BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「……噂には聞いてたが、こりゃなんとも言えない場所だな……」
甲は周囲に広がる光景を見て、溜め息を吐いた。
此処は
此処はいわゆる変態性癖の人間の集う場所であり、道端では裸の男女が人目を憚らず交わる姿が目に付き、相手を求める人間が裸同然の恰好でうろついている。
その所為か辺り一面に性臭が充満し、なんともいえない気分になって来る。
「……流石変態共の巣窟、想像以上の乱痴気騒ぎね。どいつもこいつも鼻息荒く盛っていて、躾のなっていない犬のようだわ」
クリスもそんな光景に毒気を隠そうともせず、吐き捨てるように呟いた。
しかし流石に自らトラブルを招き寄せる気はないのか、あくまで小声で呟いた所に彼女の自制心が垣間見える。
甲達は聖良達との会談で、最終的にエディの情報にあったこの施設へ潜入する事が決定された。
幸い甲とクリスは男女のペアであり、カップルご用達の施設に入るには都合がいい。
二人が潜入メンバーとなる事は、甲達の意向もありすんなり決定された。
残るはフェンリルの動向だが、フェンリルからもまた先行して隊員を潜入させる事が決まっている。
その隊員は、甲達とは施設内部で落ち合う事になっている。
潜入するメンバーの一人はシゼルという女性で、幼少時の甲とも面識のある相手だ。
例の施設はペアでなければ入れない筈だが、一体誰と潜入しているのであろうか。
「あら……意外な人間がいるわね」
先へ進む中、何かを見つけたクリスは素早く甲を物陰に引き込んだ。
密着したクリスの甘い匂いに反応しそうになる身体を抑えつけ、甲はクリスの視線の先に眼を向ける。
「…………」
そこには、例の構造体で戦った学生時代からの因縁の相手……ジルベルトが不機嫌そうな顔で歩いていた。
その後ろにはジルベルトの部下らしき数名の人間が歩いており、状況からして全員がダーインスレイヴのメンバーだろう。
施設爆破の現場にいたジルベルトは、高確率で阿南の部下……彼等が傭兵部隊である事から考えて、傭兵として阿南に雇われているのだろう。
そして、阿南とドミニオンは現在対立状態……更に、この施設はドミニオンとも関わりがある。
間違いなく、これは何かしら関係がある。
となれば、やる事は決まったも同然だ。甲とクリスは頷き合い、すぐさまジルベルトの尾行を開始した。
彼等は尾行に気付いた様子もなく、周囲の光景に吐き気を隠そうともしないジルベルトは施設の守衛に話しかけ、守衛から一礼され中へ入って行った。
……どうやら少なくとも、顔パスで入れるくらいには見知った相手であるらしい。
「さて、私達も入りましょうか。場合によっては中で一発抜いてあげてもいいわよ」
「……全く、忍び込むのに匂いが付くような事してどうするんだよ」
「平気よ。どうせ中も性臭が充満しているでしょうし、少しくらいバレやしないわ」
クリスはそう言って甲の腕をがっしり掴み、ふわりとしなだれかかって来る。
彼女の柔らかさにドキリとしながら、甲はクリスと共に施設の中に足を踏み入れた。
「こっちだ。甲君」
施設に入って暫くすると、ショートの銀髪を持つ褐色肌の美女が甲達を呼び止めた。
潜入の為かラフな私服を纏っているこの女性は、シゼル=ステインブレッシェル……フェンリルのメンバーで、相応の腕を持つシュミクラム乗りだ。
普段の軍服ではなくラフな私服に包まれたしなやかな身体は牝豹のようで、躍動的な色香を纏っている。
シゼルは一人、部屋の入口に立って甲に中に入れと促している。此処でこうしていても怪しまれるだけだ。
甲達は促されるまま部屋に入りつつも、素朴な疑問を口にする。
「しょ……シゼルさん、お一人ですか? 誰かと一緒でなければ此処には入れないんじゃあ……」
「相手は私だよ、甲君。久しぶり、という程でもないかね」
「……あら、意外……という程でもなかったわね」
少佐と呼びかけて慌てて言い換えた甲の疑問に答えたのは、部屋の中にいたゴスロリドレスの女性……ノイだった。
相変わらず幼い少女にしか見えない女医は、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
「私はここの会員だからな。会員ならば怪しまれる事もないし、こんな部屋も用意出来る。シゼルが遊んでくれるというので、快く引き受けたワケだ」
「……私としては苦肉の選択だったんだがな。だが、任務をスムーズに進める為には背に腹は代えられん……全く、そうでなければ誰がこいつと……」
シゼルは溜め息をつき、吐き捨てるようにそう呟いた。
確かに、実利を考えれば仕方ないとはいえノイのような変人とこの手の施設に入るのは猛獣の檻に自ら入るような愚行に等しい。
彼女の気持ちは、痛い程分かる。
「おやぁ、単なる任務という割には下着選びが熱心だったように思えるがねぇ? 私だけではなく、甲君達にも見て貰いたかったのではないかね?」
……だが、そんなシゼルの呟きにノイはにやけ顔で反応し、からかうようにそう告げる。
「あら、そうなの。他人のプレイを見ながら、というのはやった事がなかったし……直接
「き、さ、ま、らぁぁぁぁぁ……っ!!」
ノイとクリスの二人がかりでからかわれ、シゼルは近くにいたノイに掴みかかろうとする。
しかしノイは意外な程身軽な動きで身を躱し、甲の背後に回り込む。
「くぅ……っ!」
シゼルも何の非もない甲に実力行使するのは気が咎めるのが、歯を食い縛りながら拳をぷるぷると震わせている。
「ま、まあまあ、二人も悪気が……あったかもしれないけど、今は任務中ですし。クリスも、わざわざ挑発するなよな」
「あら、私に
クリスは悪びれもなくそうのたまい、甲は相変わらずのパートナーに溜め息を吐いた。
「……埋め合わせなら幾らでもやってやるから、今は抑えろ。全く、その趣味はどうにかならないのか」
「貴方は私に呼吸をするなと言うつもりかしら? つまりはそういう事よ」
どうやら、態度を改める気はないらしい。
そのやり取りを見ていたシゼルはクリスの性格を把握したらしく、ジト目でこちらを睨んで来る。
「……甲君、中々独創的な性格のパートナーをお持ちだな。尻に敷かれているようで何よりだ」
「あはは……言葉もありません」
甲としては問答無用で襲い掛からない辺りクリスもまだ自制しているのが分かるのだが、一度興が乗ったクリスを止める事は甲にはほぼ不可能である為そう告げるしかない。
とにかくこれ以上時間を浪費するワケにはいかない為、甲は話を切り替える。
「先ほど、阿南の部下である可能性が非常に高い男がこの施設に入って行く所を見ました。俺は今から端末に接続して、男の行方を追おうと思います」
甲の話に、シゼルの眉が吊り上がる。
「……ほぅ、阿南の部下が……ノイの話では阿南は最近この施設には来ていないそうだが、それは確かに怪しいな。いいだろう、任せる」
「
甲はそう告げると神経接続子を端末に接続させ、
この『アンファンⅡ』は情報収集専門だった『アンファンⅠ』と違い、侵入した端末を通じて電子機器の操作を行ったりする等、より応用性を持たせたものだ。
その代わりある程度真が手動で操作を行う必要がある為、『アンファンⅠ』と違い広範囲の探索には向かないが……施設内部を探るだけなら、これで充分事足りる。
『アンファンⅡ』を使用している間は真からは一切サポートを受けられなくなる為、甲が代わりに周囲一帯の索敵を行う必要がある。
その為索敵用プログラムに不審な人物がこの部屋に近付けば分かるように設定すると、甲は一息ついた。
「これで後は結果を待つだけ、か……」
──だが、思わずそんな言葉を漏らしたのがいけなかったのだろう。それを耳聡く聞き届けた
「お、おい!? ノイ、いきなり何をする……っ!?」
ノイはいつの間にかシゼルに後ろから抱き着き、やらしい手つきで胸を揉み始めた。
突然の奇襲にシゼルの口からは甘い声が漏れ、顔は紅潮し始めている。
「ふふ、どうせ事が終わるまで暇なのだろう? だったら、その間遊んでくれてもいいじゃあないか」
「ちょ、ま、待て!? ふ、二人が見ているんだぞ……っ!?」
「見せつけてやればいいさ。丁度、あちらさんもそのつもりのようだしな」
ノイの言葉に甲はクリスの姿を見失った事にようやく気付く。
だが時既に遅く、背後から甲を抱き締めたクリスはするりとその手を甲のズボンに侵入させ、甲の陰茎を絡め取った。
「お、おいクリス……っ!?」
「うふふ、こんな機会中々ないもの。少しくらい楽しんだっていいじゃない」
そう言いながらもクリスは体を密着させながら甲の陰茎をしごきあげて来る。
甲の弱い部分を知り尽くしているクリスの愛撫によって、甲のペニスは瞬く間に膨張し、いつの間にか下げられていたチャックの間から外気に曝け出された。
「ほぅ、中々の膨張率だな。一度、味遭ってみたいものだ」
「命が惜しくないなら好きにすればいいわ。まあ、視姦くらいなら許容するから好きに見ていなさい」
「うっ、くぅ……っ!」
クリスはそう言いながらも甲のペニスをしごきあげる手は止めず、甲は快楽に呻いた。
ノイもまたシゼルを愛撫する手を止めず、クリスの手淫を受けている甲を爛々とした目で見つめている。
「あ、くぉ……っ!」
甲は快楽で視界が白く染まり、そして……。
『……先輩。目標のいる部屋を特定しました。お楽しみは終わりです』
──不意に、甲の脳内に真の冷たい声が響き渡った。
甲はその声を聞き届けて冷や水を浴びせられたように冷静になり、それに呼応するかのように快感でぼやけていた意識が覚醒する。
その様子を見て時間切れを悟ったのか、クリスは甲の陰茎から手を放し、手に付着した我慢汁をペロリと舐め取った。
その光景にまた下半身が反応しそうになるが、なんとかそれを抑え込み、甲は慌ててズボンのチャックを閉めた。
「……なんだ、タイミングの悪い。一発出してからでもよかろうに」
「はぁ、はぁ……任務が、優先だ莫迦者……し、しかしこんなに早く探り当てるとはな……サポートとしても、やっていけそうではないか……」
「いいえ、仲間が優秀なだけですよ」
息も絶え絶えなシゼルは感心するようにそう告げるが、甲としてはこれ程早く仕事が片付いたのは真という優秀なサポートが文字通り一心同体となって活躍してくれたお陰である事は理解している。
その真が懸命に仕事をしている中で何をやっていたのかと考えると甲は居た堪れない気持ちになるが、主犯のクリスは何処吹く風で笑みを浮かべている。
真としても怒り心頭だろうが、幸い今は任務を優先してくれるらしかった。
甲は後で謝り倒す事を誓いつつ、真の声に耳を傾けた。
『あの男のいる部屋のカメラを乗っ取りました。映像を共有します』
真の声と共に、甲達の視界に一つの部屋の光景が映し出される。
映像に映った部屋の中にはジルベルトとその部下らしき男達が腰掛けており、その向かいには一癖ありそうな男が立っていた。
「こいつの顔は知っている。この施設のボスだな。元々は、女を売って小金を稼いでいた悪党だ」
シゼルの説明に、甲は得心したように頷いた。
そんな大物と会っている以上、矢張りジルベルトに阿南という後ろ盾があるのは事実なのだろう。
「やっぱり、繋がりがあったのか。一体、何の用件で来たんだか……」
「察するに、ドレクスラー機関を紹介したこいつ等に苦情を言いに来たんじゃないか? 阿南としては、詐欺に遭ったようなものだからな」
「苦情を言いに来た、だけにしては雰囲気が剣呑ね……苦情と言うより、落とし前を付けに来たのではないかしら?」
確かに、クリスの言う通りジルベルトは今にも喧嘩を吹っ掛けそうな雰囲気だし、対面している男は何処か怯えているようにも感じる。
ジルベルトを怖がっているというより、何か後ろめたい事がある様子だった。
『貴様……あの研究者共がアセンブラの開発を続けているのを知っていて、それを黙って市長に紹介したのだろう?』
『め、滅相もない! こっちも話を聞いて仰天したんだ……っ! アセンブラなんて寝耳に水で……』
『ともかく、こちらも手ぶらじゃ帰るに帰れない……居場所を知っているなら吐いた方が身の為だぞ?』
矢張り、クリスの言う通り用件は阿南からの苦情……というより恫喝のようだ。
ジルベルトは男に見せつけるようにナイフを弄っているし、その眼付はギラついて危険なものを感じさせる。
男は一瞬怯むが、流石
『そんなの、こっちが知るワケないでしょう。聞くなら神父に聞いて下さいよ』
『フン、ドミニオンとは抗争関係になっててな』
『そ、そんな……っ!? それなら猶更、俺になんとか出来るワケないでしょう……っ!?』
男は大げさな手ぶりでそう叫ぶが、そんな男をジルベルトは鋭い視線で射抜いている。
『さて、どうかな……貴様、どうやらドミニオンから何か仕事を受けているそうじゃないか。それも、噂の
『……どうしてそれを……』
男は心底狼狽した様子で、ジルベルトを見つめている。
ジルベルトは忌々し気に鼻を鳴らし、手に持ったナイフをテーブルに突き立てた。
『とにかく、その神子と話をさせろ。今もコンタクトは取れるんだろう?』
『い、いや、あっちから時々連絡が来るくらいで、こっちから連絡する事は……』
『……そんな言い訳が通じると思っているのか? 俺は気が短いんだ……女を充てがって時間稼ぎをしようとしなかった事は評価しているが、これ以上待たせるなら気が変わるかもしれんぞ?』
低い声でそう告げて、部屋の中でジルベルトと男が睨み合う。
痛い程の沈黙が部屋を包み、そして……。
『──構い、ません。私、が……話、をしま、しょう……』
「「「……っ!?」」」
──次の瞬間、部屋に備え付けられたスクリーンにヴェールマスクを被った白髪の少女……ドミニオンの神子の姿が映し出され、その光景を見ていた者達は思わず息を呑んだ。
その場の全員から注目を浴びた神子は唇を歪め、自分を見つめる者達に薄すらと笑みを浮かべて見せた。
という事であの変態施設への潜入話です。原作ではここで真が出て来るシーンに繋がるんですが、真は今回最初からこちら側なので代わりと言わんばかりに神子が出て来ました。