※この作品はR-18です。

BALDR SKY Another World /世界X+Ω   作:デスイーター

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襲来ーDespair Arrivalー

「そろそろか……」

 

 甲は周囲に布陣したシュミクラムを眺めながら、現在時刻を確認した。

 

 現在時刻は午後8時、聖良が予測したレヴィアタンの襲来予定時刻直前である。

 

 あれから甲は神子から通信越しに受けた会話について、聖良と亜季にその詳細を報告した。

 

 黙っているのが心苦しかったのは勿論だが、今は少しでも情報が必要だった為にどんな些細な事でも構わないから何かあれば報告して欲しいと聖良に言われていた為でもある。

 

 報告を受けた聖良は何も言わず頷き、何かに気付いた様子の亜季は聖良に断って何処かに転送してしまったが────────結局、時間までにレヴィアタン撃破の有効な方法は何一つ発見出来なかったようだった。

 

 レヴィアタンの襲撃に備え、甲達はアーク構造体の隔壁前に陣取っていた。

 

 周囲には、フェンリルや対AI対策班の部隊も展開されている。

 

 彼等の機体は、生き残っている数が少ない所為もあるが妙に機体同士の間隔が空いている。

 

 これは、レヴィアタンの主砲────────終焔剣(レーヴァテイン)の対策の為だった。

 

 あの主砲は一度放たれれば回避するしか生き残る術はなく、効果範囲が尋常ではなく広い為に一塊になっていては一度の砲撃で全滅する可能性がある。

 

 故に、敢えて機体同士の距離を空け被害を少しでも減らそうとしているのだ。

 

 更に言えば、接触した相手を取り込む能力を持つタラスク相手に敵味方入り乱れての乱戦は愚の骨頂だ。

 

 タラスクをに対処するには遠距離攻撃で仕留める他なく、仕留めたとしてもその近くに味方機がいればあの吸収能力を喰らってしまう。

 

 その為、タラスクの対策としてもこの布陣は現時点での最適解と言えるのだ。

 

 懸念があるとすれば単騎で圧倒的な攻撃能力を持つ神子と、量産されたパプティゼインだが……神子はともかく、パプティゼインの強さは久利原が変じていた時の神父程ではない。

 

 どうやら神父の強さは元となった人間の影響を受けるようで、筋金入りの凄腕だった久利原を元にした神父は技量の面でもズバ抜けて高く以前は甲達3人を一人で相手取るという真似もしていた。

 

 しかし、量産された神父は機体の性能(スペック)は同じでも技量は以前の神父に劣り、エース級のシュミクラムユーザーであればどうにか対処出来るレベルに落ち着いている。

 

 もっとも、そもそも物量が凄まじい為焼け石に水程度である事は変わりないが。

 

 他に気になる事といえば何処からともなく現れるレヴィアタンの奇襲だが、あれも今までは神子の呼びかけに応じて出現している事から、神子出現を見逃さなければ周囲を圧迫する莫大な過負荷という出現前兆がある為、ある程度出現予測は立てられるだろうとの話だった。

 

 尚、神子が見せた床から浮上するような移動方法は、解析の結果一方通行の特殊な転送門を作り出す能力である事が判明した。

 

 神子は何らかのマ(・)ー(・)キ(・)ン(・)グ(・)をした場所に転送門を開く事が出来、更に言えばそのマーキングの近辺であれば隔(・)壁(・)等(・)を(・)無(・)視(・)し(・)て(・)任(・)意(・)の(・)場(・)所(・)に(・)転送門を開く事が出来るという事も分かっている。

 

 最初に神父がミッドスパイアに侵入した時には、隔壁の近くにマーキングを行い、隔壁内に転送門を解放する。

 

 そうやって侵入した神父が今度はバルドルのある場所の近くにマーキングを行う事で、バルドルの存在するあの広間に転送門《を開く事を可能としたのだろう。

 

 神子が出て来るまでは神父一人しか通れない規模の転送門しか設置出来なかったようだが、神子が彼女の機体(リリスバフォメット)を持ち出した事で複数同時転移を可能としたようだ。

 

 厄介ではあるが、要するにマーキングさえ付けられなければ転送門を開く事は出来ない筈なのだ。

 

 アーク社近辺を捜索した結果それに類する反応は見つけられなかった為、突然現れて奇襲を受ける事はないと考えた。

 

──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──

 

「……な……っ!?」

 

 ──突如上空に出現した、巨大な化け物(レヴィアタン)の姿を目にするまでは……! 

 

『あはははははははは……っ! 影送門(シャドウゲート)のカラクリを見破って安心していたかしら? でも残念、レヴィアタンはこういう事も出来るのよ……っ!』

 

 レヴィアタンから発生する過負荷が空間を軋ませ、仮想法則に罅割れを入れる。

 

 周囲の構造物が莫大な過負荷によって歪んでいく中、周囲に響き渡った哄笑と共にレ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)の(・)巨(・)体(・)か(・)ら(・)浮(・)か(・)び(・)上(・)が(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)し(・)て(・)、(・)リ(・)リ(・)ス(・)バ(・)フ(・)ォ(・)メ(・)ッ(・)ト(・)が(・)出(・)現(・)し(・)た(・)。

 

 同じようにレヴィアタンの表面から次から次へとパプティゼインが浮上して来ては地面に降り立ち、あっという間に神子の背後に20機程のパプティゼインの軍勢が布陣を完了させた。

 

「っ……まさか……レヴィアタンにマーキングを付けていたのか……っ!?」

『それは違うわ、甲……っ! 私は単に、レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)に(・)乗(・)り(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)だ(・)け(・)よ……っ! 疑似接続者(デミコネクター)である私だけは、レヴィアタンの影響を受ける事なく内部に入り込む事が出来る……っ! そして、私が乗り込めば周囲へ過負荷を与えるタイミングをある程度コントロール出来るから発生する遅延(ラグ)によって事前に察知される事もないっ!』

 

 まあ、と神子はくすりとおぞましい笑みを浮かべた。

 

『 一緒に乗り込んだ神父(信者達)の実体は発狂して廃人になったけど、既に神父(ウイルス)の浸蝕は完了していたから実体がどうなろうと関係ないわ……っ! 納得出来たかしら、甲……これが、本当の奇(・)襲(・)と言うのよ』

 

 神子は表情画面を展開し、血走った眼で甲を見つめながらそう告げた。

 

 今までも神子は敢えて情報の一部を晒す事で、後から隠されていた能力を駆使する形で甲達の裏をかいてきた。

 

 今回も、転送門を作り出す能力を敢えて解析させて奇(・)襲(・)は(・)な(・)い(・)と思い込ませ、こうしてまんまと奇襲を成功させたのだ。

 

 狂気に陥っていても、そのズバ抜けた頭の回転と狡猾な頭脳は衰えていない。

 

 無意識(E's)やノインツェーンの知識を得た事で、頭脳戦で神子の裏をかく事は最早不可能と言って良い状態になっているのだ。

 

「……長々と説明ありがとよ。お陰で、こっちも準備する時間が出来たぜ」

 

 だが、狂気に陥っているという事は甲(・)を(・)眼(・)の(・)前(・)に(・)す(・)れ(・)ば(・)自(・)然(・)と(・)甲(・)に(・)だ(・)け(・)意(・)識(・)が(・)向(・)い(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)という欠点を持つ事と同義だ。

 

 実際、甲が会話している間に部隊は布陣を整え直す事に成功しているし、兵士達の動揺もある程度収まったようだ。

 

 更に言えば、神子は甲の質問に対し虚偽で答える事がない為、情報の引き抜きも行う事が出来た。

 

 こうなると、奇襲に成功したとは言い難い状況になったと言えるが……。

 

『──関係ないわね。終焔剣(レーヴァテイン)、放て』

 

──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──

 

「……っ!?」

 

 ──だが次の瞬間、レヴィアタンのカメラアイから放たれた緑色の極光により、状況は全て覆った。

 

 ミッドスパイア構造体で見たものより更に範囲を広大化させたその閃光は轟音と共に無数のシュミクラムを消し飛ばし、アーク構造体の隔壁に大穴を空けて見せた。

 

 砲撃の後には綺麗に抉られた構造体の残骸とその残骸に付着する緑色の粘液しか残らず、戦場の一角にぽっかりと穴が開いた形になった。

 

「……い、いきなり主砲を撃って来ただと……っ!?」

 

 甲はレヴィアタンの主砲によって引き起こされた惨状を見て、思わず絶句した。

 

 てっきり膨大な戦力数に任せた物量作戦で来ると思っていた為に、まさか即座に主砲を撃って来るなどとは甲も予想していなかったのだ。

 

 そんな甲を見て表情画面に映る神子は口元を歪め、その答えを告げた。

 

『言った筈よ、甲……容(・)赦(・)は(・)し(・)な(・)い(・)とね。元より、私に必要なのは無意識(E's)の海だけ……アーク構造体をどれだけ破壊しようと、無意識(E's)へ繋がる道さえ残されていればそれでいい』

 

 神子は怖気の奔る笑みを浮かべ、口元を盛大に歪めた。

 

『──予め、宣言しておきましょうか。私は、こ(・)れ(・)か(・)ら(・)レ(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)タ(・)ン(・)の(・)主(・)砲(・)を(・)繰(・)り(・)返(・)し(・)撃(・)ち(・)続(・)け(・)る(・)わ。邪魔するモノは、全て消し去ってあげる。みんなみんな消えちゃえば、貴方も私の所に来て(目を覚まして)くれるわよね?』

「……っ!!」

 

 甲は壊れたようにケタケタと笑う神子の姿を見て、あの時自分が明確に彼女の逆鱗に触れた事を理解した。

 

 神子は表面上は今までと変わりなく見えるが、その内面では激しい憤怒と狂気が燃え盛っている。

 

 彼女にとってそれだけ、甲(・)に(・)自(・)分(・)を(・)否(・)定(・)さ(・)れ(・)た(・)という事は致命的な事だったのだ。

 

 神子(彼女)が今まで歪んだ愛を謳いながら凶行を重ねて来たのは、あくまで甲(・)と(・)愛(・)し(・)合(・)う(・)為(・)なのだ。

 

 自分が歪んでいる自覚すらない彼女は、自(・)分(・)が(・)甲(・)に(・)受(・)け(・)入(・)れ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)可(・)能(・)性(・)など考慮すらしていない。

 

 故に、あの時の甲の言葉で彼女の中の歯止めが完全に壊れ、言うなれば自棄になっているのだ。

 

 しかし、自棄になっていてもクリスの根本の性質である如(・)何(・)な(・)る(・)行(・)動(・)も(・)計(・)算(・)づ(・)く(・)で(・)行(・)う(・)といった特性は消えていない。

 

 だからこそ、彼女はこの場で後先を考えなければ最も有効である圧(・)倒(・)的(・)な(・)パ(・)ワ(・)ー(・)に(・)任(・)せ(・)た(・)ご(・)り(・)押(・)し(・)を選択して来たのだ。

 

 あらゆる攻撃が通じない以上、主砲の発射元であるレヴィアタンを止める事は出来ない。

 

 だから、通常の戦闘で有効な撃(・)た(・)れ(・)る(・)前(・)に(・)撃(・)つ(・)といった事が不可能なのだ。

 

 しかも、敵はレヴィアタンだけではない。

 

 単騎無双が可能な性能を持つ神子の機体(リリスバフォメット)と、最(・)低(・)20機のパプティゼインが存在している。

 

 更に言えば、レヴィアタンには更に手駒を生み出す能力がある。そして、今回の神子に出し惜しみは一切なかった。

 

『さあ──再び生まれ落ちなさい、タラスク達よ……っ!』

 

 ──そして、その悪夢は現実となった。

 

 レヴィアタンの巨体から緑色の粘液が地上に流れ落ち、流れ落ちた粘液は、亀の甲羅のような装甲を持ち、暗緑色の触腕と腹部に捕食口を持つ化け物、タラスクへと変じて行った。

 

 流れ落ちる粘液の勢いは止まらず、瞬く間に地平線を埋め尽くすような数のタラスクが触腕を不気味に蠢かせながらズルズルとこちらに這い寄り始めた。

 

 ……どうやら一度生み出したタラスクはレヴィアタンの内部にストック出来るようで、その数はミッドスパイア構造体で見た時より増加している。

 

 タラスクは周囲の構造物を腹部の捕食口から流れ出る粘液で溶かしつつ、ジリジリと部隊との距離を詰めている。

 

 その動きは鈍重だが、単純に数が膨大に過ぎた。

 

 前回のように周囲に緑色の沼地は存在しない為、突然の奇襲を受ける可能性はないものの……神子の言葉通りであれば、これから繰り返しあの凄まじい威力の主砲が襲って来る事になる。

 

 単純な力押し故に、有効な対策が何もない。

 

 戦場は既に、対処不能の力押しの戦い(ノースサウスゲーム)の様相を呈していた。

 

『さあ、何もかも誰も彼も残さず残らず一切合切皆殺しよ……っ! 私の誘いを断った事を、心から後悔させて(絶対に否定させて)あげる。仲間達の断末魔の叫びを聞いて、何処まで正気が保つか……存分に、試し(殺し)尽くしてあげるわ……っ!』

 

 神子の哄笑と共に、上空のレヴィアタンが再び不気味な咆哮(不協和音)をあげる。

 

 最後の戦場は、早くも先の見えない絶望へと包まれていた……。




 さて、絶望的な戦いが幕を開けました。単純な戦力差で言えば、スカイ原作でもここまではなかったんじゃないかなぁと思うんですよね。少々やり過ぎた感じはありますが、それでも甲達には頑張って頂きます。次回をお楽しみに。
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