※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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浸蝕ーEden’s Invasion ー

「……これが、レヴィアタン、だと……」

 

 甲は遂にその姿を現したレヴィアタンを見上げ、思わず息を呑んだ。

 

 燐光を発する巨大な漆黒の球状の姿をした怪物の外殻の隙間からは無数の白い腕が何かを探し求めるように突き出しており、それは見ているだけで背筋が寒くなるような悪感を突き付けられた。

 

 赤黒く脈動する巨体の表面はマグマのように泡立ち、()()()()()()()()を伝えて来る。

 

 それは地獄をそのまま切り取ったかのような、不気味極まりない光景だった。

 

『そうとも、これこそが我らが神子によって生み出されし悪魔……レヴィアタンだ。我らにとっての楽園であり、人々にとっての形ある浄土でもある。君にとっては、倒すべき大敵(ラスボス)に見えるのだろうがね』

 

 神子の話に区切りが着いたからなのか、それまで沈黙を保っていた神父が穏やかな声でそう語りかけて来る。

 

 表情画面に映る神父の表情には歓喜と悲哀がない交ぜになったかのような、複雑な表情が浮かんでいた。

 

「ハッ、何がラスボスだよ。ゲームでもあるまいし、ふざけるのもいい加減にしろよな」

『ゲームだよ。まだ、君は気付いていないのかね? それは人知を超えた、巨大なライフゲームだ……と、()()()()()()()()ならば言ったのだろうが……今は、違うのだよ』

 

 そして、神父は大仰に両手を広げ、告げる。

 

『何故ならばっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから……っ! この世界は、神の遺志を受け継ぎし我らが神子が作り給うた箱庭(ゆめ)そのもの……っ! 故に、君は君達だけの力で運命に抗わなければならない……茨の道だが、君にその覚悟がおありかな?』

「……なんだと……?」

 

 甲は神父の言葉が、()()()()()()()()()という言葉が妙に耳に残り、嫌な感覚を覚えた。

 

 それはまるで()()()()()()()()という事を突き付けられたかのような、妙な焦りにも似た感覚だった。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()と、甲は無意識のうちにそんな強迫観念が浮かび上がって来る事を感じ取った。

 

 それは天啓のようでもあり、()()()()()()()()()()()()()()と、甲に確信させるものでもあった。

 

『余計な事は言わなくていいわ、神父(お爺様)。折角()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに……予定外の()を作られたら、どう責任を取るつもりかしら? 

 ノインツェーン(敗者)と違って、観測者達(勝者)は生き残っているんだから……聞き耳を立てられるような、迂闊な真似はおよしなさい』

『おお、浅慮なる我が身をお許し下さい、神子よ……っ! 処罰はなんなりと、この身の全ては貴方様に捧げたものであります故に……っ!』

 

 神子は神父に対し、冷たい視線で制止の声をかけ、神父は大仰な仕草で神子に跪いて見せた。

 

 その様子を見ていた神子は表情画面に映し出された顔に笑みを浮かべながら、神父に近付きつつ甲の方に振り向いて来る。 

 

『甲、貴方は久利原(師匠)に会いたかったのよね? その願い、叶えてあげましょうか?』

「……なんだって……?」

 

 神子の予想外の言葉に、甲は思わず眉を潜めた。

 

 甲の訝し気な視線を気にもせず、神子は笑みを浮かべて甲に語り掛ける。

 

『このお爺様の正体はね、ノインツェーンの分身(バルドル)に接続した犠牲者(いけにえ)の電子体を、ノインツェーンがバルドルに遺したウイルスが浸蝕し……その電子体を書き換えた、成れの果てなのよ。つまり、今此処にいるグレゴリー神父(お爺様)()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ! もっとも、久利原の意識なんてとうに消え失せているでしょうけどね』

「……っ!?」

 

 ──その言葉を聞いていた全員が、戦慄するように神父の機体(パプティゼイン)を見据えた。

 

 その視線に気付いた神父は、大仰に手を広げ甲達に語り掛ける。

 

『『私はアセンブラの開発を成功させる為、危険と知りながらバルドル(悪魔)の手を取った……っ! その甲斐もあって、私はアセンブラを開発する事に成功した……っ! その為に、私は……私、は……っ!』』

「……っ!? せん、せい……」

 

 ……神父の口から聞こえた声には、確かに久利原の声が重なっていた。

 

 最初は歓喜に満ちていた声は最後には嗚咽交じりになり、その声からは久利原の悲哀が感じ取れた。

 

 その声を聞いていた神子は舌打ちし、忌々し気に神父の機体を睨みつけた。

 

『……やっぱり、久利原の意志力は強靭ね。一瞬で陥落したジルベルト君とは、レベルが違うわ……本来、すぐさま浸蝕が完了する筈なのに、あれだけの長期間耐える事が出来た時点で相当なものだったけど……今尚、意識の残滓を残しているなんてね』

 

 呟くように語る神子の眼に、危険な光が宿り始める。

 

 甲が嫌な予感を感じて口を開く前に、神子は容赦なくその決定を宣告した。

 

『──貴方はもう用済みよ、グレゴリー神父(久利原直樹)。その功績(罪科)を以て、楽園(レヴィアタン)の糧となりなさい』

「……っ!? やめ……っ!」

 

 ──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──

 

 ──次の瞬間、レヴィアタンの咆哮と共に外殻の隙間から伸びる無数の白い腕が重なり合って実体を持ち、巨大な龍の咢となって神父の機体(パプティゼイン)を噛み砕いた。

 

 バラバラになった機体の残骸から致命傷を負った神父の電子体が投げ出され、その姿がブレるように久利原の姿へと変じていく。

 

 だが、久利原の身体は龍の咢の奥から伸びる無数の白い腕に掴まれ、まるで龍の舌を思わせる腕に絡め取られるようにして、その姿はレヴィアタンの中に消え去った。

 

 茫然とその光景を見ているしかなかった甲は一瞬後に事態を理解し、神子とその背後に浮かぶレヴィアタンを睨みつけた。

 

「お前、なんて事を……っ!?」

『あら、ノインツェーン・ウイルス(お爺様)に浸蝕された時点で久利原直樹は死んだも同然だったのよ? 当然、元に戻る手段なんかない……だったら、介錯してあげるのはむしろ慈悲ではないかしら? 私にとってもレヴィアタンを完成させた今、久利原の頭脳は必要ないから解放してあげただけに過ぎないわ。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()ね』

 

 神子がそう告げると同時に、バルドルの近くに控えていた数機のドミニオンのシュミクラムがいきなり胎児のように身体を丸め、ガタガタと震え出した。

 

 そして、機体の表面が黒いゴムのようなものに覆われていき……次の瞬間には、それらの機体は全くの別物と化していた。

 

 ──重量級の巨体に、両腕に禍々しいチェーンソーを装備したその機体は、紛れもなくグレゴリー神父の機体……パプティゼインだった。

 

()()()()()()()()()()はそれぞれ大袈裟に一礼すると、3つの表情画面が表示され、その全てにグレゴリー神父の顔が映し出された。

 

「なっ、テメェは今死んだ筈じゃ……っ!?」

 

 甲の驚愕の言葉に、神父は満面の笑みを浮かべる。

 

『そう、だが我は速やかに復活する……っ!』

『我々は神子の啓示を受け、新たな肉体を得て蘇った』

『我らこそ、神子の忠実なる下僕……一つの電子体(にくたい)が死した程度で、私が消滅する事など有り得ないのだ……っ!』

 

 甲の疑問に答えるように、()()()()()が笑みを浮かべてそう宣告した。

 

 悪夢のような光景を前に甲は呆然となり、クリスは頭痛を堪えるように頭を抑えている。

 

 事態を全く理解出来ていない千夏に至っては、どうしていいか分からず頭を抱えている始末だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。戦力としてのお爺様は、こうして幾らでも()()出来る……本来であれば適格者でなければお爺様にはなれないけど、電子体をちょっと()()()この通り……ノインツェーンの知識があれば、この程度どうという事はないわ』

 

 まるで他人の人権を一切認めていないかのような神子の発言に、甲は目の前の少女が最早自分の知るクリスとは()()である事を理解する。

 

 この少女は、()()()()()()()()()()()()しまっている。

 

 人を人とも思えず、自分と甲以外の人間がどうなろうと欠片も心が痛まない。

 

 彼女にとって本当に価値があるのは、自分と甲だけなのだ。

 

 それ以外は全て背景と同じであり、彼女にとっては人体実験すらも、()()()()()()()程度の意味しか持たないのだろう。

 

 甲の知るクリスは確かに倫理に欠ける所はあるし、発言も行動も過激ではあるが……決して、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人間を人間として見ていない、目の前の少女のような悪辣さは決して持ち併せてはいないのだ。

 

『……そう。貴方、やっぱりあの機械(バルドル)と接続したのね……?』

 

()()()()()()()()()()()()()()クリスは神子の人格にではなく、その言葉に反応してそう呟いた。

 

 それを聞き届けた神子は、舌打ちと共にその問いを肯定した。

 

『……ええそうよ。私は、お爺様の考えている事を知る為に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……その結果()()()が流れ込んで来て、それが原因で()()()()()()を犯してしまったのだけれど……間接的にとはいえバルドルに繋がった以上、私の事も浸蝕しようと()()()()()()()の中にノインツェーン・ウイルス(ノインツェーンの記憶)が流れ込んで来たわ』

 

 神子は忌々し気に舌打ちし、話を続ける。

 

『直接バルドルに繋いだワケじゃなかったから浸蝕速度は緩やかだったけど、普通なら私もお爺様に成り果てていたんでしょうね』 

 

 でも、と神子は凄絶な笑みを浮かべ話し続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。だから無自覚に愛を求めていたノインツェーンの心に、私が愛の感情を叩きつけて(教え込んで)やったのよ』

 

 神子は口元を歪め、嘲笑を浮かべる。

 

『結果として意志薄弱状態だったノインツェーンは私の感情を自分のものであると錯覚し、逆に私の中に取り込まれたわ。今ではもう、彼は私の外付けメモリのようなものよ。欠片とはいえノインツェーンの記憶からは、様々な知識を得られたわ……全ての知識を得られたワケではないから、お爺様(久利原)の知識を必要としたのは歯痒かったけれどね』

 

 そう語る神子の背後に、甲は呆然と彼女に従う見覚えのない機械の姿を幻視した。

 

 その機械はまるで親を慕う子供のように、黙って神子(クリス)の背後に佇んでいる。

 

 甲にはそれが、無自覚な虐待を受ける子供の姿のように見えて仕方なかった。

 

『当然、ノインツェーン・ウイルス(お爺様の性質)も改変済みよ。彼にはノインツェーンではなく、私に従うようプログラムを組み替えたわ……元より今のお爺様は、NPCのようなものだもの。今の私にとっては、楽な作業だったわね』

「お前、は……」

 

 甲は目の前の少女に何を告げていいのか分からなくなり、ただ呆然と神子を見つめている。

 

 姿形だけは甲の知るクリスと瓜二つのその少女の内面は、最早人には理解出来ないものへと変貌してしまっている。

 

 その事にショックを受ける甲の耳に、焦ったようなレインの声が飛び込んで来た。

 

『甲さん……っ! あのレヴィアタンと呼称される存在が、活動状態に入ろうとしています……っ! DOS攻撃の兆候あり! 逃げて下さい、甲さん……っ!』

「……っ!?」

 

 甲と同じ報告を受けたのだろう。クリスと千夏の表情も、甲と同じ驚愕が浮かんでいる。

 

 そして、クリスは笑みを浮かべる神子を睨みつけた。

 

『……貴方、だらだらと喋っていたのはレヴィアタンが本格的に動けるようになるまでの時間稼ぎだったのね……っ!?』

『ふふ、今更気付いてももう遅いわ……っ! さあ、もう眠気は取れたでしょう? 起き(起動)なさいレヴィアタン……っ! 手始めにこのミッドスパイアを、楽園に塗り替えてあげる……っ!』

 

──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──

 

 瞬間、レヴィアタンはより悍ましい咆哮をあげ、その機体から耳障りな低周波を放ちながら甲達に向かって動き出し始めた。

 

 レヴィアタンが前に進む度に周囲の空間が膨大な過負荷によって捻じ曲がり、壁面のテクスチャが歪み、剥がれていく。

 

 過負荷は徐々に広範囲に広がっていき、まるで津波のように周囲の空間を浸蝕していった。

 

「く……っ! 逃げるぞ! クリス、千夏……っ!」

『『了解(ヤー)!』』

 

 甲はクリス達と共に機体を反転させ、迫りくるレヴィアタンから逃れるべく来た道を逆走していく。

 

 神子(クリス)はいつの間にか展開されていた円形の力場の中で、まるで周囲の過負荷が存在しないかのように逃走していく甲達の後姿を見つめていた。

 

『嗚呼、そんなに怯えて可哀そう……けど、時間をかければ貴方もきっと分かってくれるわ』

 

 神子は陶然とした笑みを浮かべ、告げる。

 

『今は逃げてもいいわ、甲……然るべき時が来たら、必ず迎えに行くから……それまで待っていて、甲……っ! その時までにはきっと、楽園(レヴィアタン)も貴方を迎えるのに相応しいものになっているから……っ!』

 

 神子(クリス)の言葉を証明するかのように、レヴィアタンはまるで獲物をいたぶる猫のような遅々とした速度で甲達を追い回した。

 

 甲達が離脱を終えるまで、レヴィアタンは周囲の空間を浸蝕しながらミッドスパイアの構造体を蹂躙し尽くした。

 

 致死の過負荷を振りまかれたミッドスパイアの構造体はまるで廃墟のように荒れ果て、無残な姿を晒す事になった。

 

 ──仮想に展開していた対AI対策班と都市自警軍の部隊は、レヴィアタンによって壊滅した。

 

 今日この日を以て、ミッドスパイア構造体はドミニオンの手に堕ちた。

 

 偽りの理想郷はその虚飾を剥がされ、仮想の怪物が巣食う万魔殿へと姿を変えた。

 

 魔窟となった楽園の中、悪魔(レヴィアタン)は今も尚不気味な咆哮をあげ続けていた……。

 

 

 ~Page6~目覚めーAwakingー/End




 分岐0/世界0における世界干渉合戦は終了しており、この世界では基本的に特異点は発生しない。

 これが、甲達の戦力を強化した最大の理由です。都合の良い時に特異点の助けが入らない以上、自力でどうにか出来る実力がなければバッドエンドまっしぐらになってしまうからです。  
 
 また、このストーリーでは、世界0のノインツェーンを『オリジナル』として解釈しています。その為世界0のノインツェーンが死んだ事で、他の世界のノインツェーンも弱体化、夢遊病のような状態に陥った所を神子(クリス)が付け込んだ形です。
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