BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
「チッ、キリがねぇな……っ!」
甲はビームソードで迫り来るウイルスを破壊しながら、思わずそう愚痴った。
あれから甲達3人はドミニオンのウイルスを殲滅しながら仮想のバルドルが存在する場所へと向かっていたが、如何せんウイルスの数が多過ぎる。
ミッドスパイアの構造体に出現したドミニオンはシュミクラムの数こそまばらだったがウイルスの数が尋常ではなく、どの通路を行くにも大量のウイルスを駆逐しながら進む必要があった。
その為、甲達の進行速度は遅々としたものにならざる負えなかった。
……甲達は現実のバルドルの近くで没入したのだが、何故か仮想のバルドルから遠く離れた位置へ降り立ってしまったのだ。
真が没入出来なかった事からなんらかの妨害工作が為されているのは確実であり、その影響かとも思われたが……生憎、此処には普段サポートを担当している真もレインもいない。
現実に取り残された真はサポート能力の大半が仮想での自分の能力をフルに生かしたものである為、没入しなければその真価を発揮出来ない。
能力を特化し過ぎた影響で応用力を犠牲にしていたのが、此処で裏目に出てしまったのだ。
真はそれでもなんとか現実でサポートに回ってくれているが、没入出来ていない以上普段程の精度は望めない。
それでも少しでも敵の少ないルートを算出してくれている為、甲としてはそれだけでもありがたかった。
何せ、ドミニオンは何処にこんな戦力を溜め込んでいたのかと思う程、尋常ではない数のウイルスを投入して来ていたのだから。
多少でも負担が減るのは、願ったり叶ったりだ。
『甲! お前も没入してたのかよ……っ!?』
そんな時、黄色いカラーのカゲロウの同型機、カゲロウ・鎧が現れ表情画面に雅の顔が映し出された。
雅の表情は驚愕に彩られており、甲達が破壊した大量のウイルスの残骸を見て眼を見開いている。
『凄ぇな、これ全部お前等が倒したのか……しかし、本当の都市自警軍でもないのにこんな所で戦って大丈夫なのか?』
「長官のお墨付きだ、心配ない。それより雅、お前一人か? お前は都市自警軍なんだから、部下の一人でもいるんじゃないのか?」
甲の言う通り、雅は他に部下を連れて来ているようには見えない。
本職の都市自警軍刑事でそれなりの地位にある以上、戦場に出るのであれば部下を連れて来るのが普通の筈だが……。
『残念だが、操作席が使用不能になった所為で大半の連中は没入出来てねぇんだ。没入出来る奴等はよりにもよって研修生上がりの新人ばっかでよ、俺の判断で待機を命じた。あいつらに、こんな戦場はまだ早過ぎるからな』
「それを言うならお前もじゃないのか? 本物の戦場を駆け巡って来た俺達と違って、戦争経験はないんだろ?」
甲の問いに、雅は心外だとでも言うかのように溜め息を吐いた。
『……あのな、それでもギャングのアジトの襲撃なんかで修羅場自体は潜ってるんだ。全然戦えないってワケじゃない……ま、歴戦の傭兵のお前等と比べられちゃあ形無しだがな』
雅はそう言い、肩を竦めて見せた。確かに、数々の戦場を渡って来た甲達と比べれば雅の実力が劣る事は否定出来ない。
だが甲としても学園生時代はチームを組んでいた相手であるし、相手の呼吸も分かっている。
少なくとも、見ず知らずの相手よりは連携は取れそうだ。
「戻れ、って言っても聞かないよな……仕方ない。じゃあ一緒に行くか、雅。どうやら神父の野郎がバルドルを目指してるらしくてな、俺達はそれを追いかけてる最中だ。相応に危険を伴うが、本当に付いて来るか?」
『ドミニオンの親玉が……? 分かった、付いて行くよ。危険な場所に行くんだとしても、お前等と一緒の方が生存率は上がりそうだ』
雅の返事を聞き、甲はクリスと千夏に目配せして構造体の奥へと再び疾駆を開始した。
当然の如く四方八方からウイルスが群がって来るが、甲のミサイルランチャーや射撃形態にシフトしたクリスの砲撃で一気に数を減らし、撃ち漏らしを千夏が蹴り砕いて行く。
雅は近付いて来たウイルスを打ち倒しながら、その光景を見て呆気に取られている。
『……やっぱ、お前等凄ぇわ。これが、本物の傭兵か……』
「1対多も日常茶飯事だからな。これくらい出来なきゃ、とっくに死んでる。まあそれでも、この数は異常だがな……余程ドミニオンは、今回の作戦に熱を入れているみたいだ」
確かに、甲の言う通りこれだけの戦力を投入した以上、ドミニオンにとってこの戦闘はかなり重要な位置づけの筈である。
神父が出て来ているのは確認済みだし、神父の言葉を信じるのであればドミニオンの神子も来ている可能性が高い。
正に、総力戦といった風情である。
『甲っ、前方にドミニオンのシュミクラム3! ウイルスをうじゃうじゃ引き連れてるよ……っ!』
そんな時、千夏の言葉に前方に目を向ける。
そこには斧のような武装を持ったドミニオンのシュミクラムが、無数のウイルスを引き連れて奥へと進んでいる最中だった。
「行くぞ……っ!」
敵の数を確認した甲は躊躇いなくミサイルランチャーを発射し、ウイルスの半数を吹き飛ばす!
クリスも回転刃を無数に射出し、残ったウイルスを斬り裂きながらドミニオンのシュミクラムの行動範囲を狭めて行く。
『砕け散れっ!』
『刻んであげるっ!』
「喰らえっ!」
そして、千夏の蹴りとクリスのチェーンソーブレード、甲のパイルバンカーが敵シュミクラムの頭部を破壊し、3機のシュミクラムは爆散。
敵全員の、
「…………」
……甲達にとって敵を脳死させる事はそう珍しい事ではない。だが……どうやら
──その光景を、雅は何処か複雑な表情で見ていた……恐らく、彼はまだ戦場で敵を殺した事がないのだろう。
何せ今の雅の眼は、傭兵になったばかりの頃の甲とそっくりだったのだから。
「……どうした、雅。怖くなったか?」
『……いや、お前等とは本当に住んでいる世界が違うんだなって、ちょっと寂しくなっただけだ……あ、でもお前等を責めてるんじゃないからな? そこは誤解しないでくれよ』
雅は苦笑しながらそう話すが、表情のぎこちなさが隠しきれていない。
その様子を見て、甲は彼が自分達とは生きる上での常識が違う世界にいるのだと、改めて痛感せざる負えなかった。
それを理解した瞬間、甲は鋭い声で雅に向かって話しかけた。
「……雅、今からでも遅くない。お前は戻れ……此処から先は、敵を殺す覚悟もなしに行ける程甘い場所じゃない」
『甲、でも……っ!?』
「──お前に、人が殺せるか? Yesと即答出来ないようなら、連れて行っても死ぬだけだ」
甲の問いに、雅は……黙りこくる、だけだった。何を言っていいか分からず、沈黙を続けている。
……これは、仕方のない事だ。雅は都市自警軍、刑事であり
甲達のように、法を掻い潜って戦っている
それを理解してしまったからこそ、雅は甲の問いに肯定を返せなかったのだ。
『……すまない。後は任せた』
「ああ、心配するな……ドミニオンは、俺達が片付けてやる。お前は安心して、
『……後は頼む。死ぬなよ』
雅は悔し気な表情でそう言い残すと、そのまま離脱した。
甲は親友を突き放してしまった罪悪感を抱えながらも、クリス達に目配せして再び奥へ進み始めた。
『大丈夫よ。今生の別れでもあるまいし、後でしっかりフォローしてあげなさい。失敗したら慰めてあげるから、安心なさい』
「……ああ、すまないクリス。行くぞっ! 今度こそ、あのクソ神父との因縁に決着を着けてやる……っ!」
『『
甲の掛け声と共に千夏とクリスが共に勢いよく声をあげ、シュミクラムの速度を上げて疾駆し始めた。
未だ襲い掛かって来るウイルスを蹴散らしながら進む中、甲達の視界に表情画面が展開されレインの姿が映し出される。
『お待たせしました……っ! これからは、私がサポートを担当しますっ! 真さん、演算補助をお願いします……っ!』
『
どうやら現実で真達と合流したらしいレインがサポートに名乗り出て、真はその補助に回っているようだ。
すぐに甲達の下に精度の高い構造体の配置図が送られて来ており、敵の位置も丸わかりとなっている。
比較的ウイルスの少ない安全なルートも示されており、そのナビゲートに従った甲達は、先ほどまでとは段違いのスピードで構造体の奥へと進んで行く。
『……ごめんなさい、先輩……私がレインさんみたいにもっとしっかりしていれば……』
「そんな事ないよ、真ちゃん。レインと真ちゃんじゃ、得意分野が違うんだ。真ちゃんは真ちゃんの強みを生かして、今後もサポートしてくれると嬉しいな」
『……はいっ! 頑張ります、先輩!』
レインの仕事ぶりと今回の自分の仕事ぶりを比較してしまい落ち込んでいた真に、甲は優しく声をかける。
甲の言葉である程度吹っ切る事が出来たのか、真は明るい表情でそう答えた。
この調子なら、今後もサポート能力に影を落とす事はなさそうだ。
今回はたまたま真の強みが封じられただけで、仮想世界で無双出来る彼女の力は本物だ。
没入制限さえ解除されれば、心強い味方として一緒に戦ってくれるだろう。
『甲さん、見えました! そのハッチの先が仮想のバルドルですっ!』
レインの声に前方を確認すると、そこには現実のものと酷似した大仰なハッチが備え付けられていた。
シュミクラム用の扉である為か、現実のそれよりも遥かに大きい。
「なっ……!?」
──次の瞬間、ハッチの封鎖が解除され、扉が開いて中への通路が出現した。
呆気にとられる甲達の前に表情画面が展開され、再びグレゴリー神父の姿が映し出される。
『遅かったではないか、門倉甲くん。少々、待ちくたびれてしまったよ』
「神父……っ!? テメェ、どうやって中に……」
『我らが神子の前では、この程度の壁などないも同然なのだよ。さあ、入って来たまえ。
そう告げるなり表情画面は消滅し、甲はクリス達に確認を取りハッチの内部へと足を踏み入れる。
その先では、現実で見たものと全く同じ機械の柱……バルドルシステムの威容が、甲達を出迎えていた。
だが、予想に反して神父達の姿は見えない。
不審に思い周囲を見回すと、バルドルのすぐ傍の地面が波打ち、まるで水面下から浮上するように無数のシュミクラムが床下から出現した。
集団の先頭にはグレゴリー神父のシュミクラム、パプティゼインの姿があり……その隣には、
「あれは……っ!?」
全身が黒くコーティングされ、細部に正体不明の武装こそ付いているが……両腕にチェーンソーブレードを構える蟷螂の如きその機体は紛れもなく、
漆黒のシュミクラムは甲の姿を視界に捉えると、歓喜に満ちた様子で機体を震えさせた。
『やっと、やっと会えた……こうしてこの世界で会うのは初めてね、甲……この日を、一体どれだけ待ち望んでいたか……っ!』
──そして、突如漆黒のグリムバフォメットの姿が変化し電子体の少女が現れる。
印象的なヴェールマスクで顔を隠したその姿は間違いなく、これまで何度も映像越しに遭遇して来た……ドミニオンの神子、そのものだった。
『こいつが、噂のドミニオンの神子か……こんな状況で電子体になるとか、馬鹿なのこいつ……?』
『……貴方の返答は聞いていないわ。私は、甲に話しかけているの……邪魔しないで』
戦場でいきなり電子体になった神子を訝し気に見ていた千夏に対し、神子は絶対零度の視線を送り付け吐き捨てるようにそう呟いた。
声の温度が、甲に話しかけた時とは全く違う。
まるで道端の虫でも相手にしているかのような、相手の人格を一切認めていないかのような声色だった。
千夏は神子の放つ得体の知れないプレッシャーに思わず息を呑むが、持ち前の気丈さで神子を睨みつけた。
『はん、戦場で自分から通常の電子体になるような馬鹿が何言ってんだよ。大体、何で甲を呼び捨てなのさ? アンタが何処の誰かは知らないが、ちょっと馴れ馴れしいんじゃないのかい?』
『……鬱陶しい。私が彼をどう呼ぼうと、私の勝手でしょう? 甲、貴方は私を受け入れてくれるわよね?』
神子は千夏に忌々し気な声を向けながら、蕩けるような甘い声で甲に呼び掛けた。
甲は神子の声に込められた出所の知れない好意の感情に思わず寒気が走り、返答に窮していた。
それでもなんとか言葉を紡ごうとする甲だが、彼が口を開く前に凄まじい殺気が甲の隣から迸った。
『──寝言も大概にしなさい。貴方如きが、甲を呼び捨てになんてしていいワケがないでしょう』
嫌悪の感情を隠しもしないクリスはチェーンソーブレードを唸らせながら切っ先を神子に向け、吐き捨てるようにそう言い放った。
瞬間、神子からもクリスに匹敵する凄まじい嫌悪と憎悪の感情が立ち上る。
『……うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……っ! 口を開くな視線を向けるな四肢を動かすな私を見るな彼を見るな目を開くな息をするな口を閉じろ目を抉れ指を落とせ腕を落とせ足を落とせ首を落とせ……っ! 私は、甲と話しているの……っ! お前なんかに、邪魔はさせない……っ!』
有りっ丈の憎悪を叩きつけるかのように、神子は怨嗟の声をクリスに対してぶちまけた。
考え得る限りの悪意の感情を向けられたクリスは、そんな神子を鼻で笑い嘲笑を浮かべた。
『フン、口先だけは一丁前ね。けど、いつまでその被り物をしている気かしら……? いい加減、その面を見せなさい……っ!』
クリスはそう叫ぶと神子に向かって銃弾を放ち、神子は素早い動きで瞬時に真横に飛んでそれを躱した。
しかし、銃弾がヴェールマスクの留め具を破壊し、ハラリとヴェールマスクがずり落ちる。
そして、神子の素顔が面前に晒された。
「……そんな、馬鹿な……っ!?」
──それは、甲の
色素の抜けた白い髪に、眼は充血して紅く血走っているが……それは、紛れもなく……
雅はこれで死亡フラグ回避。本物の戦場だと生き残れる確率がないので、戦線離脱する以外生存出来なかったでしょうからね。雅の見せ場はまた後で。