※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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叫声ーLimit Cryー

 甲は千夏と共に油断なく神父の機体(パプティゼイン)を見据え、その一挙手一投足を見逃さないよう警戒を強める。

 

 神父のシュミクラムは見た目通りの重装甲・重パワー型だが、様々なトラップを駆使し敵を攪乱する厄介な相手だ。

 

 迂闊に飛び込めば、あの時の二の舞に陥る事は想像に難くない。

 

『ふむ、来ないのかね? ならば、こちらから行かせて貰おうかっ!』

 

 神父は怒号と共に機体を疾駆させ、正面から甲に斬りかかる。

 

 甲は背後に後退……するように見せかけ、真横に飛んだ。

 

 すると案の定、甲の機体の背後に位置する床面から回転するチェーンソーが飛び出していた。

 

 あのまま後退していれば、以前のように機体を斬り裂かれていただろう。

 

『ほぅ、良い勘をしているっ! 数年の月日は、君の力を確実に成長させたようだっ!』

「生憎、同じ手に引っかかる程馬鹿じゃねぇよ……っ! 喰らえっ!」

 

 甲は神父の動きを止めるべく、フォトンブラスターを発射する。光の照射が、神父の機体を捉えるべく撃ち放たれる。

 

 神父の機体は動き自体はそう素早くはない。このタイミングであれば、回避する暇はない筈だ。

 

 ……だが神父は眼前に無数の機雷を放ち、それと相殺する形でフォトンブラスターは霧散した。

 

 しかしその時には既に甲は神父の背後に回り込んでおり、神父に向かって炸裂弾を発射する。

 

『迂闊に近付かないのは賢いと言えるが、その程度で私を仕留める事は出来んよっ!』

 

 神父は発射された炸裂弾をショットガンで撃ち落とし、そのまま甲の機体に向け突進する! 

 

 チェーンソーブレードが唸りを上げ、甲の機体を両断せんと迫り来る。

 

『アタシの事を、忘れて貰っちゃ困るね……っ!』

 

 だが、そんな神父の背後から千夏の機体(クリムゾンロータス)が神父を蹴り砕かんと疾駆する! 

 

 神父は既に攻撃体勢に入っており、回避は不可能に思われたが。

 

『無論、忘れてなどいないとも……っ! 私も、甘く見られたものだっ!』

「……っ!?」

 

 ──瞬間、神父は真横にチェーンマインを放出し、爆弾から延びた鎖が千夏の機体の足を絡め取る。

 

 その鎖はそのまま千夏を爆弾に引き寄せるべく動き出すが、間一髪で甲がライフルで鎖を破壊し、千夏の機体が解放される。

 

『──隙を見せたな、門倉甲君……っ! 仲間を想う気持ちは尊いが、それで自分が倒れては本末転倒だよっ!』

「……っ!」

 

 神父はライフル発射後の硬直を狙い、そのままの勢いで甲を斬り裂かんとブレードを振り上げる。

 

 千夏の機体は遠距離攻撃の手段に乏しく、甲もまた攻撃を回避する余裕はない。

 

 だが、甲の眼に諦めの色はなかった。何故なら……。

 

『──いいえ、隙を見せたのは貴方です。お爺様』

『ぐ、ぐぉぉぉぉぉ……っ!?』

 

 ──次の瞬間には上空より飛来したクリスの機体(グリムバフォメット)のブレードが、神父の機体のブレードを右腕ごと両断したのだから。

 

「助かったぜ、クリス」

『今更礼はいいわ。それより、構えなさい。この程度じゃ、お爺様は止まらないわ』

 

 クリスは確かに神父に有効打を与えたが、片腕を失って尚神父の機体から発される威圧感は衰えていない。

 

 腕を落とした程度では、狂信者(グレゴリー神父)が止まる事は有り得ないのだ。

 

『痛い、痛いぞ、なんたる痛さだ……っ! しかし、この痛みもまた……神が与え給うた、試練であるっ! 故に、甘んじてこの痛みを享受しよう……っ! (タラスク)の生誕は、我らが神子の願いを成就させる礎となるっ! 故に故に故に故にぃぃぃぃ……っ! 君達に、邪魔させるワケにはいかないのだあぁぁぁぁぁっ!』

 

 神父は怒号と共にその機体から無数の不気味なドローンを放出し、放出されたドローンは甲達に群がるように襲い掛かる。

 

 当然甲達はそれを迎撃せんと弾丸を放つが、追撃とばかりに神父は無数のチェーンマインを放ち、鎖が甲達を捕えようと迫り来る。

 

「チッ、キリがねぇ……っ!」

『くそっ、うざったいっ!』

『本当、厄介ね……っ!』

 

 遠距離武装に乏しい千夏は近くのドローンを蹴り砕き、甲とクリスは絶え間なく銃撃を放ちチェーンマインを処理していく。

 

 その間も神父はドローンとチェーンマインを放出し続けており、いつまで経っても終わりが見えない。

 

『ふははははははは! 物量に押し潰され、無様な姿を晒すが良いっ!』

 

 神父はこのまま数で押し切るつもりなのか、高笑いをあげながら武装を放ち続けている。

 

 だが、次の瞬間。

 

『──そう上手く行くと思うな、神父』

『ぬ、ぬぉぉぉぉぉ……っ!?』

 

 ──神父の機体に何処からともなく放たれた砲撃が着弾し、周囲のドローンやチェーンマイン諸共パプティゼインが吹き飛ばされた。

 

『よう、助太刀に来たぜ、甲。こいつは俺に任せな』

「親父っ!?」

 

 視界の向こう側から、両腕に巨大な砲塔を携え頭部に威圧的な角を備えた機体……嘲笑する虐殺者(ニーズヘッグ)が現れる。

 

 このシュミクラムは紛れもなく魔狼(フェンリル)の長、門倉永二の機体である。

 

 永二は油断なく砲塔を構えており、痛打を与えた筈の神父を睨みつけている。

 

『今のテメェが()()()()って事に興味はねぇ……あの野郎を騙る別人だろうが、迷い出てきた奴本人だろうがどうでもいい……そのふざけた面、もう一度粉々にしてやるよ』

『ふはははははは! 千・客・万・来! 今日は、実に良い日だ……っ! 神の花婿に選ばれた甲くんだけではなく、因縁深き門倉永二とも再会出来るとはっ! これこそ、我らが神の思し召しであるっ!』

『寝言は寝て言いやがれっ……! 甲が神の花婿だぁ? 冗談じゃねぇ……っ! 甲にはな、立派な嫁さんになってくれる良い子達がちゃんといるんだよっ……! ロクでなしの神様の婿になんざ、死んでもやるものかっ!』

 

 永二はそんな怒号と共に、弾丸を放ちながら神父の機体に突撃する。

 

 神父も無数の回転するブレードを放出し、永二と交戦を開始した。

 

「おいっ、親父っ! その神父は危険だっ! 俺も一緒に戦う……っ!」

『……待て。此処は俺達に任せろ』

 

 永二の下に駆けだそうとする甲を制止するように、背後から厳かな男の声がかかった。

 

 甲が振り向くと、そこには巨大な砲塔で武装した重シュミクラムが佇んでいた。

 

 間髪入れず表情画面が展開され、厳つい大男の顔が映し出される。 

 

「貴方は……フェンリルの……」

『モホークだ。此処は俺と大佐に任せろ……お前は、お前のやるべき事を成せ』

 

 男の声には、有無を言わさぬ威圧感とこちらを慮る思慮が感じ取れた。

 

 泰然としたその雰囲気に自然と甲はこの男を信じる気になり、こくりと頷いた。

 

了解(ヤー)。お願いします」

『……よしっ』

 

 甲の返事を確認すると、モホークは永二を援護するべく神父の機体へと向かって行った。

 

 それを見届けた甲達は機体を反転させ、永二の戦っている場所から離れて移動を開始した。

 

「真ちゃん、レイン! あの野郎の言い方からして、神父の目的は時間稼ぎだった筈だっ! なら、本命の兵器(タラスク)とやらを持ったジルベルトが何処かにいる筈だ……っ! 奴を探してくれっ!」

『既に捜索を開始しています。今まで姿が見えないという事は隠密モードを使っている筈ですから、戦場全域にスキャンをかけて炙り出します……っ!』

『レインさん、私の方でスキャンにセキュリティを透過する特性を組み込みますっ! これで何らかの偽装があってもすぐに見つけられる筈です……っ!』

 

 レインと真の合わせ技により、瞬く間に戦場のシュミクラムの配置が丸裸にされる。

 

 そして、目的のIDを持ったシュミクラム……ノーブルヴァーチェは甲達の進路上、米内の脳内チップの隔壁に向かっている所だった。

 

「見つけたぜっ、ジルベルトっ……!」

『チィッ……っ!』

 

 甲は間髪入れずバズーカ砲を放ち、それを察知したジルベルトの機体(ノーブルヴァーチェ)が隠密モードを解除し、間一髪で砲撃を回避する。

 

 甲達は目前に現れたジルベルトの機体を逃さないよう取り囲み、各々の武器を構えた。

 

(あれは……)

 

 甲達の前に現れたジルベルトの機体の左腕には、見慣れない武装が装着されていた。

 

 逆十字のシンボルが刻まれたその砲塔は何重にも装甲版が重ねられており、スリムな形状のジルベルトの機体とは何処かちぐはぐな印象を受ける。

 

 間違いなく、あれがジルベルトがドミニオンから渡されたという兵器(タラスク)なのだろう。

 

「観念しな、ジルベルト。そんな玩具を持ったままじゃ、満足に逃げる事も出来ないだろう」

『ハッ、甘いんだよ下等生物共っ! 俺様が此処に到達した時点で、俺様の勝ちは決まったのだからな……っ!』

 

 ジルベルトは高らかにそう叫び、周囲にニードルボムを射出する。

 

 甲達は当然の如くそれらを撃ち落とすが、その隙を突いてジルベルトは左腕の砲塔を甲の機体に向けていた。

 

『さあ、これで俺の勝ちだ……っ!』

 

 次の瞬間、ジルベルトの機体に取り付けられた左腕の砲塔がまるで生物のように脈動する。

 

 そして、その銃口から毒々しい緑色の球体が撃ち出された。

 

「……っ!?」

 

 甲は収縮を繰り返すその球体に本能的な危機感を感じ、横に飛んでそれを回避する。

 

 しかし、渾身の一撃が回避されたにも関わらず、ジルベルトの顔には笑みが浮かんだままだった。

 

「……何が俺の勝ち、だっ! そんなもの、当たらなければ意味がないだろうっ!」

『ハッ、馬鹿めっ! 俺様の目的を忘れたかっ……! 貴様の背後に何があるか、よく思い出してみるがいい……っ!』

 

 甲はジルベルトの言葉に背後を確認すると、そこには米内の脳内チップに繋がる隔壁が確認出来た。

 

 無論隔壁は閉じられており、侵入出来そうな穴も見当たらない。

 

「馬鹿はどっちだ……っ! 隔壁に一発撃ち込んだところで、潜脳が成功すると思っているのか……っ!?」

『フハハハハハハハハ! それはどうかなっ!? これは狂信者共が作り上げた、禁断の兵器だ……っ! その威力、篤と見るがいいっ!』

 

 ジルベルトの哄笑と共に、緑色の球体が隔壁に接触する。そして、次の瞬間。

 

 ──その球体は、隔壁をまるで薄紙のように突き破り、内部へ侵入を果たした。メリメリと隔壁が破れ、球体が中へ埋没していく。

 

「馬鹿な……っ!? 壁抜き(パスウォール)でもこうはいかないぞ……っ!?」

 

 甲は焦ったように叫び、隔壁へ向かおうと機体を反転させようとして────────画面越しに響く、男の絶叫に気が付いた。

 

『ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ! 頭が、頭が割れる……っ! 誰か、誰か助け……っ! が……っ!』

 

 ……絶叫の主は、視界の端に映し出されていた映像の中の米内だった。

 

 米内は身の毛のよだつような絶叫と共に頭を抱え、眼や耳から大量に血を噴き出して倒れ伏した。

 

 それに連なるように、米内の周囲に控えていた黒服の男達も次々に彼と同じように血を流して倒れて行く。

 

 その光景を見ていた人々から悲鳴と怒号が上がり、現実の集会場は大混乱に陥っていた。

 

『ははははははははははっ! これは良い断末魔だ……っ! やっと、やっとあの俗物が死に絶えた……っ! これ程までに清々しい気分は、久しぶりだ……っ!』

「ジルベルト……テメェ、やりやがったな……」

 

 これで、真の実体の居場所を知る唯一の人物は失われた。

 

 やっとの思いで辿り着いた手がかりを潰され、甲の視線に明確な怒気が混じる。

 

 それはクリスや千夏も同様で、最早容赦はせぬとジルベルトに向かって飛び掛かる隙を伺っている。

 

『先輩っ! 逃げて下さい……っ! 隔壁内部から謎の反応を検知……っ! そこにいては巻き込まれます……っ!』

 

 ──だが、次の瞬間聞こえた真の声にハッとなって隔壁の方を振り向くと、主を失った脳チップの隔壁がまるで内側から盛り上がるように膨張していた。

 

 その光景におぞましい気配を感じた甲は機体を反転させつつ、クリス達に向かって声を張り上げた。

 

「逃げろっ、二人共……っ! あれはヤバイッ!」

『ええ、そのようね……っ!』

『ああ、こいつになんか構ってられるかっ!』

 

 甲の声に瞬時に反応した二人は機体を反転させ、全速力で隔壁から離れるべく疾駆し始めた。

 

 その光景を見たジルベルトは、歓喜に表情を歪め高笑いをあげている。

 

『フハハハハハハ! そうだ、無様に逃げ惑うのが貴様らにはお似合いだ……っ! これで、これで俺の完全勝利だっ! 汚らわしいAI主義者(エイリアニスト)共め、身の程を知るがいいっ!』

 

 ジルベルトは隔壁の異様な様子にも気付かず、ただ逃げ惑う甲達を見て上機嫌で侮蔑の言葉を吐き捨てている。

 

 だが、そんな時不意にジルベルトの耳に部下からの声が響き渡った。

 

『隊長っ、マズイですっ! 後ろを見て下さい……っ!』

『……ああ? 後ろだと……? ……っ!? な、なんだあれは……っ!?』

 

 部下の言葉通りにジルベルトは背後を振り向き、そこでようやく隔壁の異常に気が付いた。

 

 隔壁は何か巨大なものが無理やり内部に押し込められたかのように膨張し、至る所が不気味な泡立ちを始めている。

 

 ジルベルトは今まで彼の窮地を幾度となく救って来た本能的な危機感に従い、全速力でその場から逃げ出した。

 

 そして次の瞬間、隔壁を突き破るようにして()()は姿を現した。

 

 ──それは、暗緑色のスライム状の物体だった。

 

 隔壁から津波のように流れ出たその液状の物体は、膨張と収縮を繰り返しながら周囲の構造体を飲み込んで行く。

 

 そのあまりの容量に、周囲のAIのシュミレーションに異常が生じ始めた。

 

『た、隊長……た、助け……っ!』

 

 その液体が近付いただけでシュミクラムは膨大な過負荷によって爆散し、ジルベルトは通信越しに部下の断末魔の声を耳にした。

 

 ジルベルトは全力でその場から離脱しながら、苛立ちも露わに舌打ちする。

 

『なんだこれは……っ!? こんなもの、俺は聞いていないっ! 聞いていないぞ……っ!? あの狂信者共、とんでもないものを寄越しやがって……っ!』

 

 そして、その光景を見ていたのはジルベルトだけではない。

 

 その戦場にいた誰もが、その異様な光景に絶句し……その脅威から逃れるべく、シュミクラムを反転させていく。

 

『一体……なんなんだ、ありゃあ……っ!?』

『フハハハハハハハハ! あれこそ、あれこそ(タラスク)の生誕である……っ! 悪魔の仔は無事、この世に生れ落ちる事が叶ったのだっ! 感謝するよ、ジルベルト君っ! ()()()()()()()()()()()()()のだからっ!』

 

 呆気にとられる永二に対し、神父は高らかにそう謳いあげる。

 

 神父を問い詰めようとした永二だが、今この瞬間も緑色の津波は周囲を飲み込むべく押し寄せている。

 

 後ろ髪を引かれる思いを残しながらも、永二は舌打ちしモホークと共にその場から離脱した。

 

 ──正体不明の異様な津波は、周囲一帯を残らず飲み込んだ後急速に固体化して崩れ落ちた。

 

 その津波に巻き込まれ、ダーインスレイヴは壊滅……フェンリルもまた、少なくない被害を被った。

 

 こうして、米内を巡る戦いは予想外の終結を迎えた。その爪痕を、仮想の大地に深く刻み付けて……。




 米内は結局死の運命を乗り越えられませんでした。というか、別に乗り越えさせる必要を感じなかった、というのもありますが。

 ちなみにタラスクは、デスザウラーに対するジェノザウラー、と考えればいいかもしれません。この例えが分かる人いるかな?結構昔のアニメだけど
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