BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
翌日、甲達は米内議員を暗殺すべくやって来るジルベルト達を迎え撃つ為、米内議員が政治集会を開く場所の近辺の仮想空間に没入していた。
近くにはフェンリルの部隊も
甲は真の力により高度な隠密状態を維持しているし、クリスは奇襲の為にやや離れた場所で待機している。
準備は万端であり、いつ敵が来ても、万全に迎撃出来る構えだった。
「……どうやら、政治集会が始まったようだな」
視界の端に映し出されている現実の映像には、装甲車の上で拳を握りながら演説をしているスーツ姿の男……米内議員の姿があった。
周囲は黒服の男達で固められ、油断なく周囲を見回しているが……仮想への警戒は、傍目からは一切見られない。
前時代的な反AI派の人間だからなのか、自分が潜脳されるという可能性を欠片も考えていないように見受けられた。
「幾ら現実で防備を固めても、仮想が無防備じゃ意味がないっていうのに……
『仕方ないんじゃない? 都市自警軍は阿南の息がかかっている者だらけで信用出来ないし、ガチガチの反AI派の人間が電脳将校を雇うなんて考えられないでしょうしね……結局、頭が固すぎて思慮が足りていないのよ』
クリスはボロクソに貶しているが、甲もまた同意見だった。
今の時代、幾ら現実の護りが強固であっても仮想からの攻撃を許せばそれだけで致命傷に成り得る。
というのに仮想への警戒を疎かにしていては、隙だらけと言われても仕方ないだろう。
実際、甲達がこうして迎撃の構えを取っていなければジルベルト達の暗殺計画は何の障害もなく達成されただろう。
それだけ、余りにも米内は仮想に対する警戒を欠いていたのだから。
『その分は私達がなんとかします。索敵圏内に敵部隊が発見され次第、お知らせしますので』
通信越しに、レインが不敵な笑みを浮かべてそう告げて来る。彼女の怜悧な声が、耳に心地よい。
現在、レインは部隊全員のサポートの為後方に布陣している。
真も確かにサポートとして優秀ではあるが、流石に部隊全体のサポートとなると荷が重い。
真は言うなれば甲専用の外付けハードディスクのようなものであり、機能を特化させている為能力はずば抜けているが、どうしても応用力が足りないのだ。
その点、レインは部隊全体に対するサポートも滞りなく行える為、こうした作戦では重宝されるのだ。
無論、これは甲とクリスの二人だけという少人数で戦って来た真と、フェンリルという部隊で戦って来たレインの環境の違いも影響している。
クリスはどんな状況でも甲の意志を汲み取って動く事が可能である為、真は実質甲一人のサポートに終始していれば良かった故に、無理からぬ事なのだが。
要するにこれは、一点特化型の天才タイプの真と万能型の秀才タイプのレインという構図でもあるのだ。
周辺状況をタイムラグゼロで甲に伝えられるのは真だからこそ出来る事だし、部隊全体の動きをサポートする視野の広さはレインだからこその持ち味と言える。
どちらもサポートとしてずば抜けて優秀である為、どんぐりの背比べならぬ竜虎の意地の張り合いのようになっている面もあるのだが。
『わ、凄い……この辺り一帯の情報が詳細に載ってますよ先輩。やっぱり本職の人は違うなぁ』
『あの……そのマップは私がサポート用に組み上げたプログラムの大本で、他の人は見れない筈なんですが……話には聞いていましたが、真さんに仮想の常識が通じないというのは、こういう事なんですね』
……まあ、当の本人達は張り合うよりもお互いの能力の高さに感心し合っている状態だが。
真は嫌った相手以外には当たり障りなく接する為、敵を作りにくい性格だし……レインとしても、無理に真と張り合う意味はない。
もっとも、甲を取り巻く男女関係の
『レインも真も相変わらずだねぇ。ま、そっちの方がやり易いけど』
そんな折、甲達の耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
それと同時に、甲の近くに真紅の塗装の鋭利なフォルムのシュミクラム……千夏の機体、クリムゾンロータスが現れる。
同時に表情画面が展開され、千夏の姿が映し出される。
「千夏……っ!? お前も来たのか」
『ああ、長官の計らいでアークに出向扱いになったからね。一応、社長と甲の親父さんには許可を取ってあるよ』
『……来るなら来ると言って下さい。全く、隠密を貼り直す手間が増えたじゃないですか』
レインは文句を言いつつも千夏の機体に隠密を施し、瞬く間に千夏の機体が不可視状態となる。
その手際には舌を巻くばかりだが、千夏は飄々とした態度を崩さない。
『硬い事言うなって。敵が目の前に迫っているならともかく、お前ならこのくらい問題にならないだろう?』
『問題ないからと言って、事前説明がなければ困ります。まさか、対AI対策班では情報伝達の大切さを学ばなかったのですか? それとも……甲さんと共闘出来るのが嬉しくてそれどころではなかった、とか』
『……へぇ、言うじゃないか。アンタだって、自分じゃ分かってないだろうけど声が弾んでるぜ? 甲と一緒に戦えるのが、内心嬉しくてたまらないんじゃないのかい?』
千夏とレインは軽口から始まった会話で瞬く間にヒートアップし、二人の間に火花が散っているのが見えるようだ。
その間もレインの索敵は何の問題もなく続けられており、口論にかまけていても仕事はキッチリこなしている辺りは流石だが。
そして、そんな会話を聞いて……あのクリスが、黙って見ているワケもない。
クリスは目を細め、口元に凄絶な笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。
『
『私……』
『……
その視線はとても冷たく、そんな視線に射竦められた甲はぶるりと背筋を震わせた。
『……まさか甲、アンタ……よりにもよって、二股かけてるんじゃないだろうね……?』
『しかも相手は真さんと、六条さんですか……そうですか、私達からあれだけアプローチを受けておいて、その二人を選ぶんですか……だったら、
『……そうだね。今回ばかりは、アンタと気が合いそうだ……なぁ甲、既に二股かけてるんなら……
……何故か甲は、二人の背後に獲物を狙う獅子の姿を幻視した。
二人の声は何処か軽蔑の色が見えているが、決して
何か、
……遠方から感じるクリスの殺気に、震え上がっただけかもしれないが。
『──良い度胸ね。いいわ、確かに
『……六条さん……貴方には多大な恩義がありますが、それでも
『……へぇ、アンタも中々良い根性してるじゃないか。鳳翔のお嬢様とは思えないお転婆ぶりだね……いいよ、壁はデカイ方が乗り越え甲斐があるってもんだ。首を洗って待ってるといいさ』
三人の間に、険悪ながらも互いを理解しているかのような……そんな、妙な緊張感が立ち上った。
その三人の間に挟まれた甲としては気が気ではないが、ふと先ほどから何も言わない真に注意を向け……それに気付いた真が、にっこりと笑みを浮かべた。
『先輩、私は先輩が何人お妾さんを持っても気にしませんよ。
──そして、満面の笑顔でそんな発言をぶちかました。
『……ちょっと、一番いい性格してるのって、もしかして真なんじゃない……?』
『……なんだか私もそんな気がして来ました……』
『今更気付いたのかしら? この子、相当に
真が満面の笑みで言い放った台詞に、千夏とレインは揃って戦慄し……クリスは、やれやれといった風に苦笑した。
真がたまに見せる黒さに対しては、甲としても全面的に白旗を上げるしかないので、これもある意味当然ではあるのだが。
「……しかし、ジルベルト達はまだ姿が見えないな……演説も、そろそろ佳境だっていうのに」
甲は話題を変える為なのか、未だ姿を見せないジルベルトの事を口に出した。
現実の映像では米内が熱の入った様子で反AIの主張を力説し、民衆の熱気も相応に盛り上がり会場には不穏な空気が出来上がりつつある。
何か切っ掛けがあれば、暴動に発展しそうな雰囲気だ。
……まさかとは思うが、暴動に紛れて現実から命を狙うつもりなのだろうか。
『……いいえ、どうやら来たようです……っ! 前方からシュミクラム多数接近……っ! ダーインスレイヴと……ドミニオンの混成部隊ですっ!』
「……っ!」
レインの鋭い声に甲は配布されたデータを確認すると、こちらに接近するシュミクラムを表す無数の光点が確認出来る。
赤色がジルベルト達ダーインスレイヴ、黒色がドミニオンなのだろう。
その数は、予想よりも多い……シュミクラムだけではなく、ウイルスも多数動員しているようだ。
『チッ、やっぱり阿南とドミニオンは今も繋がってやがったか……っ!』
「あの構造体では阿南の私兵のジルベルトが、ドミニオンと取引をしていたからな……恐らくその時に、再度協力関係を結んだんだろう。全く、堂々と一緒に出て来やがって」
甲はそう言いつつも隠密モードを解除し、戦闘態勢に入った。
フェンリルのシュミクラムも次々と隠密モードを解除しており、ズラリと鋼鉄の身体が立ち並ぶ。
レインの張った隠密モードは秘匿性は非常に高いが、展開している限り戦闘行動に制限がかかるデメリットがある。
故に、戦闘直前には解除しておく必要があるのだ。
戦闘直前まで味方の存在を秘匿出来るのだから、有用性としては充分過ぎるものである事に違いはないが。
『ははははははぁっ! こ・ん・に・ち・わ・ああああっ!』
「……っ!?」
そんな時、不意に危険を感じて後退するとそんな頓珍漢な叫びと共に今まで甲のいた場所に回転するチェーンソーが振り下ろされた。
そしてその直後、甲の前に禍々しい漆黒の機体が降り立った。
間違いない。グレゴリー神父のシュミクラム、パプティゼインだ。
「神父っ、また現れやがったな……っ!?」
『早い再会となったものだね、門倉甲くん。もっとも、それは必然だ……君と私の間には、強い縁が結ばれている……私は君の宿敵として、何度でも君の前に立ちはだかろう。だがしかし、今回の主役は……我々ではない。私は
展開された表情画面にグレゴリー神父の姿が映し出され、神父はガラス玉のような目でこちらを見据えながらそう語りかけて来る。
穏やかな口調だが、その声には隠し切れない狂気が滲み出ている。
神父は陶酔すらその言葉に乗せ、まるで聖句を謳いあげるかのように高らかに宣告した。
『悪魔の種は、既に撒かれ……神の意志は、もうすぐこの世界に降り立つだろう。この世界は、数多の
割と真ちゃんっていい性格してると思う、色んな意味で。そうでなきゃクリスと張り合えるワケがなかったというか、なんというか。
さて、次回は色々と動きます。お楽しみに。