BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「……まさか、此処でドミニオンの神子が出て来るとはな……」
甲はカメラ越しに神子の姿が映し出されたスクリーンを見て、そう呟いた。
画面越しですら神子の持つ得体の知れない気配は健在で、その光景を見ていた誰もが息を呑んでいる。
「……そう……こいつが……」
「話には聞いていたが、実在したとはな……」
クリスとシゼルは、それぞれ異なる感情を表出させて神子の映像を見つめている。
シゼルは畏怖と驚愕を、そして……クリスは、見てわかる程の
『……ほ、ほぉう、貴様が例のドミニオンの神子とやらか。隠れもせず出てきた事は買ってやるが、そもそも貴様等ドミニオンが何をしたか忘れたワケではあるまい? この落とし前はどう付けてくれるんだ……?』
ジルベルトは神子の気配に若干顔を引きつらせつつも、神子に対して恫喝の言葉を吐き出した。
もっとも、額からは冷や汗が流れており神子の気配に呑まれている事は一目瞭然だった為、イマイチ恰好はつかなかったが。
『行き違い、があった事は謝罪、しましょう……私、達としても彼等、がアセンブラを作り、続けている事、は把握し、ていなかった、のです』
『フン、口ではなんとでも言えるがな。大方、テロでも起こす為に作らせていたのではないか? 灰色のクリスマスの再現、など如何にも貴様等狂信者共が考えそうな事ではないか』
……この口ぶりからするに、どうやらジルベルトはドミニオンがアセンブラを使ったテロ計画を立てている事自体は知らない……いや、推測はしていても確たる証拠を掴んではいないのだろう。
エディからの情報を持つ甲から見れば、神子はあからさまな嘘を付いている事になるが……ヴェールマスクに隠された神子の表情は口元しか伺えず、その真意は分からない。
本当に彼女は、これで誤魔化しきれると考えているのだろうか。
『貴方、達がそう邪推、するのも当然、です……ですの、で誠意とし、てこちらから、は秘密裏に開発し、た兵器をお渡しし、ます』
──兵器、という単語に甲は心臓が跳ね上がった。
この状況で
それはジルベルトも同様だった様子で、あからさまに眉を潜めている。
『兵器だと……? まさか、アセンブラを渡すとでも言うつもりか?』
『いい、え……お渡しする、のは
『……っ!?』
……暗殺計画、という言葉にジルベルトの表情が豹変した。
空気が変わったのを感じたのか、そのやり取りを見ていたジルベルトの部下達が不安気な表情を浮かべている。
『……貴様、一体何処でそれを……』
『私、は観測者、としてこの、世界の大まか、な
『……っ!? あれは、あの汚物は断じて親などではない……っ! 関係など、関係などあるものかぁ……っ!!』
神子の言葉に、ジルベルトは激昂して力任せにテーブルを蹴り飛ばし周囲の男達は突然の凶行に息を呑んだ。
しかし目の前にいない相手を殴れるワケもなく、ジルベルトは怒りに顔を震わせながら拳を固く握り締めている。
その様子を見て、神子は口元に笑みを浮かべていた。
『ああ、そちらの方がらしい、ですよジルベール=ジルベルト……取り繕う、事はありま、せん……私は、そのエゴを肯定、します』
『黙れ黙れ黙れぇ……っ! 貴様、その口を閉じろっ! それ以上ふざけた事を抜かすなぁ……っ!』
『……これ、は失礼しま、した……です、がこれで分かったの、ではないですか? 貴方が行う、べき返答が』
憤怒に顔を歪めたジルベルトは鼻息荒く神子を睨みつけるが、神子の表情は変わらない。
暫く無言で睨み続けていたジルベルトだったが、このままでは埒が開かないと悟ったのか、興奮冷めやらぬ様子でドンッ、と乱暴にソファーに腰掛け口を開いた。
『……バラされたくなければ取引に応じろ、とでも言うつもりか?』
『物分かり、が良いようで幸い、です……安心、して下さい……決して、悪いように、はしませ、んから』
『……少し待っていろ……』
ジルベルトはそう告げると、舌打ちして黙りこくった。状況から考えて、直接通話を使っているのだろう。
「相手は阿南か? しかし、そうなると今神子が話した
「……ああ、しかし一体誰を殺すつもりなんだ……?」
「阿南が殺したい相手となると、まず政敵の米内が思い浮かぶが……それにしても、政敵を消す為に暗殺するというのは些か以上にリスクが高い……となると、米内に知られてはならないスキャンダルでも握られたか……?」
シゼルと甲の疑問に、ノイは訝し気な表情でそう答えた。
話を聞く限り、ジルベルトは
それは即ち、その脅しに使っている暗殺計画の情報が、紛れもない事実である事を示している。
政敵を暗殺しようとした、等という事が知られれば幾ら今まで様々な不祥事をもみ消して来た阿南とはいえ失脚は免れないだろうからだ。
そうこうしているうちにどうやら阿南とは話が付いたようで、ジルベルトは不満気な表情を隠そうともしないまま神子を睨みつけた。
『……いいだろう。ではさっさとその
『分かり、ました……では、例の場所ま、で彼等を連れ、て行って下さ、い……
『……了解しました。付いて来て下さい』
神子の言葉に施設のボスであるという男が応じ、ジルベルト達はその男に連れられて部屋から立ち去った。
それを見届けた神子は不意に顔を上げ、
『……ふふ、気になる、なら見に行って、も構いませ、んよ……彼女達、もその方、が喜ぶで、しょう』
「「……っ!?」」
──その言葉を聞き、甲の背筋をゾクリとした悪感が駆け巡った。
真は焦ったように回線を切断し、視界は薄暗いプレイルームの景色へと戻っている。
「……まさか、気付かれていたのか……?」
「馬鹿な。今使っていたのは例の特注ウイルスだろう? あれのステルス性能は完璧だし、そもそも真くんがセキュリティに引っかかる事は有り得ない。益々以て、得体の知れない輩だな」
シゼルとノイは神子に対する畏怖を隠そうともせず、目を見開いて驚愕していた。
クリスは神子が話し始めてから沈痛な表情で黙りこくっているし、甲もまるで姿の見えない亡霊に憑りつかれたような奇妙な錯覚を覚えていた。
『……先輩、いつの間にか先輩当てにメールが送られています。この施設の構造体のマップが添付されていて、一か所に赤い目印が記されています』
「……此処に来い、って事なのか……」
メールの送り主のアドレスは文字化けしていて読み取れないが、状況から考えてこれはドミニオンの神子から送られたものだろう。
シゼル達にその情報を共有すると、彼女達は苦々しい表情を浮かべた。
「……分かっているとは思うが、まず間違いなく罠だぞ。それでも行くのか?」
「……ええ、彼女がジルベルト達に何を渡そうとしているのかは確かめて置きたいんです。まさかとは思いますが、アセンブラという可能性も0ではありませんし」
甲の決意が固い事を知り、シゼルは溜め息を吐いた。
甲としてもこれがあからさまな罠である事は分かっているが、それでもこの機会を逃すワケには行かないのだ。
「……甲、行くなら用心しなさい。勿論私も付いて行くけど、どうにも嫌な予感がするのよ」
クリスは頭痛を堪えるように頭を抑えながら、険しい表情でそう告げた。
少々顔色も悪く心配だが、此処が敵地である事に変わりない以上クリスの協力は必要不可欠だ。
勿論シゼルも戦闘能力の面では不安はないが、彼女には彼女の仕事がある上、何年も連れ添ったクリス程の連携は望めないのだから。
「分かった。だが、私はまだこの部屋で情報を集めなければならん為同行は出来ん……くれぐれも、無茶をするんじゃないぞ」
「
甲はシゼルに敬礼すると、クリスを連れ立って部屋から飛び出した。
真の索敵によって周囲に敵がいない事は確認済みであり、二人は真のナビゲートによってスムーズに構造体を進んでいく。
「……クリス、大丈夫か……?」
「ええ、心配ないわよ……神子の姿を見た時からどうにも気分が悪いけど、戦闘には支障はないわ」
甲は足早に歩きながら未だに顔色が悪いクリスに声をかけるが、クリスは曖昧な笑みを浮かべてそう答えた。
正直心配だが、今更休むワケにも行かず、仕方なく真にクリスのバイタルチェックを頼むとすぐに答えが返って来る。
『……少々心拍数が乱れてはいますが、バイタルは概ね正常値です。クリスさんの言う通り、今すぐ問題になる事はないでしょう』
『わかった。ありがとう』
真からの報告を聞き、甲はそのまま構造体の奥へと進む事を決めた。
現状問題がないというのであれば、此処で問答して時間を消費するよりも今は一刻も早く目的地へ辿り着きこの構造体から脱出する事が先決だ。
引き返す選択が有り得ない以上、今は前に進むしかない。
『……っ! 先輩、隠れて下さいっ!』
「……っ、こっちよ……っ!」
そんな中、不意に真から警告を受けると同時にクリスが甲を物陰に引っ張り込んだ。
そのすぐ後に廊下の向こうからバタバタという足音が聞こえて来て、目の前を見覚えのある赤いポニーテールの少女が横切った。
「……っ!? あれはまさか、千夏か……っ!?」
『……IDを確認しました。間違いありません、千夏先輩です』
その少女の名は、渚千夏。如月寮の一員であり、甲とも浅からぬ関係があった少女だ。
灰色のクリスマスで重傷を負ったと聞いていたが、まさかこんな事で見かける事になるとは……。
「どう見てもカタギの人間じゃなさそうね、彼女。一体何処の所属かしら」
そう呟くクリスの視線は、千夏の足元に向けられている。
千夏の拳からは血が滴っており、本人に目立った傷がない事から誰かを殴り倒して来たであろう事が分かる。
これで普通の客だとは、まず間違っても有り得ない。
『施設内で侵入者との戦闘発生。戦闘要員はシュミクラムに
次の瞬間、そんな機械音声と共にけたたましい
施設のそこかしこから移行したシュミクラムが地面に降り立つ音が聞こえ、奥からは銃声が聞こえて来る。
その様子を見た千夏は、舌打ちして廊下を駆け抜けて行った。
『なんだ、この警戒警報は……っ!? 私達の侵入が気付かれたのかっ!?』
「いえ、我々の他に侵入者がいたようです……っ! 先程その侵入者を目撃しましたっ!」
警戒警報を聞きつけたシゼルが声を荒げて直接通話を繋げて来た為、甲は手早く状況を伝えるとシゼルから舌打ちが聞こえて来た。
『チィ、間の悪い事だな……っ! こうなっては仕方ない、私も移行して敵を引き付けるっ……! その間に目的を果たせっ!』
「
「それしかなさそうね……っ! ったく、余計な事をしてくれたわ……っ!」
電子体のままではいつ流れ弾に当たるか分からず、移動速度もシュミクラムとは比べ物にならない。
モタモタしていてはジルベルト達に逃げられてしまう可能性が高く、途中での戦闘の手間を考慮した上でも移行する以外に道はない。
「「
二人は同時にシュミクラムへ移行し、鋼鉄の肉体を持つ青い狼と紫紺の蟷螂が構造体へと降り立った。
真ルートだとジルベルトの部屋に向かう所ですがもう部屋の中には誰もいないのは確認しているのでこの話では勿論スルー。