BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
まず始めに動いたのは、
パプティゼインは両腕のチェーンソーを振り上げ、甲達の先頭にいたフェンリルの機体に斬りかかった。
『ふはははははははは……っ! 神の愛を、受け入れるが良いっ!』
しかし一隊員とはいえ歴戦の魔狼の一人、鈍重なパプティゼインの一撃を回避し、機銃を神父の機体に向け撃ち放った。
だが、パプティゼインの装甲は銃弾ではビクともせず、そのままチェーンソーでシュミクラムを両断しようと右腕を振り下ろす。
『ウチの部下を、やらせるかよっ!』
──しかし、パプティゼインは寸前で割り込んだ
『ワラワラワラワラと沸いて来やがって、ボウフラかテメェは……っ!? いい加減、くたばりやがれ……っ!』
『ぬぉぉぉぉぉぉぉ……っ!?』
そして、そのまま零距離で大砲を撃ち放ち、神父の機体を爆散させた。
搭乗者の
『無駄だよ、永二くん……我々は既に、個体ではない』
『我々は大いなる神の思し召しにより、楽園を構成する
『指の一つが欠けた程度では、私達を止める事は出来ないのだよ』
3体の神父は口々にそう言いながら、チェーンソーブレードを永二に向けた。
その光景を見て永二は憶するどころか、戦意を漲らせて高らかに叫んだ。
『へっ、そうかい……なら、最後の一本になるまでその指を斬り落としてやるよ……っ!』
永二は瞬時に大砲を三連射し、神父の機体を吹き飛ばすと、そのまま追撃するべく機体を疾駆させた。
鈍い金属音が鳴り響き、永二はパプティゼインへ猛攻撃を開始した。
『さあ、まずは貴方から
『チッ……っ!』
漆黒のシュミクラムを駆る
千夏は素早い身のこなしでその一撃を回避し、神子を迎撃せんと右足を振り抜いた。
『ハッ、その程度で私をどうにか出来るとでも……っ!?』
だが、鋭い刃を備えた千夏の蹴撃を、左腕のチェーンソーブレードで受け止める。
そしてそのまま、右腕のチェーンソーブレードを千夏の機体を両断せんと振り抜く。
『止めろ
しかしその寸前で甲のブレードが
千夏はそのまま甲に加勢しようとしたが、横合いから迫るパプティゼインを発見し、そちらの迎撃に向かう。
『嗚呼、邪魔しないで甲……っ! 貴方の相手は、最後だと決めていたの……っ! でも、
神子は蕩けた声でそう叫ぶと、バックステップで一度後退し、甲を抱き締めるかのように両腕のチェーンソーを甲の機体を挟み込むように振るう。
甲はバックジャンプで回避しながら、マインスイーパを落とす。
しかし、神子は右腕のチェーンソーの付け根に装備された機銃で甲のマインスイーパを撃ち落とし爆散させた。
「くっ、
『……ふふ、この子はもうかつてのグリムバフォメットじゃないわ……私が更に
二振りのチェーンソーブレードを回避した甲は嫌な予感を感じ、本能的に真横へ駆け出した。
──そして次の瞬間には、甲のそれまでいた場所に神子の
「……っ! そんな武装を、隠し持っていたのか……っ!」
甲は
あのままあの場所に留まっていれば、あの追加武装によって機体は両断されていただろう。
彼女の言葉通り、
あの四本の腕以外にも、追加された武装があると考えて然るべきだ。
追加された二本の腕は、背部から伸びるプレートに偽装されていた……ならば、背部に取り付けられたもう一つのプレートもなんらかの追加武装だと考えた方がいいだろう。
『シフトッ……!』
そうこうしているうちに、
だが、その姿を蜂を模したグリムバフォメットの射撃形態とは異なったものだった。
機体腕部の四本のチェーンソーブレードは十字型にして四方に装着され、脚部は折り畳まれて砲塔に変化している。
それはまるで戦闘ヘリのような、無骨で鋭利な姿へと変貌していた。
『さあ、
「な……っ!?」
次の瞬間、神子は四本のチェーンソーブレードをまるでプロペラのように回転させ、そのまま空中を滑空し甲目掛けて飛び込んで来た。
甲は咄嗟に疑似光体翼を展開し、回転する刃そのものとなった神子の機体の突進を回避する。
しかし神子の機体は甲に追い縋るように速度を上げ、回転する四枚刃を剥き出しにして追撃して来る。
『嗚呼、
甲はバズーカ砲を撃ち出して、神子を迎撃する。
しかし、砲弾は高速回転する四枚のブレードによって両断され、神子の機体に届く間もなく爆散する。
だがその結果を予想していた甲はその爆発の余波を利用して強引に飛翔の方向を変え、リリスバフォメットから距離を取る為速度を上げた。
「……ふぅ……」
一先ず攻撃を回避出来た事に、甲は安堵の息を漏らす。
疑似光体翼はその余りの速度の為小回りが効かず、戦闘利用には向いていない。
しかも、今は真が脳内チップにいない為に形状記憶から再現した、形だけ模倣した張りぼてに近い状態だ。
逃走用と割り切れば使用出来るが、広さに限りがあるこの空間では逃走にも限界がある。
正直、神子の実力は甲の想像以上だった。
クリスの強さを良く知る甲から見ても、神子はかなりの
彼女の
その攻撃性能は、脅威の一言に尽きた。
だが、狂気に陥っている為か左程我慢強くはないのだろう。
繰り返し自分の攻撃を回避する甲に焦れたのか、神子はとうとう背後に浮かぶレヴィアタンへと指令を告げた。
『さあ、そろそろ遊びは終わりよ……
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
──そして、その一言によって戦場は
レヴィアタンのおぞましい咆哮が轟くと同時に、周囲に点在していた緑色の沼地から無数の白い腕が折り重なった龍の咢が出現する。
白い龍顎は凄まじい速度でその総身を振るい、近くにいた対AI対策班のシュミクラムを纏めて噛み砕いた。
噛み砕かれ、破壊されるシュミクラムの不快な咀嚼音が周囲に響く。
そして、シュミクラムを破壊され床に投げ出された対AI対策班隊員の電子体は無数の白い腕に掴まれ、生物の胃袋のような緑の沼地へ引きずり込まれていく……。
『うわぁぁぁぁぁぁ……っ!』
同様の光景が各地で繰り広げられ、突如出現した禍々しい触腕によって無差別に被害が広がっていく。
そんな中、悲鳴じみたレインの報告が戦場に響き渡った。
『皆さん……っ! あの沼地は、
レインの報告を聞いた者達は即座に沼地から距離を取るが、それまでに相当な数の味方がレヴィアタンの触腕によってやられていた。
まさかあんな場所から攻撃が飛んで来るとは思わず、手痛い奇襲を受けた形だ。
既に、展開された舞台は潰走状態に近付いていた。
……だが、真の絶望は此処からだった。
レヴィアタンの巨体の一部が液状化して床に流れ落ち、流れ落ちた液体はその形状を変化させる。
そしてその液体は輪郭を持ち、亀の甲羅を思わせる装甲から無数の暗緑色の触腕を伸ばし、腹部に禍々しい牙の並んだ口腔を持つ不気味な怪物へと姿を変えた。
数十体にも及ぶ数の怪物が一度に生み出され、我先にとフェンリルや対AI対策班の部隊へ襲い掛かっていく……。
『うぉぉぉぉぉぉぉ……っ!』
殺到する無数の怪物を前に恐怖で竦む者もいたが、フェンリルの隊員の一人が触手の付け根にランスを突き立て、怪物に致命打を与えてみせた。
……だが、戦いながらその光景を見ていた永二は何かに気付いたようにハッとなり、声を張り上げた。
『おい待て、早くそいつから離れろ……っ!』
『え、たいちょ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!』
──だが、既に手遅れだった。
ランスを突き立てられた怪物はその身を
そして、飲み込まれた機体を一瞬にして溶かし尽くした。
「……っ!」
機体を
正に、地獄そのものと言える光景であった。
『あははははははははは……っ! 馬鹿ね、レヴィアタンの特性の一部を掴んだのは見事だけど、外殻の内部で膨張と収縮を繰り返していた事を、単に
「……っ!? じゃあ、あれは……っ!?」
甲の悲鳴じみた叫びに神子はニヤリと口元を歪めた。
『──そう、あれこそ巨大容量を圧縮した結果生まれた被造物……
それに、と神子は告げる。
「ジルベルト君が一度試作品を使ってくれたから、増殖限界や増殖プロセスのデータが取れていたし、
神子がそう告げる間にも、タラスク成体は次から次へと部隊のシュミクラムに取り付き、緑色の粘液となって捕食していく。
幾ら歴戦の勇士と言っても単純な数の暴力はどうにもならず、時間の経過と共にどんどん被害が拡大していく……。
『チッ、これ以上の被害は看過出来ん……っ! 全軍、撤退しろ……っ!』
『……っ! 全軍撤退……っ! 急げ……っ!』
その光景を見てこれ以上の戦闘は無理だと悟ったのか、永二と長官は揃って撤退の指示を下した。
二人の指示に従いフェンリルと対AI対策班のシュミクラムは共に反転し、構造体の出口に向かって疾駆していく。
『──逃がさないわ。
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
──だが、次の瞬間レヴィアタンの巨大なカメラアイに莫大なエネルギーが収束し、不気味な輝きを放つ。
そしてその光は巨大な緑色の閃光となってパプティゼインやタラスク諸共無数のシュミクラムを跡形もなく消し飛ばした。
閃光が通った後には何も残らず、射線上にあった分厚い隔壁にも大穴が空いていた。
今の一撃で、部隊の過半数の機体が吹き飛ばされた事になる。
『……っ!? グズグズするな……っ! あの大穴から脱出するぞ……っ!』
永二は大勢の部下を失った事実を呑み込みつつ、残った部下達を生かそうと声を張り上げた。
あまりの光景に動きを止めていた部隊のシュミクラムは再び動き出し、レヴィアタンの砲撃によって空いた巨大な大穴に向けて疾駆し始めた。
『それで、逃げられるとでも? タラスク、
神子の声に応じるように、新たに生み出されたタラスクは一斉にその外殻を破り、その機体を緑色の粘液に変じさせた。
そして無数のタラスクが結合し、巨大な粘液の蛸のような姿となってその触腕を無差別に振るい始めた。
触腕は振るった先から砕け散り、砕け散った破片からは無数のタラスクが出現し、隔壁の外へ逃走しようとする甲達に追い縋って来る。
巨大な粘液の蛸が触腕を振るう度に、次から次へとタラスクは増殖していく。
やがて視界を隅から隅まで埋め尽くすかのような、膨大な数のタラスクがその触腕を唸らせながら獲物を捕食せんと迫り来る。
……更にその向こう側からは、20機程のパプティゼインがゆっくりとこちらに歩みを進めて来ていた。
『チッ、わらわらとうざってぇな……っ!』
永二は少しでもその数を減らそうと大砲を斉射するが、あまりにも数が膨大過ぎて焼け石に水だった。
しかし、その間に残存した部隊の殆どは隔壁の穴から外に抜け出し、残るは永二達と、神子と交戦している甲だけとなった。
「くっ、俺も逃げないといけないけど……っ!」
『あははははははははははは! 逃がすワケないじゃない……っ!
神子は哄笑をあげながら、再び格闘形態にシフトしてチェーンソーブレードで斬りかかって来る。
甲は迫り来る無数のタラスクに焦りを見せながらも
『──悪ぃが、アンタにゃ甲はやれねぇな』
──そして、割り込んで来た
『邪魔をしないで……っ! 幾ら彼の父親とはいえ、私と彼の仲を引き裂く事は許さないわ……っ!』
『一方的にストーキングしておいて何言ってやがる……っ! アンタみたいなサイコ女に、甲を婿入りさせるワケにゃあいかねぇんだよ……っ! 一昨日来な、ガキが』
永二の言葉に、神子の顔に憤怒の表情が浮かぶ。
『言ったわね……っ!? 元より、誰の許可も貰うつもりはない……っ! 誰がなんと言おうが、甲は手に入れてみせるわ……っ! だって、
永二は超人的な身のこなしでその攻撃を避けつつ、背後の甲に語り掛けた。
『行けっ、甲……っ! 此処は俺が食い止める……っ! お前は、あそこから逃げろ……っ!』
「親父……っ! でも……っ!?」
尚も言い募ろうとする甲に対し、永二は厳しい顔で一喝した。
『でもも何もねぇ……っ! 早くしろ……っ! 親より早くくたばるなんて、親不孝な真似はすんじゃねぇ……っ! お前が死んだら、誰が嬢ちゃん達を幸せに出来るんだよ……っ!? 生きろ、甲……っ!』
「……っ!!!
永二の懇願するようなその声に、甲は歯を食い縛りながら機体を反転させ、隔壁の穴に向かって疾駆した。
それに追い縋ろうとする神子に向かって永二は砲撃を放ち、跳躍して砲撃を回避した神子は血走った目で永二を睨みつけた。
『邪魔を、するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!』
『……っ!!??』
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
──瞬間、再びレヴィアタンのカメラアイに莫大なエネルギーが収束し、緑色の巨大な閃光が放たれた。
永二は成す術なく閃光に飲み込まれ、
閃光が通り過ぎた後は何も残らず、
……結果として、甲達は撤退に成功した。
あまりにも大きな、犠牲を払って……。
~Page7~侵攻ーErosion of Worldー/End
リリスバフォメットの特攻形態のイメージはギアスのジークフリートです。流石にあそこまで固くはありませんが、攻撃能力はズバ抜けて高くなってます。リリスバフォメットの場合はブレードがチェーンソーになってますけど。