BALDR SKY Another World /世界X+Ω 作:デスイーター
──戦場となったアーク構造体は、あのミッドスパイアでの戦い以上の
戦場を埋め尽くすタラスクの群れに、四方から襲い掛かって来るパプティゼイン……そして何より、レヴィアタンの力が強大に過ぎた。
『あはははははははは……っ! さあ、隅から隅まで
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
神子の声に呼応するようにレヴィアタンは不気味な咆哮を上げ、カメラアイに収束させたエネルギーを解放し、轟音と共に緑色の極光で戦場を薙ぎ払う。
レヴィアタンの主砲はあらゆる構造物を突き破り、無数のタラスクを巻き添えにしながらも部隊のシュミクラムを纏めて消し飛ばしていく。
それはまるで、生きた嵐の如き暴威だった。
あれから既に5度、主砲が発射され、その都度甲達は甚大な被害を受けていた。
レヴィアタンの主砲は、
……しかし、だからと言ってその隙にレヴィアタンに攻撃を通す事は不可能だ。
レヴィアタンの周囲に発生している負荷のフィールドによって、遠距離攻撃は全て潰され、かといってシュミクラムが接近すればその過負荷によって爆散する。
故に、次の主砲が発射されるのを手をこまねいて見ているしかないのが現状だ。
しかも、レヴィアタンの主砲の冷却中もタラスクの大群と神父の軍勢は容赦なく襲い掛かって来るのだ。
神子にとってはどちらも
最早、勝機などという言葉は兵士達の間から消え失せつつあった。
甲達エース級パイロットは奮闘の末パプティゼインを何機か撃破してはいるものの、この戦力差では焼け石に水である事は否めない。
こうしている間にも、レヴィアタンは周囲を主砲を薙ぎ払いながら刻一刻とアーク構造体の深部へと近付いている。
そして現在は遂に、最深部へ繋がるアイリス・バルブが見える位置にまでやって来てしまっている状態にある。
『チッ、やりたい放題やってくれちゃって……っ! レイン、どうにかなんない……っ!?』
『……っ! すみません、全力で解析を行っていますが有効打に繋がるような情報は何も……っ!』
千夏の声に、レインは悲鳴じみた応答を告げる。
近距離攻撃特化の千夏は、近付けば即死攻撃仕掛けて来るタラスクを相手にするワケには行かない為、ひたすらパプティゼインを相手取って何とか数機の撃破に成功しているが、タラスクを回避しなければならない以上出来る事には限界がある。
レインもまた戦場全体のサポートを行っているが、こうまで単純な力押しで来られては戦術の立てようがない。
奇襲、奇策は相手に何処か
精々が、部隊の損耗を抑えるよう立ち回るのが限度である。それでも、レインの懸命の奮闘で被害はある程度抑えられている方なのだが。
『とにかく、今は敵を撃退するしかありません……っ! タラスクは私が抑えますから、千夏先輩達は
そう告げる真は自身のシュミクラム、純白の天使の如き機体、ネージュ・エールを駆り、レーザービットや光学兵器を駆使して近付くタラスクを焼き払っていく。
普段は甲の脳内チップ内でサポートに従事する彼女だが、タラスクは以前の戦闘でのデータから、実弾兵器よりも光学兵器の方が有効である事が分かっている。
故に、光学兵器を多数搭載した真のシュミクラムの参戦は必要不可欠であり、こうして彼女自身が戦場に出てきたのだ。
だが、確かに真の光学兵器はタラスクに有効打を与える事が出来ているが、そもそもの数が膨大過ぎてある程度包囲に穴を空ける事しか出来ていない。
もっとも、そのお陰でタラスクに追い込まれてレヴィアタンの主砲で一掃される事をある程度回避出来ているので、その貢献は計り知れないのだが。
『──そろそろ、邪魔になって来たわね……っ! まずは、貴方から斬り刻んであげるわ……っ!』
──しかし、だからこそ真を煩わしく思った神子は鋭利な円刃の如き姿を取る突撃形態にシフトして真目掛けて滑空して来た。
回転する十字のチェーンソーブレードを身に纏い、真の機体を切り裂かんと
「させるか……っ!」
だが、それを黙って見ている甲ではない。
甲は
真はその隙に
『あはははははは……っ! 追いかけっこはいつまで続けられるかしら……っ!?』
真の機体は光体翼を装備している為空中での高速機動が可能だが、突撃形態となった神子の機体の速度もそれに負けてはいない。
神子は徐々に
『──私が馬鹿正直に、空中戦に応じると思いました? 引っかかりましたね……っ!』
『……っ!?』
──しかし、次の瞬間真は光学迷彩を起動して機体を透明化させ、ネージュ・エールは神子の視界から掻き消えた。
目標を見失った
……それこそが、真の待ち望んでいた瞬間だった。
『……な……っ!? ぎっ、ぐぅぅぅ……っ!』
空中で右往左往していた神子は不意に背後からレーザー攻撃を受け、その攻撃によってブレードのうち1本が一瞬にして焼き払われた。
ブレードを一本欠き、バランスを崩した神子はレーザーが来た方向目掛けて射撃を行う。
その結果、光学迷彩で透明化されたレーザービットが被弾して爆散するものの、真の機体の姿は何処にもなかった。
『墜ちて下さい……っ!』
──そして、そんな叫びと共に神子の頭上から光体翼を眩く輝かせた
リリスバフォメットはバランスを崩しており、タイミングからしても回避出来ない一撃である。
だが、神子は口元に……笑みを、浮かべてみせた。
『──墜ちるのはそっちよ、水無月真……っ!』
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
『な……っ!? くぅ……っ!』
──次の瞬間、レヴィアタンの外殻の隙間から伸びた龍の咢を思わせる触腕が真を噛み砕かんと迫り、おぞましい牙が迫り来る。
光体翼による加速によって間一髪で咢から逃れた真だったが、巨大な触腕の端に機体が衝突し、そのまま薙ぎ払うように吹き飛ばされた。
「真ちゃん……っ!」
慌てた甲が真の落下地点に急行し、真の機体を受け止める。
『ふぅ……ありがとうございます。先輩』
「全く、一人で無茶するな。あいつは、侮れる相手じゃないんだから」
甲は体勢を立て直したネージュ・エールから手を離すと、レヴィアタンを背に上空からこちらを見据える神子の機体を睨み返した。
「ふふ……」
神子は一度刃の回転を止め、ゆっくりとレヴィアタンに機体を近付かせていた。
その様子から妙な悪感を感じるが、今は下手に動くべきではない。
「……とにかく、ブレードを一本もぎ取れたのは大きい。3本じゃ、機体のバランスが安定しない筈だからな」
何故なら、甲の言う通り、此処で
先ほどの攻防を見る限り、ブレードは4本揃っていなければ空中での機体制御に難が生じるのだろう。
つまり、これであの特攻形態の脅威は薄れたと言える。故に此処からは慎重に敵の隙を詰めて行く作業になると思われた。
『──あら、この程度で私の翼を落とせたとでも? これを見ても、そう思えるかしら?』
──だが、その光景を見てその考えは放棄せざる負えなかった。
神子はレヴィアタンの表皮に機体の腕をずぶり、と埋没させると、そこから無数の白い腕を掴み取り、折れたブレードの断面目掛けて押し込んだ。
すると白い腕の束は徐々にその形を変え、瞬く間に欠けたブレードは元の姿を取り戻した。
「な……」
『……そんな……』
あまりの光景に、二人は絶句せざる負えなかった。
あの様子では、多少機体が欠けた程度ではレヴィアタンが存在する限り無尽蔵にリリスバフォメットには再生されてしまう事になる。
圧倒的な攻撃能力の代償として防御力が薄い神子の機体を狙えば勝機があるかと思っていたのだが、その考えは撤回せざる負えない状況だった。
『レヴィアタンが存在する限り、私に負けは有り得ないのよ。もう知っているとは思うけど、私の
だから、と神子は高らかに告げる。
『
神子は哄笑し、意気揚々とそう謳いあげる。
表情画面に映る顔は紅潮し、眼はギラギラと血走っている。
そんな彼女の狂気を見て甲達が絶句する中、冷たい声が戦場に響き渡った。
『……何が
機体の四肢と首を斬り落としたパプティゼインを蹴り飛ばしながら、クリスは吐き捨てるようにそう告げた。
彼女の背後には無数のパプティゼインの残骸が散らばっており、
どうやら彼女は、機体を破壊され電子体となった神父も容赦なく皆殺しにしたらしい。
放置すれば再び襲い掛かって来る事を考えれば当然の行動だが、それを容赦なく行えるあたりがクリスという少女の恐ろしさでもあった。
『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ……っ! オマエがどう思おうが、私には関係ない……っ! 私はっ、私はっ、どんな手段を使ってでも、甲を手に入れてみせる……っ! レヴィアタン、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!!』
「……っ!? 避けろ皆……っ!」
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
──瞬間、再びレヴィアタンのカメラアイから轟音と共に緑色の極光が放たれ、あらゆる構造物を消し飛ばし周囲を薙ぎ払った。
甲達は間一髪で回避する事が出来たが、四方に広がる構造体は無残な様相を呈しており、瓦礫の山と化している。
最早アーク構造体は穴だらけで、廃墟一歩手前の状態と言っても過言ではなかった。
『──さあ、そろそろ目的を果たしましょう。レヴィアタン、道を開きなさい』
──オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! ──
そして、レヴィアタンの
表示された負荷ゲージが悲鳴を上げ、目の前の光景が歪んでいく。
『そんな……AIの制御が、乗っ取られて……?』
『……いえ、これは……
「……っ!? トランキライザーのAI抑圧能力か……っ!」
その過負荷の増大と共にAIそのものに異常が生じ始め、仮想の法則を管理するAIの制御が乗っ取られていく。
その光景を見ていた者達はAIの制御を取り戻すべく奮闘しているが、大海に水の一滴程度垂らした所でどうにかなるワケがない。
……そして遂に、その時が訪れた。
『……バル、ブ……解、放……』
まるで痛みに堪える嗚咽のような機械音声と共に、巨大なバルブがゆっくりと開いていく。
やがて完全にバルブが解放され、神子はレヴィアタンを引き連れてバルブの中へと突入して行った。
「……っ、追うぞ……っ! あのまま、
『……あの女の
『そうですね。私も、それだけは避けた方がいいと女の勘が告げています。行きましょう、皆さん』
真の言葉を皮切りに、甲達は
その暗がりはまるで、黄泉の国へ続く洞窟を思わせた。
全員が言い知れぬ不安を抱えながらも、レヴィアタンを追いかけてバルブの下へと降下していった。
主砲を撃ちまくるレヴィアタンは荷電粒子砲を撃ちまくるデススティンガーやデスザウラーをイメージしながら書いてます。実際、あのBGMを聴きながらだと容易にイメージ出来るので筆も結構進みましたしね。