※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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Page4/胎動ーRise of Unknownー
伝承ーFolklore of Leviathanー


 ──甲は、夢を見ていた。

 

 それが夢と分かるのは自分が最早存在しない星修の制服を着ていたからであり、尚且つ自分が真上からその光景を見ていたからだ。

 

 夢では、甲はクゥを追って仮想を彷徨ううちに仮想の深層に辿り着いてしまい、そこでドミニオンのシュミクラムに追われる少女……クリスの姿を見つけていた。

 

 考えてみると、おかしな光景だ。クリスを追っているシュミクラムユーザーの腕は、決して高くはない。

 

 当時から相応の実力を持っていたクリスなら、シュミクラムに移行(シフト)しさえすればどうという事もない相手の筈だ。

 

 だが、夢の中のクリスはシュミクラムに移行する様子もなく、夢の中の俺はそんなクリスを助けるべくシュミクラムに移行してドミニオンのシュミクラム……アイアンシックルと、戦い始めた。

 

 ──おい、お前! シュミクラムなんかで女の子を追い回して何をするつもりなんだ──

 

 夢の中の甲は、精神性が学園生のままである為かアイアンシックルの搭乗者に向けてそんな事を聞いている。

 

 今の甲であれば、敵対するドミニオンのシュミクラムと対峙すれば戦う前にそんな無駄な行動はしない。

 

 その姿を見て、甲は今の自分がなくしてしまった純粋さを見せつけられているような気がして、苦笑した。

 

 ……結局、アイアンシックルから返って来たのは無警告の銃撃であり、甲はそのまま戦闘に突入した。

 

 戦闘自体は、大した苦も無くカタが付いた。

 

 甲のシュミクラム適性は学園生時代から図抜けており、戦う覚悟さえしてしまえばこの程度の相手は問題にならない。

 

 もっとも、今の甲から見ればその戦いぶりは赤点も良い所だっただろうが。

 

 アイアンシックルを片付けた甲はシュミクラムを除装し、クリスに駆け寄った。

 

 クリスは若干の警戒を込めた眼で甲を見据えており、甲の知るクリスとは何処か雰囲気が違って見えた。

 

 甲とクリスは幾つかのやり取りをした後、何かに気付いた様子のクリスが改まって口を開いた。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わね。私、六条クリス……あなたの名前も聞かせてもらってかまわないかしら──

 

 ……そして、その言葉を聞いた瞬間、甲の意識は急速に現実へと浮上していった……。

 

 

「……今の夢は、一体……?」

 

 夢から覚めた甲は、瞼を擦りながら今まで見た夢を思い返す。

 

 現実と異なる風景を夢で見るのは決して珍しい事ではないが、それでも今の夢からは違和感しか感じなかった。

 

 そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確には、レインの不登校を知ったクリスがレインの現状を知る為に連絡を取った所、偶然居合わせた甲に話を聞いたクリスは事態の解決を図る為の話し合いを行う為に自ら如月寮へ赴いた結果、甲との繋がりが出来たのだ。

 

 クリスとの親交はレインの件が片付いた後も続き、甲とは何度か街で食事をする事もあった。

 

 他の如月寮メンバーとは甲と一緒にいる時に鉢合わせ、多少話をする程度の関係に収まっていたが……それでも、あの灰色のクリスマスが起きるまで良好な関係を築けていたのは確かだ。

 

 当時はまだ、クリスも嗜虐趣味を抑えて猫を被っていたのは事実ではあるが。

 

 故に、今の夢のような光景は()()()()()()()と断言出来る。

 

 クリスとはそう頻繁に会っていたワケではなかったが、それでも学園生時代に仮想(ネット)の深層で会った事など一度もなく……ましてや、()()()()()()()()()という事は有り得ない。

 

 こうして考えれば考える程、不可解な夢だった。

 

「……ま、夢の事を気にしたって仕方ないよな」

 

 とはいえ、ただの夢に拘る程甲は暇ではない。

 

 今の自分には、やるべき事が山積みになっているのだから。

 

 

 ──昨日、ドミニオンが撤退した後、甲とクリスは清城の外までエディの護衛を行い無事に彼を清城から脱出させた。

 

 念の為清城をある程度離れるまではフェンリルの護衛を付けた所、エディは見返りのつもりなのか、自分の持っていた清城市に関する情報を纏めたファイルを渡して来た。

 

 予め渡されていたデータ程重大な情報は入ってはいなかったものの、清城市で活動する上で役に立つ情報が山のように入っており、改めてエディの気前の良さに感謝しつつ、甲達は彼に別れを告げたのだった。

 

 その後は色々あって疲れていた事もあり、聖良の勧めもあってアーク本社に宿泊する事になったのだ。

 

 聖良からは今後は此処を拠点にして良いと言われており、フェンリルとの協力体制も取り易く、尚且つ安全が確保された拠点を手に入れる事が出来た事は僥倖だった。

 

 二人はすぐさまそれまで拠点としていたホテルを引き払い、アーク社へ腰を落ち着けたのだった。

 

 今日は準備が出来次第、聖良に事の次第を報告する事になっている。

 

 これは昨日フェンリルの手を借りる条件として、エディから手に入れた情報の共有を約束した為だ。

 

 既に彼から貰ったデータの解析は済ませており、報告は社長室で行う事になっている。当然、永二もそこに同席する予定だ。

 

「起きたようね。これだけ厚遇されているのだから、怠けている暇はないわ。すぐに社長室に向かうわよ」

 

 そんな時、不意に部屋の扉が開きクリスが入室し開口一番そんな事を言って来る。

 

 その遠慮のない物言いは、この数年間の傭兵生活で培われたものだ。

 

 矢張りあの夢のクリスよりもこちらのクリスの方がしっくり来るな、と約体もない事を考えながら甲は身を起こして身支度を整えた。

 

「そうだな。叔母さんを待たせるのも悪い……早速行こうか」

「そこで文句の一つもない限り、調教の成果が出ているようで何よりだわ。まあ、私はしばくより搾り取る方が好みなのだけれど」

 

 クリスはそう言ってからかうようにくすくすと笑い、甲はそんな彼女をジト目で見据えた。

 

「朝から何口走ってるんだよ。ったく、予定がなければベットに引き込んでる所だぞ」

「あら、私はそれでも構わないわよ。自分の親族に、赤裸々な性生活を知られてもいいのならね」

 

 二人はそんな軽口を叩き合いながらアーク社の廊下を進み、先日と同じ扉を潜りアーク社の構造体へと没入する。

 

 相変わらずいつの間に没入したのか分からなかったが、流石に二度目となると驚きも半減したのか動揺する事はない。

 

 そんな二人の傍に、不意に真の電子体が現れる。

 

「もう、先輩ったら! クリスさんとばかりイチャイチャしてズルいです……っ! もっと、私にも構って下さいっ!」

《あ、朝からなんて破廉恥な会話をしてるんですかっ!? そもそも、お口だけとかを含めるとエッチな事した回数はクリスさんの方が多いし、不公平ですっ! もっと私にもエッチな事して下さいっ!》

 

 むすぅ、と膨れながら文句を言う真は欲望塗れの心の声が漏れている事に気付いていないのか、ジト目で二人を見る仕草は大変可愛らしい。

 

 しかし、どうやらその心の声はクリスにも聞こえていたらしく、クリスは獲物を見つけた猫のようにニィ、と唇を吊り上げた。

 

「あら、そんなに甲に抱いて貰いたいだなんて、見かけによらず性欲旺盛ね。そこまで求めているのなら、彼を真正のロリコンにするくらい調教した方がいいわよ」

「……っ!? え、あ、うぇ……っ!? ま、ままままさか……っ!?」

《う、嘘!? も、もしかしてさっき、心の声が漏れちゃってたぁ……っ!?》

 

 どうやら本当に気付いていなかったらしく、真の顔が茹蛸のように真っ赤になる。

 

 その様子を見てクリスは嗜虐心が満足したのか、満面の笑みで頷いた。

 

「ええ、バッチリとね。ちなみに、甲にも聞こえていたわよ」

「……あぅあぅあぅあぅあぅぅぅぅぅ……っ!」

《うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいよぉ! クリスさんの馬鹿ぁ……っ!!》

 

 クリスにからかわれて羞恥に悶える真だが、クリスの前で隙を見せた以上こうなるのは自明の理だ。

 

 甲も恥ずかしさで見悶える真の様子が大変愛らしいので、基本的に生暖かい眼で眺めるだけだ。

 

 こうしたやり取りは今が初めてではなく、この数年間の傭兵生活の中でも何度かあった。

 

 その度に甲は真の可愛らしい反応に、甲は戦場でささくれ立った心を癒されたものだった。

 

 クリスとしては、これは適度に緊張を抜く為の彼女なりのコミュニケーションなのだろうが……からかわれる側の真にとっては、毎度毎度たまったものではないのだった。

 

 勿論、クリスの加虐嗜好が向く相手は真だけに限らないので甲も決して他人事ではないのだが。

 

「そのへんにしてやれ、クリス。もう着いたぞ」

「ええ、分かったわ」

「……もう」

 

 ……そんな事をしているうちに、甲達は社長室の前へと辿り着いた。

 

 真は若干頬に赤みが残っているものの表面上は平静を取り戻し、クリスは先ほどのやり取り等どこ吹く風でいつものクールな表情に戻っている。

 

「失礼します」

 

 甲も気を引き締めて頭を傭兵としてのものに切り替え、ノックの後社長室へと足を踏み入れた。

 

「おはよう、甲さん。昨日はよく眠れたかしら」

 

 水晶煌めく社長室に入ると、聖良がいつもの感情が読み取れない声でそう挨拶して来る。

 

 相変わらず何処か遠くを見るような目つきだが、それでも付き合いの長い甲には彼女が本気で自分の身を案じている事が分かる為、素直に礼を言った。

 

「はい、宿舎まで貸して頂きありがとうございます」

「そんなに固くならなくてもいいのよ。甥に力を貸すのは、叔母として当然の事だもの」

「そうだぜ坊主。礼を失しろとは言わねぇが、少しは肩の力を抜いた方が聖良さんとしても嬉しいだろうぜ。な、聖良さん」

 

 茶々を入れるような永二の言葉に、聖良の眼がやや細まった。

 

 一見すると怒っているように見えるが、どうやら照れているだけらしいというのはなんとなく伝わって来た。

 

 しかしこのままでは話が進みそうにない為、甲は敢えて私情を排して報告を開始する事とした。

 

「叔母さん、親父……取り敢えず、昨日情報屋から得られたデータを送るぜ」

 

 甲はそう告げると、真が解析して纏めてくれた、エディから受け取ったデータのコピーを聖良と永二に送り付けた。

 

 二人は眼を閉じ、データを吟味するようにしばし無言となった。

 

「そのデータにある通り、ドレクスラー機関の連中を匿っていた議員は市長の阿南よしおだったが……ドミニオンの奴等が、連中の身柄を強奪した。研究者達は今、ドミニオンのテロ計画の為にアセンブラを作らされている」

「……よりにもよって、狂信者共(ドミニオン)か……厄介な事になったな……」

 

 永二は忌々し気にそう呟き、舌打ちした。

 

 ドレクスラー機関の研究者達がアセンブラを作っていたのは先日の甲の情報からも分かっていた事であり、何処まで完成しているか分からないアセンブラがドミニオンの手の中にあるというのは恐怖以外の何物でもない。

 

 事実、ドミニオンはアセンブラを使った大規模なテロ計画を立てている。それだけで、一刻の猶予もないというのは間違いないが……。

 

「……甲さん、この『Project Leviathan』については名称(タイトル)だけで中身がないのだけれど……これは、どういう事なのかしら?」

 

 ……だが、エディが言うにはそのテロ計画を隠れ蓑にした()()をドミニオンが企てている可能性があるのだという。

 

 それこそが、聖良の指摘した『Project Leviathan』なのだ。

 

「情報屋が言うには、それがドミニオンが企てている本当の計画である可能性があるそうなんです……ですが、内容については一切分からなかったらしく……俺としても、何処まで重要視していいのか判断を付けかねています」

「おいおい、そりゃどういう事だ……?」

 

 疑問符を浮かべる永二に対し、昨日エディから聞いた顛末……アセンブラを使ったテロ計画の情報があまりにも容易に入手出来た事に疑問を持ち、調べ直した所で出てきた情報がこれであり、名前以外は一切調べる事が出来なかったらしい事を話した。

 

 その話を聞いた永二と聖良は、訝し気に顔を顰めた。

 

「そりゃあ、なんとも胡散臭いな……そういう経緯なら無視するワケにはいかねぇが、中身が何も分かっていない状態だと判断に困るのは確かだ……聖良さんは、どう思う……?」

「……そうね。甲さんの話を聞く限り、全くのダミー情報という線は薄いでしょう。それに、その名前……『レヴィアタン計画』という名称は、無視するには不吉過ぎるわ」

「名前が、不吉……?」

 

 突然の聖良の言葉に甲と永二は疑問符を浮かべ、そんな二人に対し聖良は淡々と口を開いた。

 

「……()()()()()()というのは聖書に出て来る怪物の名前である、というのは知っているかしら? 一般的には、()()()()()()()という方が通りがいいのだけれど」

「ええ、それなら知っています。ゲームとかにもよく出て来る名前ですね」

 

 リヴァイアサン、というのはゲームでよく出て来る巨大な海蛇の怪物だ。

 

 ものによっては鯨であったりドラゴンであったりするが、()()()()()()()であるというのは共通している。

 

「実は、仮想においてその名前はもう一つ……特別な意味があるの。大戦よりも更に昔、仮想の論理(ロジック)が今程整えられていなかった時代に……一つの、大きな事件があったの」

 

 聖良は息を整え、躊躇うように口を開いた。

 

「──それが、リヴァイアサン事件……正体不明の仮想(ネット)兵器が、史上有り得ない程の大きな混乱を齎した事件よ」

「リヴァイアサン、事件……?」

 

 甲は初めて聞く名称に、何処か言い知れない不安感を覚えた。

 

 それは隣で聞いていたクリスや真も同じなのか、同様に表情を険しくさせている。

 

「リヴァイアサンというのは、その正体不明の仮想兵器に軍が通称として付けた名よ。詳細なデータは既に消されているのだけれど、その時期ネットの至る所で原因不明の大規模な()()が起きた事は確かよ。その時点で、AIの並列処理は実現されていたにも関わらずね」

 

 ラグとは、大き過ぎるデータを処理出来ずに発生するバグの一種だ。

 

 しかし、AIによって処理速度が増加した現在ではまず起こらない事態であり、今より処理速度は劣るものの既にAIの並列処理がなされていたのならば、()()()()()()()と言いきってもいい代物だ。

 

 もしそんなものを引き起こせるものがあるとすれば、それこそ常軌を逸したデータ容量を持つ()()しか考えられない。

 

 それがリヴァイアサンと呼ばれる仮想(ネット)兵器なのだとすれば、どれだけの規模のものなのか見当も付かない。

 

「結局この事件は一人の軍人の活躍によって収束したみたいなのだけれど、反統合勢力の中ではこの仮想兵器を()()しようとする試みが行われた事があるそうよ……いずれも失敗に終わったと聞いているけれど、もしかしたらこの『Project Leviathan』も似たような試みなのかもしれないわ」

 

 過去に仮想(ネット)に大きな被害を齎した兵器の、()()……それがドミニオンの本当の目的なのだとすれば、放置出来る問題ではない。

 

 そんな得体の知れない兵器を復活させられれば、どれ程の惨事になるか予測も付かないからだ。

 

 今のドミニオンは、優秀な研究者の集まりであるドレクスラー機関を掌中に置いているのだ。

 

 今まで失敗に終わった試みが成功する可能性は、決して無視出来ない。

 

「とにかく、何を考えているにせよ今のドミニオンを放置する事は出来ないわ。今後の方針を、詰めていくとしましょう」

 

 聖良の説明はそれで終わり、甲達は具体的な今後の行動についての話し合いに移った。

 

 その脳裏に、仮想の海を蠢く巨大な怪物の姿を幻視しながら……。




 はい、バルドシリーズのファンならお察しの通り、例のあれでした。このストーリーではフォースの時間軸は『大戦』前のものとしています。少なくとも、当時の登場人物達が寿命を迎えるくらいには昔の話としています。原作で明言されたワケではないので、あくまでこのストーリーの設定です。
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