BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
鋼鉄の肉体に変化した甲とクリスが、構造体の中に降り立った。
シュミクラムに移行した甲達に気付いた4機のシュミクラムが、ゆっくりとこちらに振り向いた。
──だが、その時には既に甲達は敵機に肉薄していた。
甲のパイルバンカーが先頭の一機の頭部を貫き、クリスのチェーンソーブレードがもう一機の頭部を斬り裂いた。
瞬く間に半数の味方をやられた彼等は動揺し、慌てて武器を構えるが……もう、遅い。
『反応が、遅過ぎるわね……っ!』
──クリスの機体から射出された回転刃が二機のシュミクラムの武器を腕ごと両断。
腕を斬られた痛みに怯んだ敵機の頭部を、両腕のチェーンソーブレードで纏めて斬り落とした。
一瞬後に機体は爆散し、四機のシュミクラムユーザー全員の
『雑魚に構っている暇はないわ。さっさと目的地へ向かいましょう』
「ああ、そうだな。真ちゃん、ナビゲートを頼む」
『
真は返答と共に二人の視界に構造体の配置図を転送し、敵機のいる場所と目的地を光点として映し出した。
ご丁寧にも、可能な限り敵に遭遇しない安全なルートまで割り出し済だ。
「やっぱり頼りになるな、真ちゃんは」
『えへん、一杯勉強しましたから』
「調子に乗るなと言いたいけど、有能なのは確かだものね。ありがたく活用させて貰うわ」
甲とクリスはそれぞれの言葉で真に賛辞を送りつつ、ナビゲートに従って構造体を駆け抜けていく。
敵機の位置は真のお陰で丸わかりである為、余計な戦闘が発生する事はない。
『甲君、聞こえるか。シゼルだ』
「少佐……? 何かあったのですか?」
そんな中、突然通信をして来たシゼルに甲は疑問符を浮かべる。
シゼルはシゼルでシュミクラムに移行して戦っていた筈だが、何かあったのだろうか。
『……先ほど戦った奴を締め上げた結果、この施設の連中の罪状は考えていたより重い事が分かった。こいつ等、NPCの密造だけでなく人身売買にも手を出してやがった。少なくとも十数名以上の少女達の電子体を監禁していたようだ』
「……なんですって……?」
それは、確かに聞き捨てならない情報だ。
こんな施設で少女の電子体を拉致監禁……どう考えても、楽しい想像は出来そうにない。
甲は知らず、拳を握り締める。
「……分かりました。こちらでも監禁されている少女達がいないか探してみます」
『ああ、だが無理はするな。大佐には連絡済みだが、何が起こるか分からんからな』
「
甲の言葉にシゼルは苦笑しつつ、通信を切った。
甲の性根から考えても、これは無視出来る事態ではない。
口ではどう言おうが、甲は囚われた少女達を助けるつもりでいた。
無論クリスと真はそんな甲の内心を察しており、当然の如くフォローの用意を考えていたのだが。
『先輩! 前方に重装シュミクラム1、中型多数。ウイルスを引き連れて先輩を待ち伏せしていますっ!』
そのまま構造体を進んでいると、不意に真からそんな報告が飛んで来た。
配置図を確認すると、甲達が進む先の道に無数の敵機を示す光点が並んでいる。
「成る程な……よし、逆方向から不意打ちしてやるか。真ちゃん、誘導と
『
甲達は真の指示に従いつつ、敵の背後を取るべく別の通路へと進んで行った。
『よしっ、野郎共! 奴らが来たら、いっせいにぶっぱなせっ……!』
通路の先では、釘バットのような装備を持った重装シュミクラムが部下と思わしき数体のシュミクラムに指示を飛ばしていた。
その声はあの部屋でこの施設のボスだとされていた男と同じものであり、男の指示通り部下達は通路の先へと銃口を向けて待機していた。
背後への警戒など、全くしないままに。
『ふふ、豚共が無様に背中を晒しているわね。サポートがいるってのはやっぱりありがたいわ』
『どうします? 迂回しますか?』
「……いや、奴が此処のボスだったな。捕まえれば色々と吐いてくれそうだ。このまま奇襲して捕縛するぞ」
甲はそう告げるなり、ミサイルランチャーを射出する。
自己進化プログラムによって威力が過剰に強化されたミサイルの群れは、着弾と共に男の部下達の半数以上をウイルスと共に一気に吹き飛ばした……!
『ボ、ボスっ!? 後ろから奴がっ!?』
『なっ、いつの間にっ!? 野郎どもっ、向きを変えて応戦しろっ!』
ようやく背後を取られた事に気付いた男達が迎撃態勢を取るが、不意打ちを許した時点で既に趨勢は決していた。
混乱する男達に向けて甲達は迷いなく突っ込み、先頭の一機にゼロ距離でDDミサイルを発射。
爆発と共に中空に打ち上げられた敵機を密集していた他のシュミクラムに向けて蹴り飛ばす。
味方機との衝突によって動きが止まったシュミクラム3機に向けてクリスがチェーンソーブレードを振り抜き、纏めて機体を斬り裂き、爆散させた……!
『ひ、ひぃ……っ!』
瞬く間に孤立無援となったボスは慌てた様子で身を翻し、逃走を開始する。
ボスが逃げた先の扉が閉まるが、クリスがチェーンソーブレードを一閃すると次の瞬間には扉は斬り裂かれ、甲達はボスの機体を追跡する。
「
『チッ、だからって止まる馬鹿が何処にいるんだよ……っ!?』
流石に施設の地理を知り尽くしている為か、ボスは迷う事なく逃走している。
しかし真からのナビゲートで構造体の配置は丸わかりである為、ハンデにもなっていない。
着実に距離を詰めて行く中、真からの報告が届く。
『先輩! 進行方向に多数のシュミクラム発見! どうやらこの男は、彼等と合流するつもりのようですっ!』
「待ち伏せのつもりか……丁度いい、後から来られても面倒だ。雑魚は此処で叩き潰しておくか」
『そうね。生かしておくのは頭だけで充分よ』
殲滅を決めた甲達はそのままボスを追跡し、視界の先にシュミクラムの集団が見えた瞬間、カゲロウからパラレルミサイルが発射される。
左右を迂回するような軌道で無数のミサイルが敵部隊に放たれたが、逃げる事に必死なボスやこちらを見てニヤついている敵部隊は気付いていない。
『ははははは、形勢逆……どわぁぁぁぁ……っ!』
味方と合流して高笑いを上げようとした刹那、シュミクラムの集団にパラレルミサイルが着弾。
ボスは爆散する味方機諸共吹き飛ばされ、構造体の床に転がった。
『シフトッ……!』
そこにすかさず射撃形態にシフトした
敵機に弾丸が次々に着弾し、轟音と共に一機一機爆散させていく。
起き上がろうとする敵機は逐一甲がライフルで撃ち抜き、ボス以外の機体は瞬く間に殲滅された。
『さあ、早く除装した方が身の為よ』
雑魚を片付け、再び格闘形態にシフトしたクリスはボスの機体の前に降り立ち、チェーンソーブレードを突き付けた。
音を立てて目の前で唸るチェーンソーを見て、ボスは慌てた声をあげる。
『わ、分かった、除装するから、助け……ぎゃぁぁぁぁぁぁ……っ!』
だが、次の瞬間クリスはもう片方の腕のチェーンソーブレードで機体の足を斬り落とした。
男は激痛に悲鳴をあげ、そんな男をクリスは酷薄な笑みで見据える。
『口を動かす暇があったらさっさと除装しなさい。次は腕を斬り落とすわよ』
「ぐぅ、あぁ……わ、かった……」
痛みに悶えながら男は除装し、構造体の床に肥満体の男の電子体が転がった。
シュミクラムとはいえ足を斬り落とされた影響か、激痛に悶える男は自力で立ち上がれそうな様子はない。
「容赦ないな……する必要もなさそうだが」
「ええ、人身売買に手を出すような輩だもの。実体があるなら去勢したい所だけど、そんな手間をかけるワケにもいかないものね」
クリスは周囲に敵機がいない事を確認すると通常の電子体に移行しつつ、倒れ伏す男を睨みつける。
その腕にはいつの間にかチェーンソーが装備されており、回転する鋸の刃が男の首筋に突き付けられる。
「さあ、ジルベルト君達は何処に行ったのかしら? それから、捕まえた女の子達の場所も教えて貰おうかしらね」
回転する刃を前に男は竦みあがるが、それでも精一杯の虚勢を張る。
「てめぇら……いったい何者だ? まさか、
「それに答える義理はないな」
そんな折、鋭利なフォルムを持つ蒼色の機体……フレスベルグが近付いて来た。
腕には見覚えのないNPCの少女がしがみついており、こちらに向かって手を振っている。
シュミクラムは少女を降ろすと除装し、通常の電子体となったシゼルが姿を現した。
「早いですね、少佐」
「全く、大事にしやがって……だがまあ、怪我の功名か色々情報を得る事が出来たからな。大佐の顔に免じて今回は勘弁してやる」
シゼルは溜め息を吐きつつ、甲に向かってそう告げた。
予想以上の騒動になった事は確かだが、原因が甲にない以上怒るに怒れないのだろう。
「そういえば、その子は……?」
「私だよ、甲くん。流石に、戦場に通常の電子体のまま行ける程頑丈ではないからね。こうして、NPCの身体をハックさせて貰ったのさ」
そう言うなり、展開された表情画面には笑みを浮かべたノイの姿が映し出される。
どうやら彼女は戦場の真っただ中に付いて来る為、NPCを乗っ取るという暴挙をしでかしたらしい。
苦々し気な表情のシゼルを見る限り、強引に付いて来たに違いない。
「さて、さっさと答えて貰おうかしら? それとも、もう一度足を斬り落とした方が素直になるかしらね」
「わ、わかった……女共はあの中だ。あいつ等も仲間を連れて入って行ったよ」
男はそう告げるなり顎で部屋の奥を指し示す。その先には、曰くありげな電子体用のハッチが見えた。
甲達が手にしている構造体の配置図の中の目的地を示す光点も、そのハッチの先を示している。
どうやら、行くべき場所は此処で間違いないようだ。
「少佐、此処は任せて大丈夫ですか?」
「ああ、行って来い。こいつを締め上げるのは任せておけ」
「
甲はそう告げると一礼し、クリスと共に電子体用のハッチを潜り抜けた。
「これ、は……」
──その内部を見て、甲は呆気に取られていた。
扉の先に広がっていた光景は、様々な戦場を渡り歩いた甲としても理解の外と言える光景だったからだ。
灰色の壁に覆われた、殺風景で広いフロア……張り巡らされたパイプラインが、全盛期の工場を思わせる。
そして何より目を引いたのは、フロアの壁に所狭しと並べられた透明なコンソールのような物体だった。
コンソールの中には例外なく裸の少女が横たえられており、その頭部にはバイザーのようなものが取り付けられている。
コンソールの内部にいる少女達の表情は、皆一様に苦しみに彩られていた。
コンソールからは無数のパイプが部屋の中央に伸びており、その先には巨大な球状の機械が聳え立っていた。
部屋の床に埋め込まれるように設置されているその機械は無秩序に繋がったパイプ共々毒々しい赤色に彩られており、まるで巨大な生物の心臓が目の前に曝け出されているかのような不気味な錯覚を覚えた。
「一体、此処で何をしてやがったんだ……?」
その問いに、答える者はいない。
甲達に聞こえて来るのは、巨大な機械から漏れ出る臓器の脈動を思わせる不気味な稼働音だけだ。だが……。
『先輩! その機械の影に電子体が潜んでいます……っ!』
「……っ! 誰だ……っ!?」
焦った様子の真の報告を受け、甲は油断なく銃を構えて鋭い声をあげた。
すると、巨大な機械の向こう側からゆっくりと大柄な影が歩み出て来る。
「久しいな、門倉甲くん。それに、我が孫娘よ……壮健そうで何よりだよ」
「……っ、貴方は……!」
「グレゴリー神父、だと……っ!?」
──そして、その男……グレゴリー神父はガラス玉のような無機質な眼でこちらを見据えながら、その口元に大袈裟な笑みを浮かべて見せた。
次は第4節の最後の話です。1節につき5話ごとに区切っていくつもりですが、もしかしたら今後話数が上限するかもしれません。可能な限り5話で区切りたいとは思っていますが。