら二人に縋りついて来た。
「……っ! 甲、甲だよね! 本当に甲なんらよね!? 真ちゃんも、ほ、本物だよね!? うう、うわぁぁぁぁん!」
「ばかばか、ばかぁ! 遅過ぎる、甲も真も遅過ぎるよぉ! さ、寂しかったんだからぁ!」
左右から縋りつく二人に苦笑しながら、甲と真はそっと二人の背に手を伸ばし抱き留めた。
「ごめん。ただいま、みんな」
「ごめんなさい。でも、また会えて嬉しいです、みなさん」
そうして、甲達は二人が泣き止むまで苦笑いを浮かべながら、ただじっと涙の抱擁に身を任せていた。
「けど、本当に良かった。二人とも、元気にしてて……」
「うん……またみんなで会えるなんて、思ってなかった……」
涙の痕が残る顔で、菜ノ葉と亜季は感慨深くそう告げた。
その後ろでは、もう一人の住人────────清城の街でも会った雅が、溜め息を吐いていた。
「まったく、全然連絡しないからだぞ。あの時はああ言ったけど、亜季の姐さんも菜ノ葉ちゃんも心配してたんだからな」
「ああ、すまない。本当にごめんな」
仕方のない部分もあったとはいえ、連絡一つまともにしていなかったのは事実なので甲としては頭を下げるしかない。
そんな甲を見て、雅は苦笑していた。
清城で会った時には雅の好意を無碍に断ってしまった為に少々気まずいが、雅はそんな事はなかったかのように接してくれている。
彼にも、頭が下がる思いだった。
「真も……消息不明って聞いてたから、凄く心配した」
「すみません。色々事情があって、連絡出来なかったんです」
まさか実体が攫われていた、などとは流石に言えず、真は困ったように苦笑しつつそう告げた。
真も久々に如月寮のメンバーと再会出来た喜びは隠しきれておらず、二人が泣いている最中も少々貰い泣きしていた程だった。
事情があったとはいえ、もう会えないかと思っていた仲間に会えて嬉しくない筈がないのだから。
「レインは何度か此処に来てる。甲はもう会った?」
「ああ、叔母さん達と一緒にな。今は用事があるらしくて来てないけど」
「そっか。レインさんは今日は来ないのか。残念。一杯作ったから、食べて欲しかったのに」
菜ノ葉はテーブルに食事を並べつつ、しゅんとした表情でそう呟いた。
レインは学園生時代途中で星修に転校し、遅まきながらこの如月寮の一員となった。
彼女が寮生だったのは灰色のクリスマスが起きてしまうまでの僅かな期間だったが、それでも亜季達はレインを如月寮の一員と認識している。
その為か、レインはこれまでもこの仮想の如月寮にちょくちょく顔を出していたらしい。
所属しているフェンリルがアークに雇われた為、来るのが容易だった事もあるのだろうが。
「それで……後ろの子は、確か……?」
亜季の言葉に振り向くと、いつの間にか部屋の入口にクリスが無言で立っていた。
甲が彼女を紹介しようと口を開く前に、クリスはニヤリと笑みを浮かべた。
「あまり直接話した事はありませんでしたが、覚えているでしょうか。元鳳翔学生会長の、六条クリスです。今は、彼の
「パート……」
「……ナー……?」
──そして、満面の笑みで
分岐8.アーク社はクゥ型のNPCを量産していない
分岐9.短い期間ではあったがレインは如月寮に所属していた。
原作ではクゥ型のNPCが大量生産されていますが、甥っ子ラブ度がアップしてるこの世界では甲の心情を鑑み、クゥ型のNPCを接客用として作ってたりはしません。
また、この世界ではレインは短い間ですが星修学園生として過ごした時期があるので、如月寮メンバーとも交流を深めています。こういった経緯もあり、この世界の如月寮メンバーは原作より前向きになっている感じです。